緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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トラストは脆く

「私の活動時間、50分前後程度になってしまってね」

 

「はあ、そうですか」

 

「──驚かないのか?」

 

「いや、だって。僕が居るじゃあないですか。僕が頑張ればいいでしょう、そんなこと些事になるくらいに」

 

 ──応接室。デクは、あっけらかんとした態度で言い切った。

 

 仮にも、オールマイトは師匠だ。それに、出久はオールマイトを尊敬しており、安定した現代社会が彼によって築かれてきたこと、そして、今の平和を守護しているのも彼であることを良く理解している。そんなオールマイトが、より活動しにくくなったのだ。──本来であれば、こんなことを言う筈がない。

 

(強気なのはいいが──なんなんだ、この違和感は……?)

 

 実際のところ、オールマイトは、そんな彼の態度に違和感を感じていた。

 

 勿論、その違和感の正体は「デク」の存在だ。デクが表面に顕在していることで、オールマイトの持つ出久へのイメージと、現在の出久との間に差異が生じてしまっているのだ。

 

 尤も、そのこと、それ自体は以前にもあったのだが。

 

「それで、大事な話ってのは一体なんなんですか?」

 

「ああ、そうそう。それで呼んだんだったな。それは──体育祭の件だ」

 

 体育祭。その言葉を聞いても、デクは微動だにしない。危機感を感じているわけでも、緊張しているわけでもない。だが、期待しているわけでも、頂点に輝いてやろうという野心が内面で煮えたぎっているわけでもないのだ。

 

「体育祭」

 

「ああ、そうだ。体育祭のシステムは知っているね?」

 

 オールマイトのその問いかけに、デクは、ええ、まあ、と答える。

 

「体育祭は全力で自己アピールできる場だ。君は現状目立てているようだし、授業でもいい成績を叩き出せている。だからあまり心配はないと思うが──君が来た、ってことを、世の中に知らしめて欲しい!」

 

 それは後継者である出久への、激励の言葉であるらしかった。恐らくオールマイトは、体育祭のルールと出久の信念が相反するものだと察し、このような言葉を贈ったのだろう。

 

 しかし。「デク」にそんなものは必要ない。

 

「何言ってるんですか」

 

 デクは笑って言った。

 

「心配性ですねぇ。大丈夫ですよ。言われなくたって、ちゃんと獲ってきますよ、優勝くらい」

 

 まるで、それが当たり前であるかのように。

 

(緑谷少年──)

 

 オールマイトは何やら言葉を紡ごうとした。しかし、それはデクの言葉に遮られてしまう。

 

「あ、もうそろそろ5限なんで。それじゃ」

 

 デクはその場を後にした。

 

 ──その場には、オールマイトだけが残る。

 

(緑谷少年……君は、そんなに自尊心が強い人間じゃなかった筈だ)

 

 オールマイトは考えていた。

 

 彼は教師としては新米かもしれない。しかし、ヒーローとしては一流だ。そこに、他の介在する余地はない。

 

 そんなオールマイトとしての経験が、彼にこう告げていた。

 

 「彼は二重人格なのではないか、もとい、サイコパスなのではないか」──と。

 

 サイコパス、という要素については確証が持てない。しかし、今まで彼が倒してきた、精神と倫理に決定的な欠落を抱えた猟奇犯罪者と、出久の言動に、何か近いものを感じてしまったのは事実だ。

 

 ──自尊心が過大で、どこか自己中心的。達観し過ぎているような態度。ヒーローを目指している彼がサイコパスであるとは考えたくないし、そういう類いの思想を持つ人間はヒーローにはならないだろう、とも思うが、反社会的でないサイコパスも存在しているのだ。自分のエゴを、大義に於ける正義だと勘違いしている輩も。

 

 そして。二重人格、というのはほぼ確定だと、オールマイトは考えていた。いくら何でも、出久の性格が、時によって変わりすぎている。今までの、修行に付き合っていた一年間は、その性格変化の起伏が落ち着いていたので、気付くことができなかったが、今はっきりした。緑谷出久は、ここまで自尊心の強い人間ではない。それが180度性格転換してしまった原因は、別人格が表面に浮かび上がっているからに違いない──と。

 

(さっき感じた違和感の正体! ──それは、「二つ目の人格」だったのだ……ッ!)

 

 オールマイトはやるせなさに、拳を強く握りしめた。

 

(あの様子では、「緑谷少年」は、二つ目の人格があることに気付いていないだろう……)

 

 彼は、純粋にヒーローに憧れる人間だ。それは、一年間接する中で、痛いほど伝わってきた。

 

 あの自尊心の塊な人格にはない、「資質」が緑谷少年にはある、とオールマイトは分かっていた。膨れ上がった心ほど脆いもの。それがなく、確固たる信念を持った緑谷少年は強い、と、経験からよく分かっていた。

 

 ──二重人格。オールマイトの主観から見て二つ目の人格は、見初められたのが自分でなく、「緑谷少年」の方だと気付いていただろうか。彼はふと、そんな思考が浮かび上がってくるのを知覚した。

 

(いや、気付いていただろう。でなければ、事あるごとに緑谷少年を表面に出したりはしない。緑谷少年が居ないと困ることがあるのだ、きっと……では何故、今になって、緑谷少年を奥に封じ込めようとした? 封じ込めなければ、私も気付かなかったろうに)

 

 オールマイトの思考は止まらない。元来、彼の勘は鋭いのだ。少ない材料からより的確な推察を導き出す力。ヒーローに必要な能力の1つだ。

 

(──まさか)

 

 ふと。彼は、「とんでもないこと」を思い付いてしまった。

 

 その忌々しい考えを封じようと、こめかみに指を当てて深呼吸するも、「それ」は頭から離れない。

 

(まさか、緑谷少年)

 

 その、「とんでもないこと」とは──。

 

(君の「人格」に、何かあったのか……? 表面に出したらまずい、「何か」が──)

 

 どこまでも悪辣な世界が彼にもたらした、「真実」だった。




 うーむむ。やっぱり内容薄いですかねぇ......
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