魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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帰宅後、母をソファーに寝かしてあれこれしていると夜の9時を過ぎていた。秘匿回線で四葉へ繋ぐと、コール音2つで叔母が出た。

 

『零さん、どうしたのかしら?』

「これを見てもらえますか?」

 

俺が1人分横に避けると、穏やかに眠る母が見えたらしく眼をそらし始めた。

 

「どういうことなのか説明してもらえますか?」

『…正直言うと私達も探していたの。いきなり姉さんの姿がなくなっててんやわんやだったのだけれど。予想はある程度ついていたわ』

「どうやって逃げ出したのでしょうね」

『本人に聞かないと何とも言えないわね』

 

後ろを振り返り、穏やかに寝息を立てている母を見てため息をこぼす。

 

「取り敢えず今日の所は俺が預かります。明日の朝、登校するまでに拾って下さい」

『了解したわ。そういえば零さん、今日はとんでもないことをしましたね』

 

叔母の爆弾発言に、片眉を上げるという特技を取得するという謎の現象が発生した。

 

「何故今朝起こったことを既に知っているのでしょう。お聞きしてもよろしいですか?」

『ひ・み・つ❤』

 

母と同じような性格とわざとらしい言い方に加えて、一部の乙女が繰り出す片目を閉じてピースを頬に当てる仕草に苛つく。だが感情をある程度制御している俺は、その様子をおくびにも出さない。

 

「はぁ。分かりました。しつこく聞くようなことはやめます」

『露骨にため息をつくのね』

「隠したところでです。叔母上ならある程度俺の感情は理解できるでしょう?」

『分かって言っただけだから気にしないでちょうだい。それじゃあ早朝に車を送るからよろしくね』

 

電話が切れ二度目の深いため息をついた後、気絶ではなく眠っている母を抱き上げて寝室へと連れて行く。階段を上りながら寝顔を見ると、本当に母親なのかと思うほど幼い。見る度に毎回不思議な気持ちになる。

 

「この状態だと俺とさほど歳の変わらない少女に見えるな。普通にしていれば可愛いのに勿体ない」

 

独り言を呟きながらHARに準備させていた部屋のドアを開け、ベットに寝かせる。

 

「お休み母さん」

 

静かにドアを閉めリビングに降りていった。

 

 

 

 

 

翌日、学校に向かうコミューターの中で俺は少し不機嫌だった。その理由はお察しの通り母のせいだ。

 

「一高まで送る」と言い張る母を、四葉家の迎えの車から降りてきた葉山さんと2人がかりで抑え込む。結局昨日のように気絶させて連れて帰って貰ったという経緯だ。

 

自分の教室1-Dに入ると凄まじい視線をもらう。気にしないと思えば完全に無視することができるので、それほど精神的に来ることはなかった。

 

クラスはA~Hまである。A~Dが〈ブルーム〉所謂一科生、E~Hが〈ウィード〉所謂二科生だ。主席入学であればAになると思うだろうが、実際はそうでもない。

 

魔法力を可能な限り各クラスを平均的にする目的がある。入学試験の順位が、必ずしもアルファベット順に繋がるということはない。現に入学試験主席の俺はDクラスに在籍している。

 

一般的にはアルファベットの前の方に、成績上位者は在籍する傾向にある。バランスを考えると、どうしてもアルファベットの後の方になることもある。どのクラスに在籍しようとやることは変わりないのだが。

 

あるとすれば、友人関係を築くことが簡単か難しいかだろうか。といっても入学式にあんなことを言った俺と、仲良くなろうとする輩はそうそういないだろう。いたとすれば、余程の無神経か大馬鹿者か。

 

案外そういった強者は近くにいたりする。

 

「少し良いか?」

 

情報端末で書籍サイトへアクセスしていた俺に話しかけてきたのは、優男な風貌をした体格の良い少年だった。

 

「何だ?」

「俺と友達にならないか?」

 

眼が点になるとはこのことだ。予想外に俺の考えはすぐに改めざるを得なくなった。感情をある程度制御しているとはいえ、予想外の言葉を言われれば少なからず驚く。

 

「…気は確かか?あの演説を聞いたはずだが」

「ああ、聞いた」

「お前は何も感じなかったのか?」

「感じたさ。素晴らしい考えだとね」

「お前!」

 

どうやらこの優男な風貌をしている少年は、予想外にも俺に好意的な生徒なようだ。意外だなと思っていると、その少年と俺の近くに座っていたクラスメイトが、その優男と口論を始めた。

 

「彼の言葉は何一つ間違ってはいない。むしろ君達が間違っていると思うよ」

「貴様!」

「いい加減にしろ2人とも。もうすぐ予鈴が鳴る。喧嘩なら後にしろ」

 

自分の目の前で言い合いをされると、さすがにストレスが溜まる。仲裁に入ると2人から「お前が言うな」というありがたい視線を頂いた。もっともポーカーフェイスでその場を凌いだのだが。

 

 

 

昼食をカフェテリアで過ごそうと教室を出ると、ニコニコ顔の上級生が立っていたので頭痛がした。

 

「どうした?」

「…いや、何でもない」

 

後ろを歩いていた朝の優男が、心配そうに声をかけてくれた。どうにか何もなかったことを伝えて、上級生が立っている方向とは逆に歩き出す。

 

眼があったが何も見なかったことにしたのだが。あっという間にブレザーの裾をがっしりと握られ、そのままの状態で連行されていく。呆気にとられている優男に、俺は何気なく手を振っておいた。

 

 

 

結局、俺が上級生に解放されたのは生徒会室に到着してからだった。

 

中に入ると想像以上の広さで、さらにダイニングサーバーまで置いてあった。費用の乱用ではないかと思ったが、口には出さずにおく。その後、強制的に椅子に座らされる。刃向かう気も起こらず、未だにニコニコ顔の状態でいる上級生に質問された。

 

「魚が良い?肉がいい?それとも精進?」

「遠慮…魚でお願いします」

 

「遠慮します」と言おうとすると、額に青筋が浮かんだので仕方なく頼んだ。

 

出来上がるまでの間は自己紹介をしたのだが、自分のことはいろんな意味で生徒会役員には知られている。こっちも生徒会役員の名前と役職は、リハーサルのうちに記憶してあるので、ほとんど意味が無かった。

 

暇つぶしの意味合いが強い会話だったのは言うまでもない。

 

 

 

魚料理の3分の1を残すところになると、風紀委員会副委員長が突然聞いてきた。

 

「四葉というなら既に婚約者は決まっているんじゃないか?」

「いきなりぶっ飛んだ質問ですねシュウ先輩(・・・・・)

「んなっ!」

 

知っている者にしか分からない名前で呼ぶ。渡辺先輩は顔を真っ赤にさせ、今にも噴火しそうだった。

 

「そのことを何処で知ったの?」

「少し調べれば済むことです。それに個人的な関わりもありますから」

 

七草先輩の質問に答えながら片眉を上げる。渡辺先輩を見ると未だに顔を真っ赤にさせていたが、何もなかったかのようにもう一度聞いてきた。

 

「コホン、それで許嫁はいるのかい?」

「いますよ」

「誰か教えてもらえるかな?」

「秘密です。どちらにせよ来年会うことになりますから今は言いませんよ」

「それはそれは楽しみだな」

 

女性にしてはイケメンな笑顔でこちらを見てくるので、男として何故だか負けた気がする。

 

「何故楽しみなのですか?」

「零君みたいなカッコいい子の婚約者なら、相当の美人だと思ったからよ」

「確かに美人ですね。俺にはもったいないぐらいです」

「あら、婚約者の話になると表情は明るくなるし饒舌になるようね」

 

河内生徒会長の言葉に、俺は「しまった」という顔をしたが時既に遅し。弱みを握られ少し想子を活性化させてしまい、この場にいる3人を驚かせてしまう。

 

「すみません取り乱しました」

 

感情の制御はまだまだなようだが、取り敢えずはそれを置いておこう。

 

「と、取り敢えず今回生徒会室に来てもらった理由を説明しますね。新入生代表を務めた生徒には、生徒会の役員になってもらうのが恒例となっているんです。四葉君、引き受けて頂けますか?」

 

正直言うと面倒くさいが母や叔母は勧める上に大変喜ぶだろう。俺の意思を無視してやらせるのは想像が付く。期待を込めた視線を、七草副生徒会長が向けてくる。

 

「自分は構いませんが生徒の反感を買うと思いますよ。答辞であれだけのことを言いましたから」

「自業自得だと思うのだが…。とはいえ、二科生は喜ぶと思うがね」

「どうでしょう。上級生の二科生からはそれなりの共感を得られるでしょうが、同級生は厳しいと思います」

 

ネガティブ思考な俺の発言にも3人は答えずニコニコ顔だ。

 

「文句を言うようであれば我々が対処する。まあ、君なら10や20なら簡単に潰せるだろうが」

「無論です」

 

2人分(・・・)の魔法演算領域・処理速度・発動速度・身体能力を持っているのだ。遅れを取るはずがない。

 

これは慢心ではなく事実故の反応である。

 

「引き受けていただけますか?」

「未熟者ですがよろしくお願いします」

 

こうして俺の生徒会加入が正式に決定した。

 

 

 

ランチが終了し昼休みも残り15分を切った。食後のお茶を楽しんでいる間、俺は気になったことを聞くことにした。

 

「疑問に思っていたのですが、何故ここに風紀委員会副委員長がいて委員長がいないのですか?それに他の役職の方々はどちらに?」

「委員長とは宵月(よいづき)先輩のことかな?あの人の実力は申し分ないんだがな。やや男が苦手らしくて毎日部室で食べているよ」

「宵月とは、あの〈宵月家〉ですか?」

「その通りだ。〈夜間の戦闘ならば世界屈指の家系〉と言われているあの一家だよ」

 

〈宵月家〉は、先の言葉通りに暗闇の戦闘を得意とする家系だ。夜目が特に利くというだけで、戦闘が特別強いというわけではない。光の明暗を利用して、相手を攪乱する戦闘を得意としている。かなりシンプルな戦闘技術を使うものの、その実績から他国にもその名が知られている。

 

宵時(よいとき)〉・〈宵嶋(よいしま)〉・〈宵代(よいしろ)〉など、〈宵〉と名字に付く家系は分家である。中でももっとも力のある家系が宗家の〈宵月家〉というわけだ。

 

分家にはそれぞれに特徴的な魔法がある。

 

〈宵月家〉は夜間の戦闘を得意とする。

 

〈宵時家〉は夜間の奇襲攻撃を得意とする。

 

〈宵嶋家〉は夜間の攻撃作戦を立案するのが得意とする。

 

〈宵代家〉は魔法師だが戦闘をあまり得意としない。そのため、唯一戦闘に適さない家系である。だが戦闘にあまり適さないだけであり、〈宵月一族〉でも魔法技術は勝るとも劣らない腕を持っている。

 

「他の役員の方々はどうされたのですか?」

「書記の山内は、食後の友人達とボール遊びが日課。会計の海本は、宵月と一緒だから普段は留守。副会長の郡山(こおりやま)は自由奔放で神出鬼没さ」

「それでよく生徒会役員が務まりますね」

「能力があるから生徒会から除籍できないんだよ」

「困った人達ですね」

「まったくだ」

 

河内生徒会長が苦笑しながら嘆息する。真面目すぎる人間より、多少問題を起こしてくれる人間の方が、教師としても気を休めることができるのだろう。仕事もできるのであれば、それなりには眼をつぶってもらえるのである。 

 

俺にとって面倒なことになりそうなのは眼に見えていた。とはいえ、1年間我慢すれば残りの2年間は穏やかに暮らせる。今ここで音をあげるわけにはいかない。

 

その後は世間話に花を咲かせて昼休みは終了した。

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