魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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九校戦4日目、新人戦初日は〈スピード・シューティング〉の予選から決勝と〈バトル・ボード〉の予選が1日かけて行われる。零の出番は〈バトル・ボード〉のため午後からであり、午前中はゆっくりすることにしていた。

 

VIP客室に行って深雪を愛でてもいいのだが、深夜からストレスをもらうのが容易に想像できたため自室で寝転んでいた。

 

同室の五十里はCAD調整のため今はおらず零1人でいる。知り合いからの要請にも会場へ着く前に応えていたので、やることがなく暇だった。友人の試合を見るべきなのだろうが、気が乗らなかったので見に行かないのだ。

 

〈スピード・シューティング〉に出場する選手も決して下手なわけではないが、魔法力が一高でもトップとはワンランク落ちてしまうのは否めない。よくて決勝トーナメントに挑める程度だろうと予想していた。零は眠気に抗う素振りを何1つ見せず、ゆっくりと眠りの淵に落ちて行った。

 

 

 

 

 

午後3時前。零は〈バトル・ボード〉のコース上で座禅をしながら開始時間を待っていた。その様子を一高応援団は不思議そうに見ている。

 

「零君は一体何をしているのかしら?」

「集中じゃないか?」

「彼なら必要ないと私は思うがね」

 

真由美・摩莉・河内の順の意見である。その頃、友人達の間でも同じように話題になっていた。

 

「沢木、お前はどうみる?」

「精神統一ではない…と思う」

「じゃあ、あれは何なんだ?」

「さあな。本人に聞かなければわからん」

 

服部の質問に沢木は確信はないように答え、その答えに服部の友人である桐原は首を傾げていた。精神統一にしては真に迫り過ぎているというのが沢木の意見だ。2人がその意味合いをしっかりと理解できているかは、本人達に聞かなければわからない。

 

『on your mark.』

 

合図が鳴り響き、観客が静まり選手たちが準備に入る。

 

『get sets.』

 

選手が構える。

 

最後は空砲が鳴り響き、〈バトル・ボード〉予選第3レースが始まった。一高生徒の予想通り一番最初に飛び出したのは、零であったがその速度は異常だった。

 

「速過ぎないか!?」

「だが完全にコントロールしている!」

「このままじゃコーナーを曲がりきれずにぶつかるぞ!」

 

観客は勝手に喚き始めているが、一高生徒達は焦ることなくしっかりと零の戦術を見て、何をする気なのか気になっていた。最初のコーナーに入っても零は速度を緩めずそのまま突入する。

 

「ぶつかる!…え?」

「なんだ今のは!?」

「水が壁になっただと?」

 

零が壁にぶつかる瞬間、水路に流れる水が突如うねりながら壁を作り、その横をボードとともに滑って行く。

 

まるでサーフィンの要領で波を操っているように。

 

零がコーナーを曲がり終えると、波は何もなかったかのように水路に戻り、後ろから追いかけていた選手には一切影響を与えなかった。

 

「…今のはどうやって作ったんだ?」

「概念が理解できないし不可思議だわ」

 

摩莉と真由美は何が起こったのか理解できていなかったが、友人の2人は何をしたのか気付いていた。

 

「さすがだな。ここでそれを使って来るのか。あいつのやり方は面白い」

「こういう使い方があるのか。本当に面白いな」

「一体何をしたんだ?」

 

桐原は零が何をしたのか状況を把握できていないらしく、2人に聞いていた。

 

「あいつは水の精霊を使って、水路の水を壁のように作り上げたんだ」

「そんなことができるのか?」

「条件発動型術式だろう。自分が近づくのを第一条件、想子を感知することを第二条件にしたんだろう。よくあんなことができるものだ。おっと!これもまた凄いな!」

 

沢木が説明していると零がコースの途中にある滝をジャンプした瞬間、縦二回転横四回転の離れ業を見せた。

 

〈ダブルコーク1440〉

 

スノーボードで使われる驚異的な大技であり、成功させる人間はまずいないらしいが、落差がある故か。魔法でブーストし回転数を上げている故か。余裕を持って着水した零に対して、会場全体から大きな歓声が上がった。

 

もはや〈バトル・ボード〉の試合どころではなくなり、零の離れ業ただそれだけに観客が感激していた。

 

 

 

その様子を深雪たちはVIP観覧室から見ていた。

 

「達也、深雪今の見た!?」

「はい、見ました!カッコ良すぎます零従兄様!」

「2人とも落ち着いてください。凄いのはわかるけどそこまではしゃがれては…」

「さすが我が息子!」

「さすが私の婚約者です!」

 

ハイテンションな2人をなだめるのを達也はすぐさま諦める。2周目に入り、圧倒的な差をつけて独走している零を見ていた。

 

達也からすれば到底真似できない芸当であり、真似しようとは思えないが憧れるのは仕方がない。何故なら容姿を含めカッコ良すぎるからである。1人の男として憧れの存在である零を、達也は心の底から尊敬している。他人には無愛想でも、自分達に向ける感情はとても優しいものだ。

 

「母上、兄さんのあれは精霊魔法を使っていましたね。あのような使い方もあるのですか?」

「零さんは魔法の使い方をわかっていますから。使い道をその場に応じて使い分けます。人が思いつかないような場面でも使用しますから、驚かれるのは無理ないと思いますよ?」

 

達也の質問に真夜は当主らしく、そして叔母としての威厳を保ちながら嬉しそうに達也に伝えた。

 

 

 

予選終了後、一高のテントに来るよう言われシャワーと着替えを終えてから、テントに向かう。入口をくぐると全員から拍手を送られて、少し気恥ずかしい零だった。

 

「おめでとう四葉君。君は本当に素晴らしい」

「ありがとうございます」

「零君、あの魔法は何か聞いてもいいかしら?」

「構いませんよ七草先輩。あれは精霊を介して魔法を発動させたたけです」

「精霊魔法?零君は現代魔法師ではないのか?」

 

摩莉は不思議そうに首を傾げた。だがそれは彼女だけではなくテントに集まった全員に共通している。

 

「自分の父は古式魔法師でしたので、自分もそれを受け継いでいるんです。父の名前は神谷篠(かみやしのぶ)です」

「あ、あの〈神谷家〉か!?」

 

摩莉は本気で驚き、周囲の生徒も程度の差はあれど驚いていた。

 

〈神谷家〉は室町時代から続いた由緒ある名家であり、強力な古式魔法を使う日本でも屈指の魔法師だった(・・・)。しかし「最強」という肩書きが災いし、戦争に参加すると強く非難された。

 

『神谷家という魔法師でも人間でもない生物を戦争に参加させるなど対等ではない。今すぐこの世から消すべきである。消さないならば、日本との関係を断絶する』

 

同盟国のUSNAにまで言われてしまい、日本政府は〈神谷家〉の滅亡を決めた。政府にとっても苦渋の決断だったのだ。

 

日本人であることには代わりない彼等を殺すなどしたくなかった。だが彼等だけで国の安全が守られるのであればやむなしとし、第三次世界大戦通称《二十年戦争》が始まる前に、当時の当主〈神谷 宗十郎(かみやそうじゅうろう)〉と会談し、彼は反論などせず二つ返事で承諾した。

 

しかしその代わりに末っ子として生まれたばかりの神谷宗士(かみやそうし)を、名前を変えて生き残らせてくれと頼んだ。その時の交渉人であった〈神之宏幸(かみのひろゆき)〉に頼み込み、宏幸は宗士を養子として迎えると承諾した。

 

その時養子に出された宗士が、零の祖父であり篠の父であった。彼が宗士を引き取っていなければ、零はこの世に生を受けることがなかった。宗士は自分が〈神谷家〉の生き残りだと聞かされたのは、成人した頃のことだった。

 

結婚した後も隠し続け、死ぬ直前に篠と自分の妻へ正体を明かした。四葉家はそのことを黒羽家の諜報能力によって知った。篠を深夜か真夜の婿にしようと双子の父である元造は考えていたが、偶然知り合った深夜と篠がお互いに一目惚れし、交際期間僅か1ヶ月で式を挙げた。

 

その頃真夜も司馬龍郎と交際していた。同じ頃に式を挙げたが、真夜が達也と深雪を身籠もっている間に、司馬龍郎が元恋人である古葉小百合と浮気をしたため、婚約は解消された。

 

さらには四葉家から追い出され、現在も関係は断絶より悪い状態である。真夜としては産みたくない気持ちがあったかもしれない。だが真夜は2人を自身の子供として産み落とした。愛する我が子を手にかけることなどできなかったのだ。そのせいか2人への愛は非常に強く優しい。それを2人は理解している。

 

そういうこともあり〈神谷家〉の血は日本から消えたと思われていたが、零がその血を引いているとなれば驚いても仕方がない。

 

「嫌なことを思い出させてしまったな。すまない」

「気にしないでください。自分が現代魔法を使いながら古式魔法を使えば、疑問に思っても仕方がありませんから」

「それならばあの強力な古式魔法を使えても可笑しくはないわけか。しかしどうやってあのような《水の壁》を作ったんだ?」

「地脈を通じて水の精霊に想子を送り込んで作ってもらいました」

 

零はただ1つを除いて隠すことなく説明した。

 

「決勝リーグも頼んだぞ」

「お任せください」

 

零は一礼してから一高テントを後にした。

 

 

 

『いいか零、精霊は自分の手足でも部下でもない。ましてや下僕でもない。精霊は神秘的であり自然的な生き物と思えばいい。精霊を自分の道具としか思っていない奴等には、精霊は自身の魔法力の半分も貸してくれない。信頼関係を築くのが大切だ。しばらくはこれを目標にして頑張りなさい』

 

ベッドに横たわりながら穏やかに微笑み、優しく自分の頭をなでる父に聞いてみた。

 

『じゃあ、どんな関係ならいいの?』

『それは自分で見つけるんだ。父さんは友人だと思っているから、それ相応の言葉遣いや対応をしているよ』

 

しばらく僕は考えて笑顔で言った。

 

『じゃあ、僕は大切な存在として視るよ』

『何故大切な存在なんだい?』

『大切なものを守るために力を貸してくれる精霊には感謝しなきゃいけない。その気持ちがあれば、きっと精霊たちは答えてくれるって思うんだ』

 

しばらく父は自分の中で考え、また僕の頭を優しくなでてくれた。

 

『お前は面白いことを考えるな。父さんもまだまだ学ぶことがあると気付いたよ』

 

嬉しそうな笑みを浮かべながら父は眼を瞑った。

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