「イチョウ、堕天使総督から町の滞在許可願いが来てるぞ」
柳は各方面から来る手紙の整理をしていると、一つだけ他のと異なる封筒を見つけた。
他のは余所の土地神から来る手紙なので和風だが、それだけは洋風。しかも黒い。そして堕天使のマーク。中身を確認すると駒王学園で教師をやりたいと言うものだった。
「柳が決めるのではないのか?」
「俺はあくまで監視だからな。土地神はイチョウ……俺としては来てくれると助かる。ほら、うち爆弾が二つもあるから」
神殺しの神器持ちに、潜在能力故に三勢力のトップ程度なら、暴走し、時間をかければ停止できる神器持ちの吸血鬼。正直言うとこの2人はさっさと追い出したかったが、余所で暴走されるのも困りものだ。アザゼルなら神器について詳しいし適任であるだろう。
「ふむ。余計な発明をしないなら、確かに受け入れた方がいいかもしれんな……」
「んじゃ、そこらも含めて鬼灯様に現状を報告、相談してくる。後帰り遅くなるかも」
「何だ?そこまで話すのか?」
「いや、会いたい人が居るんでね」
「成る程。まあ暴走されたり、殺して別の誰かに転移して、そいつに敵対されるよりはマシですね。解りました。天照大神には私から。許可が下りたら連絡します」
「はい」
「しかし………」
報告書をみた鬼灯は眉根を寄せる。
「無断で術使うとか何考えてるんでしょうねこの人達。しかも失敗した際暴走付き。これ、周囲に影響出るタイプだった場合どうするつもりだったんでしょう?」
「記憶消して終わりでしょ。日本神話は隠れてはいるけどバレても特に気にしないし」
実際に、お盆時は百鬼夜行が目撃されたりしているし。
「ああ、それと。今度冥界に行ってきてください」
「え、俺がですか?」
と、首を傾げる柳。
こういうのはてっきり鬼灯とかが行くものだと思っていた。
「仕事がありますからね。私は」
「………そのために俺を現世に送りましたか?」
「はい。これで何時でも仕事できるでしょう?今回も五道転輪王様が出ます」
「最後の裁判官ですものね」
「大国主様も行こうかと仰ってましたが、あの人連れてくと魔王と関係持ちそうで」
「日本の
まあギリシャと違い、被害が出てないだけ良いのか?いや、しかしギリシャの主神と言い日本の国作りの王と言い、浮気者多いな神話。
「そういえばチュンさん、何やら張り切ってましたよ。新しい技教えるんだって」
「新しい技?チュンさん基本的に怪力にものを言わせたなんちゃって拳法じゃないですか」
「三子~、俺ちょっと衆合花街に行ってくるけど、どうする?ヤカンカンに行くか?」
「ううん。我、一子と二子と遊ぶ」
「鬼ごっこ」
「その後隠れん坊。久し振りだから三子鬼」
「「逃げろー」」
「待てー」
三人は仲良く壁を走りながらあっと言う間に見えなくなった。子供たちが居なくなったので柳は懐から煙管を取り出し火をつける。
煙を吸い口の中に溜め、味わい、吐き出す。
「さて、今日は都合がつくかね?」
「お、よおご……ん?」
妲己の店に向かうと何やら落ち込んでいる檎を見つけた。普段飄々としている檎が落ち込むなど珍しい。隣で小判が毛繕いしているのは……何時も通りか。
「はー、食い逃げかぁ………どないしよ」
理由は解った。放置しよう。
「待ってぇ!何か知恵かしてぇや!」
「知るかよ。てめーに何かしてやるメリットがない。俺は久し振りに妲己様を堪能してーんだ」
「そう言わんで、な?妲己様も今回の件苛立っとるのよ」
「………まあ、食い逃げされたとあっちゃな。しかしお前の店から食い逃げたなぁ」
「ただの鬼や亡者じゃニャーんじゃねーの?例えば滑瓢とか」
ぬらりひょんねぇ。確かHSDDにも居たはずだ。よく覚えてないが妖怪の総大将。鬼灯の冷徹ではどうだったか?と記憶を探る柳。と、その時。
「そうです。私が滑瓢です」
と、ちっこい爺さんが柳達に話しかけてきて。しかし不思議なことに檎と小判は気づいていない。
「よお爺さん。どうかしたのか?」
「あ、実は狐カフェのお会計……あ、あれ……?何処連れてくんですか?」
「なぁんだ、滑瓢だったの。食い逃げされた訳じゃなかったのね~」
「……………」
「何だ無駄足か」
大妖怪九尾を前に青くふるえる滑瓢。
「しかしぬらりひょんといやぁ、もっとでっかくなかったか?」
「現世に残った方で居るらしいけど、地獄に移り住んだのはねぇ。弱いから追われてきたんでしょ」
「私も何時かああなりたいとは思ってますけどねぇ」
「無理だろ」
「無理ね」
「無理ですか」
2人の否定に落ち込む滑瓢。威厳がこれっぽっちもない。無さ過ぎてふとした拍子に見失ってしまいそうだ。
「ところで柳、今日は私に会いに来てくれたのかしら?」
「そのつもりだよ。金もきちんと用意してる」
「そ、じゃあもう行って良いわよ。次からは書き置きでもおいておくのね。行きましょ、柳……」
妲己はスルリと柳に腕を絡め歩き出す。滑瓢は良いなぁ、と呟いたがそれは大妖怪たる威厳を持った妲己になのか、美女と共に歩く柳なのかは解らないが。
「あら、そういえば居たわね」
「えへへ~、幸せだなぁ………」
部屋に行くと酒に酔いつぶれた白澤が居た。妲己はそれを窓から捨てると指を鳴らす。部屋は一瞬で綺麗になった。
「………良いのかあれ、上客だろ?」
「良いのよ。それより、少し高い香油買ってみたの。塗ってくれない?」
「妲己様の少し高いって俺じゃあ数年貯めても買えねーな。むしろ俺なんかで良いの?専門の丁とか居るんだろ?」
「柳程上手くないもの」
「そう言って貰えるとやる気出るね」
巨大な九尾の狐の姿になった妲己はその場に伏せる。
「その櫛はやるよ。今回は中々来れなくて金が貯まったからな。いっそ鼈甲の櫛でも買おうと思ってたんだ」
毛繕いが終わり、柳は店を出る時妲己に櫛を渡す。ブラシとは使い分けているためまだまだ全然使えそうだし、これも中々の高級品だ。
「本当に良いの?」
「取っといても意味ないしな」
「…………ああ、そう。まあ面白いし良いか。また来てね~。今度は安くしてあげる」
「お~う。香油代は請求しないでくださいよ」
「あら柳ちゃん」
「あ、お香姐さん。ども……」
櫛屋に行くとお香と出くわした。
「まあ、もしかして誰かに櫛をプレゼントするの?」
「ん?いや、新しい櫛を買いに来ただけだよ。古い方は妲己様に上げた」
「…………へぇ」
江戸時代辺りでは櫛を女性に送るのってプロポーズみたいなものなんだが、面白そうだし黙ってよう。