緑谷出久はサイコな二重人格のようです   作:サハクィエル

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救済と授与式

「──何だ、この状況は」

 

 通報を受け、夜の廃工場に駆けつけたプロヒーロー、「プレイサー」はその光景を見て唖然とした。

 

 そこでは、数人の人間が不自然にばたばたと倒れており、数人に目立った外傷はないものの、他数人には本当に残酷な傷が残っているのだった。急所だけを的確に破壊されている。プロの犯行だろう、と彼はあたりをつけた。これは武術か、あるいは殺しのプロの犯行だ……。

 

 彼は急いでそこに駆け寄り、傷口に、無遠慮に手を触れた。そうしなければ、彼の「個性」は発動しない。

 

 手が傷口に触れた瞬間。少年の体は光に包まれた。そして、僅かではあるが、傷が再生を始める。

 

 これは傾向を誘発する個性。あまりにも不確定なその才能は、本人すらも筆舌できない。

 

 その個性は、「生命へと向かう人の意思を増長させ、生存の確率を上昇させる」というものだった。個性因子解析にかけて初めて、その全容がわれた特殊なものだ。

 

 そう、特殊。たぐいまれな個性は、実のところあまり応用が効かない。精々、出来ることと言えば矮小な再生程度なのだから。

 

 それでも、自分はプロヒーローとしての生活を全うできている。その点で、彼に才能が介在しているのは明白であるし、本人も薄々気付いているが、それを誇示したりはしない。それがプレイサーの思い描くヒーロー像だった。

 

 そんな彼も、流石に、眼前の光景には、状況には息を呑んだ。

 

 この状況。誰が作り出したのか知らないが、尋常ではない。通報のタイミングにしたってそうだ。あまりにも出来すぎている。後少し──5分でも通報が遅れていれば、個性による救援など見込めず、事切れてしまっていただろう。

 

 被害者の外傷が、一人を除いて綺麗過ぎるのも妙だ。彼らの傷は、体術、否、活殺術のプロかのような手際で付けられていた。

 

 計算し尽くされている──。プレイサーは、そう思わずにはいられなかった。

 

 

 ──時は進み。その週の金曜日。僕、緑谷出久は、海浜公園という、近所の公園に呼び出されていた。

 

 10分前にその場所に到着した僕は、ふと、その公園の景観を目に入れ、溜め息をついた。

 

 そこは地獄の底のような場所であった。一面に広がるのは地面ではなく、最早誰からも見向きすらされなくなった、言わば「ゴミ」の群。

 

 それは空き缶や古新聞などと言った定番なもののみならず、冷蔵庫や自転車、電子レンジや、挙げ句の果てには乗用車までもが投棄されていた。

 

 不法投棄の横行する公園。漂着するゴミも合間って、凄惨な光景がそこには広がっていた。

 

 誰か片付けないのか、と思うと同時に、あれを片付けるのは苦労するだろうなぁ、とも思う。迂闊に手を出せば、労力と時間を根こそぎ持っていかれかねない。

 

 そんな思考を瞬かせる僕に、背後から声をかける人が一人。それは、オールマイトその人に他ならなかった。本来の姿(トゥルーフォーム)で、一目ではオールマイトと分からないが、それでも彼は本人だ。僕にはそれが分かる。

 

「やぁ、少年。待ったかい?」

 

「い、いえ、全然」

 

 この会話、どこか恋人同士のそれみたいだな、と、僕は刹那に少々場違いな思考をしてしまい、胸中で苦笑した。

 

 内心では舞い上がっているのだ、僕は。だから、そんな他愛のない思考が生まれる。

 

「怪我は大丈夫なのか?」

 

「折れてはいなかったようなので、まあなんとか。でも、ヒビが入ってて──完全に回復するまでには、まだ時間がかかるそうです」

 

 動けるには動けるが、それでも負傷はあるし、時々痛んだりもする。

 

「そうか──。私の「個性」がすまなかった。改めてお詫びさせてくれ」

 

「い、いや、あれはあのヘドロ敵の所為で──仕方ないですよ」

 

 ヘドロ敵は既に亡くなっているが、その際、彼は肉体的に無茶をしていたようだった。所謂、火事場の馬鹿力──。それが発動していたようだった。ニュースのコメンテーターがしたり顔で「追い込まれた敵はジャッカルより狂暴なのかもしれませんねぇ」などと言っていたので知っている。

 

「それで、オールマイト。どうして、僕はここに呼び出されたんですか?」

 

「個性を渡すためでもあるし.....うん、一言で説明するのが難しいな。それじゃあ、追って説明しよう。先ず、ちょっと脱いでくれるかい」

 

「───へ?」

 

 思わず間抜けな声がもれた。

 

「ぬ、脱ぐって?」

 

「ああ、勘違いしないでくれ。別にいかがわしい意味じゃない。君が「器」かどうか.....体を見て確かめたいのでね」

 

 言ってることの意味は良く分からなかったが、取り敢えず、いかがわしい意味ではないことは分かった。なので、僕は僅か躊躇いつつも、着ていたジャージを脱ぎ、地面に置いてから、下に着ていたTシャツも脱ぐ。

 

 そこには何年にもわたって鍛えられてきた筋肉があった。DNA的な問題なのか、はたまた、定番の鍛え方をなぞっただけのいつものトレーニングの問題なのか、ハリウッドスターのように洗練されてはいないが、しかし、それでも十分な筋肉がある──と自負している。

 

「うーん。器としては大丈夫かな.....」

 

「ええと、オールマイト。さっきから、器、とは、何の話ですか?」

 

 そう問いかけると、オールマイトはいつもの姿(マッスルフォーム)へと変容して、謳うように言った。

 

「私の個性、『ワン・フォー・オール』の承け手のことさ! それが半端であれば、個性に殺されてしまうことになる」

 

「個性に.....」

 

「ああ、不安がることはない! 君は大丈夫だから」

 

 大丈夫。その言葉に、とてつもない安堵感を覚える。

 

「さ、それじゃあ授与式だ」

 

 言いつつ、オールマイトは髪の毛を抜いた。

 

「これは受け売りだが──最初から持っているものと、認められ、受け継がれたものは、力の本質が違う! 芯のある力、つまり本物の力ということだ! ──肝に命じておくんだ。これは、自分が勝ち取った力なのだ、と」

 

 言い終わると、オールマイトは手を差し出した。そこには、髪の毛が握られている。

 

 嫌な予感がする。僕は咄嗟に身構えた。

 

「食え」

 

「────え?」

 

 また間抜けな声がもれた。

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