魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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〈九校戦〉初日の夜、食事も入浴も終えあとは就寝するだけになった時間。生徒会女性陣+αが、河内生徒会長の部屋に集められていた。

 

本来であれば夜更けに男子高校生が女子高校生、それも美少女揃いの部屋にいることは外聞的によろしくない。本人は断ったのだが、生徒会権限+先輩の命令を出されてしまったので、仕方なく頷くしかなかった。

 

「今日の結果は予定通りだ。CADはどうだった?」

「競技用のはずなのに、普段自分が使っている物と違和感がないですね。とても使いやすかったです」

「そうだな。見た目は同じでスペックが違う物を入れ替えられていても気付かないだろう」

「2人のこの賞賛ぶりだと、君の腕は大したものだ。さすが筆記も満点の総代だな」

「恐縮です」

 

零自身それほどたいしたことはしていないというのが本音だ。「好意は素直に受け取るが吉」と父が言っていたので、謙遜することなく受け入れた。零は父を父親としても1人の魔法師としても尊敬している。

 

「謙遜という言葉を知っているか?」

「もちろん知っていますが何か?」

「…言う気が失せた」

 

無表情で聞き返す零に、摩莉はげんなりして言葉を紡がなかった。零の反応は冷たくとられるかもしれない。だが零からすれば当たり前のことをしているだけなので、特に感慨めいたものを感じていないだけなのだ。

 

調整を万全に行い、選手の全力をサポートする。

 

それはエンジニアとしても魔法士としても、持つべきポリシーなのである。

 

「そろそろお暇させていただけますか?この時間帯に女性の部屋にいるのは、許可があるとはいえ社会的にもマズいので」

「ここにいるメンバーは気にしないのだがな」

「先輩方はよろしいでしょうが、俺自身が精神的に耐え難いんです」

「河内生徒会長も摩莉も落ちついて。零君の言い分はもっともだから今日は終わりにしましょう。明日からもよろしくね」

 

零は真由美に対するお礼を含めて全員に一礼してから、部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

大会2日目、〈クラウド・ボール〉でも零は真由美のエンジニアとして参戦し見事優勝へ導いた。〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉では少々ヒヤッとしたが、2年生と3年生の出場選手は予選を突破した。

 

 

 

 

 

大会3日目、〈バトル・ボード〉の準決勝を余裕で突破した摩莉は、決勝戦のスタート位置で合図を待っていた。

 

「去年以上に、相手選手と魔法力の差があるように見えるんだけど」

「1年も鍛えれば、別人のように変わりますから」

「それだけではないと思うがね」

 

零と会話していた真由美の横に座りながら、河内は意味ありげに零に笑みを向けた。

 

「他にも理由があると?」

「君の調整力だよ。例え本人の魔法力が優れていても、CADが機能しなければ意味は無い。それが合わさって今の彼女を作っているんだよ」

「相乗効果ね」

「CADが機能しても、本人の魔法力が備わっていなければ使えないと思えますが」

「だからだよ。彼女の魔法力と君の調整力が合わさったことで、只でさえ魔法力だけで圧勝している状態を、更に異常にしているんだよ」

 

零からすれば当たり前のことをしているだけだ。周囲の人間は、それさえ零の技術力だと思っている。零自身は担当した選手が活躍し、自信を付けてくれるだけで十分なのだ。

 

空砲が鳴らされて競技が始まる。決勝までトップでスタートし、ゴールしてきた勢いそのままに、決勝もトップでスタートした。

 

「決勝も準決勝までと同じ戦法ですか。変えないのには理由があるのですか?」

「去年も同じ戦闘スタイルだったのよ。変えるつもりがないのか変えるほどの作戦が思い付かないのか。私には詳しく分からないけど。零君はどう思う?」

「変える必要は無いと思います。去年も同じような戦術で結果を残しているのであれば、今すぐに変更しなくていいかと」

「バレているのに?」

「バレたところで、渡辺先輩を上回るような魔法力が無い限り勝てません」

 

摩莉は九校の中でも一・二を争う一高の生徒だ。さらに一高でもトップクラスの魔法力を持っているのだから、〈九校戦〉で通用しないわけがない。

 

「硬化魔法・移動魔法・加速魔法・振動魔法の同時複数使用ですか。世間で〈マルチキャスト〉と呼ばれる手法ですね。コースの状況・自身の体調を加味しながら、その場で正確に状況判断して的確に魔法を選んでいる。現風紀副委員長で次期委員長と噂されるのも頷けます」

「来年はどうなると思う?」

「同じ戦術で問題ないでしょうね。2年の後半からは、より実践的な授業が始まるようですし」

 

真由美と零が話している間にも、摩莉は2位以下の選手を突き放し、圧倒的な強さで女子〈バトル・ボード〉二連覇を成し遂げた。

 

男子〈バトル・ボード〉は準優勝、〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉は男女ともに優勝し、本戦の前半を過去最高の成績で終えた。

 

 

 

その日の夜も、零はVIP専用客室に向かっていた。突如呼び出されることは本家でも多々あったので、気にしないというよりは諦めている。

 

ドアを開けて中に入ると、楽しそうに談笑している女性の声が複数聞こえた。真っ直ぐ進まずに別室へ向かった。

 

「達也、聞きたいことがあるんだがいいか?」

 

ドアを開けて中に入ると、九校戦開始前に来たときと同じようにタブレットを使って、CADのプログラミングをしている達也がいた。

 

「あ、従兄さんお疲れ様。深雪はシャワー浴びてるよ」

「それより何で叔母上が来てるんだ?」

「母さんは当主として従兄さんの試合を見に来たんだと思います」

 

だったら何で懇親会から来なかったのかと言いたくなった。達也に聞くのは間違いなので、本人に聞くために話し声が聞こえるリビングに向かった。

 

「それでね…キュウ!」

「…」

 

何故か微妙な顔でこちらを見上げてくる叔母を、零は無表情に見つめ返す。

 

「…何も言わないの?」

「何から聞けば良いのか分からないので」

「取り敢えず姉さんは介抱してあげて」

「面倒くさいのでお断りします」

 

白眼をむいてソファーから崩れ落ちている深夜を、零は冷ややかに見下ろし言い放った。

 

「じゃあ、せめてここからどけて」

「分かりました」

 

ヘッドロックで気絶させた母親の襟首を掴み、ベッドルームに入りベッドに顔面から優しく(・・・)投げ入れる。そのまま元の場所に戻ってくると、真夜から非難する視線を受けた。

 

「女性に対する扱いがなってないわよ」

「母ですから問題ありません。むしろあれぐらいしないと俺の気が済まないので」

「育て方を間違ったのかしら」

「叔母上自身ではなく母自身ですよ。あの屈折した愛情表現はよくわかりません」

 

真夜も何回も同じようなやり取りをしているので、長くごねたりはしなかった。

 

「本日、叔母上が来たのはどのような理由ですか?」

「四葉家当主として応援に来たの」

「なるほど。名目はそうでしょうね。本当の理由は?」

「…零さんの試合を個人的な感情で見に来ました」

 

誤魔化さず素直に白状したので、雷は落とさなかったがストレスは少なからず溜まった。

 

「何で双子揃って四葉の仕事を投げ出して来るんですか」

「母としての役目…ギャン!」

「…叔母としての役目?」

「何で疑問系なんですか…」

「真夜は恥ずかしがり屋だから…アキャ!」

 

いくら攻撃しても、何事もなかったかのように会話に乱入してくる母を軽く蹴り飛ばす。その様子を見た達也は、苦い笑みを浮かべていた。

 

{叔母上もよく懲りずに突っかかるなぁ。自分の母もこんなんだったら同じことやってたかも}

 

「来た理由は分かりました。ここに呼んだ理由は何でしょうか」

「貴方には全力で挑んでもらいます。四葉の名を継ぐ者として威厳を示しなさい」

「ご命令のままに」

「零従兄様!」

 

風呂上りの深雪が零の背中に抱きついた。ソファーの下に崩れている深夜を見ても、深雪は表情を変えない。むしろこれが日常だと受け入れているというより、諦めの境地に至っている。

 

そしてその本人がむくりと起き上がり、何年かぶりの爆弾発言をした。

 

「早くしないから深雪が上がっちゃったじゃない!覗き見する好機を失っ…ンンンンンンンン!」

「深雪、しばらく氷漬けにしておいてくれ」

「…//了解しました」

 

零は深夜の口を右手で塞ぎ深雪に命令した。すると深雪は顔を真っ赤にさせながら、叔母の首から下を氷で覆い、何事もなかったかのように零の左腕に抱きついた。

 

「…いつまでこのまま?」

「深雪の気が済むまでということで」

「凍死するわよ?」

「その程度なら深雪が分かっていますから問題ありません。それでは」

 

零は深雪の頭を優しくなでた後、部屋を出て行った。

 

「お母様、どういたしましょうか」

「言うことを聞かなければ私達が対象になりそうね。しばらくはこのままでいましょう」

「真夜、た、助けて…」

 

姉の声も聞こえないかのように無視を続け、深夜の助けを求める声は1時間続いた。

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