魔法科高校の劣等生〜影は夕闇に沈む〜    作:ジーザス

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圧倒的な魔法力で予選を突破した零は、友人の誘いを断り自室で寝転んでいた。〈スピード・シューティング〉の予選を、ギリギリで通過した選手の試合を見たくなかったわけではない。ただ純粋に眠りたかっただけだ。

 

何故かは知らないが魔法力を一定以上使うと、突如睡魔に襲われることが度々ある。抗えないほどではない。だが集中力が途切れることは否めないので、本家では訓練中でも許しを得て睡眠をとっていた。

 

〈九校戦〉では自分勝手な行動は慎まなければならない。今回は試合後ということもあり、疑問を持たれることもなく許可をもらっていた。

 

〈バトル・ボード〉は気にせずやっていけるが、問題は〈モノリス・コード〉の三高だな。若干15歳にして古式魔法の最高難度である《神威共鳴》を成功させた、古式魔法の名家〈朧月(おぼろづき)家〉次期当主 朧月祥雅(おぼろづきまさよし)がいるとなれば苦戦は免れない。あいつがこの〈九校戦〉に出ること自体反則級だ。…それを言うなら俺もか。

 

精神統一に似た物思いにふけりながら、珍しく自嘲気味な苦笑を浮かべる零だが、その苦笑は悲しみに近い何かを含んでいた。それもそのはずだ。〈その力(・・・)〉は双子を吸収して手に入れた、禁忌にも当たる行為によるものだからだ。

 

沢木や服部は太刀打ちできないだろう。あいつは異次元に近い魔法力を持っている。存在密度が人間という存在を構成する物質が、十文字先輩にも勝るとも劣らないほど濃い。眼を閉じるだけでも威圧を感じるほどに。

 

冷や汗をかくのが恐れからなのか喜びからなのか自分でもわからない。だが待ち遠しいということだけは否応なくわかる。

 

待ってろよ朧月。

 

零の浮かべた笑みは、深夜と深雪が硬直するほど凄みのある獰猛な笑みだった。

 

 

 

 

 

大会5日目、新人戦2日目は〈クラウド・ボール〉の男女予選から決勝、〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉の男女予選が行われる。

 

服部の友人である桐原が〈男子クラウド・ボール〉で優勝、ルームメイトの五十里の婚約者 千代田花音が〈女子アイス・ピラーズ・ブレイク〉で、〈九校戦〉史上最短時間で危なげなく予選を突破。新人戦の出だしはますまずの結果だった。

 

その日も強制的に生徒会に呼ばれた零は、精神的疲労を与えられる夜となった。

 

 

 

 

 

大会6日目、新人戦3日目は〈バトル・ボード〉準決勝から決勝、〈アイス・ピラーズ・ブレイク〉の予選から決勝で、零の出番でもある。零と服部・花音の上位入賞はほぼ確定なので、新人戦優勝が目前に迫っていた。

 

「とは言うものの、問題は〈モノリス・コード〉が一番の心配事だな」

「そんなことは言われなくてもわかっていますよ。自分と服部・花音が上位入賞すればほぼ確定です」

 

愚痴を漏らす摩莉に、2人分のCADを調整しながら的確に答えを返す零。服部や他の首脳陣・上級生は苦笑いを浮かべていた。

 

「勝てるのか?」

「100%とは言い切れませんが。2人がいれば互角には戦えると思いますよ」

「随分2人の腕を買っているんだな」

「沢木は3ヶ月、服部は1ヶ月近くで見てきましたから。ある程度の実力は把握しています」

 

女性にもかかわらずイケメンな笑みを浮かべる摩莉に、零はぎこちない笑みを浮かべながら答えた。

 

「四葉、本当に勝てるのか?」

「勝つつもりですよぬいぐるみ先輩(・・・・・・・)

「ぬっ」

 

心配そうに聞いてくる克人に、零はからかい混じりで変なあだ名で呼ぶ。すると克人が眉間に青筋を浮かべて睨んできた。

 

「十文字、ぬいぐるみとはどういうことだ?」

「十文字先輩が一人部屋を望んだのは…」

「四葉、喧嘩買ってやろうか?うん?」

「…十文字君、大人気ないわよ」

 

ほぼキレかけている克人に、冷めた視線を向けながら同じように冷めた声音で、真由美が小悪魔の囁きを放つ。

 

「取り敢えず準備はできたみたいだから準備をお願いね。2人とも頑張って」

「「はい(!)」」

 

零ではないもう1人が気合の入った返事をした後、調整したCADを持って更衣室に向かった。

 

 

 

合図を待つ間、零は服部とボード上に立ちながら話していた。

 

「CADはどうだ?」

「問題ない。しかしいいのか?俺のまで調整して」

「上位独占するにはやるべきことをやる。それに越したことはないだろう?」

「ふっ、いらん心配だったようだな」

 

穏やかに微笑む服部は、どうやらちょうどいい具合に緊張がほぐれているらしい。

 

人は緊張しすぎると筋肉が硬直し、結果を残さなければならないという不安から悪循環に陥る。結局本来の実力であれば勝てる試合も勝てなくなる。逆に緊張感がなさすぎると、だれてしまい同じように結果を残せなくなる。

 

この2つの間を取れればいいのだが、それは熟練の魔法師でも難しい。今の服部の状態は最高といってもいいだろう。

 

『on your mark.』

 

『gets set.』

 

合図とともに飛び出したのは零だ。その後ろに服部・三高・九高であり、零との距離は開いていく一方。2位にいながら、服部は既に優勝は諦めていた。

 

勝てるわけがないのだ。予選を見たときからこいつは、別次元と言っても過言ではないほどに卓越した技術を持っている。そんなふうに確信していた。

 

いや、それよりもっと前から知っていたはずだ。

 

コーナーを曲がったところでチラリと後ろを見る。零ほどではないが、それでもかなりの距離が開いている。このまま行けば余裕で準優勝は確保できる。

 

なんだろうなこの感覚は。予選とは違って緊張しない。いや、しているが心地いいぐらいにしか緊張していない。CADのおかげなのか?それともあいつがいるからなのか?…おそらくあいつだろうな。CADであれば予選でも調整してもらっているのだから、こんな感覚になっていたはずだ。四葉、お前はやっぱりすげぇよ。

 

服部は魔法を行使しながら頭の片隅でこんなことを考えていた。気がついたのはゴールし、一高の応援団からの歓声が爆発したときだった。

 

「お疲れ服部」

「そっちもな四葉」

「下の名前で呼んでくれって何度も言ってるはずだが?」

「お前は上の名前の方が呼びやすい」

「そう言うならまあいい」

 

互いに肩を組み一高応援団に向かって片腕を突き上げる。するとまた大きな歓声が上がった。

 

午後に行われた〈女子アイス・ピラーズ・ブレイク〉で花音が優勝し、一高の新人戦の準優勝以上が決定した。

 

 

 

〈バトル・ボード〉で上位独占し、少しばかりの優越感に浸りながら夕食を終え自室に戻る。自分の荷物が丸ごと無くなっていたので、何があったのか気になった。

 

俺が自室で荷物がなくなった理由を考えていると、花音に左腰にしがみつかまれた五十里がやってきた。

 

「どうしたの?」

「いや、俺の荷物が丸ごと無くなっていてな。何が起こったのか考えていたんだ」

 

なるほどと言いたげな表情を五十里がしたので、なんらかの経緯で事件を知っているらしい。

 

「夕食前に部屋で着替えの整理をしていたら、ホテルの従業員らしき人達が入ってきたんだ。しばらくして四葉君の荷物を持って行っていたよ」

「何か言ってたか?」

「何でも1人部屋に移動させるよう〈バトル・ボード〉の決勝が終わった後、要望が来たとか」

 

何となく犯人はわかっていたが敢えて聞いてみた。

 

「誰に要望を受けたと言っていた?」

「四葉深夜様からとかって言ってたかな。確か四葉君の母上だったよね?」

 

予想通りの答えに苛立つより呆れてしまった。

 

時刻は午後10時過ぎ。そろそろ就寝し始める時間帯だが、明日の〈ミラージ・バット〉と〈モノリス・コード〉出場者のエンジニアは、日付が変わるまではCADの調整をするだろう。

 

零は花音の試合後の夕食までの間に、自分の分を含めた3人分を既に調整し終えているため、今更焦る必要は無い。

 

服部や沢木も夕食後に翌日の練習などはしない主義だし、三高以外には楽勝だという認識(ちなみにそれは一高の首脳陣も同じ見解)だ。今頃ルームメイトと仲良く談笑か、地下の人工温泉を貸し切りにしてはしゃいでいるかもしれない。

 

少しばかり羽目を外しても、服部は〈バトル・ボード〉準優勝なので怒られないだろうし、怒るのは克人ぐらいだろう。

 

「運ばれた場所は?」

「VIP客室だったかな」

「一応従業員に聞いてみるよ。おやすみまた明日」

「おやすみ」

「啓~」

 

恋人の名前を呼ぶ花音の声をBGMに、互いちおやすみを伝えあう。昨日までの宿泊室から出てフロントに向かった。

 

 

 

フロント係に聞くと丁寧に教えてもらい、教えられた部屋番号の鍵を貰った。VIP専用エレベーターで説明された階まで上がる。教えられた部屋番号の鍵を鍵穴に差し込む。左に回しながらドアノブを引く。

 

「零ぉぉぉぉ!!!!」

 

予想通り絶叫しながら跳びかかってきた人影に、左後ろ回し蹴りを叩き込む。

 

「あきゃぁぁぁ!!!!」

 

蹴り飛ばされた人影は痛みというより、蹴り飛ばされた速度に声を上げていた。

 

かなりのスピードで蹴り飛ばされたので、このまま放っておけば怪我をするだろうし、ホテルの物品を破損させることになる。賠償金を払わなければならなくなるため、零は仕方なく慣性中和の魔法と収束魔法を発動させた。

 

ドアを開けた廊下の先の壁から2mの位置に行くまでに、慣性中和を発動させる。その後に収束魔法で空気の繭を作り、人影を優しく受け止める。蹴り飛ばされた人影は、何事もなかったかのようにはしゃぎ回っている。

 

ため息を吐き出しドアを閉めると、鍵はオートでかかったので靴を脱ぎ上がる。部屋の中心ではしゃいでいる人物に声をかけた。

 

「荷物を移動させるのであれば連絡して下さい母上」

「サプライズ❤」

 

悪びれる様子もなく嘯く深夜に続けて文句を言う。

 

「需要のないサプライズなどいりません。こんなことで権力をむやみに振りまかないで下さい。権力乱用ですよ?」

「愛しの息子のためならやむなし…ギャン!」

「メリットのないデメリットしかない行為は慎んで下さい」

 

右拳を自分の胸辺りにしかない深夜の頭頂部に振り下ろし、大人が子供に注意するように声を出す。しゃがみ込みながら両手で押さえている部分から、煙が昇っているのと目尻に涙が浮かんでいるのを見ると、かなり痛みがあるらしい。

 

本人は2割程度しか力を出していないとはいえ、鍛え上げられた拳から繰り出される一撃は僅かでも、それなりにダメージは発生する。

 

「一体何のようですか?」

「一緒に寝ようって思ってね」

「…年齢を考えて下さい」

「歳は関係ないわ」

「…」

 

ぐうの音も出ないとはこういうことを言うのだろうか。無視して制服を脱ぎ、着替えと下着を旅行カバンから取り出して脱衣所に向かう。カッターシャツを脱ぎ、洗濯かごに放り込み振り返ると何故かそこに深夜がいた。

 

「…何ですか?」

「いい筋肉してるなぁって思ったの」

 

この女性は筋肉フェチなのか?

 

どうでもいいことを考えているとジロリと睨まれた。

 

「何でしょうか?」

「今、失礼なこと考えなかった?」

「ご想像にお任せします。それより本当の目的は何ですか?」

「一緒に入ろうかと…ゲフ!」

 

服を脱ぎかけた深夜に想子弾を撃ち込み気絶させる。本来なら術式解体(グラム・デモリッション)で吹き飛ばしたかったが我慢する。

 

44歳にもなってこんなはしたない行為をすることに、何ら抵抗がないことにストレスを感じる。気絶させた深夜をベットに寝かせた後、シャワーを浴び少し離れた位置に寝転んで睡魔に身を委ねた。

 

 

 

 

 

翌日の朝、昨日は我慢して使わなかった術式解体(グラム・デモリッション)で深夜を吹き飛ばし、膨大なストレスを抱えて朝食に行った。

 

朝食を終えて部屋に戻ると、目覚めた深夜から文句を言われたのは言うまでもないが、自業自得だと分かってほしいと切実に思う零だった。

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