この編はプロットの段階で構想を緻密に練っていたのですが、予想外の方向に向かっていっていて自分でも何が何やら分からなくなっております。
救助訓練。ヒーローに必要とされる、人命救助の能力を養うためのカリキュラムである。
雄英のそれは従来の学校のものとは違い、緻密に再現された「災害」のフィールドが敷地内に存在するために、より実践に近い形で救助訓練を行うことができるのだ。
命を救う訓練。いい響きである。緑谷出久なんかは、正にその行為に憧れてヒーローを目指していた。
だから、これは皮肉ということになるのだろう。
──奇しくも、命を救える時間に、彼らの前に現れたのは。
──数多の、ヴィランの群だった。
*
救助訓練のフィールド、
それを認識するや否や、相澤先生は引率の教師「13号」へ簡潔に指示を飛ばすと、捕縛武器を活用して、彼我の間にある階段を一気に駆け降りた。
そして、下で待ち構えていたヴィラン数人を一気に無力化してのけると、大群の中へ突っ込んでいく。
「凄い、相澤先生──」
誰かがそう言ったのを、「デク」は冷めた目で聞いていた。
確かにその動きは切れがいい。今なんて、体格差のある異形型個性の相手を殴り飛ばして無力化したのだ。
でも。
彼はドライアイだ。長時間「個性」を行使できない体だ。いずれ限界が訪れる。
早めに助けた方がいいだろう。僕はそれを悟ると、徐に腰からリボルバーを抜いた。そして、装填されている弾を全部抜いてしまってから、こんなこともあろうか、と、所持していた「本物の弾薬」を装填していく。
学校から支給された弾はウッドチップ弾。つまり、殺傷能力のない木製の弾だ。
それでは、あのヴィランたちの動きは止められない。だから、深夜の「征伐」で手に入れた実弾を使う。
犯罪者どもが使っていた
装填し終わると、先ず、一発を相澤先生から少し離れたところに立っている、鉈を持った男の足に撃ち込み、無力化させてから、再び撃鉄を起こして遠くの奴の胸を射抜いた。
そこから更にもう一発。相澤先生に向かってショットガンを向けていた男の脇腹へ弾を撃ち込んだが、しかし、その弾は外れて、男の腕に命中する。そのまま、痛みと神経の切断により、そいつはショットガンを取り落とした。
「──────!」
それで、相澤先生は援護射撃の存在に気付いたようだった。しかし、振り返ってそれを確認することはしない。それをしてしまえば、個性を持続させられないからである。
──とその刹那。彼の個性の作用の間隙を縫って、全身が黒い靄に包まれた人間が、デクを含む生徒の眼前へと出現した。
それを見るや否や、デクはウッドチップ弾を再装填してそいつ目掛けて発砲する。あの靄は「ワープ」の類いの能力を持っているのだろう。それはさっき、ヴィランが靄から出現していたことから推察できる。
それで、攻撃が通らない可能性があったので、彼は敢えて通常の弾薬を使わなかったのだ。
次の瞬間。撃ち出された弾はそいつの胸に命中した。
「ぐ…ッ! 危ないな、生徒とは言え優秀な金の卵──。オールマイトを殺す前にこちらが殺されそうですよ」
その言葉で、生徒全員に不安感が波及した。
「オールマイトを殺す、だと!?」
それを言ったのは爆豪だった。彼の、オールマイトに対する憧れは強い。故に黙っていられなかったのだろう。
「そう。それこそが我々ヴィラン連合の目的」
尚もつらつら語り続けるその男に、デクはしびれを切らした。目的などどうでもいい──一瞬でも速く、こいつを無力化しなければならない。そんな思考が頭を駆け巡っていた。
だから。次の瞬間、彼は躊躇なく前に飛び出していた。地面を蹴り、加速してから、さっき銃弾が命中した位置へと正確に貫手を叩き込む。
揃えられた五指は、そのヴィランに沈んだ。──肉の感触は、無し。防がれた、と彼が認識した時には既に、全てが終わっていた。
デクはその靄に呑み込まれた。靄には彼が推察した通りワープ性能があるので、どこかへ飛ばされたのだということは用意に推測できる。
「少々邪魔が入りましたが、私の役目は変わらない。──金の卵の貴方たちを、散らして──なぶり殺すッ!」
次の瞬間。
靄が広範囲に拡散され、広場に集まった生徒の過半数が、フィールドの各所に転送された。
*
デクが転送された先は疑似の「海」の上だった。彼はそのまま水の中に落ち、そこで、待ち構えていたヴィランに攻撃される。
彼は水中戦闘が苦手だ。泳げないわけではないし、それなりに動けはするが、それでも、地上と比べれば半歩劣ってしまうのである。
デクはヴィランの放った水圧弾を胸に受け、大きく背後へと吹っ飛ばされた。直ぐに反撃しようとするものの、水中であるため、即刻反応することはできない。
そのうちに、水中戦闘に慣れたヴィランたちは彼へと攻撃を浴びせる。
脇腹を貫かれ、腕に攻撃を食らい。胸が薄く裂かれたところで、デクは、自分の頭上から「舌」に引き上げられ、救出された。
「あ、蛙吹さん」
言いつつ、デクは「出久」を表に出してやる。
「────!? こ、ここは.....?」
僕は状況がいまいち飲み込めず、混乱して辺りを見回す。
ここはUSJだ。それは間違いない。バスに乗った記憶はあるし、降りた記憶もある。13号先生の弁舌を聞いたのも覚えているし、相澤先生が退避を指示したのもぼんやりと覚えている──。
だが、そこからがどうにも思い出せない。パニックで記憶がトんでいるのか? それにしたって、この欠落度は異常だと思うが──。
「どっ、どこだよここォ! 水難ゾーンってやつか!?」
──と、そんな声を受け、僕は意識を現実に向けた。
その声の主は峰田君だ。彼もここに飛ばされて来たらしい。僕同様に混乱しており、驚愕に顔を歪めている。
「二人とも、一旦落ち着きましょう。パニックになっててもしょうがないわ」
その言葉に、僕は呼吸を整えて意識を落ち着けさせると、再び思考を開始した。
裏設定をいくつか。
梅雨ちゃんがデクに自分のことを「梅雨ちゃん」と呼ばせないのは、デクのことを警戒しているからです。爆豪の件についてはシロだ、と断じたものの、警戒対象であることに変わりはないのです。
また、峰田君と梅雨ちゃんは船の上に転送されています。黒霧も、ダメージを食らったので焦燥が芽生えてしまったのでしょう。他の人も雑に転送しています。