緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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完成

 

 ハイエンド脳無。複数個性所持に耐えられるように全身に改造を施された怪人「脳無」の上位種だ。デクはその名称は知らないが、その体表の色と、フードのような形状の頭部から覗く眼から、その相手が強敵であることを直感していた。その感覚の裏には、むろん、USJにおける脳無との会敵があっただろう。

 

 粘液質のワープゲートから出現した脳無の多くは、デクを無視して、ショッピングモールの向こう側へと向かっている。翼を持っているのだ。

 

(野次馬はともかくとして──報道ヘリを襲いに行ったのか……? オール・フォー・ワンはここから情報が漏れることを恐れているってことか?)

 

 そんな思考が浮かび、消えるよりも一拍ほど速く。

 

 ハイエンド脳無──フードの姿が視界からかき消えた。ジェット噴射による加速である。その突進と、それに次ぐ殴打によって、デクは大きく後ろに吹き飛ばされた。

 

「ぐ……ッ!」

 

 うめき、デクは直ぐさま態勢を立て直した。咄嗟に防御姿勢を取っていたので、ダメージは最小限に抑えられている。

 

 その様子を見、フードは薄く笑った。

 

「なンだ……? 大シたこト……な、なイ?」

 

 喋った。その事実にデクは一瞬驚いたが、すぐに冷静になり、思考を回し始める。

 

(違う……! あの雑魚脳無はあくまでも加勢対策だ……この特別な脳無と僕を一対一でぶつけることで、確実に殺そうって算段か……)

 

 実際、その脳無の力は、USJに現れたものよりも遙かに強かった。ここに超再生が合わされば、一筋縄ではいかないだろう。

 

 と、ふと。フードは身体から、下位種の脳無を二体、排出した。それは真っ直ぐに、デクへと向かってくる。

 

 動きを止めるための肉壁だろう。そう推察し、デクは一体をマンチェスター・スマッシュで蹴り飛ばすと、もう一体にデラウウェア・スマッシュを放った。どちらも、ガントレットの補助に頼り50%出力で撃っている。

 

「…………!」

 

 それで、デクは気付いた。

 

 スマッシュの威力は、足を用いた直接攻撃であるところのマンチェスター・スマッシュの方が上である。だが先刻の攻防において、より大きなダメージを受けていたのはデラウェア・スマッシュを受けた方だった。──その理由は明白。頭部に攻撃を受けたためだ。

 

 脳無の弱点は、むき出しの脳なのだ。

 

(そう考えると──なんとも皮肉な名前だな)

 

 デクは苦笑した。だが余裕ぶっている暇はない。直ぐさま、デクは下位種2体をデラウェア・スマッシュで殺すと、フードに向かっていった。

 

「ネブラスカ・スマッシュ」

 

 腕を回転させ、そのエネルギーを収束させた殴打を一先ずみぞおちに叩き込む。だがその一撃は、一切の手応えを欠いていた。

 

(衝撃吸収の個性……! ダメージを蓄積させることは考えないほうがいいな……!)

 

 デクは大きく横っ飛びし、反撃の殴打を回避すると、そこからデラウェア・スマッシュで後ろにも距離を取りつつ牽制の攻撃を放った。勿論、その衝撃も吸収されてしまう。

 

 それを見るや、フードは再びジェット噴射によってデクに突撃した。だが先刻と同じパターンのその攻撃を、彼は読んでいた。

 

 上体をそり、その攻撃を巧みにかわすと、彼はその姿勢のまま五指を揃えて手刀を作り、それによりヴァージニア・スマッシュをフードの右腕に叩き込んだ。50%出力の、圧縮された一撃。それにより、怪人の右腕は吹き飛んだ。

 

 デクは再び距離を取る。拳を構えつつ、フードの動きを観察する。

 

「今のハ……効イた……ぞ……」

 

 フードは特に苦悶の声もあげずに、その腕を再生した。

 

 デクはそれに舌打ちをする。ある程度予測できたこととはいえ、回復されるのは厄介だった。

 

(再生時間は──二秒ってとこか……)

 

 デクはバックパックからスタングレネードを取り出し、目を閉じつつそれを投擲(とうてき)した。

 

 一拍も置かずに、それは破裂し、光を辺りにまき散らす。それと同時に、デクは駆けだした。真っ直ぐに、フードへ向かって。

 

 彼は刮目し、やや50%よりも出力を上げてマンチェスター・スマッシュを右足へ刺した。それにより、足は半ばから切断される。

 

 当然、それは直ぐに再生されるだろう。だがそれでも構わなかった。デクが作り出したかったのは永久的なダメージではなく、一瞬の隙だ。

 

 瞬時に、デクはフードの頭に組み付いた。そして100%の出力で二度、ヴァージニア・スマッシュを放った。衝撃吸収を貫通し、確かな肉の感触が指へと伝わる。

 

 勝利を確信し、ダメ押しでデクは超速のフロリダ・スマッシュを放った。ぐちゃり、と生々しい音が響き渡り、フードのむき出しの脳が破壊される。

 

 だがそのダメージは十分ではなかった。フードは刹那、ジェット噴射によってデクを振り払い、翼を展開して上空へと逃げた。

 

「くそッ!」

 

 毒づき、デクは拳を振り上げた。

 

 ここで奴を逃がすわけにはいかなかった。確実に、葬り去らねばならない。

 

「ニューハンプシャー・スマッシュ!」

 

 叫び、デクは下に向けてスマッシュを放つことでフードの方向へ向けて急上昇した。そして再び空をスマッシュで打つことで急降下する。

 

 これにより一瞬で間合いを詰めたデクは、空中で強引に態勢を立て直し、ヴァージニア・スマッシュを放った。100%出力。それにより、フードの脳は完全に破壊され、絶命した。生体反応が完全に消失し、地面に向かって落ちていく。

 

 だがそれは、ガントレットと引き換えだった。瞬間、デクの右腕のガントレットはひび割れ、崩壊してしまった。耐性の限界である。

 

(く───)

 

 デクはデラウウェア・スマッシュによって制動をかけ、地面に降り立った。だがそれにより、左腕のガントレットもまた、その装甲の大部分を失ってしまった。

 

 もう彼は、全開の戦闘はできないだろう。だが──これ以上の戦闘など、必要はなかった。

 

(あんなのと──どうやって戦えばいいんだ……)

 

 遠くから一連の戦闘を見ていた爆豪の心には、諦観と、それに縁取られた絶望が生まれていた。

 

 USJでオールマイトが苦戦した相手よりも、更に強い怪人との戦闘。それをデクは、無傷でこなして、しかも勝利して見せたのだ。

 

 現在の日本において、純然たる戦闘能力が最も高いのは、デクなのだろう。オールマイトの個性を「活殺」の一点において研ぎ澄ませた存在。それは最も強力で、最も凶悪である。

 

 デクの狙いは、それを示すところにあった。多少強引な行動であっても、(ヴィラン)連合の頭目と、その組織の切り札とおぼしき怪人を仕留めた人物とあっては強引に追放するよりはむしろ懐柔した方が得策だと考えるのが自然であり、合理的である。デクはそのことを、雄英高校に、オールマイトに、そして社会に知らしめることを目的としていた。

 

 だがそれは、出久の在り方ではなかった。それどころか、出久の精神性を著しく毀損し、破壊する志向性であった。

 

「違う……そんなのは……違う──」

 

 爆豪はそう呟き、立ち上がった。デクはそれを敏感に察知し、再び彼の間合いに入る。

 

「何か言ったかい、かっちゃん?」

 

「…………ッ!」

 

 叫び、爆豪は本能的に後ずさった。だが、デクはそれを許さない。その胸ぐらを掴み、顔を殴りつけて地面に叩きつける。

 

「デク……頼む……」

 

 ふと、爆豪の言葉に、デクは訝しげな表情をした。

 

「何を言ってる?」

 

「俺の話を聞いてくれ……」

 

 問いかけには答えず、爆豪はデクの両肩を掴んだ。だが、それ以上は何もしない。ただ、眼を合わせ、何事かを言おうとしているだけだ。

 

「……らァッ!」

 

 切迫した気合いの叫びとともに、デクはそれを振り払った。フロリダ・スマッシュによる打撃。それが爆豪を襲い、悶絶させて地面に転がす。

 

 だがそれでも、彼は立ち上がる。再びデクの両肩を掴み、口を開く。

 

「頼む、から……」

 

 その目には、もう何のプライドも宿っては居なかった。そこにあるのは、一つの思いだけだった。だがそれが何なのか、デクには分からない。

 

「…………?」

 

 疑問符を顔に浮かべつつ、デクは再び爆豪を吹き飛ばした。顔へのネブラスカ・スマッシュ。それは多少加減されていたものの、致命的な一撃であることに変わりはなかった。

 

 爆豪は吹き飛ばされ、口から血を流した。口内が切れたのだろう。

 

 と、ふと、そんな爆豪が顔を上げ、デクの──否、緑谷出久の身体の眼を、真っ直ぐに見据えた。その顔には青あざができており、鼻から、あるいは眼から出血していた。

 

「…………ッ!」

 

 瞬間。デクの心臓は波打った。体中がけいれんを起こし、腕が、足が、眼が、彼の意思に反して動いていく。

 

 出久だ。咄嗟に、デクはそれを悟った。出久が、目覚めようとしている。

 

「こんなことで……!」

 

 毒づき、デクはなんとか自分を制御しようとした。

 

 だが、けいれんは次第に激しくなっていく。口も動き始め、そこから言葉が漏れ出す。

 

「か……っちゃ……ん……」

 

 それは、そう言っているのだった。

 

「がアッ!」

 

 うなり、デクは自分の顔を拳骨で打った。それにより、けいれんは止まる。

 

 だが、それは事態の終了を意味してはいなかった。

 

 次の瞬間、デクの意識は二つに引き裂かれた。

 

 依然として、彼の意識は緑谷出久の身体の主導権を握っている。だがそれとは別に、デクの意識は、彼の内側──こう言って良ければ、精神世界の中へと突き落とされた。

 

 精神世界。それは何も、便宜上の呼び名ではない。

 

 ワン・フォー・オール。それは、その個性によって作り出された体内の位相であった。

 

 空には鈍色の雲がかかり、豪雨の到来を告げていた。

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