異界転生譚 シールド・アンド・マジック   作:長串望

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前回のあらすじ

男装の魔法使いと男装の少女騎士、異世界に爆誕す。
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エイプリルフールIF2026
シールド・アンド・マジック・ガールズサイド


 紙月はかっこういいなあ。

 なんのてらいもなく、未来はぼんやりとそんなことを思った。

 

 ハイエルフという種族は美形ぞろいって設定らしいな、なんて紙月本人は言うが、未来には顔やスタイルではなく紙月の振る舞い自体が格好良く感じられた。

 背は高く、胸を張って背筋は伸びて、いつも堂々としていて、微笑みは不敵で、小学生の未来のことを対等に扱ってくれて、誰が相手でも紳士的で……。

 

 特に考え込む必要もなく、未来には紙月をたたえる言葉がいくらでも湧いてきた。

 とんがり帽子にローブなんて言う、おとぎ話の魔法使いそのものの格好だって、紙月にかかればいっぱしの舞台衣装のような着こなしだった。その裾を翻すだけで、町の女の子たちが黄色い悲鳴を上げる。流し目で微笑めば、男たちだってくらりとくる。

 

 本当に格好いい女性だ。

 男装が似合い過ぎて、未来も時々勘違いしてしまいそうになるが、紙月は女性だった。この世界でお互いに自己紹介しあったときも、未来は驚きのあまり「でも胸が……」と口走って頬をつねられたものだった。

 紙月の男装は見事なものだったが、胸は自前だった。

 

 背が高くて、格好良くて、胸が平らで、それでも紙月は確かに女性だった。いまでは未来も()()()()そのことを知っていた。夜ごとに抱き枕にされれば、女のひとなんだってわからされる。そしてわかっていても、ドキドキする。

 

 そんな紙月の隣を歩く未来は、ちびっちゃい身体を埋めるようにぶかぶかの鎧を着て、大きな盾を引きずった不格好な姫騎士だった。鎧を着ているからまだ騎士なんて名乗っているけど、正直お遊戯会と言われたほうが正しい気はしている。

 見た目はこれでも一応ちゃんと戦えるのだが、周囲からは紙月におもりしてもらっているように見えるらしい。悔しい。

 

「未来ががんばってるってこと、私はわかってるさ」

「紙月がそうやって格好いいことばっかり言うから、余計にボクがみじめなんだけど……」

「あれェッ!?」

 

 巷では、どこぞの貴族の夢見がちなお嬢様と、そのおもりをしている魔法使い様、というのが二人の評価だった。子犬の騎士と森の魔法使い様とかなんとか。狼なのだが。

 

 見た目が悪いんだよなあ、と未来はぼやいた。

 見た目が不格好なだけで、未来はこれでも立派な《楯騎士(シールダー)》だ。単純な筋力ならそこらの男連中よりはるかに強いし、《技能(スキル)》を使えば熊だろうと猪だろうと簡単におしとどめられる。

 的は小さくても、鉄壁の防御を誇る騎士なのだ。

 

 そして紙月だってそうだ。

 見た目が格好いいけれど、実際の紙月は結構ちゃらんぽらんだ。固形物があまり食べられないとかいっていつもお酒ばかり飲んでいるし、それで酔えば小学生の未来に絡んでくるのだ。かわいいかわいいと撫でくり回し、口付けの雨を降らせてくるのだ。

 これは屈辱だった。高身長高学歴高収入を目指す未来にとって、小さいとかかわいいとかははなはだ遺憾であった。《エンズビル・オンライン》でだって、がんばって大人の男のひとを演じていたのだ。だいぶしっかり目にバレバレだったみたいだが。

 

「いや、別に子ども扱いしてるわけじゃないんだぞ?」

「それって大人相手には言わない言い回しだよね」

「あー……まあ、そうかもな。ただその……わかるだろ?」

「なにが?」

「私は、かわいいものに弱いんだ」

「ロリコン」

「ぐふっ」

 

 おおげさに傷ついたふりをする紙月。

 紙月のこういう演技過剰なところは信用できないと未来は常々思っていた。

 もともと演技がうまいのもあるのだろう。紙月は辛いときでも笑顔に隠して、未来に見せないようにしてしまう。心細くても不安でも、子どもである未来を安心させようとしている。

 演技がうまいのに、へたくそだなと未来は思う。バレバレだ。紙月が優しいひとだなんて。

 

 未来は紙月が向けてくれる優しさがときどき無性につらかった。

 涙を見せて寂しさを共有してほしいと思った。なんにもできないし、気の利いたことも言えないけれど、抱きしめて体温を共有することできるだろう。

 でも紙月は格好いいひとだから、そういうところを見せてくれない。格好いい姿だけを見せようとしてくれる。それがときどき以上に頻繁に、未来には悔しい。

 

 こうして歩いていて、そっと袖を引くと、微笑んで手をつないでくれる。その掌の温度が、未来に見せてくれる唯一の弱さだった。

 

 起きてるあいだは。

 

 未来は紙月の手の温度を感じながら、とくとく早まる胸を押さえた。

 

 寝てるあいだはさしもの紙月も、演技なんかできやしない。お酒に酔って、未来を抱きしめて、散々陽気に笑って寝入ったあと、紙月は夜更けに涙を流した。心細さに震えることもあった。すべては夢の中で、起きている間には漏らさないことを、ほんの少しばかり月明かりにこぼした。

 

 未来は震える紙月の腕の中で、そっと体温を分け与えることしかできなかった。流れ落ちる涙をぬぐい、そのまなじりに見ほれることしかできなかった。

 

 未来はため息を吐く。大きな大きなため息を。

 

「お、おうい、なんだよ。またなんかしちゃったか?」

「別に、なんでもないよ。紙月はがんばってる」

「ふふ、なんだよ。さっきの仕返しか?」

「やーめーて。撫でないで」

「かわいいやつだなあ」

「ロリコン」

「ぐふっ」

 

 演技過剰な紙月に、未来は再度ため息を吐く。

 本当に。本当にこのひとは。

 格好良くて、格好悪くて。

 誰よりも繊細で、傷つきやすい心をもって。

 きっと優しすぎるこのひとは。

 

 未来は決意した。

 紙月のことを守らねばと。

 紙月が未来を守ろうとしてくれているように、未来も紙月の繊細な心を守らねばと。

 

 そして。

 それとはまた別の話として。

 未来をキュンキュンさせ過ぎてお赤飯炊く原因になったからには、ちゃんと大人として責任を取って欲しいなと、そう思うのだった。

 おませな小学生女児は、それでもちゃんと女の子だった。




用語解説

・お赤飯
 帝国には初潮を祝う習慣はない。
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