「なんかここ妙に浮遊霊多くないですか?」
本来日本神話において、幽霊はいない。一応怨霊などもいるがあれは妖怪に片足を突っ込んでいるので除外する。
幽霊がいないのは、地獄ができる前は死後魂はあの世に送られ、そこで何かを口にすると黄泉から帰れなくなる。つまり黄泉戸契が行われるから。
地獄が出来てからはお迎え課が迎えに行くから。まあ、人材不足で回収できず、現世で幽霊が増えているのは事実だがそれにしたって多すぎる。
「妙ですね。この辺りで殺害による死者の報告はそれ程ないんですが………仕事してんのか悪魔共」
「あー……ひょっとしてあれじゃないですか?ほら、悪魔達は
寿命や病死による死はお迎え課の茶吉尼が気づく。が、殺害、事故など健康状態からの死は感知できないらしい。だからかそういった死者の霊がチラホラ見かけたのだろう。そして、その割には失踪者や凶悪犯の注意がされた様子がない。
「困ったものですね。せめて事故死か失踪に見せていただかないと」
「それはまた何で?」
「実はこの街にはなかなか子を授かれなかった夫婦がいまして。夫が身ごもった妻を見て死産、流産しないように祈ったんです。今時珍しいお百度参りで……祈られれば全てに応えるわけではありませんが、その夫婦は既に数回絶望を味わった。よって、その願いを叶えたのです」
「良い話ですね」
「さて、そんな夫婦がようやく授かった子供の記憶を、それも数年分を無かったことにされたら、本当に忘れると思いますか?」
「……………」
鬼灯の言葉に固まる柳。
人の感情というのは、思いの外強い。時には呪いを生むほどに。人を化生に変化させるほどに。
「実は過去、似た事例がありましてね。その夫婦は自分の子供
「そういや転生悪魔の問題とかは?」
「そこも困るところなんですよね。日本人であっても、悪魔となると十字教の領分。オマケに、知られたくないことを知られたからか魂の所有権を絶対に譲ってきません」
「知られたくないこと?」
「転生の強制ですよ。とある猫の妖怪の霊曰く、娘達がまさにそれだったようです。保護を頼まれましたが片方は主殺し、片方は魔王の身内の眷属やってたんですよね」
はぁ、とため息を吐く鬼灯。主、つまり貴族殺しの悪魔となれば保護するのは国際問題、魔王の身内の眷属もまたしかりだ。
「サタン様の頃は良かった。扱いやすいバカで………今はただのバカですからね」
「サタン?あれ、でも悪魔のトップって……」
「現在はルシファー、ベルゼブブ、レヴィアタン、アスモデウスの四人です。サタン様の死後、ベルゼブブがトップになろうとしたんですがまあ、色々あって……」
柳はその色々とやらが気になったが、不意に足を止める。鬼灯もまた足を止め塀を睨む。
「おやおやおんやぁ?気づかれちまいましたねぇ。あ、こりゃ大変だ」
ヘラヘラ笑って現れたのは神父服姿の少年。その手には神々しい力を放つ剣が握られていた。
「見たところそちらの亀みたいな目のお兄さん、鬼いさんだね?俺には解っちまうんだなぁこれが。つーわけでちょっと聖剣に切られよやぁ!」
と、男はいきなり切りかかってきた。が、鬼灯はその剣を右手の人差し指と中指で挟んで止める。
「………あれ?」
「ああ、一つ勘違いしてるようですが地獄の鬼は現世で悪さをする鬼と違い罪人を裁く存在で、聖なる力は効きませんよ。つまりこれはただの剣でしかありません」
そう言ってポキリと聖剣を折った鬼灯は男の腹を殴りつけた。吹っ飛んだ男は塀にぶち当たり気絶した。
「………あの、あれ捕まえときます?」
「見たところ教会の人間、あるいははぐれか………まあ取り敢えず神官なので大焼処(「殺生をすることで天に転生することができる」という邪見を述べた者が落ちる)にでも送っておきましょう。
「この剣は?」
「ん?これ………ああ、エクスカリバー(偽)ですね。アーサー王が妖精郷に返還した聖剣を真似て作られたあげく大戦の際折られた安物ですよ。とはいえ信仰を集めるのに利用している一品でもありますし、取り敢えず天界に送っておきましょう。いや、この気配は……この街にはどうやら教会の人間が居るようです。もしあったならその時お渡ししましょう」