魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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入学式2
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〈九校戦〉が終わって、新生徒会も発足し、〈論文コンペ〉も終わり、年が明け卒業式も終了した。零はかなりハードな1年を過ごしたが、達也と深雪の入学後の土台をしっかりと作ることができたと思っている。

 

 

 

 

 

入学式を3日後に控えた日の夕方、零は四葉家本家から少し離れた墓地を訪れていた。

 

片手に白いカーネーションを持ち、一番新しい墓石の前で立ち止まる。中には遺骨は入っておらず形だけの墓だ。零が真夜に頼んで作ってもらった墓。形だけとはいえ、命を与えられたことへの感謝を忘れないためのものだ。

 

だがそれでも零はここに眠っていると思っている。たとえ自分の中に体の一部が入っていても、魂は心はこの土の下に眠っていると。

 

「壱縷…」

 

その呟きはこの世界に生を受けることのできなかった弟への嘆き。あるいは、吸収してしまった自分への恨みか。深雪を連れてこなかったのは、毎年決まってこの日に訪れることを知らせていないのもあった。だがそれ以上に自分の情けない姿を見せたくないからだ。

 

右膝をつきながら左手で墓石を撫でる。1年来ていないことにより汚れが付着していた墓石は、一撫でしただけで削り出されたばかりのような美しさを取り戻した。

 

「高校に入学してから早くてもう1年だ。優しい先輩にも少し面倒くさい先輩・無愛想な俺を笑わせてくれる友人がいるから、これまでとは違った空間でとても楽しかったよ。けどお前がいたら、もっと楽しかったのかな?」

 

いつの間にか両膝をつき、薄く頬を涙でぬらしながら墓石に手を置く。

 

『どこ見てるの零?僕はここにはいないのに』

 

木霊するかのように聞こえてくる自分とは違い、少しだけ優しい声が聞こえる。自分にもたれかかるように座っているのが背中越しにも分かる。

 

「壱縷…なのか?」

『僕は零の中にいる霞。悩まないでよ零は零の道を歩んでほしい。僕はいつも零の中にいる。ずっと一緒だよ。零が見ているのを僕も見ている。零は何があっても零のままで、それが僕の望み』

 

呟きが終わると背中に触れていた何かが消えた。

 

今のは現実に起こったことなのだろうか。現実でなければ声は聞こえない。無意識のうちに精霊が自分の心を読み、安心させるために映し出したのではないだろうか。

 

〈魔法師にとってイメージは現実そのもの〉

 

ならば今のが現実だろうとそうでなかろうと信じる。

 

「またな壱縷。来年も来るからその時まで待っててくれ」

 

持ってきた白のカーネーションを添えて、また新しい覚悟を決め本家に戻った。

 

 

 

 

 

入学式当日の朝。深雪は自室の等身大サイズの鏡の前に立ち、何度も自分の姿を見ては顔を赤くしていた。もちろん自分の姿を見て綺麗だなどと思っているわけではない。零に褒めて貰ったときの言葉を頭に浮かべながら見ていただけだ。

 

余談であるが、深雪自身それなりに自分の容姿は優れていると思っている。周囲の反応を見る限り、そう評価してもいいのではと思っていたりする。

 

閑話休題

 

「零従兄様は褒めてくれますよね?」

 

自分で言っときながらまたしてもにやけてしまう。第三者が見ていたら「処置なし」と診断しているだろう。

 

 

 

階段を降りると既に零従兄様は玄関で待っていました。

 

「お待たせしました零従兄様」

「ああ…」

「零従兄様?」

 

自分を見た反応が薄いので、何か可笑しな部分があるのかと自分の体を見渡してしまった。

 

「いや、綺麗で見とれてた」

「え、あ、え?あ、ありがとうございます…///」

 

待っていたはずの言葉なのに、聞くと嬉しくて恥ずかしくて顔から火が吹き出そうです。

 

「達也はどうする?俺達はリハーサルで早めに行くけど」

 

するとリビングから、寝癖を直さないまま半分寝惚けている達也兄さんが出てきました。

 

「ゆっくり行くよ。深雪は兄さんと2人で行きたいだろうし、今日しか2人で行けないでしょう?といっても1時間しか時間は変わらないけど…アフ」

「深夜までCAD弄るからそうなるんだ。ほどほどにな。深雪、行こうか」

「はい!」

 

苦笑しながら達也兄さんを怒る零従兄様はシブいです。笑顔で誘われたらノロケても仕方ありません。みなさんお許しを。

 

 

 

自宅から最寄りのコミューター乗り場までは徒歩10分程度。その間深雪は、零の左腕に至福の笑みを浮かべながらくっついていた。

 

そんな深雪を振り払わず好きなようにさせている零は、深雪に対して甘い。まあ婚約者であり、今日一日しか2人っきりで登校できないのだからくっついても仕方がない。明日から3人で登校だが達也のことが嫌いなのではない。2人だけで登校できないのが残念なのだ。

 

〈九校戦〉で活躍したのが災いしたのか。零の顔は世間にかなり広まっている。出る前から四葉家の子供としてそれなりには顔は知られていた。高校生になり成人男性とは言えないが、それでも大人びた雰囲気の零は、女性からかなりの人気がある。

 

それも俳優並みに…。

 

カシャッ!

 

十字路を横切った女性が一瞬だけカメラをこちらに向け、シャッターを切り走り去っていった。別に盗撮などされても構わない。気分が悪くなりはするが写真を撮られるのは慣れている。だが色々と問題が発生するのは確かだ。

 

「撮られたな」

「撮られましたね」

 

さきほどの写真が出回れば、立ち回りにくくなるのは確定事項だ。取材陣が学校に押し掛けてくるだろうし、自宅まで特定された日には学校へも行けなくなるだろう。

 

さきほどの写真を撮った女性を追い掛けるのは面倒くさい。〈風の精霊〉に頼んでデータを消してもらうことにした。情報端末は電子機器だから、〈風の精霊〉で侵入など普通はできない。だが雷などは空気を介して発生する。〈風の精霊〉なら、よほどの高性能情報端末でない限り侵入を拒めない。

 

案の定数分後には、削除を完了したことを知らせる信号が届いた。精霊にお礼を言ってからコミューター乗り場に向かった。

 

 

 

車内で深雪の機嫌が悪かったので零は気になって聞いてみた。

 

「深雪、どうした?」

「何故達也兄さんが補欠なのですか!?入試の成績は兄さんがトップでしたのに!」

 

落ち込んでいた理由が分かり零は納得した。

 

「深雪がどこから入試結果を手に入れたかは置いといて。魔法科高校だから実技が優先されるのは当たり前だ」

「お二人とも覇気がなさ過ぎます!本来であれば総代は私ではなく達也兄さんがするべきです。達也兄さんの本当の力をもってすれば…」

「深雪、それは行っても仕方のないことだ。頭の良いお前ならわかるだろう?」

「…申し訳ありません」

 

素直に言うことを聞いた深雪の顎を掴んで、こちらを向けさせ顔を近づける。

 

「ぜ、零従兄様!?こ、こんな、ところでそんな!!」

 

何をするのか理解した深雪は焦り始めた。

 

「ニャッ!な、何をされるのですか!?」

「お仕置き」

「零従兄様の意地悪!」

 

いきなり鼻を握られれば奇声を上げても仕方がない。それも違うことを予想していたのであれば尚更だ。微笑みながら答えると拗ねて顔を背けてしまった。そんな可愛い仕草に苦笑してしまい、優しく頭を撫でてやる。すると先程までの機嫌の悪さが嘘のように甘え始めた。

 

プライバシー保護のためにコミューター内は外からは見えず、車内にもカメラやマイクなどは置かれていない。それを知っているからか、深雪は周りの目を気にせず零に甘えているのだ。

 

一高の最寄り駅〈一高前〉までは甘えながらも、さすがに一高までの一本道はくっつくようなことはしなかった。それは人目があるからではなく、同級生や先輩方にはしたないと思われたくなかったからだ。

 

まあ深雪の行動を知っている人物からしたら、「そんなことをする必要は無い」と言うだろう。面と向かって言うことはできないだろうが。

 

「リハーサルで上手くいきすぎて、本番でミスらないようにな深雪」

「私は本番に強いタイプですからご心配なく。それでは行って参ります」

「行っておいで」

 

講堂に入っていく深雪の背中を見送る。

 

「見ていて下さいね零従兄様」

「ああ。さてと見回りでもするか」

 

最後は独り言だが、深雪は講堂に入っているため聞こえていなかった。

 

普通なら生徒会役員である零も講堂に行くべきだ。だが今回は新入生の誘導の任を任されているため、正門前で待っていればいい。 といっても誘導することなどほぼないので、サボっても問題はない。

 

「暇だ。これなら達也を連れてくるんだった」

 

桜が散る青空に向かって、零はまたしてもポツリと独り言を呟いた。

 

 

 

入学式は深雪のその美貌ですべてを掌握し、去年に引き続き零と似た答辞をした。零のようにドストレートではないので、あまり気にした様子がなかったのはいいことなのか悪いことなのか判別は難しい。

 

「司波君、ホームルームよってく?」

 

そう聞く赤髪の活発そうな(実際とんでもなく破天荒)さきほど知り合ったばかりの少女に、達也は済まなさそうに答えた。

 

「済まない。妹と待ち合わせているんだ」

「妹さんって新入生総代の司波深雪さんですか?」

「ああ」

「ってことは双子?」

「そうだよ」

「達也兄さん、お待たせしました」

 

話していると話題であった深雪がやってきた。後ろに生徒会役員を連れて。

 

「深雪、クラスメイトの千葉さんと柴田さんだ」

「初めまして司波深雪です」

「よろしく深雪って呼んでもいい?私のことはエリカでいいわ」

「こちらこそよろしくお願いします。美月と呼んで下さい」

「よろしくねエリカ・美月」

 

どうやらこの2人と気が合うようで、ものの数秒で仲良くなってしまった。

 

「深雪、生徒会の方々の挨拶は終わったのか?」

「大丈夫ですよ。後日またお伺いしますから」

「しかし会長!」

 

深雪の返事を待っていたが、声を出したのは女子生徒だった。男子生徒が声を荒げるが、会長と呼ばれた女子生徒は何も言わずきびすを返し戻っていく。

 

その男子生徒は達也を睨み同じように帰って行った。初日から上級生に目を付けられてしまったが、今のは不可抗力に近い。

 

「帰ろうか深雪。またね2人とも」

「はい達也兄さんまた明日ねエリカ、美月」

 

達也と深雪は2人に挨拶をしてから、自分達を待っている零のもとへと向かった。

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