緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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全面改稿の影響が強めな部分です。


夜が明けて

 帰宅後。デクはデラウェア・スマッシュによって負傷した指を処置しつつ、インターネットで先刻遭遇した(ヴィラン)──「ステイン」について調べ始めた。

 

 ──そして、表示された件数の多さに愕然とする。

 

 「ステイン」とやらは、ネットの世界では有名人だったのだ。やれファンスレ、やれアンチスレなど、恒例の掲示板が立っているのは当たり前で、考察ページやまとめサイトなどもある。驚いたのは、かの有名なネット百科事典にも特設ページが存在していたことだ。

 

 取り敢えず、彼は、その大手百科事典ページを開いた。そこには、大まかな略歴が載せられている。

 

 ステイン。別名を「ヒーロー殺し」という。本名は不明であり、その生い立ちも不明であるとのことで、分かっていることは、本人が名乗っていたとされる名前(「ステイン」のこと)と、メインウェポンが刃物であるということくらいだった。

 

 彼は、どのような選別理由かは分からないが、ヒーローを襲っているようで。その被害は、オールマイト以後の個性犯罪者の中では最多であるという。

 

 その後は考察に近い内容となっていた。この銃がある世の中で、敢えて刃物を使うのは、個性の発動に刃物が必要だからではないか、という、なかなか的を射た考察から、他国からの差し金ではないか、という、陰謀論めいたものまであった。

 

 その次。ページの最下層には、判明している被害者のリストが存在していた。その中には「将来のためのヒーロー分析」で分析対象としたヒーローも含まれている。

 

(ふむ……こうして見ると、放出型の個性のヒーローが多いな……。刃物を使う奴にとっては本来不利な相手の筈だけど……)

 

 そこまで考えて、デクは気づいた。

 

 奇襲。それこそが、奴の基本戦術なのだ、と。

 

 刃物により、街の裏路地や闇に紛れてヒーローを討つ。そうすることで、地形の有利を活かしつつ、中・遠距離の、放出型の個性の強みを殺す。そしてその後に、刃物でその命を確実に断つ──。そうやって、ステインはずっと戦ってきたのだろう。

 

(だったら、やることは一つだな)

 

 ──メイン・ウェポンと思しき長物よりも、さらに短い間合いでの近接戦闘で、素早く、確実に潰す。奇しくもその、対ステイン戦術の素案は、デクが理想とする個性運用の方策と合致していた。

 

 デクはいくつか、かねてより構想していた新スマッシュの案を煮詰めると、眠りについた。

 

 

 翌日。デクは学校に登校していた。

 

 出久人格の摩耗と不活性化にともない、デクは身体の主導権を完全に掌握することに成功していた。元々入れ替わりのタイミングは彼の側が自由に指定できたため、これまでも主導権があると言えばそれはそうだったのだが、とはいえいくつかの制約は存在した。

 

 たとえば、突発的な揺り戻しがある。デクが身体の主導権を奪取できたように、出久もまた、身体の主導権を奪取できる瞬間があったのだ。たとえばそれは助けるべき他人が目の前に現れた時であったり、あるいは昼間の、意識が弛緩状態にある時であったりする。デクが日中、出久側に身体の支配権を委ねていたのには、そうした理由もあった。ただ奪わないのではなく、奪うのが難しい、という。

 

 しかし今、そうした制約の全てはかき消えた。出久の側が身体の主導権を奪取できる瞬間が訪れようが、彼はそれをしなくなっていた。

 

 そのため、これまでは出久側に任せていた日常生活上の雑事も、デクが行わなければならなくなったのだ。彼はこれまで夜にのみ活動していたので、単純に負担は二倍になった。

 

 そのことは面倒臭くはあったが、しかし、損ばかりというわけでもなかった。出久人格が不活性化したことで、デクはより、その目的、その理想のための外堀を埋めやすくなったのだ。

 

 ──なにせ、2週間後には体育祭がある。

 

 そのことを、デクは知らされるよりも前に知っていた。公開情報であるシラバスを読み込んでいたのだ。それに、体育祭は例年、世間的に恐ろしく注目を集めるイベントでもある。

 

 そこでの活躍が今後の未来を分ける。そこに出久を出して、ヘマでもされたらたまらない。デクはそう考えており、それゆえ、この2週間は夜間の活動は控え、体育祭準備に専念することにしていた。

 

 クラスメートとは適度な距離を保ちつつ、座学の授業をやり過ごす。そして実技の授業にはワン・フォー・オールの修練も兼ねて全力で取り組み、そのついでに、夜間の非(ヴィラン)犯罪撲滅作業で負った傷を、授業でついたものだと偽って治療してもらう。そうしてデクは、徐々に、昼間の生活に馴染んでいった。

 

 そんなある日の昼休み。廊下にて、デクはオールマイトから声をかけられていた。

 

 デクはそれで何度かオールマイトと言葉を交わした後、談話室の中に消えていった。

 

 ──それを、見ている人々がいる。

 

(オールマイトと……あれは緑谷か……)

 

 一人は、轟焦凍だった。No.2ヒーロー、エンデヴァーの実子である。

 

(妙だな……二人きりで会ってやがる……)

 

 考え、轟は眉をひそめた。

 

 彼自身が推薦入学者ということもあり、緑谷の存在はノーマークだった。だがオールマイトと二人で会っているとなれば話は別だ──。

 

 その思考は、他の連中と同じようなものだった。

 

 爆豪に──普通科の心操。彼らもまた、遠巻きにデクと、オールマイトを見ているのだった。

 

 ──と、ふと。彼らはデクと目が合った。彼は、自分を見るものたちの存在に気がついていたのだ。それは夜間の活動の賜物であるとも、普段よりも意識が張り詰めていることの表れであるともいえた。

 

 視線を向けられたそれぞれの反応は三者三様だった。

 

 心操は驚愕、轟は苛立ち。そして爆豪は──。

 

(ぐ……!)

 

 ──「恐怖」だった。

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