大会7日目、新人戦4日目は〈ミラージ・バット〉の予選から決勝と〈モノリス・コード〉予選リーグが行われる。零達の出番は第二試合 八高と【森林】ステージで行われることになっている。
首脳陣は厳しい表情をしていたが、中には不敵な笑みを浮かべている者がいた。それはもちろん零からすれば、人間性に少し難があるのではないかと思わされる先輩なのが丸わかりだった。
「勝てるのだろう?」
「俺の独壇場に等しいですから10秒で終わらせますよ」
「相変わらず生意気な口だな」
零の傲慢とでも取れる発言に言葉だけは辛辣ながらも、対人戦闘を好む生徒である質問者は、好戦的な笑みを浮かべている。そんな言葉を投げかけられても、2人のCADを平然とした表情で調整する零である。
質問には「八高は森林戦闘に慣れているが、精霊魔法を得意とする君なら負けないだろ?」という意味合いが含まれていた。服部はかなり緊張しているらしくソワソワしていたが、沢木は落ち着いたもので、克人と楽しそうに会話をしていた。
2人の対照的な行動に苦笑する零だが、もっとも気になるのは朧月率いる三高チームだ。たった1人で「進軍」し、第一試合を僅か10秒で終わらせた。
【草原】ステージだというのが災いしたのかもしれないが、たとえ遮蔽物が多い【森林】ステージだったとしても、勝てはしなかっただろう。それほど力の差が見られる試合だった。おそらく秒殺された七高選手達は、わかっていても勝てなかったことに対する精神ダメージを、少なからず被ることだろう。
最悪の場合は魔法技能を失うかもしれない。しかしそれは朧月のせいではなく、自分の身熟さがもたらした結果だ。冷たいようだが、それが魔法界における弱肉強食社会に違いなかった。
第二試合開始直前。VIP観覧席には達也と深雪を連れた四葉家当主とその姉が、九島烈と供に椅子に座りながら話をしていた。
「深夜の息子の出番だが勝てるのかな?」
「「もちろんです!」」
「決勝リーグまでは圧勝でしょうが朧月殿には苦戦するかと」
「楽しませてもらえるのは確定事項です」
エキサイティングしている2名は放っておいて、烈はまともに会話ができる2人と話を続けた。
「勝てるというのかな?」
「万に一つもではなく五分五分ですよ閣下」
「それは
烈は先ほどとまでは打って変わって、〈十師族〉という制度を導入した魔法師としての態度に改め問いかける。
「
真夜も四葉家当主としての態度に改め話をする。〈九校戦〉では出場者に怪我させることは禁じられている。競技の種目によって異なるが、致命傷になる攻撃や重症を負わせるような魔法攻撃はご法度だ。
〈九校戦〉ルールの中に、魔法の殺傷ランクというものが設けられている。魔法の規模や能力によってランク付けされており、零の使う
「零さんが
「…それは使わなくとも勝てると言いたいのか?」
「その通りです閣下。従兄さんは
さすがの烈でも、一切揺るぎのない答えにたじろいでしまう。それほどの威圧感が達也の言葉に含まれていたのだ。
「ならばしっかりとこの眼で確かめさせてもらおう」
「ご期待されるのはわかりますが、従兄さんが朧月と戦うのは決勝リーグだけです。おそらくどちらも全勝で突破するでしょうから、当たるとすれば決勝戦です」
「予選での戦い方も見ておきたいのでな」
烈はそう言いながら、モニターと自分の眼で一高チームを観察し始めた。その眼は獲物の技量を確かめるが如く鋭い猛禽類のような眼だった。
そんな攻防が観客席の一角で起こっているとは露知れず。零は〈モノリス・コード〉第二試合の開始合図を、2人と談笑しながら待っていた。
「俺達は何もしなくていいな」
人の悪い笑み浮かべる沢木は、ニヤニヤしながら零に話しかけていた。
「楽にしといて構わない。どうせ10秒もかからず終わるからな」
「四葉なら10秒といわず5秒で終わると思うが」
どうやら服部は、零の思う以上に早く試合が終わると思っているらしい。八高は九校の中でも特に野外訓練に力を入れている学校だ。八高や観客は八高の勝利が確定事項とでもいう雰囲気を醸し出していた。
だが反対に古式魔法の得意とするステージで、零達が負けるはずが微塵もないと、チームメイト・一高首脳陣・一高生徒は思っていた。それだけ零の精霊魔法はレベルが高かったのを、これまでの経験で痛感させられていた。
それは同じ学校の生徒だということでも、新入生総代だということではない。客観的な事実によるものであり、決して身贔屓に目を曇らせているわけではないのだ。
第二試合開始の準備が整ったことを知らせる放送が流れたことにより、零達は談笑をやめて敵がいるであろう方角を向き仁王立ちになる。その立ち位置は正面から見て、零が一番前・その左斜め後ろに服部・右斜め後ろに沢木だ。
といってもまともに構えているのは誰もおらず、服部は腕を組み、沢木は欠伸をして零は無表情にCADを眺めている。
その様子を映し出す大型モニターを見て、観客には3通りの反応が見られた。緊張感が見られない3人に苛立つグループ・苦笑を浮かべるグループ・首を傾げるグループ。
八高・一高・その他の観客の反応だが八高の反応は同情できる。
勝つつもりでいる自分達に対して、戦意を全く見せないとなれば、舐められていると受け取っても仕方が無い。大勢が八高の気持ちを察しているなか、三高の約1名だけは零の考えを見抜いていた。
零はその人物が自分の作戦を看破することを分かっていながら、わざと行動を移していた。
さすがだな四葉零。だがその程度で俺には勝てない。それを決勝で教えてやる。
試合を楽しみにしている表情の下で、男は腹黒い思いを抱いていた。
第二試合開始の合図とともに零は、風の精霊を介して突っ込んでくる八高選手の位置を、呪符を使って捕捉する。木々に隠れようともせず真っ向から突っ込んでくるのは、野外訓練に慣れていることへの自信か。それともこちらがステージに慣れていないという思い込みによるものか。
どちらでも零にとっては問題ではない。魔法を当てやすいのには変わらないからである。走り出して僅か5歩で、八高のオフェンスは雷に撃たれてノックダウンした。
《雷童子》
空中で放電現象を引き起こす古式魔法であり、麻痺させることを目的とした殺傷性ランクC相当の魔法だ。
目の前でやられたことに遊撃とディフェンスの選手は驚いて、行動することができなくなり、再び呪符から発動された《雷童子》に撃たれた。オフェンスの選手と同じようにノックダウンされる。
その間僅か3秒。
もちろん〈モノリス・コード〉史上最速記録である。また一高チームの危険度を急激に上げてしまうきっかけになった。これが朧月との因縁になるとは、零も四葉家も朧月家も想像さえしていなかった。
「さすがと言うべきだろうな。零の魔法速度と魔法の活用方法は」
そう話す人物は、肩幅が広く鍛え上げられた筋肉に覆われている。格闘家と間違えそうだが、軍服を着ていると軍人としての地位が高いように見える。実際ある程度の地位はあるのだが、とある理由で昇進させてもらえていない。
「この国の抑止力であり、この国の魔法師の頂点に君臨する彼ですから。これぐらいは当たり前だと思いますよ」
彼に答える女性は整った容姿をしているが、化粧が薄くわざと地味に見せているようにも見える。
「さすがは〈神谷家〉最後の血を引いているだけはある。3年前から知っていることだが、今でも会う度に驚かされるな」
「成長速度が並みの魔法師とは別格ですから」
「やはり零の中にいる
「不謹慎ですよ少佐。彼自身それを悔いていますし、本人の前で言えばこの世界から消されますよ?」
これは脅しではなく本音だ。実際調子に乗った研究者が、零の前で禁句を口走り、消されたのを目の当たりにしているため、このようなことが言えるのだ。
それを報告より聞いている少佐と呼ばれた男は首を縮めた。
零より3倍近い年月を生きてきた彼でも恐怖を覚えるのだから、零が普通ではないことがよく分かる。そんなやりとりがホテルの一室で、八高に圧勝した一高チームを映すテレビ画面の前で行われていた。