達也と深雪にとって高校生活3日目。校舎に入る前は何故か空気が微妙だった。
「達也は七草会長と面識があるのか?」
「入学式の日が初対面のは…ず?」
「達也兄さん、疑問系になってますよ」
零が聞いたのは、登校中に真由美が達也の名前を呼んだからである。しかも君付けで。そして何故か強制的に昼休みに生徒会室に来るよう言われた。
そして昼休み、達也と深雪は零に連れられて生徒会室に来ていた。まあ、今回は深雪がメインなので達也と零はオマケだ。といっても零は生徒会役員なので参加しなければならない。役どころは2人に伝えているが、不信に思われるわけにはいかないので、仕方なく来たという次第だ。
そして、今はダイニングサーバーにメニューを注文して待っているところだ。
「零君、昨日の言葉遣いは何だ?」
「本心を言ったまでです」
「言い訳もせんのか」
「したところで互いに気分が悪くなるだけでしょう?」
摩莉と零のやり取りを達也と深雪はハラハラしながら、真由美はニコニコしながら見ていた。まさか零がここまで性格豹変しているとは思っていなかったのである。
「入学当時の方がまだかわいげがあったぞ」
「1年経てばそんなもんです」
そうこうしているうちにメニューが完成したので、零は深雪を視線で抑え、達也と2人で4人分のメニューをそれぞれ渡す。真由美は魚・零は肉・達也と深雪は精進を選んでいた。
準備が整ったところで、真由美かま生徒会の説明を始めた。
「入学式でも紹介しましたけどもう一度紹介しますね。私の隣が会計の市原鈴音通称リンちゃん」
「私のことをそう呼ぶのは会長と四葉君だけです」
「零従兄様?何故その呼び方なのか聞いても宜しいですか?」
深雪が冷気を滲み出させたので、零は深雪の顎を左手で持ち上げこちらを向かせた。
「零従兄様!?ま、またでございますか!?」
「落ち着け深雪。俺が市原先輩をそう呼ぶのは会長に命令されたからだ。それ以上の意味はないよ」
「何故言うことをお聞きになられたのですか///?」
「聞かないと面倒くさいから」
すると摩莉が口を押さえて笑い始めた。真由美は零と摩莉のどちらを睨もうか悩んでいたが、両方を片目で睨むという高等技術を使い始めた。
〈真由美は片目睨みを習得した〉
効果音とともに零の中でそんなフレーズが浮かんだ。
「零君、今失礼なことを考えなかった?」
「ご名答です会長。さすが主席入学なだけありますね」
「…摩莉、貴女の言いたいことがよく分かったわ」
「共感者が出来て光栄だ」
いつも通りのやり取りを、鈴音はすました顔で見ながら緑茶をすすっている。
「気を取り直して。ここにいませんが副会長のはんぞー君と深雪さんの隣に座っているのが書記の四葉君です。気になったのだけど朝はいつも一緒に登校しているの?」
「家が同じですから」
「え?そういえばお兄様って兄妹なの?」
「正確には従兄ですね。深雪は従妹ですよあと俺の婚約者です」
「え!」
「い!」
「っ!」
「零従兄様///」
零の爆弾発言に女性陣が顔を真っ赤にする。鈴音が顔を真っ赤にするのを初めて見たので、零は貴重な体験だなと他人事のように考えていた。ちなみに達也は嬉しそうにニコニコしている。
「コホン、そしてリンちゃんの隣に座っているのが風紀委員長の渡辺摩莉。新入生総代を務めた生徒には生徒会役員になってもらっています。深雪さん、私達は貴女が生徒会に入ってくれることを望みます。引き受けていただけますか?」
「はい、未熟者ですがよろしくお願いします」
深雪は光栄だというように嬉しそうな笑みを浮かべている。達也は他人事のようにニコニコしているので、零は別のことを任命してもいいかと思い発言した。
「そういえば委員長、確か風紀委員の生徒会推薦枠が1つ空いていましたよね?達也に任せては如何ですか?」
「私は構わないが。それは達也君次第だろう?」
「自分は構いませんよ。従兄さんが薦めてくれるのですから、喜んで末席に加わらせていただきます」
「問題解決ですので先程の一件、なかったことにしてもらえますか?会長」
どさくさに紛れて零は、帳消しにしてもらおうと取引を持ち出した。もしかしたらこれが狙いだったのかもしれないが黙っておこう。
「仕方ないわねいいわよ。でも達也君は大丈夫なの?言っては悪いけど魔法は苦手でしょう?」
「やらせてみればいいんです。腕は保障しますよ」
「君がそう言うなら大丈夫だろう」
摩莉も零の言葉にさを信用したようだ。
そこでちょうど昼休み終了のチャイムが鳴り、3人は生徒会室を後にした。
あれよあれよという間に放課後になり、達也はもう一度深雪と2人で生徒会を訪れていた。零は既に生徒会室で事務処理をしていた。
「よっ来たな。じゃあ行こうか」
「どこに行かれるのですか?」
「風紀委員会本部だよ。外から行かなくてもここから行けばすぐだからな」
摩莉が指差す方向には扉があり、どうやら階段で繋がっているらしい。不思議な造りだと思いながらついていこうとすると、今まで黙って窓の外を見ていた男子生徒が声を発した。
「待って下さい渡辺委員長」
「どうした?服部刑部少丞範蔵副会長」
「フルネームで呼ばないで下さい!」
「何だ服部?」
「そこの1年生を風紀委員に任命するのは反対です」
摩莉はいぶかしげに眉をひそめた。明らかに気分を害している証拠だ。
「可笑しなことを言う。彼を推薦したのは私ではなく零君だ。文句はあいつに言うことだ」
「四葉、どういうことだ?」
「達也を推薦した理由は、風紀委員として実力が申し分ないからだ。それに渡辺委員長の理念に沿っていると思ったのもある」
零はデスクから指を離し、椅子ごと服部に向き直りながら答えた。
「敢えて使わせてもらう。〈ブルーム〉が〈ウィード〉を取り締まることは日常茶飯事。だがその逆は今までになかった。これは一科とニ科の溝を深める原因になっている。つまり私達の理念に反することになるわけだ。それに彼が推薦するんだ間違いがあるわけがなかろう」
「渡辺委員長の言いたいことは分かりました。ですが魔法力で劣る二科生に風紀委員は務まりません」
「ならば服部、達也の実力を見せればいいんだな?会長、魔法の使用許可と試合会場の申請をお願いします」
「生徒会長として試合を認めます」
「風紀委員長として試合を認める」
15分後に第一訓練室で試合が行われることになった。服部が文句を言っている間、零は深雪の肩に手を置き介入しないように抑え込んでいた。
まあ、試合は零と深雪の予想通り瞬殺で達也の勝利となった。
「つまり風紀委員としての実力を知りたかったと?回りくどすぎるんだよお前は」
「すまない四葉。だがお前が身内に対して、身贔屓に目を曇らせていないことを知りたかったんだ」
「アホだなお前は」
端の方での2人のやり取りを女性陣は見ながら、薄い笑みを浮かべていた。
「想定外の事件もあったが。当初の目的、風紀委員会本部に行こうか」
これで達也の風紀委員会への入部が確定した。
そして場所は移り風紀委員会本部。ゴミ・CAD・書類などが机の上ならまだしも。足の踏み場もない程まで散らかっている。
「適当にかけてくれと言いたいところだが。何故ここにいる?零君」
「久々の風紀委員会本部ですし、渡辺先輩がしっかりと整理整頓しているか気になってきました。まあ、結果はこの通りなのですが。深雪のことは気にしなくて大丈夫ですよ。しっかりと仕事は教え込みましたしできる子ですから」
呼んでもいない人物に問いかけるが、まともに答えを返してこないので脱力する摩莉の隣では、達也が苦笑している。
「渡辺先輩、ここ片付けてもいいですか?」
「構わんが何故だ?」
「本部がこの有様だと委員にも影響が出かねません。それにCADやその他諸々がこのようにされていると、魔工師志望としては耐え難いんですよ」
達也は口を動かしながらも手を動かし片付け始める。その隣では零が精霊と話をしていた。
摩莉も手伝うが達也と比べて動きがのろい。おそらく性格が関係しているのだろう。委員長がこれだから部屋が汚くなるのだと、零と達也は同じ感想を抱いていた。
「あれだけの対人戦闘能力があるのにか?」
「俺の実技能力ではC級ライセンスしか取れませんから」
「すべてがライセンスで決まるとは思わんがね」
程々に片付いた頃、零が口を開く。
「達也、もうそろそろ巡回報告が来るから少し待ってろ」
5分後、2人の男子生徒が委員会本部に入ってきた。
「巡回終了しました本日の逮捕者ありません」
「あれ、この部屋どうしたんですかい姉さん。いつのまにこんなにォヮ!」
「お前の頭はかざりか辰巳!?」
机に置いていたノートを使い、辰巳と呼ばれた生徒を引っ叩く摩莉を、達也と零は温かく見守っていた。
「ところで委員長、そいつは新入りですか?…ちなみに紋無しですかい」
「辰巳先輩、それは禁止用語に抵触する恐れがあります。ここはニ科生と呼ぶべきかと」
2人の生徒は達也を観察している。その眼は蔑まず、ただ純粋に力量を測っていた。
「そんなこと言っていると足元をすくわれるぞ?先ほど服部が返り討ちにあったばかりだ」
「なんと!入学以降、四葉以外に負けたことのないがないあいつがですか!?」
「零君の推薦も受けている。追加情報として零の従弟だそうだ」
「道理で服部に勝てたわけですね委員長。逸材です」
褒め称え始める2人に、達也は恥ずかしそうに笑みを浮かべる。すると2人が手を差し出してきた。
「3-Cの辰巳鉱太郎だ」
「2-Dの沢木碧だ。君を歓迎するよ司波君」
「1-Eの司波達也です。こちらこそよろしくお願いします」
2人の手を達也はしっかりと握り返す。二科生だからと見下さず、同じ学校の生徒として見てくれることに喜びを感じる。
「沢木を下の名前で呼ぶと怒るから気をつけろよ」
「呼んだ時は大変だったからね」
零の不器用で沢木が人の悪い笑顔を浮かべながら想子を活性化させている。その様子を見て、3人が苦笑いを浮かべるのだった。