魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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その後のVS.九高【渓流】ステージ・VS.四高【市街地】ステージ・VS.七高【草原】ステーで行われた。

 

【渓流】ステージでは八高同様零の精霊魔法で圧勝した。四高と七高は服部をオフェンスとして代用し、こちらも危なげなく勝利して全勝で決勝リーグに進出。

 

朧月率いる三高も、無傷の4勝で決勝リーグ進出をした。

 

 

 

三高の準決勝第二試合 VS.四高【渓流】ステージでの試合を観戦せず、零はホテルの一室を訪れていた。

 

「来たか。まあかけろ」

「失礼します」

 

一高の制服のままにもかかわらず敬礼する零は軍人のようだ。実際、特別な経緯で軍に所属しているのだが今ここで話すことではない。

 

テーブルには男性4人と女性1人というアンバランスなメンバーが席に着いている。そのことについて何か言う者は1人もいなかった。そもそも軍の中では女性自体が限りなく少ないので、女性陣はこういう環境に慣れている。男性が何も言わないのは、余計なお世話と言われるかもしれないという危機感もあるのかもしれない。

 

「一高は決勝進出したようだな。三高が相手なのは間違いない。勝てるのか?」

「五分五分といったところでしょうか。何分朧月が何をしてくるかわかりませんから」

「君でも分からないのでは、波乱があるかもしれんな」

「山中先生のご懸念も理解できます。俺達が負ければ新人戦優勝はできませんし、総合優勝にも影響が出るでしょうね」

 

何故なら三高が優勝でも一高が優勝でも、新人戦の点数差は20ポイントとなってしまう。どちらも負けるわけにはいかないのだ。それに零が負けたとなれば、上級生にも少なからず精神的なダメージを受け結果に影響するかもしれない。どちらにせよ零はあれ(・・)を使わず勝たなければならない。

 

あれ(・・)を使うわけはないだろうが用心してくれ」

「もちろんです風間少佐。ところで彼がどんな人間なのか知っていますか?」

「何故俺に聞く?」

「情報収集は戦術として定石です。それに風間少佐は古式魔法師ですから」

 

風間を持ち上げて情報を得ようとしているのではなく、純粋に聞いただけだ。それを理解している風間は有意義な情報をくれた。

 

「《神威共鳴》を成功させたのは知っているだろう?その魔法は〈土の精霊〉を媒体としていると聞く。つまりは古式魔法の中でも、〈土の精霊〉を扱うことに長けているということになる。あとは正確にやや難があるそうだ。しかしこれが正しいとは限らんぞ?」

「偽でもないよりはマシです。それにもし正しければ有利ですから」

「零君頑張ってね。優勝したらご褒美挙げるから」

 

隣に座る女性藤林響子少尉は、意味ありげにウインクをしてきた。

 

「念のために何をする気なのか聞いてもいいですか?」

「私をあ・げ・る」

「失礼します」

「ちょっと無視ぃぃぃぃぃ!?」

 

高校生には刺激が強すぎる言葉を、零は無視して一室を出て行った。悲痛な叫びが聞こえるが、意識的にシャットダウンして一高テントに向かう。

 

婚約者である深雪がいるにもかかわらず、暇さえあれば零を誘惑するので、最近は無視をすることに精を出している。零の苦労を風間少佐・山中軍医少佐・真田大尉・柳大尉が理解してくれているので、少しは軽減するが4人がいなければ本当にヤバい。

 

「婚約者がいる男に手を出して何が楽しいのか」

「自業自得だな」

「すげなくあしらわれても仕方ない」

「いい気味だ」

 

風間・山中・真田・柳の順の意見だが、藤林は聞こえていないのか更なる作戦を考えているようだ。囲んでいたテーブルとは違う小さなテーブルで、一心不乱にメモ帳に何かを書き出していた。

 

その様子を冷たい目線が貫くが、全く動じず書き続ける。いや、気付いていないのだろう。

 

「零も大変だな」

「世も末だ」

「「消されると思う」」

 

真田と柳は同じ意見のようで同じ言葉を紡ぎ出していた。4人の目線の先では「ふっふっふっふっふ」と含み笑いが聞こえ、4人分のため息が部屋中に漂った。

 

 

 

零が迷惑な行為を受けている間に、準決勝第二試合は呆気なく終わった。大方予想通りで、〈モノリス・コード〉新人戦決勝は一高vs三高になった。

 

一高テントで2人分のCADをいつも通りに調整している零を見て、服部や沢木はみるみるうちに緊張が解けて好戦的になっていた。反対にあまりにも自然体過ぎる零に、首脳陣は不安を感じたが声をかけはしなかった。

 

今声をかければ3人の空気を壊してしまうそんな錯覚に囚われていたのだ。それは克人や真由美・摩莉も例外ではなかった。決勝が【草原】ステージに決定したことで、安堵する者・残念そうに眉をひそめる者。この2つにテントにいるメンバーは別れた。

 

零g・服部・沢木は眉をひそめる側だったと記しておこう。

 

「古式魔法の得意とするステージでなくてよかったな」

「個人的にはそっちの方がよかったのですが」

「何故だ?」

「自分と同等かそれ以上の古式魔法を使う魔法師と戦える機会などありませんから。不謹慎ですが【渓流】や【森林】じゃなくて残念です」

 

本心からであるが、2人も同じように頷いているので本気で戦いたかったのだろう。

 

「確かに不謹慎だが。そこまで言うのであれば勝てよ?」

「もちろんです。ここで負けるわけにはいきません」

 

河内生徒会長の激励に不敵に笑いながらテントを後にし、【草原】ステージに向かう。テントから出た瞬間、誰かに手を引っ張られテントの側面に強制移動させられた。

 

振り向いて視界に入った女子生徒の髪は漆黒。瞳は夜空を思わせる深い群青色だった。

 

「何の用でしょうか宵月委員長(・・・・・)

「朧月には気をつけて。彼は執着心が尋常じゃないから、負けたら死ぬまで貴方を追い掛けるわ。地の果てまでね」

 

鈴の音を鳴らすような可憐な声と共に、似つかわしくない言葉が聞こえた。今まで顔を見たことのなかった先輩が直接話しているのだから、疑うより大人しく話を聞いておくべきだろう。

 

「分かりました肝に銘じます」

 

頷いて先を歩いている2人を追い掛ける。

 

「気をつけて()

 

名前を呼んだだけだが、何か普通ではない感情が含まれた声音で宵月茜は呟く。胸を締め付けられるような想いで零を見送るのだった。

 

 

 

ついに決戦の時が来た。観衆は今か今かと試合を待ち望んでいる。

 

若干15歳にして、古式魔法最高難度の《神威共鳴》を成功させた朧月祥雅。

 

対して【忘却の河の支配者(レテ・ミストレス)】の実子四葉零。

 

気にするなという方が無理な話であり、否応なく熱気は高まっていく。この2人が率いるチームが、遮蔽物のない低草がどこまでも広がる【草原】ステージで戦うのだ。どんな魔法を使うのか。どのような作戦を組み立てているのか興味が湧かない訳がない。

 

「緊張しているか?服部・沢木」

「心地いい緊張だ」

「早く戦いたいな。といっても僕は防御メインだから、直接の戦うのは無いと思うけどね」

 

2人とも好戦的だが頭は冷静なようで実に頼りがいがある。これならば朧月以外に後れを取ることはないだろう。そう信じたい。いや、そうでなければダメだ。

 

開始合図のサイレンが鳴り響き、2094年度最大の目玉である〈モノリス・コード〉新人戦決勝戦が開幕した。

 

双方の距離は直線で600m。目視可能だが的確に魔法を当てるのは難しいだろう。開幕直後、2チームのほぼ中間点で魔法の衝突があり観客は歓声を上げた。

 

朧月が放った古式魔法《疾風》と、零が放った現代魔法《偏位解放》が正面衝突する。

 

互いに空気を動かす魔法であり、相殺しあったところを見ると互角に思える。一定のレベルを超える魔法師には、戦況が一目瞭然だった。

 

「なんという威力だ。あれが古式魔法最高難度の《神威共鳴》を成功させた魔法師の力か…」

「零君自身、それほど本気で放ったようには見えなかったけど?」

「服部と沢木の動きにすべてがかかっている。ここからが正念場だな」

 

一高テントでモニターを見ながら、克人は重苦しい声音で意見をまとめた。

 

 

 

朧月と零は同時に走り出し魔法を互いに発動させる。自己加速術式で【草原】スーパーを縦横無尽に駆け回り、隙あらば残りの遊撃選手とディフェンスを魔法で狙う。

 

だがどれも決定打に欠けて防がれてしまう。

 

この程度では倒せないか。やはり武を掲げる三高だ。伊達に選ばれただけではなく、朧月と行動を共にしてきただけはある。

 

その瞬間、朧月が強力な魔法を零に放つ。零は間一髪で避けながら片手を地面に付ける。魔法が放たれる度に片手を、あるいは両手を地面に付けアクロバットな動きで避け続ける。

 

5回片手あるいは両手を地面に付けながら攻撃を避け続けた零は、魔法発動の一瞬の隙を付いて魔法を発動させた。

 

「こ、これは〈五芒星の陣〉!?いつの間に!」

「喰らえ」

 

零が手を付けた地面から、赤・青・緑・茶・白の光が発生する。それぞれが一つに混ざり合い、七色に輝きながら朧月に向かって襲いかかる。

 

火・水・風・土の四大元素に、霊を加えた5つの素体が一つの魔法となる。それぞれの相乗効果で、ありえないほどの威力に跳ね上がる。普通五行は〈霊〉ではなく〈金〉であるが、魔法社会つまり古式魔法では〈霊〉として扱う。

 

《主よ、我に力を授けよ!我が肉体の糧となれ!》

 

朧月が大音量で言葉を紡ぐ。地面が大きく揺れ巨大な土の壁が天にそびえ、零の放った〈五芒星〉を防いだ。

 

その様子に観戦している全員が驚愕し呼吸が一瞬止まった。それは〈十師族〉も例外ではない。だが零は平然とそれを眺め、そびえ立っていた土の壁が地面に崩れていくのを見ていた。裏から現れた朧月は肩で大きく息をしていた。

 

「かなり息が上がっているな」

「だ、黙れ!」

 

憎々しげに零を見上げる。だが零は敵意も抱かず言葉を発し続ける。

 

「《神威共鳴》、その名の通り神と崇められる強力な精霊を使役する魔法だ。強力が故に反動も大きく、今のお前のように疲労が凄まじい。また魔法演算領域に多大な負荷をかけるため、連続発動はできない」

「だからなんだ!?出来るだけで驚異だろうが!」

「確かに驚異だ。だが一度でそれだけ疲弊していれば意味が無い。ここは富士霊峰の影響が大きい。それ故〈土地神〉の力も尋常ではない。だからお前の身体がついてこれていないんだ」

 

もはや零は哀れみを抱いていた。そこまでして勝利が欲しいのだろうか。こいつの場合自分の強さを誇示したいがために、勝利へ執着しているように感じる。

 

零は自分のためには基本的に動かない。一高のため四葉のため、何より深雪の婚約者としての立場を崩さないために、勝利へ執着している。勝利への執着は大きければ大きいほど失うものが増え、心の痛みは増大する。背後へと視線を向けると、服部・沢木が2vs2で激戦を繰り広げている。

 

激戦とはいえかなり優勢なため援護は必要ない。恐らくあと数分で片がつくだろう。もっと楽しめると思ったが拍子抜けだ。

 

しかし観客からすればかなりハイレベルな戦いだった。

 

それもそのはず。古式魔法と現代魔法の撃ち合いなど普段目にすることなどない。めまぐるしく動き回りながら的確に魔法を放つのだから、動体視力が優れている者であれば、尚楽しめたことだろう。

 

だが零は物足りなかった。つまらなかった。この程度で本気は出せない。こいつで出せないのであれば、どこで出すというのだろうか。九重寺の住職に体術の相手を断られるほどであれば仕方が無い。

 

「もう飽きたから終われ。お前の精霊魔法は使い方を間違っている。何故負けたのか。何故威力で勝っているはずの古式魔法が、現代魔法を使う俺に敗れたのか。その理由を知ることから始めろ」

 

零は無系統魔法《共鳴》を無防備な朧月に撃ち込み、戦闘続行不可能にした。そして2人の戦いが終わるのを待つのだった。

 

 

 

「今のは《共鳴》かね?無系統の」

「その通りです閣下。従兄さんは生体波動とサイオン波動の波で気絶させたのです」

 

烈は隣に座る達也の返答に眉をひそめた。達也の態度に気を悪くしたのではなく、あっさりと朧月を倒してしまった零の魔法力に、危機感を覚えたのだ。

 

「なんという胆力と忍耐力。さすがは四葉の後継ぎだ。彼に勝てる者などこの国にも。もしかしたら世界にもいないかもしれん」

 

烈の呟きに深夜と真夜は母親と叔母としてではなく、四葉家の魔法師としての威厳を誇示しながら烈を眺める。深雪は喜びを抑えながら2人と同じように零の試合を眺めていた。

 

 

 

その頃、服部と沢木の試合が大詰めを迎えていた。

 

沢木が拳を繰り出した際の風圧で2人が仰け反った。その瞬間に服部が上空から、《ドライ・ブリザード》で地面に腹ばいに押し付ける。次の瞬間、ドライアイスの弾丸が2人を襲い、背中に残ったドライアイスの破片が、夏の太陽の日光によって瞬時に溶ける。

 

そして最後に《サンダー》を発動させ、合体魔法《スリザリン・サンダース(這いずり回る蛇)》が2人を襲った。試合終了のサイレンが鳴り響き、一高が勝利したことを知らしめた。それと同時に新人戦優勝を勝ち取った。

 

「お疲れ様2人とも」

「案外余裕だったな四葉」

「《神威共鳴》は膨大な想子(サイオン)を必要とするからな。一度使わせてしまえば勝ったも同然だ」

 

これが零の立てた対《神威共鳴》対策であり、攻撃にではなく防御に使わせるように誘導していた。防戦一方になるふりをして魔法を避けながら〈五芒星〉を作り上げて放つと、予想通り防御に使ってくれた。

 

正直防御に使ってもらえなかったら、絶対に勝てるとは言えなかった。だがとっさの判断で使ってくれたのだから結果オーライである。

 

「新人戦優勝決定だ。あとは先輩方に任せよう。あ、でもまだ四葉は調整があったな」

「渡辺先輩と本戦〈モノリス・コード〉の出場者3人だからすぐ終わるさ」

 

3人は一高応援団に向かって片腕を掲げ、優勝したことを報告しながら歩いて向かった。

 

 

 

ホテルの一室では、シャワーを浴びながら呪詛をまき散らしている人物がいた。

 

「クソ!クソ!クソ!クソ!殺してやる殺してやるぞ四葉零!お前だけは俺がこの手で必ずな!」

 

朧月の周りには黒いオーラのようなものが渦巻き、彼が闇に墜ちていることを如実に示していた。

 

「…そうか、それがいい。ふふふふふ、優越感に浸れるのは今だけだ。精々足掻いて見せろ四葉零」

 

今までの好青年だった朧月は、犯罪者そのものの容貌をし危険度が増しているように見えた。

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