魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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今回の事件は警察の介入が最後までことで、零達が罪に問われることはなかった。悪く言えば過剰防衛であり、魔法の無断使用という犯罪である。事情が事情だけにということらしい。

 

学校側も生徒の加担があったとはいえ、それはマインドコントロールによるものであることを承知していた。何より当校の生徒がそんなことをしたと知られたくなかったという側面もある。零の壊した図書館の特別閲覧室の扉は、ゲリラによる破壊であるということになっている。その方が学校側からすれば鍵の不始末を問われずに済むからだ。零も扉の修理費を請求されずに済むので、文句は言わず真実も話さなかった。

 

そのおかげもあってかそれほど大きな問題にはならず、ニュースにも取り上げられることもなかった。それは第一高校が住宅街から離れた場所にあり、周囲に被害が及ばなかったのも1つの要因でもある。

 

正確には魔法科高校・魔法大学などの魔法社会に関わる場所には周知されている。小規模の事件だったとはいえ、【反魔法師団体】による抗争が起こったのだ。何も知らせずにいられるほど魔法科高校も抜けてはいない。

 

 

 

 

 

5月の初旬、零達3人は土曜日の午前中の授業を自主休学し、紗耶香の退院祝いに来ていた。当初自分達3人だけだと思っていたが、顔見知りの先客がいたことで少々驚いていた。

 

「何故エリカがここに」

「あの楽しそうな笑顔を見る限り、よくお見舞いに来ていたんじゃないか?」 

 

病院のエントランスでは、紗耶香とエリカが楽しげに会話をしている。その横で迷惑そうな友人が立っているのを見た零は、苦笑を浮かべながら近付いた。

 

「不満そうだな桐原」

「...お前も来たのかよ」

「友人の退院祝いだ。それに関係者として来ないわけにはいかないだろう?」

 

どうやら桐原は、自分だけが退院祝いに来たのだと思っていたようだ。知り合いが大勢来ていることに不満があるらしい。その理由は確信的なほどに理解しているのだが…。

 

「4人とも来てくれたんだね」

「放っておける関係でもないからな」

「壬生先輩これを。退院おめでとうございます」

「ありがとう司波さん」

 

深雪が花束を渡すと、紗耶香は嬉しそうに笑顔を浮かべながら受け取る。その様子は図書館の特別閲覧室で見た2人ではなく、一高の先輩・後輩という穏やかな雰囲気だ。

 

「君が四葉君かな?」

 

2人の美少女の横顔を穏やかに見守っていると声をかけられる。振り返ると肩幅のある体格の良い壮年の男性が立っていた。

 

「少しだけいいかな?2人きりで話したいことがあるんだが」

「ええ構いません」

 

5人に断りを入れて少し離れたところで向かい合う。別に断る理由もないので大人しく従ったまでだ。自分より僅かに背の低い男性の纏う空気は、一高生徒とは別格で厳しい訓練を耐え抜いてきたそんな空気だ。

 

「私は壬生勇三。紗耶香の父だ」

「初めまして自分は四葉零です」

 

初対面の挨拶をするが、堅苦しいのはお互いを牽制しているからなのだろうか。

 

「娘が立ち直れたのは君のおかげだ。君には感謝しているよ」

「自分は何もしていません。紗耶香さんの心を動かしたのは達也と深雪です。苦しんでいることに気付けなかった自分が、お礼を言われるようなことは何一つありません」

「私は娘が苦しんでいることを知っていたが、何もしてやれなかった。魔法と剣の腕の評価の違いに悩んでいたことを、乗り越えるべき壁として手を差し伸べなかった。それは父親としてあってはならぬことだ」

 

勇三の視線は楽しげに会話する紗耶香に向けられており、後悔の色がありありと浮かんでいる。

 

「立ち直れるきっかけをくれたのは君の言葉だと言っていたよ。『誰もが平等に扱われる世界などない。あるとすれば、それは誰もが等しく冷遇された世界』。その言葉に心を揺さぶられたとね」

「本当に俺は何もしていません。お礼など勿体ないです」

「君の言葉には実体験が含まれていると私は感じた。詮索するつもりはないから安心して欲しい」

「沙耶香さんが立ち直れたのであれば、それ以上の喜びはありません」

 

それでも零は自分のおかげだと認めない。本当にきっかけは達也と深雪の言葉なのだ。零だけの言葉ではない。

 

「君は風間が言っていた通りの男なのだな」

「…風間少佐をご存じなのですか?」

 

少なからず警戒してしまうが、勇三の眼が先程と何一つ変わらないので警戒するのをやめた。

 

「軍にいたころの友人だ。私は退役した身だが他言はしないから安心してくれ。本当にありがとう」

 

勇三が肩を叩きながらお礼を言ってくるが、かぶりを振り勿体ない言葉だと思ってしまった。

 

 

 

 

話し終えた後5人の元へ向かうと、何故かエリカと桐原が一触即発(主にキレているのは桐原)で、エリカが何を言ったのか疑問に思った。

 

「ところでさーや(・・・)は、なんで達也君から桐原先輩に乗り換えたの?ルックスとかは達也君に軍配が上がると思うんだけど」

「本当に失礼な女だなてめぇは」

 

「さーや」というあだ名に疑問を感じたが、それより重要なのは紗耶香が達也に好意を抱いてたことだ。達也は確かに格好いいが、モテたことは一度もない。それも不思議だが。そして地味にエリカの言葉は、桐原をディスっている。

 

「司波君はたぶん私より何歩も前を歩いてる。どんなに努力しても追いつけない。でも桐原君は一緒の歩幅で歩いてくれる。そう思ったからかな」

 

まさかの発見に全員が驚くが、約1名の表情がさらに悪くなっているので嫌な予感がした。それは気のせいではなく正しかったのだと次の発言で悟った。

 

「ところで桐原先輩は、いつからさーやのこと好きだったの?」

「うるさい女だな。そんなの別にいいだろう」

 

若干キレ気味な桐原に、俺は助け船を出すことにした。もちろんそれは悪い意味で。

 

「そうだぞエリカ。いつから好きなのかは関係ない。重要なのは2人がどれだけ互いを想っているかだ」

「「なっ!」」

 

まさかの発言にカップル2人は同時に声を挙げる。たが俺の(悪い意味の)援護射撃は止まらない。

 

「【ブランシュ】のリーダー、司一を倒した時の桐原の男気には敵わないと思ったな」

「おまっ!」

「『こいつか壬生を誑かしたのは!』と叫んだのは、今でも鮮明に覚えている」

「やめろぉぉぉぉ!」

 

桐原が顔を真っ赤にさせながら怒るのを気にせず零は続ける。

 

「『俺の壬生になんてことしやがんだ!てめぇらなんて壬生に触れる価値なんかねぇんだよ!許されるのは俺だけだ!』なんて聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを言っていたな。それはもう格好良かった」

「いい加減にしろぉぉぉぉ!」

 

ゴスッ!

 

「う…」

 

桐原の右拳が零の頭頂部を直撃する。堪らず零は頭を抑えるが、当の本人は息を荒げて顔を真っ赤にしている。

 

「いてぇ。何すんだ桐原?」

「それはこっちのセリフだ!言ってもねぇことを俺が言ったかのように言いふらすな!」

「いいだろうがそれぐらい。それに意味合いはほぼ一緒だ」

「いいわけあるかボケっ!俺の精神HPごっそり削りやがって!」

 

なんとも幼い喧嘩だが、仲の良い証拠なので傍観者は温かく見守っていた。とくに達也は空気に徹していたのだった。

 

 

 

退院祝いを渡し終えた3人は、午前の座学を終わらすために学校へと向かった。エリカはもう少し紗耶香と話してから来るということなので、今はここにいない。

 

「ふふっ」

「どうした深雪?」

 

深雪が横で笑い声を漏らしたので、零は気になり声をかけた。

 

「いえ、桐原先輩で遊ばれている零兄様が楽しんでいる姿を思い出しておかしくなっただけです」

「思い出し笑いする人はむっつりスケベらしいぞ?」

「そんなことはありません!私は零兄様とそ、そんなこと…//」

 

少しからかっただけだが、深雪は自ら墓穴を掘り顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「従兄さんは罪な人だね」

「今のは深雪の自爆だ。俺は何もしていない」

「誘導したのは従兄だよね?」

「誘導されたと気付かない深雪も悪いし、気付いて欲しかったな」

 

深雪を間に挟んで互いに微笑み合いながら言葉を交す様子は、本当に仲のいい兄弟に見える。実際、達也は零のことを兄のように慕っているし、零も達也のことを弟として可愛がっている。これぐらいのじゃれ合いは日常茶飯事だ。

 

「零兄様、学校が嫌ではないのですか?」

 

再起動を果たした深雪は、病院からコミューター乗り場に向かう山道を歩きながら隣を歩く零に問うた。

 

「何故そんなことを聞く?」

 

字面だけでは愛想のない言い方だが、零は穏やかな表情で深雪に問い返す。

 

「零兄様の実力であれば、わざわざ学校に通う必要などありません。それに遠回りさせている気がしてならないのです」

「俺は嫌々高校に通っているわけじゃないよ。この日々を楽しむのは今しか出来ないことだ。深雪と達也と学校生活を送れる。そんな当たり前のこの日常が嬉しいんだ」

 

零は深雪の黒水晶のように透き通る眼をまっすぐに見つめ答える。そんな様子を達也は微笑ましげに。だが少し眩しそうに眼を細め見守っていた。

 

「だから深雪は気にせず、エリカ・レオ・美月・雫・ほのか達と学校生活を送りなさい。それが今の俺の『望み』だ」

 

零は白く誰にも穢されていない深雪の額に、軽く自分の唇を押し当てた。

 

「さあ行こうか深雪・達也。早くしないと午後から始まる実習に間に合わなくなる」

「「はい!」」

 

達也は元気そうに深雪は悶えながら返事をし、歩き出した零の背中を追った。

 

初夏の熱を僅かながら纏った風が、3人のいた場所を吹き抜ける。それはこれからの学校生活を応援するものか。それとも災いの前兆を告げるものか。

 

今の時点では予想もつかない。

 

 

 

結局午後の実習に間に合わなかったエリカに泣きつかれ、週末に居残りを強要された達也を含む3人であった。

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