それは誰かの心象風景。証拠も根拠もない徒の憶測。
蛇足と呼ぶに相応しい、読み終わった物語の後の数頁。

※イベントクエスト『虚月館殺人事件』終了後の話。

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ネタバレになるような事は書いてませんがプレイは推奨です


"夢"の続き

――きっと私はまだ、覚めやらぬ微睡(まどろみ)の中に居る。

 

 あの事件から暫く経ち、私の日常が大きく変わってしまったかと言われれば、別にそんな事は無かった。

 

 そりゃあ、あれからの一週間程は特に忙しかったわ。

 

 読んだ事のあるミステリー小説みたいに、探偵役が事件を解決させてそれで終わりという程現実は甘くなんてない。

 あの後、思い出すのも口にするのも出来れば避けたい事を、何度も何度も耳にし続けた。

 物語に残された登場人物へ課せられる後始末なんて、語られる必要も無い、蛇足も蛇足。それを当事者になって理解するなんて思いもしなかった。

 けれどどんなに嫌でも、当然私もその中の一人として参加しなければならない。

 それは勿論、【 】も。

 本当は私だって関わらせたくはなかった。けれどあの日【 】を虚月館へ連れて行ってしまった事を今更どうにかする事なんて出来ない。

 当の本人はあの時に頭を強く打った事からよく覚えていないらしいけど……それも何処までが真実なのだろう。

 思えばあの時の【 】は記憶がとても曖昧になっていたし、やたらと急に眠ってしまう事もあった。

 事件の後、念の為に直ぐに私が別のお医者様に診て貰いに連れて行ったらドクターと同じで異常は無いなんて言われてホッとしてたけれど……やっぱり心配になってくる。

 もしも【 】に何かあったなら…それだけで背筋が凍り付きそうになった。

 覚えてないのは気に食わないけど、あなただけが私の傍に居てくれた事を思えばどんな事も耐えられると言ったのは嘘じゃない。

 

 だからこそ、怖かった。

 

 まだ私にとってあの日の出来事は終わってないんじゃないかって、そう思えて仕方ない時がある。

 もしかしたら私は死ぬかもしれない。それと同じくらい、もしかしたら【 】が死ぬかもしれないと思う回数は多かった。

 人は頭を強く打つだけで死ぬときだってある。そこは流石に時間が経ってるから安心しているけれど……もし私との記憶が無くなっていってしまったら? そんな不安が最近は主に悩みの種になっていた。

 

 だって、あんな事を殆ど覚えていないだなんて、どう考えても普通とは呼べない。

 

 ある日、友人が別人の様になっていた。なんて事になったら正直どう反応してしまうか想像もつかない。

 接し方が変わって、呼び方が変わって、一緒に過ごす時間が変わって。

 そんなに違ってしまえば、きっと私の知るその人は死んでしまったも同じだった。

 

――だから。きっと私はまだ、覚めやらぬ微睡(まどろみ)の中に居る。

 

 最近上手く笑えていない気がする。

 そのうち時間が解決してくれるとパパは言っているけれど、まだもう少し時間が掛かるのかも知れない。

 それでも出来る限り変わらないように、変わってしまわない様に一緒にランチをして、歓楽(レジャー)に出かけて。たとえ気分じゃない日でもそうしないと不安に身体を支配されてしまいそうだった。

 

 叶うのなら、もっと私を安心させて欲しい。

 叶うのなら、もっと貴方の方から私に近づいて欲しい。 

 叶うのなら、もっと変わらない貴方のまま、微笑みかけて欲しい。

 

 ワガママね、本当に。でも、全部本当の事よ?

 アナタへの恩に、私が返してあげられる事は何だってする。だから居なくならないで。

 全部、一生を使ってでも返すから。だから置いていかないで。

 あの時の言葉、とても嬉しかったんだから。

 

――…エット。ュリ…ット。

 

 私はまだ、覚めやらぬ微睡(まどろみ)の中に居る。

 でもそろそろ起きなきゃ駄目みたい。愛想を尽かされてしまう前に、ね。

 

『ジュリエット』

 

 【 】がいる。変わらず、私を呼んでくれる。

 それだけで私は誰よりも救われているのだろう。

 

 

 

………

………

 

 

「……先輩? 先輩、大丈夫ですか?」

『……マシュ? あれ、寝てた?』

「ええ、先輩は昨晩はあまり眠れてないんですか? 思いきり舟を漕いでましたよ」

 

 マシュに夢の話をする。

 視点が違っていたのだからさっきのは多分、普通の夢だったのだろうが、真面目な彼女は真剣に耳を傾けてくれた。

 

「あぁ、なるほど。先輩も私みたいに読み終わった本の続きを想像してみたくなるタイプなんですねっ! わかります! 本には書いて無い事ですし妄想でしかないと分かっていてもついつい想像したくなっちゃうんですよねっ」

 

 マシュは少し興奮しながらそう語る。

 ちょうど良いかもしれない。彼女に少し聞いてみよう。

 

「まさか先輩が私と同じような……って、え? 私だったらジュリエットさんがあの後どうなったのか…ですか? そ、そうですね……私なら多分」

 

―――

 

「あら、奇遇ですねマスター。また、ちょっとした冒険に行っていたとか」

『ステンノ?』

「えぇ。何かしら? ちょっと出かけたくらいで私の事を忘れる程に楽しかったのですか? それはそれは……そうだわ、せっかくだから私にそのお話を聞かせて下さらない?」

「ふふ。まさか女神(レディ)からのお誘いを無碍にする程、私のマスターは不躾なんてこと、無いですよね?」

『(……断れそうに無い)』

 

 

 

「ふーん、だから先程から変な目でこの私を見ていたのね」

 

 ステンノと紅茶を飲みながら虚月館での事件を説明する。

 いつもと変わらず薄っすらと笑む彼女にそう言われ、もしや怒っているのではないかと思ったが、どうやらそこまでではないらしい。

 それなら、せっかくなので彼女にも聞いてみよう。

 

「何、私の感想が聞きたいの? 言っておきますけれど、そんな偶々重なって見えたに過ぎ無い人間の事を聞いたところで何の意味も無いと思いません? ……でも、まぁ、退屈凌ぎの報酬としては妥当と言えるのかしら、ね」

「その人がどうなったか。そうね、その友人と付かず離れず上手くやっていくんじゃないかしら」

「投げやりですって? だから言ったでしょう。聞いても意味なんて無いと」

「それに例え私でなかったとして、捻くれ者でもなければ、こんな感想しか来ないでしょう。だって見てるものが同じですもの」

「あぁ、同じ名前の人物の悲劇を書いた作家さんあたりなら何か別の面白い感想がもらえるんじゃないかしら」

 

 言われてみると少しだけ納得してしまう。

 きっと上手くいく。そう、マシュも同じような事を言っていた。

 彼女と重なったステンノの言葉を聞いて、それだけで心残りだった気持ちは少し晴れた気がした。

 

「さ、それでは私はそろそろ失礼しますわ。マスターも無駄な事で頭を悩ませないでくださいな」

『ありがとう』

「あら、私はただ感想を言っただけなのだけど」

 

 そう言い、ステンノは去っていった。

 

 

「まったく私のマスターも困ったものね。後半は夢の話も混ざっていた様子だし」

 

 少しだけ、ほんの少しだけ"二人"を重ねてみるが、やはりステンノの答えは変わらない。

 だから意味は無いと優雅に歩む足を止めない。

 

――その友人なら多分、貴女を見棄てないわ。でも、まぁ、笑顔を取り戻した時にその友人を本気にさせてしまわない事ね。

 

 笑顔は誰かを魅了する。女神(ステンノ)と重なったジュリエットなら、強ち有り得ない話では無いのかもしれない。

 それが徒の想像でも。思うだけならそれは自由であって当然の権利である。

 だから思う。

 ジュリエットの結末が悲劇である必要は何処にも無いのだから。




イベントが面白くて、ただ何となく書きたくなってました。

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