一番使い込んでるのはリリカちゃんです。
グスタフ・ハイドリヒは駆けていた。
鍛えられた筋肉といかにも凶悪な人相を持ち、右目に傷跡がある大男。
見た目の年齢は二十代後半から三十代前半だろうか。
背中に背負う毒兵器のチューブは呼吸器と手袋に伸びており、戦いの時は絶えず毒を放出している。
その毒は、グスタフ自身も傷つける猛毒だ。
「俺としたことが失念したな。背後からの奇襲に気づかないとは」
背後に敵の姿を見た瞬間、グスタフの身体は打ち上げられた。
その間、彼の持つ毒兵器は空中で持ち主を蝕み続けた。
体力が削れたところにアダムと乃保の集中砲火を受け、グスタフの身体はナタデココ状に霧散。
スタート地点に逆戻りだ。
「早く前線に戻らねば。ただおみ一人だけでだけであの猛攻を耐えきれるとは思えん」
Cポータルまでの道のりが異様に長く感じる。
でらクランクストリートの角を曲がると、忠臣と乃保の一騎打ちが展開していた。
どうやら杞憂だったらしい。流石忠臣と言ったところか。一人でアダムと乃保を相手するとは。
「食らうがいい!」
忠臣のフルークが乃保にヒット。
乃保はチェーンソーを落としてナタデココとなった。
「ただおみ!爆発に巻き込まれるぞ!」
「…すまぬな、グスタフ。足が動かぬのだ」
直後、チェーンソーは忠臣を巻き込んで爆ぜた。
二人を同時に相手して疲弊した忠臣は、生き残っていなかった。
どうやら乃保に移動速度を落とされるカードを使われていたらしい。
とにかく、Cポータルはガラ空きだ。
さっさと頂くとしよう。
「…急ぎます」
突如人影が現れ、グスタフのポータル確保を妨害する。
どこにでもいけるドアか。
アダムか?乃保か?
…いや、違う。残りの一人だ。
「ポータルキーは取らせません!」
グスタフの前に立ちふさがったのは、彼より一回りも背の低い少女だった。
黄と銀の鎧に身を包み、オルレアンフラッグと盾を装備している。
頭には月桂冠にも似た装飾品を着けていた。
ミディアムの金髪が美しい。
聖女・ジャンヌダルクが、そこにいた。
「俺の邪魔をするか。…どうなっても知らんぞ」
「守ります…何があっても!」
グスタフとジャンヌの戦いが始まった。
グスタフは近づいて直接パンチや回し蹴りを仕掛けるが、ジャンヌは器用に避け続ける。
常に動きながら相手の攻撃を避け続け、味方が来るまで耐え続ける。
タンクの基本戦術だ。
攻撃が当たらず、グスタフはイライラを募らせる。
「さっさと片付けるか…全開だ!」
グスタフはサテライトキャノンを発動。
毒兵器の出力を上げ、一気に周囲へ放出した。
強烈な衝撃波を受け、ジャンヌの華奢な身体は吹っ飛んだ。
身体が霧散していないということは、まだ倒しきれていないということ。
追撃をかけようと、グスタフはジャンヌに向かって走り出した。
「くっ…離れなさい!」
ジャンヌがオルレアンフラッグを振り回した瞬間、グスタフの目の前でスパークが発生した。
「ぐおっ⁉︎」
身体が痺れて動かない。
意識が飛びそうになるが、鋼の意思でギリギリ踏みとどまる。
バチッ。
「?」
朦朧としている意識の中、何かがショートしたかのような音が響いた。
そして、背中の毒兵器が爆発した。
「⁉︎」
毒は自身を覆い、命を奪おうとする。
更に。
(リスポーン…しないだと…⁉︎)
通常、#コンパスでは致死量のダメージを受けると、その前にスタート地点に強制的にリスポーンさせられる。
だが、今回は何故かそれが発動しない。
バグかどうかは不明だが、結果グスタフは毒に蝕まれたまま、動けなくなってしまった。
「グスタフさん!グスタフさん!!」
ジャンヌの叫ぶ声が聞こえる。
他の足音も聞こえるが、グスタフにそれを確認する術はない。
(…俺は、ここで死ぬのか…?)
グスタフは死を覚悟した。
ただでさえやっと繋ぎ止めていた意識が飛びかかる時、ジャンヌと忠臣の声が聞こえた。
「馬鹿者!貴様も死ぬぞ!」
「構いません!助かる可能性があるのなら!」
…言い争っているのか?
「私が…貴方を救います!」
グスタフの意識は、そこで途切れた。
×××
「驚きだねぇ。自分も毒に侵されながら回復し続けるなんて。まぁ、今回はそのおかげで助かったんだけどね」
「…あぁ、そうだな」
グスタフは生きていた。
×××
彼が目覚めた時、そこは医務室のベッドだった。
基本的にバトルで負ったケガはリスポーンすればどうとでもなるこの世界では、医務室の出番は意外と少ない。
今回のようなパターンは非常に珍しく、普段はせいぜい風邪をひいたヒーローが使うくらいである。
グスタフは、見舞いに来た忠臣から事の顛末を聞いていた。
「貴様が倒れた時、ジャンヌが必死になって貴様を回復していた。自らも毒に侵されながらな」
「…そうか、あいつが」
結果的に、それがグスタフの存命に繋がった。
ジャンヌの勇気ある行動が無ければ、グスタフは死んでいた可能性もあったという。
その後、Voidollの介入もあって試合は強制中断。
二人は医務室へと運ばれた。
「ジャンヌって子はすぐに退院できるらしいけど、アンタはひどいね。直接毒を浴び続けたから、数週間は入院しないといけない」
グスタフの部下であるアンジュ・ソレイユがそう言った。
彼女はグスタフの毒兵器の開発に携わった人間の一人である。
今回の毒兵器の暴走の報告を受けて、#コンパスの世界までやって来たのだ。
「爆発の原因は電撃によるショートみたいだね。改良したい部分がいくつかあるし、しばらく私が持っていくよ。どのみち、アレが無きゃアンタは戦えないだろ?」
「…あぁ、そうだな」
「ついでに、面白そうな子も見つけたしね」
「なんでボクがグスタフの兵器作りに参加しなきゃいけないのさー!」
テスラが不満げに叫ぶ。
発明の技術を買われ、しばらくアンジュの元へ連れて行かれるらしい。
「テスラ、アンジュはそういう女だ。諦めろ」
「指揮官なら部下の非行くらいなんとかしろよー!」
「普段のイタズラの罰だと思うんだな」
テスラはグスタフに文句を言い続けたが、最終的にアンジュに連れて行かれた。
「我もそろそろ行かせてもらおう。ぼいどーるから当時の話を聞かせてくれと言われている」
「そうか。来てくれて悪かったな」
「気にするな。我と貴様の仲だ」
そう言って、忠臣は医務室を出て行った。
残ったのはグスタフと、隣のベッドで横になっているジャンヌだけだ。
カーテンがかかっているため、隣の様子は分からない。
(…俺も寝るとしよう)
そう思って横になった途端、カーテンが開いた。
案の定、そこには病人服姿のジャンヌがいた。
「…どうした」
ジャンヌの方に顔を向けると、彼女は申し訳なさそうな顔をしていた。
「あのっ…ごめんなさい!」
「…どうした。何故お前が謝る必要がある」
「いや、その…私の攻撃でこうなってしまったんですよね?そう思うと、その…申し訳ない気持ちでいっぱいで…」
ジャンヌは慌てた様子で話し続ける。
「気にするな。戦場ならこういうこともあるだろう」
「でも…でも!グスタフさん、そのせいでこんなことに…」
グスタフ本人は特に気にしていないのだが、ジャンヌは責任を重く感じているらしい。
ジャンヌは続ける。
「ですので…その、一つお願いがあるんです」
「なんだ?」
「私は毒を少し浴びたくらいで済んだので、明日には退院できると聞いています。でも、グスタフさんはしばらく休養しなければいけないんですよね?」
「あぁ、そうだが…」
「だから…その…」
「どうした?」
ジャンヌは少し俯いた後、グスタフの顔を正面から見て言った。
「貴方が復帰するまでの間、私に…身の回りのお世話をさせてください!」
「……⁉︎」
予想だにしなかったジャンヌの発言に、グスタフは一瞬固まった。
ジャンヌの手は微かに震えており、かなりの勇気を振り絞っていることが伺える。
そんな彼女の覚悟を、グスタフは振り切ることができなかった。
×××
翌日。
「では、その…よろしくお願いしますね」
何故かナース服を着たジャンヌが、グスタフの元へやってきた。
「…その格好はどうした」
「いや、これは、その…わ、私はいつもの格好で良いって言ったんですけど、まといさんやマリアさんが…うぅ…」
ジャンヌは真っ赤になってうずくまってしまった。
「…先が思いやられるな」
グスタフとジャンヌの波乱の生活が、始まる。
ナースジャンヌのコスはマダデスカー?