「さあ来い、来てみろヒーロー!」
核が隠されていた部屋に辿り着くと、そこには飯田君が待ち構えていた。完全に役になりきっており、臨戦態勢を取っている彼には隙がないように見える。
「麗日さん、僕が飯田君を引き付けるから、隙を見て核を回収して」
僕は出来る限り声量を絞って無線に向かって囁くと──無線は自動で音量を調節してくれる──飯田君の方向に向かって駆け出した。その足にはワン・フォー・オール8%の力が付与されている。
このままいけば、飯田君に必殺の一撃を叩き込める──。とその刹那、僕の視界から彼の姿がかき消えた。
あの「個性」だ。恐らく、高速移動しているのだろう。
僕がそれを理解した瞬間、僕の横腹に足が突き刺さった。飯田君のものだ。いかにも、といったようなヒーロースーツの力が加味された蹴りは、予想以上に痛い。
だが、僕はただその攻撃を食らったわけじゃない。
「な……ッ! 蹴りを食らってながら……っ!」
僕はワン・フォー・オールの力で、刹那に蹴りのベクトルと逆の方向へ運動を発生させていた。これにより、彼の激烈な蹴りを食らっても、僕は吹っ飛ばなかったのだ。
横腹に打ち込まれた足を僕は手でホールドし、そのまま、空いた左手の裏拳を彼の頬に打ち込む。それにより、飯田君は一瞬動きを止める。達人でもなければ、攻撃を受けた一瞬は注意力が散漫になり、思考が止まるものだ。
次の瞬間だった。僕は足のホールドを解き、彼の顎に打撃を入れてから、全身へと、やたらめったらに攻撃を繰り出した。
「こんなもんかッ!?」
少々自分のキャラクターには似つかわしくない声色、言葉で叫びながら、飯田君の全身へと拳を叩き込む。ワン・フォー・オールを纏った拳が、緑色の閃光となって瞬く。
その状態が3秒ほど続いた時だろうか。ふと、無線に訓練終了の合図が入った。
「な、終了!? そんな、まだ時間には余裕が──」
そこまで言ったところで、飯田君は核の方向に目をやって、そして、「気付い」て絶句した。
核に手を添える麗日さんを見て、絶句したのだ。
あの派手なラッシュは、牽制と、
*
「まぁ、大体分かってると思うけど、今戦のベストは緑谷少年だ」
戦闘訓練終了後、モニタールームで僕はそんな嬉しい言葉をもらった。誰よりも鮮烈に憧れた相手、オールマイトからだ。
かっちゃんとの戦いは──どうやら、僕が勝ったらしい。最後、背中を殴られた辺りから記憶がないが、どうにかあそこから巻き返したらしい。
「建物への被害も少なく、位置取りも終始良かった。貫手の一発でヴィランを無力化したのも素晴らしかったな。爆豪少年も個性を活かした、いい立ち回りが出来ていたが──」
戦いとなると意識がトぶのをなんとかしなきゃいけないな、なんて思いつつ、僕は講評を聞いていた。
その後見ることのできた、皆の戦いも白熱した。誰もが「個性」をコスチュームの補正アリで存分に発揮していて、全ての試合に、それぞれ違った見ごたえがあったのだ。
その中で特に白熱したのは、推薦で入学したらしい、炎と氷の能力を持つ轟君の試合だった。
一発。実質、あの試合は一発でカタがついた。ビル1つ分を凍らせるほどの出力を持つ個性もさることながら、その個性を持ながら、相手を壊死させていない。その精緻なコントロールには目を見張るものがある。僕がもしあの個性を持っていたとしても、あのようには扱えないだろう。
──とそんなことを考えているうちに授業は終わり、僕は教室へと帰った。
放課後。僕は、待ち構えていたかのように声をかけられた。
「よぉ、緑谷! 何喋ってたかわかんなかったけど、熱かったぜ!」
「一戦目からあんなのやられると気合い入っちゃうよー。あ。頭踏まれてたけど、大丈夫?」
「なあなあ、やっぱりお前の個性って増強型なのか? そうだとしたら親近感感じるな」
立て続けに、それぞれ違う言葉を言われ、僕は慌てつつ、なんとか答えを寄越した。
「皆ありがとう。でも、あの戦闘──正直、強力な個性に助けられてるだけなんだけどなぁ……」
「いやいやいや! 謙遜し過ぎだろ! フツーに動きのキレも良かったと思うぜ」
そう言われて悪い気はしなかった。
「ありがとう、ええと──」
そこで僕は言葉に詰まった。赤髪の彼の名前が出てこないのだ。
「切島 鋭児郎だ。クラスメートとして仲良くしようや」
「私は芦戸 三奈。いやー強いね、君」
「俺ぁ砂藤だ。宜しく頼むぜ」
赤い髪が特徴的な切島君に続き、ピンク色の肌をした芦戸さんと、逞しい体つきをした砂糖君も自己紹介をした。
「私は蛙吹 梅雨。緑谷ちゃん、ちょっといいかしら?」
そんな自己紹介の流れに乗って声をかけてきたのは、蛙のような雰囲気を漂わせる蛙吹さんだった。
「あの訓練、決着の時、爆豪ちゃんにナイフを使わなかった?」
その瞬間。「僕」は一旦その役目を終え、「デク」が表面に顕現された。
「使ってないよ。ちゃんと戦って、負けたかっちゃんに僕は確保テープを巻いたんだ」
それでも未だ訝しい表情を崩さない彼女に、彼は続けた。
「ここだけの話だけどね、かっちゃん、よっぽど負けたのが悔しかったのか、泣いてたんだ。だからちょっと確保を躊躇っちゃってさ。それが不審に思えたのかもね」
「でも、あの時、緑谷ちゃんのベルトにはナイフがなかったわ」
──決定的な証拠だった。それは。しかし、「デク」は動じない。
「──見間違いじゃないかな。僕とかっちゃんは幼馴染みだ。そんなこと、する必要ないし、してないよ」
それを見た蛙吹さんは、(汗をかかないわね)と、デクを観察したうえで、追及を諦めた。動揺のなさ。淀みのない回答。そこから、彼はシロだと判断した。
その後、蛙吹さんは帰り、代わりに飯田君と麗日さんが話に加わった。
そのメンバーで暫く話し込んだ後、僕は帰路についた。
この辺割と修正してます。