緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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イッツ・ア・デットマンズ・パーティ

 この構図。定石に当てはめて考えるならば、両者の攻撃が同時に両者へと命中する、「クロスカウンター」の構図だ。

 

 この状況では、あらゆる凡策を捨て、両者が全力で拳を振るうのが定石である。そうしなければ、敵の拳をもろに受けてしまう。

 

 だが。爆豪は、敢えて後退した。振りかぶった拳はそのままに、左手で爆発を起こし、そのまま態勢を立て直しつつ出久から遠ざかっていく。

 

「な……っ!」

 

 これには流石の出久も困惑を隠せないようで、思わず声を漏らしていた。

 

 そうだ。それでいい。お前は一生、俺を越えられずにいるべきだ。肥大化した自尊心はそんな歪曲した思考をも産み出し、彼自身を支配する。

 

 そこから、爆豪は両の手を向かい合わせ、爆発を起こした。それにより、過剰な閃光が辺りへと迸る。

 

 「閃光球(スタングレネード)」──そう名付けられている、彼の必殺技だった。

 

 出久の隙を突いた攻撃は、ものの見事に炸裂し、出久は顔の前に腕をかざして大きくバックステップを取る。逃げようということだ。

 

 それを地面に墜落しつつ見ていた爆豪は、逃がすまい、と直ぐ様体を起こすと、掌から爆発を迸らせ、その衝撃でみたび前進した。

 

 出久の視覚情報はほぼ失われている。ここで爆豪の攻撃を回避することはできない筈だ。

 

 次の瞬間。出久の頭上へと身を躍らせた彼は、爆発の衝撃で急下降すると、その勢いをも利用して出久の背中に強烈な肘打ちを見舞った。

 

「ぐは.....ッ!」

 

 そこから、彼は畳み掛ける。全く命中していなかった右の大振りを背中へと打ち込み、完全に地面へと倒れ込ませてから、頭部を執拗に何度も踏みつけた。

 

『爆豪少年、ストップだ! それはヒーローの行いではないッ! 中止にさせるぞ!』

 

 そんな彼の足は、そんなオールマイトからの指導で漸く止まった。彼は舌打ちしつつ素早く後退し、臨戦態勢を取った。反撃しても対応してやる、という心理の現れであった。──確保テープのことなど頭から抜けている。

 

「立ってこいや、デク……まだ動けんだろ、なあ、おい! あの時と同じ構図だぞ、コラ!」

 

 煽る、煽る。デクが顕現されていないのをいいことに。

 

 ずっと溜まっていた、幼馴染み(デク)への鬱憤がここにきて解放された、というような感じだった。

 

「ノーワンノーワンとでも言っとくか、この──」

 

 刹那。

 

 立ち上がったデクは──立ち上がった瞬間は爆豪には見えなかった──その足で爆豪に飛びかかると、大きく右手を振りかぶって攻撃を仕掛けようとした。

 

 そんなものが今さら効くか、とばかりに、彼は、異常な反応速度でその不意打ちに反応して、胸へとカウンターを打ち込もうとした。

 

 だが。それは叶わなかった。1拍後、既に彼は態勢を崩されていたからだ。理由は単純。デクのキックによるものだ。左足による足払い──。彼は腕を大きく振りかぶることで視線をそちらへと誘導させ、その間、注意力が散漫になっている爆豪へと足蹴を食らわせたのだった。

 

 爆豪はそれで重心が浮き、視界の左側──デクの拳の延長線上へと倒れ込んだ。

 

 その最中。デクは恐ろしいくらいに速く、それでいて、機械よりも正確で力強い貫手を繰り出した。ぴんと張られたその指先は、爆豪の喉下部へと吸い込まれるように命中し、頭部から彼を吹っ飛ばした。

 

「げボォッ.....グエァ.....こ、ン....畜生──」

 

 彼は吹っ飛び、体を地面に擦りつつも尚、強気な態度を崩さなかった。

 

まるで死者の宴(It's a deadmans party)他に似合う表現はない(Who could ask for more?)さあ来てよ、そんな体捨てちゃってさ(Everybody's comin'; leave your body at the door)

 

 そんな爆豪に、デクは小声で歌いながら近づいていく。それはオインゴ・ボインゴの『デッドマンズ・パーティ』だった。奇怪で血生臭い癖に、妙に陽気な曲である。

 

 デクは間合いが詰まると、ベルトからナイフを抜き放った。そして、定点カメラの死角になる位置で、それをゆっくりと爆豪へ近づけていった。

 

「ねぇ、かっちゃん」

 

 そこには緑谷出久が居た。今表面に「出て」いるのはデクの筈なのに、その声は、出久そのものだった。

 

「知ってるかな。ヒーローっていうのはさ、不幸な事故なら、相手を殺してもあんまり咎められないんだよ。君は興味ないかもしれないけど、エンデヴァーはそういう解決法、けっこう多いんだ」

 

 ナイフは後数ミリで爆豪に触れる。それを、半開きになった目で見せられている彼の精神状態がどんなものであるかは想像にかたくない。──ぐちゃぐちゃのドロドロ、正に混沌(ケイオス)そのものだ。

 

「かっちゃん、ヴィランだよね? ──そういう解決法も、ありだよね?」

 

 言いつつ、ナイフはゆっくりと爆豪へ近づいていく。デクが狙っているのは首筋だった。──人体の中でも群を抜いて重要な、傷を負うことの許されない部位。

 

「く……来るなぁ…… っ!」

 

 ──と、ふと。デクは、爆豪が泣いているのに気付いた。恐怖で見開かれた目の端から流れ出ている。

 

 彼は刹那の一瞬、これが訓練であることを忘れていた。自分はどうしようもない愚か者で、目の前の男に殺されるのだ──。

 

 一方デクは、それを見ても尚、手を緩める気はなかった。爆豪へ向かい、ゆっくりとナイフを近付けてゆく──。その口は、誰も(ノーワン)誰も(ノーワン)、と、形だけ動いていた。

 

 ──と、次の瞬間。爆豪は手首に違和感を感じて視線を下げた。そして、「それ」に気付いて低く喘いだ。

 

 手首には、確保テープが巻き付けられていた。つまるところ、これで彼は設定上、行動不能となったのだ。

 

 デクは結局、ナイフを爆豪に突き刺さなかった。しかし、それは事実の上だけで、だ。

 

 彼の心には、しっかりと、「新たなトラウマ(鋭利なナイフ)」が突き立てられている──。

 

 デクはナイフを使用したことがバレないように、それをポーチに落とし込むと、爆豪を通り越して階段を昇りきった。

 




 タイトルはデク君にあの台詞を言わせたいがために付けました。どうせならもっとオインゴボインゴネタを擦ろう、という心理が働いたからかもしれませんが。
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