零と合流した2人は仲良くお話しながら帰ったが、自宅の玄関前で零が立ち止まった。2人にそこで待っているように言うと裏口に回っていった。
「達也兄さん、零従兄様はどうなされたのでしょうか?」
「兄さんが何かしに行ったとなると叔母上かな?」
2人は首を傾げながらしばしの間待っていた。すると…。
「ひぃん!」
奇声が家の中から上がったので玄関を開けて中に入る。目の前には、1人の女性が身体を痙攣させて倒れていた。
「零従兄様?」
「母上が待ち構えてたから気絶させただけだよ」
「だけって…」
零従兄様の右手には、今だにバチバチと電気を発しているスタンガンがあり、その顔は笑顔を浮かべています。優しいいつもの笑みなのですけど、スタンガン片手だと怖さ倍増です零従兄様ぁぁぁ!
「あと数回行っとくか」
「「ストォォォォップ‼︎」」
さすがにこれ以上は危険なので、達也兄さんと2人で止めに入ります。
「何で?」
「これ以上は危険です!」
「知ってる」
「分かってやられるのですか!?」
「冗談だよ。さすがに俺でもそこまでひどいことはしない」
〈九校戦〉での一件を目にしているのでなんとも言えません。しかし信用しなければ婚約者として失格です。
その後本家に連絡をして、翌日迎えに来るように零従兄様がお願いしました。お母様は叔母様の行動に仕方ないとでも言うようにかぶりを振り、快く了承してくださいました。
高校生活2日目の朝も、前日のように何もない穏やかな始まりだ。昨日と違うのは普段起きる時間より2時間早い。日が昇る30分前にはリビングに零と深雪がいることだ。
「達也兄さんはまだお眠りなのでしょうか?」
「どうせCADのデータでも弄ってたんだろ。起こしに行くか」
達也の名前がなければ新婚の夫婦に見える。実際深雪もそう思っている。零が立ち上がったので深雪はその後を追う。階段を上り達也の寝室のドアを開けるが、まだ規則正しい寝息を立てて寝ている。
「達也兄さん、起きて下さい。稽古に遅れますよ」
「そんな起こし方じゃ甘い深雪。こういうときはこうしないとね」
「そ、それはさすがに…キャァァァー!」
ズガン!
零の握りしめた右拳を見て、深雪がやめるように言おうとしたが時既に遅し。零の拳が見事に達也の左こめかみに直撃した。
「フング!…せめて普通に起こしてよ兄さん」
「文句を言うなら証拠隠滅してから寝ろ」
零が指差す先には、電源が入ったままのタブレットが机の上に置いてある。夜遅くまで触っていたのが丸わかりだ。バツが悪そうに顔を背ける達也の頭に、零はもう一度右拳を振り下ろした。
「グオオオ」と頭を抑えながらもだえる達也を見ると、かなり痛いのだろう。零の横にいる深雪は「アワワワワワ」と右往左往している。
「さっさと支度して行くぞ」
それだけ伝えると零は階段を降りていった。
達也の準備ができたところで目的地へ向かう。達也の準備が遅かったせいで朝日が少しだけ顔を出している。罰として予定していたスピードより2倍の速さを出すと、達也はとてもしんどそうだった。
ちなみに深雪は余裕な顔で零の左手を握っている。
零と深雪は坂を滑り登る。達也は普通の歩きでは出せない速度で移動している。3人とも魔法を使いながら移動しているのだ。単純な複合魔法式なので、二科生にしかなれなかった達也にも、継続的に扱うことができる。
目的地〈九重寺〉には10分ほどで着いた。速度を上げたおかげで予定通りの時間になっているが、達也は来るだけで満身創痍に近い。
といっても彼の【固有魔法】で、何も無かったかのように戻るのだが。
零と深雪が山門をくぐり、本堂の前庭にまで進むと達也がちょうどくぐる。すると隠れていた弟子一同に襲いかかられた。まあ、達也なら弟子如き僅かな時間で潰せるから心配はしていない。人垣に埋もれた達也を眺めていると、何かが深雪に近寄っていたのでそちらを向く。
「師匠、こそこそ隠れて深雪にちょっかいをかけないでもらえませんか?」
「ひどいねぇ零君。僕は
空中から現れたように見える質素な墨染めの衣を着た男は、この寺の住職九重八雲で自称忍び。より具体的には、忍術使いとして名を馳せている。古式魔法の使い手であり伝承者であるため、零も去年の春頃鍛えて貰ったのだが僅か3日で破門されてしまった。
弟子になったわけではないので正式には破門ではない。だが体術を受けさせてもらえなくなったのは事実だ。何か悪いことをしたから体術を指導して貰もらえなくなったのではなく、八雲の住職としての威厳があるからであり零のせいではない。
正確には、体術で零に負けたくないからなのだが頑固なので言い訳を使ったのだ。
閑話休題
「俺と力比べしますか?師匠」
「僕の存在意義に関わるから遠慮しとくよ」
ひょうひょうと答えてはいるが、額には冷や汗が浮かんでいる。ちょうどその頃、達也は弟子を全滅させて八雲に向かって突撃した。
勝負は五分五分だ。だがそれは達也が体力面で八雲を上回っているからであり、技術面は八雲に遠く及ばない。だから大抵達也が負けてしまう。まあ、直接教えて貰い始めたのは中学を卒業してから1ヶ月足らずなので、ここまで腕を上げたなら十分だ。
修行は20分ほどで終わり家路についた。
シャワーを順次浴び、尚も気絶している深夜を四葉家の執事に連行させ学校に向かった。
1日何もなく終われると3人は思っていたが、現実はそんなに甘くなかった。夕方、正門前では達也・深雪・エリカ・美月・レオがおり、3人が一触即発の状態で生徒と向かい合っていた。
その生徒達の違いは、肩と胸にエンブレムの有無である。どちらかというと一科生のほうが対抗意識を持っている。だからちょっとしたことで面倒くさいことになる。
「〈ウィード〉が僕達〈ブルーム〉に指図するな!」
「同じ1年生じゃないですか!今の貴方達とどれだけ差があると言うんですか!?」
「違いだって?なら教えてやる!」
「まずいな」
感情論に発展してしまえば、もはや魔法を使うことになっても仕方ない。
「これが才能の差だ!」
「特化型!?」
無駄なく腰のホルスターからCADを取り出す動作は、明らかに戦闘に慣れている証拠だ。そしてそのCADが速度重視ではなく、攻撃重視ならば驚いても仕方ない。魔法式が展開される瞬間にエリカは動いていたが、突如感じたあまりにも重い何かに急停止せざるを得なくなった。それは魔法を放とうとした男子生徒も一緒だ。
「っ!こ、これは!?」
「た、達也兄さん!」
2人は誰の行動なのか分かっていたがさすがの達也と深雪でも、表情を歪めてしまうほどの圧迫感。周辺にいる生徒が冷や汗を垂らす。エリカとレオはどうにか堪えているが、我慢の限界に近いのは一目瞭然。無理だとこれ我慢ならないと全員が思った直後、体が軽くなった。
「何をしようとしたお前は」
突如特化型CADを向けていた生徒の背後に少年が現れ、全員が驚愕する。
「い、いつの間に!?」
「あ、あの人は…」
「クソっ!」
男子生徒は背後から声をかけた少年に、CADを向けようと腕を動かした瞬間、その腕を掴み地面に叩き付けられた。
「がはっ!」
「貴様っ!」
男子生徒が叩き付けられた生徒を見た途端、2人の生徒が魔法を発動させようとしたが、少年の人睨みで硬直してしまう。
「何事だ!」
声が聞こえた方向を見ると、女子生徒が数人引き連れてやってきた。
「…もう来た」
「何か言ったか零君?」
「来るのが早すぎるんですよ委員長」
「問題があれば速攻飛んでくるのが風紀委員だ。それで何があった?」
「説明が面倒くさいので俺に任せてもらえますか?」
まさかの発言に達也と深雪は困ったような笑みを浮かべ、他の生徒は?を浮かべている。
「構わん。その代わり事後処理は任せるぞ」
「面倒くさい」
「おい!」
「分かりました」
「ったく」
子供じみたやり取りをした後、自分が腕の関節を決めている男子生徒に声をかける。
「深雪だけでなく他の生徒まで攻撃しようとするとはな。挙げ句の果てには俺まで狙うか。さてどう料理してくれようか」
深雪はそう告げる人物の眼が、獲物を見る猛禽類並みに細められるのを見て慌てて止めに入る。
「そこまでにして下さい零従兄様!」
「深雪がそう言うならやめよう。ほらさっさと起きろ。そして後ろの生徒を連れて早く帰れ。目障りだ」
「…覚えてやがれ。この恨みは必ず返す!」
悪態を興味なしと見て、どこ吹く風とばかりよそ見をしている零に、他の生徒は呆気にとられる。その様子に達也は悪い癖が出たと頭を抱えた。
「あの光井ほのかです。さっきはありがとうございました」
「当たり前のことをしただけだ。お礼を言われることは何もしてないよ」
「あの、駅までご一緒してもいいですか?」
結局、達也のクラスメイト+深雪のクラスメイトと駅まで帰ることになった。
「え?零さんって深雪の婚約者なの!?」
「ええ、小学生の頃からね///」
「深雪、ノロケてるぞゴフ!」
「そんなことありませんよ?ねえ達也兄さん」
「はい、その通りです…」
達也の左脇腹を深雪の右フックが見事に貫く。楽しげな空気が流れ、先程の重い空気が嘘のように軽くなっていた。
「零さん、さっきのあれは魔法ですか?」
「いいや想子を活性化させただけだよ」
ほのかの隣に立つ表情の乏しい少女 北山雫に優しく答える。
「それにしても異常な圧迫感でしたけど。何か特訓でもされてたんですかい?」
「ちょっと事情があってね」
彫りの深い顔で肩幅が広い西城レオンハルト通称レオは、深入りしない方がいいと本能的に零の言葉から察したらしい。それ以上追求してこなかった。
零的にもありがたいので何も言わない。レオの鍛えられた肉体からは潜在能力が眠っていると零の眼は見抜いていた。それもかなり実戦でも使えるほどの何かを秘めていると。
それから他愛ない会話をして、一高前という便利なコミューター乗り場で別れ自宅に向かった。友人達がいなくなると、深雪は今までの我慢を鬱憤するかのように零に甘え始めた。
達也は情報端末を開き、自分の世界に潜り込み現実逃避をしていた。
地震のせいで帰宅できない作者です。