「………ん?もしや私にようかい?」
と、漸く作成中の術式から顔を上げるのはアジュカ・ベルゼブブ。現魔王の一人だ。服装こそキチンとしているがついさっきまで国賓を無視していた。
「すまないね。今少しゲームのシステムの調整をしていたんだ。これが思いの外楽しくてね。用が終わったなら続きをして良いかい?」
「んん?ふぁ~……何々、どうしたの?あ、日本の人じゃん。挨拶しなきゃ、おやすみなさい」
「五道転輪王様、此奴等殴り飛ばして良いですか?」
「駄目ですよ。外交先で魔王を殴り飛ばすなんて醜聞立てては」
「じゃあこっちで我慢します」
ドゴン!と柳の踵が机を真っ二つに割った。机に突っ伏してスーツが乱れていた魔王の一人ファルビウム・アスモデウスは床に転がりサーゼクス、セラフォルー、アジュカはポカンと呆ける。
「魔王様方。これ以上の対応は我々日本神話を下に見た、侮辱行為と受け取って良いのでしょうか?」
「ま、まあまあ落ち着いてよ柳ちゃん☆」
「私は直属の上司に、なめた真似されたら「たとえ王でも金魚草の餌にしろ」と教わっているので。下に見られるのはなれていますし、自分の立場や身分も弁えているつもりです。が、身分のみ弁えて立場を理解していない輩には些か不快感を覚えてしまいます。これは私個人の見解ですので、どうぞ気に入らなければこの場で処断ください。此方も全力で応える所存ですので」
ミシミシと周囲の壁が軋む。魔王達は柳の後ろに黒い巨大なドラゴンを幻視し思わず構える。と、柳から放たれていたドラゴンの気配が霧散する。
「さて、ベルゼブブ様、アスモデウス様、どうもお二人は個人の趣味を優先したいご様子。ならば、部屋に戻って貰えないでしょうか?」
「い、いや。すまない……親睦を深めるための外交の席だというのに。失礼が過ぎた。謝罪する」
「そ、そうだね。僕だって、昨晩寝てなかったわけじゃないのに……ごめんなさい」
「お気になさらず。と、言うのは駄目でしょうね。まあ、次からは部下ではなく自分で言うようにしますよ」
と、五道転輪王が言うとホッとする二人。今度は寝たり術式を操作したりはしなかった。
「二人とも駄目だよ?こういう場ではキチンとしなきゃ☆」
「ちょっと待て何さも自分は含まれてないみたいに言ってんだ」
セラフォルーが「もう☆」と頬を膨らませると柳は反射的に敬語を忘れ突っ込む。
「まず貴方が一番TPOを意識してないって自覚あります?前回の会談では普通の服でしたよね?」
「………?」
柳の言葉にセラフォルーはキョトンと首を傾げ自分の格好をみる。魔法少女のようなヒラヒラした格好を。
「これ私の正装だもん。何の問題も無いわ♪」
ズドン!とセラフォルーの真横を何かが通過し壁に突き刺さった。
「…………」
「失礼。つい手が……」
ツインテールが片方解け、サラリと舞う数本の髪の毛を横目にソッと後ろに振り返ると壁の一部が凹んでおりその中央にシルバーナイフが深々と沈んでいた。
「考えてみれば我々は日本の、貴方はEUの者。親睦会中に相手を無視するのは有り得ないとしても、その様なキャピキャピした態度もそちらの文化では当たり前なのかもしれませんね。是非今までの行動を振り返った上で私の目を見て正しい対応をしていると言ってくれませんか?」
「………ご、ごめんなさい」
「おやどうして謝るのですか?その格好は正装なのでしょう?その態度も悪魔にとっては当たり前なのでは?謝ることなんてありませんよ。むしろ謝るのは此方かもしれませんね……貴方はただ一言、その格好、その態度は悪魔にとって良識に則ったものですと言ってください。言ってくだされば納得しますので」
「ごめんなさい!許してください……!」
「…………何を?」
涙目になり叫ぶセラフォルーだが、柳は首を傾け尋ね返すだけだった。
「私の服装や態度は親睦会とはいえ、国賓を相手にするのに不相応なモノでした!」
「そうでしたか。ではどうするべきか解りますね?」
「着替えてきます」
セラフォルーはそう言うとトボトボと食堂車から出て行った。
「失礼をいたしました。五道転輪王様は地獄にて罪人を裁く十王の一人、その王にあのような態度を取られ熱くなってしまいました」
「いや、その忠義心は誇りこそすれ謝るべきものではない。私は許そう」
「先ほど言ったように、謝罪するのはこちらだ」
「立場逆だったら家のおじいちゃん達すぐ戦争だーとか言ってただろうし。この場で納められるようにわざわざ物を壊したりしてもらって寧ろ礼を言うよ」
「………………」
その辺見抜く目を持っているからこそ、優秀な人材を集めてさぼっているのだろう。文字通り自分の周りしか固めていないが。
「机は弁償します」
「いや良い。良い勉強になった………片付けとセラフォルーの着替えに、10分ほど使おう。10分後に会食としようじゃないか」
アジュカの言葉にグレイフィアは机の破片を集め始める。
「私が居ては魔王様方も純粋に味を楽しめないでしょう。部屋に食事を運んでくだされば三子と二人で食べますよ」
「いやそんな………いや。気を使ってもらってすまない。食事は最高の物を用意しよう」
「申し訳ありませんでした。本来ならば、私達悪魔が事前に注意すべき事柄でしたのに」
車両部屋に向かう途中、グレイフィアが頭を下げる。
「魔王様方に過ぎた口を利いてしまったので、怒っているのかとばかり」
「本来は怒るべきなのかもしれませんが。あの場で咎めるのは忠誠心の否定。それは人に仕える身として言うべきではないかと思いまして」
「そうですか」
「それと、気を使わせて申し訳ありません。セラフォルー様には、私から言っておきます……」
「柳様こっちでご飯食べる?何で?」
「三子が寂しそうにしてたから。それに俺、テーブルマナーまだ習ってないし」