緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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ずっと書きたかった話です。ようやくここまで辿り着きました。


「SMASH of the people, by the people, for the people」

 世界が、崩壊していく。

 

 死柄木が触れた人物から伝播した崩壊反応は、地面を伝い、ショッピングモール全体へと及んでいた。

 

 タイルが抉れ、基礎が崩壊する。それは建物の柱も同様であり、支えと支えの支えを同時に失った建物は、後から後から崩壊していった。

 

 周囲にいた人々には、逃げ惑う自由さえなかった。一瞬のうちに崩壊現象によって体が崩れ、塵と化してしまったからだ。

 

 デクは咄嗟に、ワン・フォー・オールを全開にして逃亡した。弾かれたように上に飛び、そのまま圧縮ガントレットを装備する。

 

 そのガントレットは、個性による腕への負担を軽減するものである。これを装備すれば、常時50%ほどの出力で能力を行使できるほか、数回であれば、ノーリスクで100%スマッシュを放つことさえできるのだった。おまけに、自己修復機能も搭載されており、末端を削ることで先端の、重要な部分の防護を復活させることができる。

 

 それは元々は防護装備であったが、ワン・フォー・オールの前では補助装備になる。

 

 ──これを使い「奥の手」を、破壊現象の中心にいる死柄木に打ち込む。

 

 今や破壊の奔流は留まるところを知らなかった。数層構造になっているモールは支えを失ったためにはりぼてのように崩れており、その破壊範囲は徐々に拡大していた。

 

 遅れて、破壊範囲から離れた場所にいる群衆が逃げ出し始めた。だがそれはパニックの様相を呈しており、ヒーローや警察による避難誘導への期待もできないため、それが収まるまではしばらくかかりそうだった。

 

 やがて。施設の半分が崩壊したところで、ひとまず現象は終息した。

 

 デクは個性を複数回地面に打つことで保っていた滞空状態を解除し、瓦礫の背後から死柄木の様子をうかがった。

 

 避難はゆるやかにではあるが、進んでいる。その一方で、駅の近くとはいえあくまでも郊外に位置するこのモールまで、警察やヒーローが駆けつけるまでにはしばらくかかるだろう。この事態が外側に通達されるまでどれくらいかかるかさえ分からなかった。

 

 それは、デクにとっては好都合ではあった。

 

 彼は再び跳躍し、五指を揃え、死柄木の死角から迫っていく。

 

 刹那、崩壊現象が、再びモールを襲った。

 

 件の現象は脅威ではあったが、しかし、よく見れば対応できないものでもなかった。彼の個性は「感情」に紐付けられたものであり、その感情が優先的に向かう先──個人の認識を支える視覚や聴覚によって捉えられる世界──に率先して殺到するものだ。これは恐らく、彼の個性が未だ未完成であるがゆえに可能な策なのだろうが──ともあれ、彼の死角から、ある程度の余裕をもって滞空しつつ近付けば攻略が可能なのだった。

 

 死柄木との距離は、加速度的に縮まっていく。その病的に細い背中が、徐々に彼の手刀の間合いに近付いてくるのを、彼は至福とともに感じていた。

 

「あ……」

 

 刹那、デクは──否、()()()()()()出久は、激情と破壊の奔流の中に、小さな子どもの幻影を見た。

 

 黒髪の、皮膚のところどころにかきむしった痕のある、どこか投げやりで、決定的に破綻してしまった少年──それは確かに、死柄木弔だった。かつて志村転孤と呼ばれた少年だった。

 

 その壊れたように笑う顔は、助けを求めているようにも見え──。

 

「──Confederate States of Smash」

 

 囁くように言い、デクは揃えた五指を、迷いなく現実の死柄木の胸に突き刺した。

 

 コンフィデレイト・ステイツ・オブ・スマッシュ。そう名付けられたそれは、純然たる殺意の表象だった。ワンフォーオールの潜在能力のすべてを、ただ一撃──急所を破壊するための一撃に集約させた必殺の技巧。

 

 刹那、すべてを嘲り笑い飛ばすような死柄木の表情が綻んだ。そこに顕れていたのは怒りであり憎しみであり痛みであり──そうした表現を超えた、空虚で、決定的ななにかが欠落したものだった。

 

 だが、対照的にデクの意識は欠片も綻んではいなかった。彼は躊躇いも興奮もない動作で、正確に腕を死柄木の胸から引き抜いた。その指には、赤黒く輝く心臓が乗っている。

 

 デクが力を込めると、ぶちぶちぶち、といっそコミカルな音をたて、心臓を肉体につなぎ止めていた血管が切れていく。

 

(ああ──)

 

 その音を聞いたデクは一瞬、口許に笑みを浮かべた。

 

 直後。彼はその表情を変えることなく、掌の心臓を握りつぶした。

 

 変化は劇的だった。瞬間、死柄木の全身から力が抜けていき、次いでさっきまで心臓があった位置に空いた大穴から大量に血が抜けていった。命の喪失。その予感がデクの頭を駆け巡ったときには、死柄木はすでに床に崩れ落ちていた。両の手と足を放り出し、虚ろな眼をどことも知れぬ虚空に向けている──死んでいた。

 

 死んでいた。

 

 死んでいた。

 

 死んでいた。

 

 ──否、救えなかった。

 

「デク……?」

 

 ふと、声が聞こえてきたので、デクは後ろを振り返った。

 

 そこには、爆豪勝己が立っていた。焦燥をその顔いっぱいに浮かべ、肩で息をしている。恐らく、ここまで走ってきたのだろう。辺りに仄かに漂う焦げ臭い匂いから、個性を使ったのかもしれない、とデクは咄嗟に推察する。

 

「ああ、かっちゃん」

 

「何した、テメェ」

 

 そう言った爆豪の眼は、デクの足下の死柄木に向いている。

 

「何って……僕は僕の、やるべきことをしただけだよ」

 

「ふざけんじゃ……ねえぞ……」

 

 言う爆豪の身体は、どうしようもなく震えている。

 

 恐怖。今ここで、彼の中の、デクに対する恐怖は最高潮になっていた。塵となったショッピングモールに。何の臆面もない殺人に。あるいは、これまでと変わらない顔でそこに立っている彼に。

 

 変わらない。その事実に、爆豪は戦慄した。

 

 彼は。出久の中にいるデクは、ずっとそこにいたのだ。彼を叩きのめして、恐怖で萎縮させていた存在はずっと、ずっと、この残酷な殺人が可能な状態で佇んでいたのだ。

 

 そしてこの怪物を生んだのは──。

 

「ああ、そうだよ……」

 

「…………?」

 

「お前を生んだのは、俺だ。俺の暴力が、俺の悪意が、お前を生んだんだ。幼い苛立ちが、お前を傷つけた。だから──」

 

 瞬間。デクは間合いを詰め、爆豪の胸ぐらを掴んだ。

 

「だからなに?」

 

「お。おれ、は──」

 

「今更、何を言おうっていうのかな」

 

 地獄の底から響いてくるような声色で、デクはそれを口にした。

 

 爆豪は何も言えない。彼自身にとってのトラウマが眼前にいる状態で、圧倒的優位を取られている状況で、彼はあらゆる言葉を封じられてしまっていた。

 

「遅いよ、何もかも」

 

 囁くように言い、デクは爆豪の全身に拳をたたき込み、遥か遠くまで爆豪を吹き飛ばした。彼はミサイルのような速度で、積もった瓦礫の山に突き刺さる。

 

「が……ッ!」

 

 そんな彼に、デクが追撃をかけようとした時だった。

 

 ふと彼は、腐った臭いを嗅覚でとらえた。その臭いは次第に、その濃度を増していく。

 

 彼はすぐに、その発生源を突き止めた。

 

 それは彼の周囲──否、彼が殺した死柄木の死体の周囲だった。そこに、黒い、粘液質のゲートが開いていく。その数は──13。そしてその内部からは、脳を全開におっぴろげた怪人、脳無が現れる。

 

 しかも、そのうちの何体かはただの脳無ではなかった。体表の黒い、最上位(ハイエンド)と呼ばれる個体だ。

 

 彼には知るよしもないことだが、これは死柄木を殺され、その計画の大部分が破綻したことに激昂した巨悪、オールフォーワンが送り出したものだった。出し惜しみのない、全力の戦力投入。そこに現れた脅威は、いつかのUSJよりも、体育祭よりも、遙かに強く、遙かに危険なものだった。

 

 ──デクは拳を構えた。闇の帝王の意思。遂に実体を表したそれが、デクに襲い掛かろうとしている。

 




ヒロアカ六期OPのために、この一連の抹殺シーンの凄惨さが5割増しくらいになった気がします。
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