この辺りの展開はプロットの時点で既に出来上がっていたのですが、思いの外まとめる作業が難解で、更新が遅れてしまいました、申し訳ない。
それでは、今回もお楽しみ下さい。
「今から進路希望のプリント配るが……皆、大体ヒーロー科志望だよねェ~~ッ」
どこか上ずった声で言い切ると、その教師は、プリントを抱えつつ何故かその場で一回転した。それでプリントが舞うが、生徒はそんなこと気にも留めない。否、それどころか、その言葉に焚き付けられたかのように各々の個性を発動させている。
各々の、個性。僕にはないものだ。幼少時、どこかに置いてきてしまった「資格」だ。
個性がない、とわかった日から、僕、緑谷 出久の頭には妙な声が響いている。それは明瞭で、どこか自分のそれに似た声色で、こう呟くのだ。「お前はヒーローになれる」と。
それは間違いなく、自分の欲求の発露だろうと思うし、幻聴だとも思うが、子どもの頃の僕は──今でも十分子どもだが──その言葉に背中を押され、必死にトレーニングをした。それは体術だったり、ナイフ術だったり、剣術であったり銃器の扱いであったり、犯罪心理学であったり、暗殺術、活殺術だったりした。
とにかく、僕は努力したのだ。自分で言うのもおこがましいし、今までの努力量なんて全然とるに足りないものだとも思っているが。
「そう言えばぁ……このクラスには雄英高志望が居たっけなぁ」
その言葉に、反射的に体が動いた。机の下に隠して読んでいた古くさいヒーローの自伝から顔を上げ、その教師の方を見据える。
僕は雄英高校入学を目指しているのだ。無個性には到底無理だと言われ続けてきたが、やはり諦めきれないのである。
「なあ、爆豪?」
その言葉で、教室じゅうの生徒が全員、かっちゃんの方を向いた。
そう。かっちゃん、爆豪勝己は、進路に雄英高校を添えている。完璧主義な彼らしいと思う反面、果たして、偏差値が79もある高校のエリート然とした空気に順応できるだろうか、という危惧もある。
勿論それは僕もそうなのだが、幼馴染みとしてどうしても気になってしまう。
「当たり前! やるからには頂点だろうが! オレはトップヒーローとなり、どんな敵も打ち倒すヒーローになるッ!」
声高らかに宣言したかっちゃんの熱を冷ますように──教卓に立つ担任の教師は「その一言」を放った。
「そう言えば、緑谷も雄英志望だったな」
余計なことを。どこか自分らしくない思考が迸るとともに、クラスに飽和していたざわめきが、一瞬で嘲笑へと変容する。
罵声はない。ただ、軽視され、嘲られるだけ。
「緑谷ァ~~~!? どっからどー考えても場違いだぜッ!」
「頭悪いんじゃあないのかーー?」
「やめとけ、やめとけ!」
そんな言葉に、別段何を言うでもなく、僕はふと、かっちゃんの方に視線を移した。
彼は気性的に、このような展開には真っ先に食い付いてきそうだが──不思議とそうはならないのだ。昔からそうだ。僕のこととなると、急に黙りこくってしまう。
理由は分からないが、どこか、怖がられているような気がする。
かっちゃんはやはり、何も言ってこない。それどころか、さっきまでの気勢を削がれたようで、ばつの悪そうな表情で座り込んでしまった。
それっきり、今の話題が表だって取り上げられることもなく、その日の学校は終わったのだった。
*
帰り道。僕はぼんやりと考えていた。
自分は、個性を人間的な技術でカバーしてヒーローになろうとしている。だけど、それは結局のところ、自分の無力さを誤魔化しているだけではないのか、と。
個性が無ければヒーローにはなれない。それが真理なのではないか、と。
僕には、努力する理由こそあれど、それを肯定する要素が欠如している。個性がないから、と他人からは軽視され、自己肯定すらも満足にできない。唯一肯定してくれるのは、頭に響く妙な声だけだが、それでは、どうも実感が沸かない。
本当に、僕はヒーローになれるのだろうか。
そんな不安が頭を過った時、ふと、僕は、聴覚に妙な音が響くのを知覚した。それは粘液が蠢く音であった。
次の瞬間、反射的にその場から飛び退いていた。それが命運を分けた。1拍置いて、さっきまで僕が立っていた位置に、スライム状の、妙な人間が飛びかかった。当然、その攻撃は空を切り、そいつはつんのめってアスファルトに崩れ落ちたのだが。
──とその瞬間。少年は突然の頭痛に襲われ、よろけて、千鳥足のようなステップを踏んでしまう。
それが隙となった。そんな状態のデクに、そいつは飛びかかる。
「Mサイズの隠れミノ……!」
だが。デクはまたも、その攻撃を回避した。とても重いリュックを背負っているとは思えない軽い身のこなしで、大きく横っ飛びしたのだった。
その時。デクの目には純然たる「覚悟」が浮かんでいた。それ即ち、誰かを襲うものは法を侵す覚悟を決めるのと同時に、返り討ちにされる可能性に対する覚悟もしているのだから、返り討ちにするのは当然の権利だ、という意思の塊であった。
彼は素早くリュックをまさぐり、外付けポケットのジッパーを開けると、中から黒い棒を取り出した。その棒にはトリガーが付いており、持ち手とおぼしき部分には何やらメーターのようなものがついている。──スタンガンだ。
それは特殊な改造が施されており、なんということか、野生の象すらも、その電流を食らえば一撃で倒れるという。
そんなスタンガンの攻撃を、いかにも電気の通りやすそうな体をしているそいつに打ち込めば? ただではすまない。先ず八割がたショック死するうえに、仮に生き延びたとしても、後遺症は免れないだろう。
これはデクが昔、とある没個性の
デクはリュックを投げ捨てると、そのスタンガンを中段に構える。それで、そいつはデクの武器の正体を理解した。
そいつは自分の死を直感したのか、顔とおぼしき部分に焦燥が浮かべた。そして、そのまま、じりじりと後ずさった。逃げる気である。
「逃げるつもりか……!」
しかし、デクはそれを良しとしない。
自分を殺そうとした相手を、許す気はなかったのだ。
次の瞬間、彼は敵に向かって走り込んでいた。鍛えられたデクの脚力で、間合いは一瞬にして詰まった。その状態から彼の腕が閃き、必殺の一撃が叩き込まれる──。
敵は戦きながら、しかし、器用にもそれを回避する。奇跡的な反応、回避速度だった。
だが。この状況はデクの方が圧倒的に有利だ。彼は「覚悟」ができているが、しかし、対してスライムのそれは酷く曖昧で、不明瞭であった。今にも消えてしまいそうな、弱々しい覚悟だ。
刹那、下段まで振りきられたデクの腕が上段へと跳ね戻り、その手に握られたスタンガンが敵に命中した。それと同時にトリガーが引かれ、異常なほどの電撃がスライムを包み込む。
一撃だった。それで戦いの決着がついた。
デクは投げ飛ばしたリュックを拾い上げ、そこにスタンガンを仕舞い込むと、「緑谷 出久」を覚醒させた。
*
僕が目を開けると、そこには異常な光景が広がっていた。
眼前には、全身が黒焦げになった異形型個性の男が鎮座している。「それ」は、息こそしているものの、今にも死にそうではある。
「な、なんだよ……」
自分でも気がつかないうちに、声が漏れていた。
そう言えば、前にもこんなことがあったような気がする。子どもの頃、気がついたら友達を痛め付けていたことがあったような──。
「なんだよ、これ───!」
──「緑谷出久」は、人智を越えた現象への畏怖と絶望から、地面に崩れ落ちた。
どうやってオールマイトとデクを出会わせようか迷っています。
どーすればいいかなぁ……