〈九校戦〉参加者は選手だけで360人、裏方を含めると400人を超えてくる。
全員出席が建前とはいえ、あらゆる理由をつけてパーティーを抜け出す者や欠席する者も少ないのが現状である。とはいえ懇親会はそれなりの人数が出席するのだから、自然と大規模なものとなる。
これだけの規模となると、ホテル関係者だけでは人手不足にだ。故に外部からの応援やアルバイトを頼まなければ、上手く機能しないのが現状だ。だからその中に見覚えのある人物がいても、特に不思議ではない。2人がこういう意味での関係者だと思っていなかった。
「そういうことで今日は人助けに来ていたのです」
「「全然説明になっていないぞ(わ)」」
深雪と2人でいた零は、声をかけられたので振り返った。到着した頃に聞いた通り、関係者であることを示すウエイターの服装をしたエリカがいた。2人の文句にも気にせず人の悪い笑みを浮かべるので、零と深雪は若干引き気味の苦笑を浮かべていた。
「零さんと深雪がいるから、達也君がいると思ったんだけどいないね。トイレにでも行ったの?」
「達也ならあそこにいるさ」
「ん?げ…」
零の指さした方向にエリカが視線を向けると、謎の反応を表した。まあその反応は予想通りだ。むしろその反応は控えめだと評価して良いだろう。なにしろそこでは克人・桐原・服部・達也の4人が、行儀の良いフードバトルを繰り広げているのだから…。
「一体何がどうなってるの?」
「フードバトルを繰り広げている」
「お兄様、それぐらいエリカ
「深雪『でも』って何?『でも』って」
「何ってそのままの意味だけど?」
「説明になってない!」
楽しげな2人に、零は苦笑を漏らし楽しそうに傍観している。婚約者と友人の中でも、ある意味人の悪いエリカとの言い合いは、見ていて飽きないものである。
「簡単に説明すると、フードバトルで一番食べた奴が自分のしたいことを誰かにしてもらうというゲームだな」
「それって許可取ってあるんですか?」
「取ってるわけないだろ。何しろつい5分前に始まったばかりだからな」
「だからあのテーブルだけ料理がやけに少ないんだ」
4人の食事スピードは異常だ。そのテーブルに置いてあった料理が瞬く間に、4人胃の中に消えていく。その異様な光景に他校の生徒だけでなく、一高メンバーでさえも引いている。隣や離れたテーブルまで避難している程だ。
「エリカ、悪いんだが料理をあのテーブルに持ってきてくれないか?あのテーブルに置いてある料理が消えたら、隣のテーブルまで侵略しそうだ」
「それはいろんな意味で困りますね。じゃあお皿を下げて新しいのを持ってきます」
「エリカ、お願いね」
「任せて~」
4人のいるテーブルから空になった皿を、トレイに乗せて厨房へと足早に消えていくエリカを見送っていると、またしても声をかけられた。
「深雪、ここにいたの?」
「零さんもご一緒だったんですね?」
「雫にほのか。来てくれたのね」
「他の生徒は?」
「あそこにいますよ」
ほのかの指さす先には、こちらをちらちらと見る深雪の同級生が複数いた。
「深雪の近くにいたくても、零さんがいるから近寄れないんじゃないかな」
「俺は番犬か?」
零の言葉が可笑しかったのか3人は笑いをこぼした。
「今年はおふたりのご両親は来られるの?」
唐突な話題転換に零・深雪・ほのかは、頭の上に?マークを多数浮かべていた。
「いきなりだな」
「雫はたまに唐突な話題転換しますから。ご迷惑でしたか?」
「別に構わないさ。聞かれて嫌な話ではないからな。俺の母は来るだろうが深雪の母はどうだろう。四葉家当主だから仕事を放り出してくるとは…いや、有り得なくはないか。ようするに予測不能というところかな」
「去年は深雪と達也さんを連れて見に来たと耳にしましたが」
「よく知っていたね。その通りだよ。何故か姉妹そろって見に来たんよ」
そう、深夜が零の部屋を強制移動させたり。零を抱き枕にしたり。深雪の入浴シーンを覗けと言ったり。母としての役割を果たしていなかった。
思い出したら頭が痛くなってきたぞ。
零が頭を抑えている隣では、深雪が頬を紅潮させて俯いている。どうやら零が思い浮かべた場面を同じように思い出したようだ。2人の反応に、雫とほのかは「ん?」とばかりに首を同じように傾げていた。
「…それは置いといて。深雪、2人と一緒に皆のところへ行っておいで。チームワークは大切だからね」
「ですがお兄様」
「いいから行っておいで。どうせ俺の部屋に達也が来るんだからね。その時には会えるよ」
「わかりました。また後ほど」
3人がチームメイトのいる場所へと戻っていくのを見送っていると、達也がふらふらになりながらやってきた。
「疲れているようだな」
「…あれだけ食べたらこうなるよ。ゥッ」
「それで誰が勝ったんだ?」
「…俺です」
「何をするつもりだ?」
「深雪の際どい写真を一枚下さい」
「殺されたいか?」
若干の殺気を達也に向けると、達也は姿勢を正した。
「お前は既に深雪秘蔵コレクションを、アルバム2冊ほど保管しているはずだが?」
「な、なんで知ってるんですか!?」
「精霊を使えば何もかもお見通しだ。シャワールームに覗き用カメラを仕掛けていたのも、深雪の部屋に盗み聞き用品を仕掛けていたのも知っている。深雪によって破壊されているけどな」
「全部知ってるんじゃないですか!」
つい声を張り上げる達也は、周りの視線を気にする様子を見せない。
「達也、怒らないから家に帰ったらすべて見せろ」
「何が目的ですか?」
「…いや、ただ単に普段見られない深雪の写真が見たい」
視線を外し少しばかり恥ずかしそうに視線を逸らす零を見て、達也はニヤッと笑った。
「兄さんもついに興味が出てきたんだね」
「一緒に暮らすようになってからは特にな」
「変態だ」
「お前ほどではないが認めざるを得んな」
思春期の男子らしい会話を小声でしている間に、来賓の挨拶が始まる。食事と話をするのを一度止める時がきた。
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懇親会が前々日に催されるのは、前日を休養日に充てるためだ。新入生の出番は大会四日目からなため、今は気分が高揚しているのが現実である。だから新入生はお互いに夜遅くなっても話に花を咲かせている。それは深雪も例外ではない。花音が寝ている隙を突いて、ほのかと雫の部屋に来て話をしていた。
そろそろ22時になろうとしているが、3人の話は止まらない。むしろ加速していると言っても過言ではない。
コンコン。
「私が出るよ」
ノックされたことで、ドアから一番近くに座っていたほのかが話を途中で、遮りドアを開けに行った。
「こんばんわ~」
「あれエイミィ?それにスバルも一体どうしたの?こんな時間に」
「あのね、温泉行こうよ」
「「「温泉?」」」
エイミィと呼ばれた女子生徒の言葉に、事情を知らない3人は同じ言葉を復唱した。
「あ、そういえばここの地下は人工の温泉施設になっていたわね」
「その通り。それを聞いて試しにお願いしたら、23時までならO.K.だって」
「行動が早い。さすがはエイミィ」
雫の言葉にエイミィはエッヘンとばかりに胸を張った。こう言ってはなんだが、若干というよりかなり胸を張るには大きさが足りなかった。だがそのことを追求する友人はいない。しなかったというよりは、温泉という言葉に惹かれていたのが要因だろう。
「でも水着とか無いけど大丈夫?」
「タオルと湯着貸してくれるって言ってたから、着替えがあれば十分だよ」
「わかったわ。準備するから先に行ってて」
そうして深雪達3人はエイミィたちと別れた。
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着替えをもって地下に向かうと、大浴場は想定外に誰もいなかった。たまたま誰もいないのではなく、一高1年女子生徒のために貸し切られていたらしい。
体を洗い湯船に浸かっていると、やはり話が盛り上がっていった。この年頃になれば恋バナもしたくなるだろうし、初めての〈九校戦〉に選ばれたことで少々浮かれている彼女達は、そういうことを話していた。
「深雪は零さんとどこまでいったの?」
「え?」
「中学生の頃から婚約者なら、結構進んでいると思うけど」
「ええと、その…」
エイミィの言葉に驚いていると、スバルの追い打ちで答えるのに迷ってしまった深雪は黙り込んでしまう。深雪も
「まさか…?」
「何よ」
「しちゃったの?」
「し、してないわよま、まだ!接吻もしてないのに…」
「まだということは深雪はしたいんだね?」
「あう…///コクン」
後に退けなくなった深雪は本心を打ち明けた。たとえそれが友人の中でも仲が良い彼女達であっても、口にするのはとても恥ずかしいことだ。
「でも可笑しくはないよな?」
「そうだねぇ〜。そういうことがタブー視されるようになったからといって、別にしたらダメだっていうわけじゃないし。それを決めるのは本人達だもん。介入する方が間違ってると思うよ」
「深雪に対してそういう思いを持っている人はかなりいると思う」
「いないほうが珍しいんじゃないかな」
これだけの美少女を見かければ、そういう感情を抱かない方が可笑しいだろう。いくら婚前行為がタブー視されているとはいえ、それに従わなければならない義務もなければ権利も発生しない。
「そういえば部活の先輩から聞いたけど。零さんとそういうことをしたいという人も多いみたいだよ」
「「え?そうなの!?」」
エイミィの情報に深雪とほのかが反応する。
「おいエイミィ、それはあまり言わない方が良いと思うぞ。深雪が怒りそうだ」
「別に怒らないわよ。直接的な行動に出なければだけど。思われるってことは、それだけお兄様が魅力的だってことだから」
「深雪の惚気が始まった」
「雫、ひどい!」
雫のツッコミは深雪に少しとは言わないでも、なかなかの精神的ダメージを与えた。雫のツッコミで軽くなった空気の中で、エイミィがほのかの湯着をむこうとしていた。悪のりで手伝おうとしているスバルを横目に、深雪は心の中で誓っていた。
兄さんはお仕置きです!
達也が《精霊の眼》を使って、自分の入浴シーンを覗き見していたのを深雪が感づいていたのだ。察知されたのを確認した達也は、即座に《眼》を切った。だがしかし、深雪に見つかっているので余計な罪を被ることになった。
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深雪達が人工温泉で楽しんで就寝準備を始めている頃、零と達也はCADの調整を行っていた。達也は零の付き添いである。調整は行わず深雪を覗き見していたが…。
「四葉君、君は明日からたくさんの選手の調整があるだろ?そろそろ切り上げた方が良いよ。午前中の選手のは終わっているんだしゆっくり休みなよ」
「…そうだな。わかった先に上がらせてもらうよ。また明日」
返事のタイムラグは時計を確認していたためだ。時計は日付の更新を示していたため、友人の言葉通りに切り上げることにした。
「お先に失礼します」
作業車から降りた2人は新鮮な空気を胸一杯に吸い込んだ。真夏とはいえ、真夜中になればそれなりに気温も下がる。今日はそれほど湿度も高くはないので、Tシャツ一枚で過ごすには快適な温度だ。
隣で同じように空気を吸い込んでいる達也に声をかけた。
「覗きはほどほどにしておけよ?」
「ゴホ!き、気付いていたんですか?」
「深雪への害意に気付かないわけがないだろう。見られるのは癪だが、お前だから怒ったりはしない。見るならほのかにしておけばいい」
「んな!」
達也の反応に笑みを浮かべる。
達也がほのかを意識しているのを、俺は〈九校戦〉前の練習で気付いていた。それを知っているのは俺だけなので、こういうことで弄るのもありだろう。もしかしたら深雪も確信までではないが、ある程度までは気付いているかもしれない。
「…深雪やほのかには言わないで下さいよ?特にエリカには。あいつに知られたら俺やっていけないです」
「言うつもりはないから安心しろ。というよりほのかもお前のことを意識しているようだからな」
「本当ですか!?」
嬉しそうに身を乗り出してくるので、少しばかり身を引いてしまう。
「まあそういうことだからあまり気にしなくていい…」
「従兄さん?っ…」
零が黙り込んだことで不思議に思った達也だが、ワンテンポ遅れて気付いた。
「わかったか達也?」
「はい…しかし何故このようなところにこれほどの悪意を」
「話は後回しだ。行くぞ」
「はい!」
俺に付いて走ってくる達也の向かう先には、1人の少年が魔法の練習をしていた。そしてその少年も侵入者に気付き、追跡を開始した。
向かっている最中、魔法の発動の兆候を感じる。視線を向けると、暗闇に紛れて宙に漂う札が三枚見えた。
幹比古か。だがそれでは間に合わない。
「達也、お前がやれ」
「はい」
達也は右手を伸ばし彼の固有魔法《分解》を、侵入者の持つ3つの拳銃に照準をセットした。次の瞬間、拳銃があらゆるパーツに『分解』された。そしてワンテンポ遅れて、札から3発の電撃が侵入者を襲い意識を刈り取った。
「誰だ!?」
侵入者を倒した後、幹比古は自分を援護した何者かに声をかけた。
「俺だ幹比古」
「達也?それに零さんも」
暗闇から現れた2人に少しばかり幹比古は驚く。援護した人物がまさか友人と尊敬する魔法師とは思っていなかったのだろう。かなりの驚きようだ。電撃によって気絶した侵入者の意識確認をしている達也と零は、少しばかり話をした後に幹比古へ視線を向けた。
「幹比古、一体何に怯えている?」
「え?」
「まさか俺達が来なかったら。援護がなかったら、自分は死んでいたと思っているんじゃないだろうな?」
「そ、それは…」
内心を読まれたことで、幹比古の動揺は最大限に達していた。
「アホか。お前が侵入者を気絶させ、捕獲したという事実に変わりは無い」
「でも…」
「誰にも手を借りず、敵が何人いようとどんな手練れでも1人で倒せるのが当たり前だと思っているのか?やれやれ今一度敢えてもう一度言おう。お前は阿呆だ。何故そこまでして自分を下に見る?」
「自由に魔法を使える零さんや、古式魔法を使わない達也にはにはわからないですよ」
「幹比古!従兄さん…」
達也が声を荒げて幹比古に噛みつこうとしたが、零が手で押さえ込んだので言葉を紡ぐのをやめた。
「確かに俺はお前以上に幅広く精霊魔法と古式魔法を使える。だがそれは俺が求めたものではない」
「え?」
「俺のこの力は弟を取り込んだことで手に入れた力だ。お前以上に使える。理由はそれだけだ」
「従兄さん、そのことを話しても良いのですか?」
「こうでもしないと幹比古は自信を取り戻せない。後輩の魔法力を取り戻せるなら、俺が痛みを被ったっていいさ」
家族以外に零の『罪』を知る者は軍に所属しているの者だけだ。それにもかかわらず、友人でしかない幹比古に話したことが意外に思えたのだ。
「幹比古、お前が気にしているのは魔法発動スピードじゃないか?」
「エリカに聞いたんですか?」
「いいや」
「じゃあなんで!?」
「お前が使う術式に無駄を感じた。吉田家が長い時をかけて、その術式を編み出しのは知っている。だがそれはCADで発動スピードを上げた現代では役不足だ」
零の強い言葉に幹比古は何も言えず俯いていた。つい強い言葉を言ってしまったが、これで考え直してくれるのであればおつりが出るぐらいだろう。
「詳しい話はまた今度だな。悪いが幹比古、警備員を連れてきてくれないか?」
「わかりました」
《跳躍》の術式で生け垣の向こうへ消えていったのを見送ると、零は自嘲気味に笑った。
「従兄さん…」
「問題ない。それよりこいつらをどうするかだが」
「随分と容赦のないアドバイスだな」
「少佐」
「風間さん」
暗闇から現れたのは、2人にとって無視できない人物だった。
「どうしてここに少佐が?」
「先程までいつもの面子で会議をしていた。気分転換にと散歩していてな。偶然出くわしただけだ。他意はない」
「疑ってはいません」
「それにしても零らしいアドバイスだったな」
「あれほどまで落ち込んでいれば励ましたくもなります」
幹比古の落ち込み具合は尋常でなかったのだ。あのような表情であれば手を差し出したくもなる。
「襲撃者を頼めますか?」
「引き受けよう。どちらにせよ調べたいこともあるのでな。何かわかれば連絡する」
「お願いします」
2つの意味でお願いしたあと、零は達也と2人でホテルに戻った。
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翌日の朝、達也が氷付けで発見されたらしい。犯人が誰かは分からなかったそうだ。だが発見者によると、達也の表情はどことなく嬉しそうだったらしい。
今回はR15の会話を入れてみました。自分ではまあギリギリかなて思うので大目に見て下さい。