鬼灯の冷徹かと思ったが………   作:超高校級の切望

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地獄の柳

 地獄。

 それは死後、人が落ちる場所。現世での罪の、その罰を受ける場所。そこは獄卒と呼ばれる鬼達が亡者に罰を与える場所故に、人間の獄卒は僅かしかいない。その僅かも補佐官などにつき、現場に行くことは殆どない。

 ない、筈なんだがなぁ………

 

「何で俺は地獄で働いてるのかね?」

「うおおお!どけぇ!」

「亡者の脱走だぁ!」

「よっと……」

 

 取り敢えず突っ込んできた亡者の腹を蹴る。吹き飛ぶ亡者。

 うん、強いね俺。

 地獄での生活長いし、妖怪の肉とか食ってたからかね?

 

「あ、これは柳様、ありがとうございます」

「気ぃつけろよ」

 

 

 

 

「………なあ、あの人人間だよな?」

「何だお前知らんのか?あの人、天国にも地獄にも行けないから閻魔殿で保護することになった人なんだってよ」

「天国にも地獄にも?」

「記録がないんだと。善行も悪行もいっさい不明。それどころか出生の記録すらない。扱いに困って保護」

「何だそれ。あれ、でも何で働いてんの?」

「『暇すぎて辛い。仕事くれ』と鬼灯様に直談判したらしい……」

 

 

 

 

 

「ホントになー。境遇変わって欲しいわー」

 

 和服姿の二人の男が煙管の煙を吐き出し、細目の男が赤目の男に羨ましそうに言葉を投げかけた。

 

「あんさん本当は働かなくても良かったんじゃろ?なしてそのまんま惰眠貪らなかったのよー」

「俺は一週間以上やりたいことだけしてると逆に何かしたくなるんだよ。それに、金ねーと妲己様の時間を借りれねーからなぁ」

「何だい兄さん。あんた九尾の狐に御執心なのかい?折角の給料を妓楼に使っちまうのはどうかと思うがね」

 

 と、二人の座る長椅子の上にトンと服を着た猫が上る。

 

「止めといた方が良いぜー。あんた妖怪の肉とか食って変異しちまってるが、元は人間。大妖怪様からしちゃ珍味だ。いつか食われちまう」

「そうなったらなったで……まあ妲己様なら構わねーよ。俺もだいぶ気持ちいい思いさせてもらってるしな」

「あら、私も気持ちいい思いさせて貰ってるからおあいこね」

 

 と、不意に後ろから声が聞こえた。細目の男と猫がビクリと震え恐る恐る振り返る中柳は笑みを浮かべ振り返った。

 

「早いね妲己様。時間には、まだあると思ったけど」

「私も楽しみだったものねぇ。それより檎、あなた最近成績良くないのに、良く平気で休めるわね」

「あ、あー!ワシ仕事思いだしましたー!」

 

 檎と呼ばれた細目の男は脱兎のごとく駆け出した。狐のくせに脱兎のごとくとはこれ以下に。

 

「それじゃあ柳、行きましょう?」

 

 

 

 

 

「………ん」

 

 柳の指が背中を撫でると妲己は気持ちよさそうに目を細める。

 指が同じ場所を往復し、擽ったがるように身を震わせる妲己。柳は妲己を撫でていた手を止め、反対の手を近付ける。その手に握られているのは………ブラシ。

 

「ん、ふぁ………やっぱり柳は毛繕い上手ねぇ」

 

 巨大な九尾の狐の姿になり柳にブラッシングされる妲己ははぁ、とため息を吐く。

 柳が金を払い妲己に頼み込んでいることは、毛繕いだったのだ。

 

「んー、今日もモフモフ……シロや芥子ちゃんのも気持ちいいんだけど、やっぱり妲己のは格別だな」

「あら酷い。私以外にもやってるの?私は貴方にしか毛並みに触れるのは許してないのに」

 

 もう何年も前だが、あれを忘れはしない。

 人間でありながら現場に赴く獄卒が居ると、その頃の地獄では有名になったものだ。特に、肉体を持ったままというのが大きい。それ故に肉体が妖気を浴び変異して、どのような味になっているのか想像していた。

 そんな折りに、フラリとやってきた。

 仮にも獄卒だ。食うのはマズいだろう。味が気になる餌を前に、少し苦しかったが別のやり方で味わうのも悪くない、そう考え直そうとしていたら、いきなり本性に戻るように頼まれた。そう言う趣味なのかと思ったら毛繕いされただけだったのは忘れるに忘れられない。

 絶世の美女に化けたというのに其方は無視なのだ。実に腹が立った。

 

「………ねえ柳、さっきの言葉は本当?」

「さっきの?」

「私に食べられていいって言うのよ……」

 

 妲己の大きな口が柳を包む。牙が喉に触れる寸前で止まり妲己と柳の目が合う。

 

「本当だ。死を恐れるのは一度だけで十分。二度目は好きなように命を使う」

「ふぅん………なら、このまま食いちぎっても良いの?」

「好きなように生きる事を否定する気はねーよ。それがいい女なら」

「……………」

 

 スッと口を離す妲己。人の姿に戻り一糸纏わぬ美女の姿になると服を着る。

 

「それじゃあね柳。またのご指名、お願いねぇ」

 

 

 

 

「あ、柳さーん!ご飯行こー!」

 

 柳が閻魔庁を歩いているとトテトテと白い犬が柳の足下に寄ってくる。

 

「シロか、悪いな。鬼灯様に呼ばれてるんだ」

「そっかー」

 

 

 

「鬼灯様、来ましたー」

 

 柳が部屋に入ると書類を整理する一本角の鬼がいた。

 

「ああ、良く来ましたね柳さん」

「仕事ですか?」

「ええ。日本に堕天使の幹部コカビエルが侵入したようでしてね。しかも、まだまだ若輩の悪魔の領地に……一般人が犠牲にならないように監視に行くのでついてきてください」

「了か───ん?あの、鬼灯様。それ、何処?」

「駒王町です」

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