緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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決着

「さあ来い、来てみろヒーロー!」

 

 核が隠されていた部屋に辿り着くと、そこには飯田君が待ち構えていた。完全に役になりきっており、臨戦態勢を取っている彼には隙がないように見える。

 

「麗日さん、僕が飯田君を引き付けるから、隙を見て核を回収して」

 

 僕は出来る限り声量を絞って無線に向かって囁くと──無線は自動で音量を調節してくれる──飯田君の方向に向かって駆け出した。その足にはワン・フォー・オール8%の力が付与されている。

 

 このままいけば、飯田君に必殺の一撃を叩き込める──。とその刹那、僕の視界から彼の姿がかき消えた。

 

 あの「個性」だ。恐らく、高速移動しているのだろう。

 

 僕がそれを理解した瞬間、僕の横腹に足が突き刺さった。飯田君のものだ。いかにも、といったようなヒーロースーツの力が加味された蹴りは、予想以上に痛い。

 

 だが、僕はただその攻撃を食らったわけじゃない。

 

「な……ッ! 蹴りを食らってながら……っ!」

 

 僕はワン・フォー・オールの力で、刹那に蹴りのベクトルと逆の方向へ運動を発生させていた。これにより、彼の激烈な蹴りを食らっても、僕は吹っ飛ばなかったのだ。

 

 横腹に打ち込まれた足を僕は手でホールドし、そのまま、空いた左手の裏拳を彼の頬に打ち込む。それにより、飯田君は一瞬動きを止める。達人でもなければ、攻撃を受けた一瞬は注意力が散漫になり、思考が止まるものだ。

 

 次の瞬間だった。僕は足のホールドを解き、彼の顎に打撃を入れてから、全身へと、やたらめったらに攻撃を繰り出した。

 

「こんなもんかッ!?」

 

 少々自分のキャラクターには似つかわしくない声色、言葉で叫びながら、飯田君の全身へと拳を叩き込む。ワン・フォー・オールを纏った拳が、緑色の閃光となって瞬く。

 

 その状態が3秒ほど続いた時だろうか。ふと、無線に訓練終了の合図が入った。

 

「な、終了!? そんな、まだ時間には余裕が──」

 

 そこまで言ったところで、飯田君は核の方向に目をやって、そして、「気付い」て絶句した。

 

 核に手を添える麗日さんを見て、絶句したのだ。

 

 あの派手なラッシュは、牽制と、視線誘導(ミスディレクション)を兼ねていたのだ。台詞もその一環である。彼がヴィランになりきったように、僕も、熱血系ヒーローになりきったのである。

 

 

「まぁ、大体分かってると思うけど、今戦のベストは緑谷少年だ」

 

 戦闘訓練終了後、モニタールームで僕はそんな嬉しい言葉をもらった。誰よりも鮮烈に憧れた相手、オールマイトからだ。

 

 かっちゃんとの戦いは──どうやら、僕が勝ったらしい。最後、背中を殴られた辺りから記憶がないが、どうにかあそこから巻き返したらしい。

 

「建物への被害も少なく、位置取りも終始良かった。貫手の一発でヴィランを無力化したのも素晴らしかったな。爆豪少年も個性を活かした、いい立ち回りが出来ていたが──」

 

 戦いとなると意識がトぶのをなんとかしなきゃいけないな、なんて思いつつ、僕は講評を聞いていた。

 

 その後見ることのできた、皆の戦いも白熱した。誰もが「個性」をコスチュームの補正アリで存分に発揮していて、全ての試合に、それぞれ違った見ごたえがあったのだ。

 

 その中で特に白熱したのは、推薦で入学したらしい、炎と氷の能力を持つ轟君の試合だった。

 

 一発。実質、あの試合は一発でカタがついた。ビル1つ分を凍らせるほどの出力を持つ個性もさることながら、その個性を持ながら、相手を壊死させていない。その精緻なコントロールには目を見張るものがある。僕がもしあの個性を持っていたとしても、あのようには扱えないだろう。

 

 ──とそんなことを考えているうちに授業は終わり、僕は教室へと帰った。

 

 放課後。僕は、待ち構えていたかのように声をかけられた。

 

「よぉ、緑谷! 何喋ってたかわかんなかったけど、熱かったぜ!」

 

「一戦目からあんなのやられると気合い入っちゃうよー。あ。頭踏まれてたけど、大丈夫?」

 

「なあなあ、やっぱりお前の個性って増強型なのか? そうだとしたら親近感感じるな」

 

 立て続けに、それぞれ違う言葉を言われ、僕は慌てつつ、なんとか答えを寄越した。

 

「皆ありがとう。でも、あの戦闘──正直、強力な個性に助けられてるだけなんだけどなぁ……」

 

「いやいやいや! 謙遜し過ぎだろ! フツーに動きのキレも良かったと思うぜ」

 

 そう言われて悪い気はしなかった。

 

「ありがとう、ええと──」

 

 そこで僕は言葉に詰まった。赤髪の彼の名前が出てこないのだ。

 

「切島 鋭児郎だ。クラスメートとして仲良くしようや」

 

「私は芦戸 三奈。いやー強いね、君」

 

「俺ぁ砂藤だ。宜しく頼むぜ」

 

 赤い髪が特徴的な切島君に続き、ピンク色の肌をした芦戸さんと、逞しい体つきをした砂糖君も自己紹介をした。

 

「私は蛙吹 梅雨。緑谷ちゃん、ちょっといいかしら?」

 

 そんな自己紹介の流れに乗って声をかけてきたのは、蛙のような雰囲気を漂わせる蛙吹さんだった。

 

「あの訓練、決着の時、爆豪ちゃんにナイフを使わなかった?」

 

 その瞬間。「僕」は一旦その役目を終え、「デク」が表面に顕現された。

 

「使ってないよ。ちゃんと戦って、負けたかっちゃんに僕は確保テープを巻いたんだ」

 

 それでも未だ訝しい表情を崩さない彼女に、彼は続けた。

 

「ここだけの話だけどね、かっちゃん、よっぽど負けたのが悔しかったのか、泣いてたんだ。だからちょっと確保を躊躇っちゃってさ。それが不審に思えたのかもね」

 

「でも、あの時、緑谷ちゃんのベルトにはナイフがなかったわ」

 

 ──決定的な証拠だった。それは。しかし、「デク」は動じない。

 

「──見間違いじゃないかな。僕とかっちゃんは幼馴染みだ。そんなこと、する必要ないし、してないよ」

 

 それを見た蛙吹さんは、(汗をかかないわね)と、デクを観察したうえで、追及を諦めた。動揺のなさ。淀みのない回答。そこから、彼はシロだと判断した。

 

 その後、蛙吹さんは帰り、代わりに飯田君と麗日さんが話に加わった。

 

 そのメンバーで暫く話し込んだ後、僕は帰路についた。

 




 この辺割と修正してます。
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