鬼灯の冷徹かと思ったが………   作:超高校級の切望

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ロキとヘルの地獄見学

「ようこそロキ様。今回案内役を勤めさせていただく柳と申します」

 

 娘と息子と共に来た地獄で、人の良さそうな閻魔大王を内心見下した後、案内役としてやってきた柳と名乗った男を見る。

 日本の獄卒、鬼とは見えない細い身体。角も見えない。

 

「本当は鬼灯君に頼みたかったんだけど彼今日冥界のテレビ局に行ってまして。すいません、何分急だったので」

「突然明日行くから案内しろ、でしたからね」

「こら柳君!」

「ふん。案内なら、さっさと済ませろ」

 

 柳の言葉に閻魔が叱るがロキは極東の者に礼儀など気にしていないと言いたげに鼻を鳴らす。

 

(………しかし小さいな此奴。フェンリルなら一口で食えそうだ)

 

 ロキの考えを読んだのかフェンリルがグルルと唸るが別に良いと止める。

 

「リル君は思ったより小さいですね」

「───っ」

 

 突然放たれた言葉に内心驚くロキ。心でも読む能力を持っているのだろうか?

 

「今は魔法でサイズを変えている」

「ワフゥ」

「成る程……」

「その程度のこといちいち聞くな」

「散歩したい時にしてくれないと」

「ワウ」

「ははは。それはそれは……ん?今何か言いました?」

 

 フェンリルの鼻の上を撫でてやると気持ちよさそうに目を細めるフェンリル。柳は思い出したようにロキを見た。

 

「貴様、フェンリルの言葉が解るのか?」

「はい。等活地獄に通っているうちに……」

 

 

 

 

 

「まずは地獄でも有名な釜茹で地獄に……」

 

 と、柳が扉を開けると鍋の中で溺れる閻魔。柳ははぁ、とため息を吐いた。

 

「あ、柳君助けて柳君!」

「ご覧くださいあれが閻魔大王です。現世では「閻魔は熱く溶けた銅を飲まされている」と記されているように、時に自ら苦行を……」

「助けてってばぁ!あれ、前にもこんなことあったぞ!?」

「ッチ」

「!?」

 

 舌打ちしたぞ此奴、と柳を見るロキ。柳はしかし気にせずヘルに話しかける。

 

「ヘル様。ああいうギザギザを見ると同じギザギザを合わせたくなりません?」

「なる」

 

 鍋の縁を指さし尋ねる柳にヘルはコクリと頷く。

 柳は鍋の一つを持ち上げる。片手で。

 

「ちょ!?何する気柳君!ワシ君のボスだよね!?」

「私は鬼灯様の直属の部下ですので。バカがバカやったら二度とバカやる気にならないようにお仕置きしろと」

「バカっていった今───」

 

 ガン!と鍋を落とす柳。ギザギザの部分がちょうど噛み合い中からドンドン叩く音が聞こえる。

 

「あれ柳様、お客様ですか?」

「なげー髪」

 

 と、そこにやってきた子供のような鬼達。柳はちょうど良いと蓋された鍋を指さす。

 

「あれ火力上げといて」

「え?あ、解りましたー」

 

 小鬼達は返事をすると薪を持って鍋に近付いていった。

 

「い、良いのかあれ………」

「どうせもう死にませんし」

「……………」

 

 日本の地獄は、部下も上司に厳しいのだな。決め台詞をメモしていたノートを捨てられたぐらいで部下をクビにするんじゃ無かった。

 

 

 

「ここは等活地獄。主に動物を虐めた者が落ちる地獄です。昔は色々あったんですが減らされました。象に酒飲ませて暴れさせた奴が落ちる地獄なんて1人しか居ませんでしたし」

「一人いたのか。何があったんだそいつの過去……」

 

 ロキが呆れている中白い犬が柳に駆け寄ってきた。

 

「柳様だー!ねーねーブラッシングしに来てくれたの?」

「こらシロ!お前仕事中だろ!すいません柳様」

 

 その犬を追い現れた別の白い犬。その犬はフェンリルに気付くと暫く目を見る。

 

「………ふっ。成る程、図体ばかりデカいが子犬か」

「え?うわでっけぇ!新入り?」

「ヴウゥ!?」

 

 子犬扱いされて牙を剥き出しにするフェンリル。が、気にせず続ける犬。

 

「子犬だろう。尊敬できる相手を見つけていなければ、自分がボスだと思ってもいない、そこらの野良だ。若造、強さだけが犬の全てではない」

「ねーねー何食ったらそんなデカくなるの?あ、ここ食い放題だよ。君も食べる?」

「夜叉一、シロ連れてけ」

「はい。行くぞシロ!」

 

 夜叉一と呼ばれた犬はシロを引き連れ去っていった。フェンリルはその背中をジッと見つめる。

 

「ワフ?」

「まあ年齢ならリル君より上だな。あ、実際そこらの亡者は食い放題だよ」

「グオウ!」

 

 フェンリルは尻尾を振るうと亡者を数人食い始めた。

 

 

 

「こちら最近新設された地獄になります。正式名称はまだなので食品サンプルの家と覚えてください」

「わ、パパ、すごい。見て、日本の技術」

 

 リアルに作られた食品サンプルで出来た家を見てヘルがテンションをあげる。仮面をしていて顔が見えないがきっと笑みを浮かべていることだろう。

 

「腹を空かせ寄ってきた亡者達を犬猫の獄卒が襲います。ちなみにこれお土産のストラップと目覚まし時計。いります?」

「欲しい」

「ストラップは500円。目覚まし時計は2300円になります」

「パパ買って」

「………二つずつ貰おう」

「はい。お荷物になるので閻魔殿に届けておきますね」

 

 柳がパンパンと手を叩くと何やらエンジン音のような物が聞こえてくる。そちらに振り向けば炎を吹き出す骨で出来たバイクのようなものに乗った着物の女性が迫ってきていた。

 

「いける!今なら、音速のその先に!」

「行くなっつーの」

 

 そのまま通り過ぎようとした女性の首を掴んで止める柳。バイクは暴走して岩に突っ込み男が岩にめり込む。

 

「こちらお迎え課新人の藤舞さんです。火車さんの手伝いをさせてみたところ、見事にスピードの世界にはまりまして。藤舞さん、これ閻魔殿に持ってといて」

「はいにゃー。飛ばすぜ!」

「…………因みにあのバイクに引きずられる男は?」

「藤舞さんの元夫。娘を認知せず、どころかいざとなったら研究に利用しようと資料を残しておいて結果娘二人を不幸な目に遭わせた」

「……………そうか」

「パパ、あのバイク欲しい」

「すいませんヘル様。あれは量産化が出来なくて今はまだ二台しか」

「………そう」

 

 ションボリ落ち込むヘル。プラモならありますからと柳がプラモを渡すと喜んだ。

 

「ニャッハー!」

「……………」

 

 ロキは引きずられていく男を見て、今の光景を気にしないことにした。

 

 

 

「こちらは黒縄地獄。ここは特に目立ったモノはないですね。強いて言うなら良く藤舞さんが目撃されます」

「そ、そうか……」

 

 

「衆合地獄。邪淫を働いた者が落ちます。動物とやったりオス……もとい男同士でやったり」

「何故そこで私を見る。言っておくがスレイプニルは産みたくて産んだんじゃないからな!」

 

 スレイプニル。北欧に登場する幻馬。雌馬に化けたロキが牡馬とやって産んだ。

 

「ここでは毎年恋の病で辞める者が多くいて……」

「まあ、こんな場所ではな」

「恋愛関係のいざこざもあって、俺も何度相手を半殺しにしたことか」

「……お兄さんモテるの?」

「これでも出世は早い方なので」

 

 と、柳は肩をすくめた。

 

 

「ここは血の池地獄。昔は吸血鬼にも人気でした」

「昔?」

 

 今は違うのか、と尋ねるロキ。吸血鬼にとっては夢のような池に見えるが。

 

「カーミラ派とツェペシュ派が互いに公開するなとか言い出して、仲良くするように言ったら人間風情がと言ってきたのでついあなた方の真祖だって元々人間でお前等は真祖に喰われた人間の子孫だろ。何が貴族だ歴史しか価値無い癖にと言ってしまい怒らせて襲われ、全員血の池に沈めました。今でも時折吸血鬼があがります。あ、ほら彼処……」

 

 柳が指さした方向には血の池に浮かぶ吸血鬼らしき男が。

 

「くそ、人間の分際で……」

「後百年ほど沈めるか。国賓ではなくただの客人のくせして……」

 

 柳はそう言って手頃な岩を投げ吸血鬼を水底に沈めた。

 

「………国賓で良かった」

 

 

 

「こんの狸爺がぁぁぁ!」

「人を騙す嘘つきめがぁぁぁ!」

「パパ、あの兎たち可愛い」

「可愛い、か?」

 

 

 

「あちらをご覧ください。そう、プテラノドンです」

「おお………」

「ティラノに乗ってみます?あらかじめ許可は取っておいたので」

 

 柳の言葉にヘルは仮面の奥の瞳を輝かせた。

 

「そう言えばロキ様はミドガルズオルムを大量生産しているのですよね?」

「そ、それが何だ?」

「ウチに分けてもらえません?悲苦吼処、千の首を持つ龍にかみ砕かれるとされている地獄なのですが彼処は千匹の首長竜に働いて貰っているんです。しかし恐竜が絶滅した今、年々数が緩やかに減っていくので」

「ミドガルズオルムを代わりに、か。素直に言うことを聞くとでも?」

「聞かないなら聞かせるまでです」

 

 

 

「さて、一通り回りましたし夕餉に致しましょう。このままティラノに乗って閻魔殿に戻ります」

「お兄さん、恐竜のグッズある?」

「ありますよ」

 

 

 

「ん?」

 

 ティラノの上で寛いでいると不意に建設中の何かが目に入る。

 

「あれは何だ?」

「あれは私が提案した地獄です」

「ほう、どんな?」

「虐めや犯罪などを「若気の至り」で済ませる親や本人を落とす地獄で、虫や魚に変えられ若い頃の自分や自分が追いつめた者達に嘲笑され罵倒され踏みつけられる地獄です。まだ建設中で、数人しか入れてませんが………あ」

 

 と、その時一人の女が飛び出てくる。亡者だ。獄卒に追われるも必死に走っている。が、柳が亡者に向かって跳び顔面を踏みつけ着地した。

 

「裁判で決まったんだ大人しくしてろや」

「う、うぐぐ……な、何なのよ!?あんなの、ちょっとした悪ふざけじゃない!殺す気なんて無かったし、死んだのは向こうの勝手でしょ!?それも何年も前のことをグチグチと!」

「黙れ」

「「「───!?」」」

 

 柳から放たれた殺気にその場の全員が固まる。

 

「『皆やってる』『自分だけじゃない』……これだけでお前等は直ぐ遊び感覚だ。相手の気持ちなんて考えもしない。しかも、相手に何かしら一つでも欠点があればそれを責め立て正義の味方気取り。お前は、何だったか……気持ち悪い顔で周りを不快にさせる女を学校から追い出したことを楽しそうに語ってた女だったか?会社ではそれを誇らしげに……」

「み、皆喜んでたじゃない!それが普通なのよ!」

「普通?皆?それで相手が自殺して責められても、可哀想な私をアピールするのがか?ああ、普通だろうな。それが一般的だ………カーストが高けりゃ罪着せられて可哀想ですむもんなぁ」

 

 女の髪をつかみ背中を踏みつけながら持ち上げる柳。背骨がミシミシ軋み髪がブチブチと抜ける。

 

「殺すぞハゲ」

 

 ブチチ、ブチン!と女の髪の毛を一本残らず引き抜く柳。頭皮ごとごっそり抜けたそれを亡者の口の中につっこむ。

 

「そのハゲ、虫化の第一号にしておけ」

「は、はい!」

 

 柳の言葉に獄卒は亡者を連れ大慌てで立ち去った。

 

「お見苦しい所をお見せしてすいません」

「い、いや……しかしあの地獄、私怨か?」

「現代に必要な地獄ではありますがまあ作った理由は十割がた私の私怨ですね」

 

 

 

 ロキは、地獄の光景を思い出す。

 元夫を引きずり回す猫又。

 櫂を振り回す兎。

 亡者を踏みつけるデカい兎。

 数十億の虫の群。

 ウザすぎる女神。

 その女神にとんでもない殺意を向けている植物生まれの人間。

 とある鬼の私怨により建てられたという精神を削る顔の集合体の柱にくくりつけられた亡者。

 夕餉の際漸く自分達の王を閉じこめていたことを思い出し助けにいく獄卒。

 フェンリルが尊敬しついて行くことを決めた地獄犬。

 先代魔王の息子をボコボコにしてから火で炙り火傷に塩を塗り込み油で揚げた幼女。

 吸血鬼を血の池の底に沈める獄卒。

 女の髪を頭皮ごと引き剥がす獄卒。

 魚なのか植物なのか不明な何か。

 結論

 

「地獄めっちゃ怖い」

「パパ。私、また地獄来たい」

 

 ヘルは沢山のお土産を前に期待に満ちた視線を向けてくる。

 

「………黄昏は、良いか。まだ全然先で。うん………」

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