魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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九校戦1
4


3人の願いは思いのほか早く実を結び、零にとっても悪くない方向へ進んでいた。

 

「なあ四葉」

「何だ?」

 

朝、教室に入ると声をかけられた。無愛想に返事をする零にも気にすることなく、4日前沢木に喰ってかかったクラスメイトが、照れ臭そうな笑み浮かべた。

 

「俺の方が間違っていたよ。お前の考えに可笑しなことは何も無い。これからも頼む」

「…ああ、こちらこそよろしく」

 

その後もクラスメイトから謝罪やら友人になってくれなど友好関係が広まったが、それはまだクラス内という注釈付きだった。

 

 

 

 

 

思った以上に楽しめた1学期は定期試験を終え、〈九校戦〉準備に入っていた。といっても七草先輩と河内生徒会長はアンニュイなため息をつき、昼食時の生徒会室は少し暗かった。

 

「3学年とも実技方面に偏ってて、まだエンジニアが決まっていないのだよ」

「何故俺にその話をされるのですか?」

 

俺は入学式翌日のように、昼休みに食堂へと向かおうと教室を出ると、意味不明な笑みを浮かべた七草先輩に連行されていた。久方ぶりのやり方にため息をつきながら、同席しようとしていた沢木に気怠げに手を振って別れていた。

 

「筆記試験も満点なのだから、エンジニアをやってくれないかと思ってね」

「構いませんが。自分の出場種目によっては、担当するのは難しいですよ」

「君のは既に決まっているから心配いらんよ」

 

案の定、俺の出場種目は決まっているようだ。新入生総代なら出さないという方針はないし、優勝から離れる原因にもなるだろう。

 

「君は〈バトル・ボード〉と〈モノリス・コード〉だ。文句はないな?」

「言ったところで変わりはしないのでしょう?」

「もちろんだ」

 

別に〈九校戦〉に出たくないわけではないので、出場種目に不満はない。

 

「〈バトル・ボード〉はどんなものかは分かります。なので練習は不要です」

「…いいのか?」

「大体は予想していました。むしろ本番とは違うコース慣れをしてしまえば悪影響になるでしょうから、練習はイメージトレーニングのみにしときます。〈モノリス・コード〉はチームメイトとの作戦立案と実力把握が必須です。変に逃げたりはしませんよ」

「さすが零君ね。お姉さんは鼻が高いわ」

「誰がお姉さんですか誰が」

 

七草先輩の質問に敢えて突っ込んでおき黙らせる。

 

「メンバーはほぼ決まっているのですか?」

「エンジニアが決まっていないのだよ」

「それでは次席の中条と五席の五十里が適任かと」

「あの2人か。2人は術式整理がメインでCAD調整はあまり得意ではないはずだが?」

「仕方ありません。万全の状態で臨むのであればやむなしです」

 

話し合いの結果で2人の参加が決まり、なんとかエンジニアの最低人数は確保できたので、放課後から準備に移ることになった。

 

 

 

 

 

その日から零は〈バトル・ボード〉の練習は一度も行わず、出場選手のCAD調整や作戦立案を優先的に行っていく。そのおかげなのだろうか。確実に上級生や同級生の信頼を集めていった。零の調整したCADを使った担当選手達は、「今まで誤解していて申し訳ない」と口を揃えて謝ってきたりして、お礼を言われることに慣れていない零を動揺させたりしたのだった。

 

 

 

「沢木・服部、遅くなって済まない」

「堅いことは言わなくていいよ零」

「お前が忙しいのは分かっている。気にするな四葉」

 

この2人は零とともに、新人戦〈モノリス・コード〉に出場することになっている。昨日は3人での作戦立案。そして今日は上級生チームとの練習試合をする予定だ。

 

ちなみに服部は零のことを苗字で呼ぶ。零は何度も頼んだのだが、服部は己の意志を貫いた。なんでも尊敬と親愛を込めて呼びたいとのことらしい。なので零は服部の気持ちを組んで、好きなように呼ばせるのだ。

 

「昨日の作戦通り服部は遊撃・俺はオフェンス・沢木はディフェンスを頼む」

「任せろ」

「おう」

 

力強く頷く2人にぎこちない笑みを浮かべ、モノリスにみたてた黒塗りのコンクリートの前に3人横並びで立つ。〈モノリス・コード〉のステージは、【渓流】・【市街地】・【草原】・【岩場】・【森林】に分かれている。今回は比較的条件の整っている【森林】ステージということで、第三演習場で行うことになっていた。

 

開始の合図と共に、服部と零は森の木々を巧みに利用して進行していく。相手陣地へと近づくが、50m手前で零は風の精霊を用いて、服部に止まるよう指示した。

 

『気を付けろ。十文字先輩は眼で見なくても、正確に魔法を俺達に向けてくる。お前が意識を逸らせ。俺は奇襲を仕掛ける』

「簡単に言うが十文字先輩は置いといて。残り2人も選ばれるほどの猛者だぞ。簡単に倒されるとは思えない」

 

弱気な発言だが言いたい気持ちは分かる。

 

『安心しろ。3年生に勝てとは言わないさ。だが相手が自分より強くても、勝たなければならない事態も出てくる。今は3人ともほんの少しだけ意識を逸らしてくれ。行くぞ!』

 

零は隠れていた木々から飛び出し、自己加速術式で速度を上げて、風と水の精霊に姿をくらませてもらう。

 

《浸透》

 

周囲の風景に溶け込み、姿を隠す隠密系の古式魔法だが、気配は残るためいることだけは分かる。だがどこにいるかまでは分からない。術者の技量と被術者の観察力との勝負ということになる。残り15mまで接近すると、進行方向から向かって右方から雷の音が聞こえた。服部が森の奥で《雷鳴》を発動させたのだ。

 

攻撃魔法ではなく、相手を動揺させる目的で使用されるかなり有名な魔法である。有名な魔法ということは、よく使われているということだ。それなりに成果を上げることができるので、いつの時代・場所でも使用されている。

 

それがたとえ〈十師族〉の次期当主候補が相手であっても。

 

「今のは《雷鳴》か?」

「魔法に惑わされずに前を見てください。っ来ます!」

 

克人の声に左方を見ていた上級生が顔を元に戻す。だがそこには何も見えない上に何も感じない。

 

「本当に来るのか!?」

「気配を感じます。っ!」

 

克人は反射的に《ファランクス》を彼我2mに発動させる。すると火炎球とでも言える火の玉が3つ飛んできた。それを難なく防いだ克人だったが、防御領域を真正面に設定したことが悪運を招いた。

 

「がっ!」

「ぐっ!」

 

オフェンスと遊撃が、一瞬のうちに背後から放たれた圧縮空気弾によって無力化され、克人は焦りを感じていた。

 

今のは《偏位解放》か?とてつもない威力だ。だがその程度では俺の《ファランクス》は破れん!

 

克人は全方面に《ファランクス》を展開し、零がやってくるのを待った。しかし数分経っても攻撃が来ないことに、克人は不安を覚える。だがその間にも魔法の準備は行われていた。《ファランクス》の周りの土に生える雑草が、薄らと湿っていることに克人は気付かなかった。

 

感受性の高い克人なら、魔法の使用されていることに気付いただろう。しかし零のことを意識していた結果、気付くことが出来なかった。

 

十分湿ったところで服部は、次の魔法を発動させた。湿った地面を伝って電気が克人の足下に走ったが、間一髪のところで察知して上空へ飛び上がる。しかしそれも服部の作戦のうちだった。さらに上空から《ドライ・ブリザード》を発動させる。強風が展開された《ファランクス》を襲う。

 

そこか!

 

克人は魔法の発動場所を発見する。着地後、《ファランクス》で服部を押し潰そうとしたが、地下からの攻撃に反応が遅れてしまう。

 

土竜(もぐら)

 

零の扱う古式魔法の基本魔法の一つである。地脈に想子を流し込み、土の精霊に地面を陥没させてもらう魔法だ。

 

「何!?がはぁ!」

 

驚きにより《ファランクス》の強度が弱まる。《浸透》を解除し、空中から現れたように見える零が、《偏位解放》を発動させ。想定外の攻撃に克人は戦闘不能になるのだった。

 

 

 

 

「…3人とも勝っちゃったんだけど。3年生なんて顔立てれないわよ」

「正確には2人だが同感だな。十文字や先輩方が自信を失わなければいいが」

 

2人は生徒会室から、〈モノリス・コード〉の練習を画面越しに見ていた。この戦闘は10分もかかっておらず、またまだ余裕そうな3人に驚きを隠せていなかった。

 

「しかし服部の魔法は面白いな。あのような使い方があるとは」

「服部君もだけど零君の魔法にも驚かされたわ。姿をくらませるなんて魔法力がよほど高いのね。総代なのは分かっているけど、分かっていても驚かされるわ」

「今年の〈九校戦〉は、良い意味で波乱が起こりそうだな」

 

摩莉の意見に同感のようで真由美はため息をついた。

 

 

 

同じ頃、零と服部の2人は相手チームの看病をしていた。

 

「特に怪我はなさそうだし、医務室に連れて行くだけでいいだろう」

「十文字先輩が伸びるところを見れるとは思わなかったな」

「今のうちに見ておけよ?見る機会はそうないだろうからな」

「お疲れ2人とも」

「「あ、沢木」」

 

今の今まで忘れていたもう1人のチームメイトが、労いながら森の中から出てきた。

 

「僕、必要なくないか?」

「万が一のためだ。お前は敵を追い返すのが得意なんだから我慢しろ。それに敵がやってこないのは、俺達が押さえ込んでいるという意味にもなんだけどな」

「そう言われると悪い方に考えるのはお門違いだな。仕方ないか。それより服部のあの魔法は一体何なんだ?」

 

沢木は服部の魔法に興味津々なようだ。その証拠に瞳をキラキラとさせている。

 

「あれはドライアイスの塊を《ファランクス》の周りにまぶして、雑草が湿ったところに《サンダー》発生させただけだ。名付けるなら《這いずり回る蛇(スリザリン・サンダース)》かな」

「カッコいいな服部。これは使えるぞ」

「それはそうなんだがな。…効果は高いんだが、発動するために時間がかかるのが難点だ」

「それは〈九校戦〉までに習得できるように頑張ろう。あと1ヶ月もある。お前の潜在能力なら、【習得】の先まで行けるかもしれんな」

「本当か!?」

 

よほど嬉しかったらしく、歳相応の表情をするので零には少し眩しかった。

 

「ああ、【習得】の次の段階の【強化】や【派生】なんてものができるだろうが、こればかりはやってみなきゃわからん。たが一つ言っておく。【強化】はまだしも【派生】は簡単にできるようなもんじゃない。一生かけてもできないかもしれんからな」

「ふふ、相変わらず仲がいいな2人は。さあ、先輩方を運ぼうか」

 

沢木の言葉に頷き1人ずつ抱えて医務室に向かった。

 

 

 

それからの〈九校戦〉準備は快調に進み、出発前日までには全員が手応えを感じながら帰宅した。

 

零は帰宅して入浴後四葉家に秘匿回線を使って連絡していた。夜9時頃に連絡をしたのは、叔母の依頼によるものだった。一般回線を使うと、母が出る可能性が高いためであり、叔母に連絡したという次第だ。

 

ちなみに服などの準備は、3日前に終えているため何もする必要は無い。零は前日に慌てず余裕を持って準備をする性格なので、今からHARに任せるようなことはしなかった。

 

『零さん、久しぶりね』

「お久しぶりです叔母上。入学式以来です」

『明後日から〈九校戦〉でしょう?姉さんが行くからよろしくね』

 

零は二つの意味でため息をつきたくなった。

 

「何故叔母上ではなく、母が来るのですか?」

『姉さんが駄々を捏ねたから仕方なくよ』

「明後日、会ったらシバいておきます」

『あらあらひどい子。実の母親に向かって手を上げるだなんて』

 

そう言う真夜も楽しそうにしているため、本気では思っていないようだ。

 

「いい歳して子供のようなことをするからです」

『まあ事実だから気にしないわ。それと深雪と達也も行くからそちらもよろしく』

「分かりました」

『試合を楽しみにしておくから頑張ってね』

 

映像電話を切った零の顔は少し嬉しそうだった。深雪に会えて達也にも会える。母が来ることをマイナスにしても補って余りある喜びだ。

 

零の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。

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