魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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翌日からは、生徒会室に強制連行されることもなくなった。今日は3日前に声をかけてきた優男と、カフェテリアで昼食をとっている。

 

「一昨日、美人な女子生徒に連行されるのを見たんだが」

「ああ、ちょっとな」

 

今日は少し肌寒いので温かいものを食べようと思い、昔から人気のきつねうどんを頼んでいた。第一高校は東京にあり、味付けは関東風だ。このカフェテリアには関西圏からの入学者も少なからずいるということで、関西風の食事も置いてあるらしい。

 

俺は個人的に関西風味付けが好きなので、学校側の些細な気配りをありがたく感じている。そもそも全国各地に魔法科高校があるのだから、わざわざ遠くの高校を受ける意味はあまりないのだが。受験する理由はそれなりの目的意識があるからなのだろう。わざわざ遠方からはるばるやってきた生徒に聞くつもりもないが。

 

「それにしてもお前…」

「ん?何?」

「…いや、何でもない」

 

俺は同席しているクラスメイト、沢木碧の食事量と食事スピードに驚きながら聞こうとした。なのだが口一杯に物を押し込んでいるのを見ると、言う気がなくなってしまった。しっかりと鍛えられてはいるが、太っているわけでもない細身の身体の何処に、そんな量の食料が入るのか気になる。

 

ある程度食べ進めてから、箸休めとして先程の話題を振る。

 

「今日から新入生勧誘週間だ。沢木は何に入るか決めたのか?」

「僕は〈マーシャル・マジック・アーツ〉部だな。一高に合格する前から入部すると決めていたんだ」

 

〈マーシャル・マジック・アーツ〉は、USNA軍海兵隊が編み出した魔法による近格戦闘技術だ。魔法で肉体を補助することで高い戦闘力を発揮する。魔法力が高い一科生の成績上位者しか所属していない。大袈裟ではあるが、部活自体が強力な魔法師部隊と言えるかもしれない。

 

入学者ランキングトップ5に入っている沢木は、文句なしで入部許可は得られるだろうし勧誘されるはずだ。

 

「四葉はどうするんだ?」

「零と呼んでくれ。名字で呼ばれるのは好きじゃない。俺は何処にも入らない予定だ」

「O.K.零。入らない理由は一昨日のことと関係あるのか?」

「その通り。生徒会役員になったから部活には入れないし、入ろうと思っても何処からも拒否されるだろうからな」

「その女子生徒は生徒会役員だったのか」

「七草家長女で生徒会副会長だ」

「…マジかよ」

 

俺の暴露に動かしていた手を止め絶句する。〈七草家〉と言えばこの国でトップの魔法力を持つ一家であり、〈十師族〉の一角を担う強力な魔法師であるため、驚愕しても可笑しくはない。

 

「そういうわけで俺は部活には入らない」

「まあ仕方ないな。生徒会に入ってたら両立は難しいよ」

「理解者がいて助かるよ。さてと、そろそろ戻ろうか」

 

そう告げると沢木は残っていた食事を、とんでもない速度でかっこみ飲み込んだ。味わっていないことと行儀の悪さに顔を顰める。本人は気にする様子もなく、料理を乗せていた皿を重ねて返却口へ持って行くので、慌てて後を追った。

 

 

 

そしてその日の放課後、何故か零は校内を走り回っていた。

 

『第二体育館で乱闘が発生 手の空いている【風紀委員】は至急お願いします』

「こちら臨時風紀委員(・・・・・・)】の四葉です。了解しました」

 

通信ユニットから要請を聞き、すぐに返事をして現場に向かう。何故零が生徒会役員としてではなく、風紀委員の仕事をしているのかというと話は数時間前に遡る。

 

 

 

「…ということなの。零君、よろしくね」

「まったく意味が分からないんですが?」

 

真由美のわけの分からない説明の後にお願いをされ、零は疑問の形の拒否を掲示した。話を要約すると、珍しく今年度の補充が間に合わなかった風紀委員の空き要因として、真由美が零を推薦したという経緯である。

 

「補充が間に合わず、自分に白羽の矢が立ったのは分かりました。しかし何故それを自分に伝えたのが、宵月風紀委員長でもシュウ先輩でもなく、七草先輩なのか聞いてもいいですか?」

「そのシュウというのはやめてもらえないか?」

「摩莉が教職員推薦枠で来た新入生に、実力判断ということで決闘を持ちかけてコテンパンにしちゃったの」

 

摩莉の反論を無視し、真由美の報告を聞いて零は納得する。

 

「つまりシュウ先輩の自分勝手な行動で自信を失わせたと」

「そういうこと。それに入学式の日の責任を、これで0に近づけられるなら安い物よ」

「精算はされないんですね。いいでしょう引き受けます。行く前に渡辺先輩にお願いがあるのですがよろしいですか?」

「そこはシュウ先輩ではないのか。まあいい。それで何だ?」

 

名前で呼ばれ、不思議そうな表情をしながら摩莉が零に聞いた。

 

「ここで修次さんへ愛を叫んで下さい。そうすれば仕事に行きます」

「なっ!」

 

零が真顔でお願いする。噴火一歩直前で留まっている摩莉を見て、今の今まで空気に徹していた河内と当事者である真由美は笑いを堪えようとしていたが、肩が揺れることだけはどうしようもなかった。

 

「そ、そんなこ、ことをここで言えるかっ!」

「では俺は風紀委員の仕事には行きません。そもそも渡辺先輩が教職員推薦枠の生徒を追い返さなければ、こんなことにはならなかったんです。自業自得という言葉の意味を知って下さい」

「摩莉、早くしてよ。じゃないと零君が行ってくれないじゃない」

「しかし…」

「そうだぞ渡辺。お前のせいなんだから自分でどうにかしろ」

「生徒会長までですか…分かりました」

 

ようやく叫ぶ決意が出来たのだろう。顔を上げ深く息を吸った。

 

「シュウ、大好きだぁぁぁぁ!!」

「…それでは行ってきます」

「「いってらっしゃい」」

「無視するなぁぁぁぁ!!!」

 

摩莉の抗議の悲鳴と怒りを無視して巡回に向かうために、零は生徒会室のドアを開け廊下に出る。ドアを閉めるまで、摩莉の抗議の声となだめている2人の声が聞こえた。

 

 

 

そういうこともあって、零は臨時風紀委員(・・・・・・)として走り回っているのだ。真由美からの通信を切って、可能な限りの速度で第二体育館へと向かった。走っている間にも、周囲からなんとも言えない視線を頂戴する。それらを無視しながら数分走って事件現場に到着した。

 

第二体育館に入ると、既に乱戦模様なのが視界に入る。自体の収拾がそれなりに面倒なことになりそうだと予測する。乱戦模様と言うべきかバトルロイヤルと言うべきか。悩むほどに至る所で取っ組み合いが発生していたのだ。

 

未だ魔法の発生が感じられないのは、CADに指を走らせる余裕がないのか。はたまた使えば罰則を受けるのが嫌だからなのか。どちらにせよ魔法の不適正利用がなければ、それなりに事態の収拾は楽になるだろう。

 

臨時風紀委員(・・・・・・)の四葉です。双方事態の収拾にご協力願います!」

 

零が高らかに叫ぶと、取っ組み合っていた生徒達が動きを止めた。それほど大声を出したわけではないが、良く通る声音が争っていた生徒達の耳に届いた結果である。零の声を聞いた傍観していた生徒一同が、ざわざわと声を漏らしている。

 

「あいつは入学主席の?」「マイク越しで聞くよりカッコいい声」「主席が風紀委員?」「直接だともっと渋い声」などなど好き勝手に言っているが、零の意識外であるため聞こえてはいない。

 

動きを止めた生徒とは違い、むしろヒートアップしていくばかりの生徒2人へと零が歩み寄る。左胸ポケットに入っているレコーダーの録画スイッチを押して声をかける。

 

余談だが、風紀委員の言動は原則的に証拠として受理される。それは臨時風紀委員(・・・・・・)である零も例外ではない。わざわざ録画しておく必要はないのだが、念のためという意味合いが強い行動だ。

 

 

閑話休題

 

 

「落ち着いてください」

「「黙れ!」」

 

声をかけたところ、2人が同時に零に殴りかかろうとした。半歩下がることで避けた零が、いがみ合っている2人へ不思議そうに問いかける。

 

「風紀委員への暴力行為は違反ですが?」

「1年生ごときがしゃしゃり出てくるな!」

「仕事なのでその命令には従えません。大人しくご同行願います」

「下級生の分際で調子に乗るな!」

 

どうやら先程の言葉は、くすぶっていた火種を燃え上がらせる結果になってしまったようだ。2人がかりで殴りかかってくる上級生の背後へ自然な動きで回り込み、首筋にそれぞれ1発ずつ手刀を叩き込んで気絶させる。

 

倒れる2人を抱きかかえてから床に寝かせた。そのまま床に倒れ込んでいれば、そのタイミングで零が総員に襲われていたことだろう。

 

「こちら臨時風紀委員(・・・・・・)の四葉です。逮捕者2名、気絶していますので担架を2つお願いします」

「おい、どういうことだ!」

 

零が音声ユニットを取り出して声を発したことで、零の登場により止まっていた時間が動き出した。

 

「剣道部及び剣術部の主将には、風紀委員への暴力未遂と乱闘の原因解明のためご同行願います」

「ふざけんなよ!〈ブルーム〉の分際で〈ウィード〉に肩入れしやがって!」

 

問いかけられても零は淡々と言葉を紡ぐ。連絡相手と問いかけた生徒への説明であったが、それが余計に生徒を苛つかせていた。

 

「生意気なんだよ!やっちまえぇぇぇ!」

「「「「「おおおぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

さきほどのにらみ合いは何処へやら。いつの間にか剣道部と剣術部が手を組み、零に向かっていくが危なげなく躱していく。まったく攻撃の的を絞らせず、力任せに殴りかかってくる生徒の肩を軽く押し、重心を少しずらして近くの生徒とぶつからせる。

 

零の躱し方を外から見ると、舞っているかのように見えるだろう。その通り零は、舞を踊りながら攻撃をいなしているのだ。

 

禹歩(うほ)の舞》。

 

これは現代でも行われている呪術の一種であり、入山や病気治療などを行う前に特別なステップを踏む事で、身の安全の確保や病気治療などの効果を得ようとするものである。古式魔法としての扱いは、どちらかといえば神を祀るに近いものである。

 

その不思議な足の動きによって、的を絞ることのできない攻撃者に精神的なダメージと肉体的なダメージを、同時にかなりの確率で与えることができる。もちろん《禹歩》の動きを判断できるような、優れた技量を持つ魔法師や一般人には効果がない。

 

だが一高に通う生徒はほぼ現代魔法師なため、剣道部と剣術部の生徒は謎のステップを見切ることができない。数分後、全員が体力を使い果たして床に倒れ込んだ。

 

その中心で汗一つかかず立っている零を見て、観客は入学式での発言が妄言や口先だけではなく、新入生総代と四葉の名が誇張ではないと三重の意味で理解した。

 

零は周囲を気にするそぶりも見せず、担架を持ってきた職員に2人の状態を説明し、生徒会室に向かった。

 

 

 

 

 

数十分後、零の前には〈一高三巨頭〉と言われる3人が座っていた。報告を聞いていたが零は怖じ気づくこともなく、事後報告のみを行っていた。

 

「…という次第です」

「いいだろう。風紀委員会としてこの件を懲罰委員会に持ち込むつもりはない」

「寛大な処分に感謝する」

 

摩莉の言葉に、隣に座った上級生は深く腹に響く声で答えた。

 

「四葉、お前は怪我はないのか?」

「かすり傷一つありません十文字先輩」

「あの人数の攻撃をどうやって…」

 

真由美の疑問はもっともだろう。目撃証言によると、剣道部と剣術部の生徒を合わせた30人もの攻撃を、たった1人で受けていたと聞いたのだから。

 

「あの程度で怪我をするような鍛え方はしていませんので」

「そういう意味ではないんだけど…」

「目撃証言によると、おかしなステップを刻みながら躱していたようだが?」

「あれは《舞》ですよ」

「「「《舞》?」」」

3人同時に幾つもの疑問符を頭上に浮かばせながら聞いてきた。

 

「大昔、大亜連合が【夏朝】と呼ばれていた頃の話です。文命と呼ばれる伝説の皇帝がいて、半身不随だったらしく、よろめくように日頃から歩いていたようです。そこから名前ができたと言われています。といってもこれは後付の理由のようなので、起源がどういったものなのかは分かりませんが」

「話が壮大すぎるわ…」

「…同感だな」

「怪我していなければそれでいい。今日はもう休め」

 

零は一礼して生徒会室から出て行き、それを3人は静かに眺めた。気配がなくなったのを確認後、いつもの会話を始めた。

 

「何者だ?零君は」

「正直中身が掴めないけど、悪い子ではないと思うわ」

「魔法師を全て平等に扱おうとする考え。同じ理想を持っているのかもしれんな。我々の計画にも賛同してくれることだろう」

 

克人のまとめで2人は素直に頷いた。

 

「なんだか零君が軍人のように感じられるのは気のせいかしら?」

「分からなくもないが今はそれを考えるべきことじゃない。それよりこの騒動が、あいつを認める結果になれば良いんだが…」

 

摩莉のこぼした言葉に、克人と真由美は同感であるという意味で頷いた。

 

 

 

結局剣道部と剣術部のいざこざは、互いの言葉の意味の解釈間違いだったということが判明し、事件はあっさりと収束したのだった。

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