零が生徒会メンバー3人に注意喚起してから、2週間後のある日の放課後。それは突如起こった。
『全校生徒の皆さん!』
突如スピーカーから大音量で生徒の声が聞こえ、沢木と話していた俺は顔をしかめる。
『…失礼しました。全校生徒の皆さん!』
やや間があったのは、音量調節をミスったことに対する謝罪なのだろうか。今度は決まり悪げに同じセリフが流れた。
「音量調節をミスったな」
「いや、そこじゃないだろ」
服部に突っ込まれて続けてボケたくなるが、次に発せられた言葉に中止を余儀なくされる。
『僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!』
「有志とは大きくでたものだな」
俺の呟きを服部と沢木も耳にしていたが、それ以上に許可なく放送をしていいのかと首を傾げていた。
『僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場における交渉を要求します』
どうやらこれが達也の言っていた壬生の話なのだろう。放送室を不法占拠してまでする必要があるのか気になる。とはいえ、今はそれを考えるより行動しなければならない。
「生徒会役員として行かなきゃダメだろうから先に行くよ。また明日」
「気をつけろよ」
何に気をつける必要があるのか分からないが、友人の心配を無碍にもできないので軽く手を振り放送室に向かう。
到着した頃には、3年生役員2名と大柄な男子生徒が既に放送室の前に立っていた。中に入らないのは彼等を刺激しないためだろうか。可能な限り早くに対処した方がいいが、何か考えがあるのかもしれない。
「会頭、中に入らないのですか?」
「鍵をかけられていてな。ご大層なことにマスターキーまで盗んできている」
腕を組んで立つ上級生に聞くと、明らかな犯罪行為に頭を抱えたくなる。
「学校の物品を壊してまで早急に解決すべきことだとは思わない。だが彼ら等の要望に応じて、しっかりと落とし前を付けるべきであろうな」
「ではこのまま待機しておくべきだと?」
「それについては決断しかねている」
そうこうしているうちに達也と深雪が到着した。
「達也、壬生のプライベートナンバー知らないか?」
「来るときにかけましたが、着信拒否されていました」
携帯に出てもらえないのであれば、中とのやり取りは不可能だ。交渉しようにも取り付けることもできない。
この時代大抵の錠は電子ロックなので、ウイルスを使えば簡単に開けることができる。といっても一高などの魔法科高校や魔法大学のセキュリティは、国内でもトップの頑丈さを誇るので容易ではない。
余程の専門家やスペシャリストでない限り、不可能であるが魔法を使えばそれほど難しいことはない。それも零の知り合いであれば…。だがその女性はここにはいないので、零がなんとかしなければならない。
仕方なく放送室の扉の前に立ち、ドアノブを右手で掴みサイオンを流し込む。すると警告を知らせるアラームが鳴り響くが、それもすぐに鳴り止む。
そして次の瞬間には鍵が解除されており、達也は零と扉が開くと同時に侵入する。あっという間に不法占拠した生徒を紗耶香を除いて確保する。
生徒会メンバーと紗耶香はあまりの一瞬の出来事に、眼を見開き呆気にとられている。
「壬生、交渉には応じる。だがお前等の要求を聞き入れることと、執った手段を認めることは別問題だ」
零の言葉に紗耶香から強情な態度は消え去った。
「その通りだけど。零君のやり方も問題ありよ」
「会長、今までどこに?」
「生活主任の先生と話をしてきました。今回の事件は生徒会に委ねられるそうです。壬生さん交渉に関する打ち合わせをしたいから、来てもらえるかしら?あと、零君もね」
「構いません」
「了解です」
紗耶香を誘導する真由美の後ろ姿を見てから、零は2人に向く。
「先に帰っていてくれ。どうやら少しばかり話が長くなりそうだから」
「それならば私達もここに…」
「帰りなさい深雪。これは上級生間の問題だ。その先はお前達にも関わる問題だが、今は関係ないだろ?」
「…分かりました」
渋々頷く深雪の頭を零は優しく撫でた後、真由美の後を追った。
深雪は入学以来初めて達也と2人で帰宅していた。深雪のなかに零に逆らうという文字は存在しないが、不服という言葉は存在する。何より自分を大切にしてくれていることを理解しているが、共に隣に並ばせてもらえないときが深雪にとっての不満事項だ。
「達也兄さん、何故零従兄様は私を一緒に参加させてくれないのでしょう」
深雪は自宅に向かうコミューターの中で、達也にそんな質問をしていた。
「たぶん従兄さんは、壬生先輩の気持ちを優先させたんだと思うよ」
「優先ですか?」
深雪の質問は、自分ではない女性を優先することに不満を持ったのではなく。自然に言葉の意味が分からなかったのだ。
「あそこで深雪や俺が関わっていたら、言いたいことも言えず感情論に持ちこまれていたかもしれない。そうすると対応に困るから俺達を敢えて外したんだ。それは不器用な従兄さんなりの心配りだったんだと思うよ」
確かに零は不器用で愛想の悪い人間だが、それなりにはしっかりとした人間でもある。世話になった人やよくしてくれる人に対しては、それなりの対応や見返りを与える。だが逆に友人・家族に仇なす者には、相応の制裁を加える。
厳しくも穏やかな人間であることを深雪も達也も理解している。だからこそ今回の零の対応が気に入らないのだ。だがごねるのは零に心配をかけることになるので、2人は素直に聞いたという次第だ。
達也の言葉を聞いて深雪は納得し笑顔で自宅に向かった。
その頃零は、第一会議室で行われている有志同盟のメンバー数人・生徒会長・風紀委員長・部活連会頭との交渉を、少し離れたところから友人と見守っていた。
「四葉、どう思う?」
「面倒なことにはならなければいいと思っている」
「案外悪い方に予想は当たることが多いらしい」
「だから憂鬱なんだ。厄介事はどちらにも心にしこりを残す。互いに不利益を被ることにしかならない」
零は感情を抑えている有志同盟のメンバーを、精霊を介して視ている。特に問題は視られないが、自分でも知らない何かがあるかもしれないため油断は出来ない。
「この状態だと、明日か明後日の放課後に公開討論会をしそうだな」
「誰が代表するんだ?」
「七草先輩だろうな。生徒会長だし誰よりもこういうことには敏感だ。放っておけないから自分から立候補するだろうさ」
今年の2月に卒業式が行われた後、零は真由美からある目的を教えられた。それは「一科生と二科生との壁を埋めること」だった。自分の理想となんら変わりなかったので、零は文句を言わず真由美の要望に応えた。
正確には克人・摩莉・真由美の「一高三巨頭」の理想なのだが、生徒会長である真由美の願いと表してもなんら問題はない。
「あいつらが過激な行動を起こさないかが心配だな」
「気にしすぎじゃないか?」
「だったらいいんだがな。だがこの世界には自分達の思い通りに行かなければ、過激な行動を取る輩が少なくない。一高生徒だからではなく、魔法科高校生徒全体に言えることだ」
【ブランシュ】の名前は伏せ、ある意味適切な言葉で危機感を促す。そのおかげか服部は納得してくれたようだ。今回は結果的なという注釈付きだが。
「1年間お前の横で見てきたからお前の言葉を信じるさ」
「ありがとう服部」
2人で話している間に、交渉の日程は明後日の放課後に決定した。零と服部の予想通り生徒会側の代表は真由美に決まった。あまりの予想通りの展開にさすがの零も、こんな簡単に予想ができていいのかと首を傾げたくなった。