魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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入学式のリハーサルへ向かう間は、特に感慨めいたことは何一つなくいつも通りだった。一高へ向かう一本道は、まったく人影が見られず、少しだけ気分が軽くなる。時間帯も早いので少なくて当たり前なのだろうが。何故なら入学式はこれから2時間後に始まる。今この道を歩いているのはリハーサルに関わる者達だけ。

 

人混みが得意ではなく、人と関わるのは嫌いでもなく好きではないというのが正しい表現だ。向こうから来ないのであれば、こちらから必要以上に関わるつもりはない。

 

自身の制服の両肩に刻まれたエンブレムに視線を向ける。花形のエンブレムはただの飾り。ではあるが、俺からすればかなり重要なものだ。

 

〈ブルーム〉と〈ウィード〉。

 

この学校では禁止用語とされている。それでもほぼ暗黙の了解として日常的に使われているのが現状だ。俺はそんなことで優越感に浸るような精神年齢が低い奴等と、つるみたいとも思わないし友人にもなりたくない。

 

 

 

そうこうしているうちに一高に到着し、正門をくぐってそのまま真正面の入学式の会場である講堂に入る。かなりの広さがあるので、オペラ劇場かと思ってしまうほどの規模だ。

 

「新入生代表の四葉零君ですね?お待ちしてました」

 

講堂を見上げていると、右方向から声をかけられたので振り向く。コケティッシュな顔だが、それでも大人びた雰囲気の女子生徒が立っていた。

 

「初めまして四葉零です。本日はよろしくお願いします七草副生徒会長」

「堅苦しいなぁ。真由美と呼んでもいいのに」

「…初対面の方をいきなり名前では呼べませんよ」

 

頬を膨らましながら軽く睨みつける七草先輩を、俺は引き気味で見ていた。別に嫌いとかではない。それほど馴れ馴れしくもないのだがあまり踏み込まない方がいいと、第六感がささやいていた。初対面にもかかわらず名前を知っている理由としては、彼女が彼の有名な七草家の長女であり、容姿と魔法力で世間一般(ここでいう世間一般とは魔法社会)に知られているからである。

 

俺が今日初対面なのは、現生徒会と入学前に会うことがなかったからだ。普通は打ち合わせなどをしなければならないのだが、家の事情で参加できなかったのだ。

 

主に母とか深雪とか母とか深雪とか…。

 

「真由美、気に入った下級生を弄るのはやめろ」

「摩莉、その言い方は不本意よ」

 

七草先輩の後ろから、凜々しい容姿をしたもう1人の上級生がやってきた。口論を始める2人のやりとりを見ると、あんな風に自分もなりたいと思う。だがそう思うのは壱縷に対して悪い気がするので、何も思わないでいるべきだろう。

 

「2人ともそれぐらいにしなさい」

「「げっ!」」

 

先程楽しく言い合いしていた2人が、容姿に似合わない声を上げた。どうやら彼女達より権力が上の生徒が現れたらしい。声が聞こえた方を見ると、女性にしては肩幅が広く、かなり鍛えられている女子生徒が立っていた。

 

「君が噂の新入生だね?実技と筆記試験の両方で満点。一高始まって以来の逸材だとか」

「本当か!?」

「…私でも無理ね」

「簡単すぎて呆れましたが」

「「「…」」」

 

彼女等より上であろう女子生徒が放った爆弾に驚いている2人へ、試験の感想を投げ込むと今度は3人が黙り込む。俺は率直な感想を言ったまでだが、何か可笑しなことを言っただろうか。

 

「…君、何を言っているのか分かっているのか?」

「何か可笑しなことを言いましたか?」

「…河内生徒会長、彼は自分の言葉の重大さに気付いていないようです」

 

3人の反応を見る限り、どうやら俺はとんでもないことを口走ってしまったようだ。気にする必要はないと思うが。

 

「それよりリハーサルを始めませんか?」

 

俺の言葉をきっかけに3人は通常運行に戻り、リハーサルは問題なく終了した。本番までの間、3人からなんとも言えない視線を向けられたのはどうしようもない。

 

 

 

200名の新入生と数名の上級生・教職員・魔法大学関係者参列による、2094年度の入学式が始まった。

 

『新入生答辞新入生代表 四葉零』

 

零の名前が呼ばれ、演説専用のマイクの位置に立つと講堂内がざわついた。シルバーグレイの髪と浅紫色の瞳が余程珍しいからだろうか。日本に帰化した外国人はかなりいるので、髪や瞳の色が珍しいわけではないはずだ。容姿を合わせた存在そのものに驚いているのかもしれない。

 

『新入生答辞 冬の寒さが薄れ、春の木漏れ日が木々の枝の隙間から降り注ぐこのうららかな春の日に……』

 

容姿と同じく高校1年生とは思えない味わい深く渋く、だが他人を包み込むような優しい声音で答辞を始める。

 

『…新入生代表 四葉零』

 

答辞の内容はこで終わりだが、零には言わなければならないことがある。それは可愛い従弟のため婚約者のためでもある。

 

『これで答辞は終わりだが一つ言いたいことがある。それは同級生も上級生も含めてだ。〈ブルーム〉と〈ウィード〉、この言い方で呼び合うことは禁じられているが、ここでは敢えて使わせてもらおう。俺はこのような呼び方で学校生活を送るつもりはない。〈ブルーム〉の一科生はエンブレムがあることを誇りに思っていることだろう。それは構わない。だがそれだけで優越感に浸るな。二科生にもお前等より秀でた才能を持つ奴等がいるかもしれない。〈ウィード〉の二科生、お前達にも言えることだ。エンブレムがないからなんだ?差別意識がもっとも強いのは、差別を受けている身だ。お前達も訓練すれば一科生にも勝てることがあるかもしれない。何故それが分からない。俺の言い分に文句があるなら何時でも来い。2年だろうと3年だろうと女子生徒だろうと知ったことじゃない。死ぬ気で来い。以上だ』

 

それだけ伝えて零は舞台から下りる。だが拍手は起こらずむしろ緊張感が膨らんだ。舞台裏に戻ると3人に駆け寄られ、生徒会長に胸ぐらを掴まれた。

 

「何てことを言ってくれたの!」

「当たり前のことを言ったまでですが?」

「TPOを考えなさい!」

「いいえ、俺は取り消しませんよ。俺のやり方に賛成できないのであれば、力尽くで止めてみて下さい」

 

鍛えこまれた腕を振り払い、想子を活性化させる。その圧力と膨大さに生徒会長は顔を青ざめさせる。残りの2人は互いに抱き合いながら震えていた。零はそれを無表情に見て講堂から出ていくのだった。

 

 

 

IDカードを受け取っている間、憎しみがこもった視線を一科生からいただいたが、悪いことを言ったわけではない。むしろ正しい当たり前のことを言った。気にすることもなく家路につくために校門へ向かう。

 

「おい、お前」

 

校門を出ようとすると後ろから声をかけられた。

 

「何か用か?」

 

振り返ると、かなり怒っている一科生の生徒3人が立っていた。

 

「あれは何だ!?」

「何がだ?」

「あの答辞だ!お前は一科生を馬鹿にしているのか!?貴様も一科生だろうが!何故二科生の肩を持つ!?」

 

どうやらあの答辞に文句をつけに来たようだ。

 

「当たり前のことを言っただけだ」

「黙れ!〈ウィード〉なんかとは違う!俺達は〈ブルーム〉だ!〈ウィード〉の奴等の肩を持つお前とは格が違うと教えてやる!」

「俺は主席だぞ?」

「この人数でやればお前に傷を負わせることは可能だ」

 

ため息をつき、身体を3人の方へ向けると同時に魔法を放ってきた。生徒会が認めた決闘以外での魔法の不適正利用は、処罰の対象なのを知らないのだろうか。

 

放ってきた魔法はどれも単純な移動魔法で、足下を急激に移動させてバランスを崩すものだった。3人とも微妙な時間差で放ってきたので、一発目を避けたところで二発目と三発目を受けるだろう。だが俺はこんな子供騙しな魔法でやられることはない。

 

魔法式が完成する前に3人に肉薄する。CADを手刀ではたき落とし、水月に人差し指を軽く3発突き刺した。膝を折って苦しんでいるのを確認せずに校門を出る。

 

するとどう見ても不審者にしか見えないマスクとサングラスをかけた女性が、家と家の間の路地に隠れていた。大体の予想はついていたので背後から近づき声をかける。

 

「何をしているんですか母上?」

「なっ!こっ!ぜっ!どっ!?」

 

「何故ここに零がどうして!?」と言いたかったのだろう。焦りすぎて呂律が回っていなかったので聞き取れなかった。

 

「取り敢えずこっちに来て下さい」

 

母親を強制連行し、コミューター乗り場で2人そろって乗り込む。誰にも見られていないのを確認後、母親に魔力を送り込んで眠らせる。

 

「まったく面倒な仕事を毎回させる困った母親だ。父さんがいないから仕方ないのかもしれないけど」

 

文句を言いながらも母親の横髪を撫でる手は、3人を蹴散らしたときとは違う。とても優しく顔には薄い笑みが浮かんでいた。そして深夜の顔は、気絶しているにもかかわらず穏やかだった。

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