鬼灯の冷徹かと思ったが………   作:超高校級の切望

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京都到着

 悪意と敵意に触れた(地獄をみた)

 暴力と罵声を浴びせられた(地獄をみた)

 理不尽に痛めつけられた(地獄をみた)

 偏見と偽善を味わった(地獄をみた)

 一方的に悪とされ蔑まれた(地獄をみた)

 死後の地獄など生温い。魂の浄化という理由を以てして行われる裁きとは違う、理由など無い、強いて言うなら苛立ちの解消や排他による仲間作りという悪意による行為。本当の地獄はどちらか、時折考える。

 故に少年は、正義の味方に、英雄に憧れていたんだと思う。なりたいと願ったわけではない。救われたいと願った。

 少年が本を好む理由の一つは、そういった弱きを助けるヒーローが好きだったから。だからこそ、ある小説の英雄気取り達はとにかく嫌いだった。記憶から消し去りたいほどに。

 

 

「ついたな」

 

 ピリリリという電子音に目を覚ます柳。何時の間にか寝ていたらしく、しかしヤケに気持ちのいい枕に頭を預けていた。

 

「……妲己様?」

 

 その枕とは妲己の膝。要するに、膝枕されていた。

 

「ついたわよ柳」

 

 ムクリと上半身を起こし腰を伸ばす。ポキポキ音が鳴る。

 

「それにしても京もだいぶ有り様を変えたわねぇ。風水を以て邪を払う結界が、今やその邪なる者に力を与えるようにしてあるんですから」

「それの原点作ったの妲己様だろ?」

「あらバレた?」

「だって昔ここに住んでたんだろ?対策を立てないはずがない」

 

 帝を誘惑し堕落させ権力を乗っ取った妲己は国を傾けたし、崩壊させかけた。しかし決して無能ではない。一部の者に甘い汁を吸わせ味方に引き入れた。ある意味では用心深い妲己が大人しく結界の中で弱体化し続けるとは思えない。

 

「私の子供達は私より弱くても九尾の狐よ?人間よりずっと頑丈で大きな器。それが本来邪なる者を寄せ付けない結界を、それこそ永遠に発揮できる龍脈の力を振るえる。利用しない手は無いでしょうね」

「本当はそのまま子孫を器に復活しようとでも考えてた?」

「ええ。でも補佐官様の目をかいくぐるのも、かいくぐったとしても見つかって罰を受けるのもごめんだったしねぇ。補佐官様を本気で怒らせる奴がいるとしたらきっと自殺志願者だわぁ」

 

 ケラケラ笑う妲己もまさかこの時、そんな大馬鹿が現れるなんて思っていなかった。

 

 

 

「おおおお。すっげぇぇぇ!」

 

 と、松田が叫ぶ。そこは老舗旅館。他の二年生達が泊まるサーゼクスホテルとはまた違った趣の高級感漂う旅館だ。

 露天風呂付き。

 

「センセーよくこんな旅館見つけたな!」

「やっすい所に押し込まれるかと思ったぜ」

「おう、見直したぜ!」

「てめー等に見直される筋合いはねー」

 

 三人の言葉に柳は若干不機嫌そうに答える。

 

「神社ってのはお前等が思う以上に横の繋がりがあるんだ。そのコネで急遽用意してもらったんだよ」

「ほほう…………ん?おい、二人とも!」

 

 と、不意に元浜が松田とイッセーを呼び寄せる。

 コソコソと柳に聞こえないように声を潜めながら露天風呂の案内図を見る。そこには、こう書かれていた。『混浴あり』と。

 ニヤリと三人はイヤらしい笑みを浮かべる。混浴なら合法だ。本来なら柳が止めるだろうが、それならわざわざこんな旅館を選ぶはずがない。知り合いに頼んだので調べが甘かったのだろう。

 三人はピンク色の妄想を広げるあまり柳がイッセー達に負けず劣らず邪悪な笑みを浮かべイッセー達を見ている事に気付けなかった。

 

 

 

 

「センセー、ここに本当にいるの?って、いるか。稲荷大社だもんねここ」

 

 巫女服に着替えた桐生は柳の後に続きながら千本鳥居を歩く。柳の背には三子がいた。

 

「てか三子ちゃん連れてきて良かったの?」

「今回は留守番してもらうつもりだったが、京料理が食いたいって何時の間にか俺の鞄に入ってたんだよ」

 

 柳が荷物を出そうとバッグを開けたらよっと片手を上げる三子の姿。中に入れておいた着替えについて聞いたらバレないように隠したとか。グリグリした柳を誰が責められようか。

 

「と、此処だな……」

 

 不意に柳は鳥居と鳥居の隙間に入る。桐生が首を傾げていると違和感に気付いた。何時まで経っても反対側から現れない。不思議に思い飛び込むと妙な空間にでた。どこかの部屋だ。

 なにが妙って頬杖を付き煎餅を食いながらテレビのチャンネルを変える少女が居たことだ。

 

「………ウカ様」

「ぬわっひゃい!?」

 

 柳の言葉に少女はビクリと身体を跳ねさせ慌てて振り返る。そして柳達の姿を確認するとパンパン手を鳴らし何処からか大量の白狐を呼び出し部屋を片づけさせる。

 

「コホン……久し振りじゃの」

「お久しぶりです」

 

 この人がウカ様なのか。神社の中だから薄ぼんやり見える。スリーサイズはハッキリと。駒王のマスコットと言われる塔城と良い勝負だ。

 

「おお、お主が桐生藍華か?………何故だろう。何か、あまり見られたくない気がする」

 

 と、自分の身体を隠すように抱きしめるウカ。

 

「お、おお来たか柳!いや、これは違うぞ!?わらわは別に普段からこんな生活を送っているわけでは………」

「あ、ウカ様お客様ですか?うわ、見違えるほど綺麗になってる。毎日これくらいはしてくれると助かるんですけど。あ、ちょうどお煎餅を持ってきたんです。お茶を持ってくるので待っててください」

 

 不意にやってきた巫女が柳達を見ると頭を下げ煎餅を置いていった。恐らく見える者なのだろう。その口から、先程までの光景が彼女の日常だと言う事実が発せられた。

 

「………何か言いたいことがあるならはっきり言え」

「ウカ様って荼吉尼の側面やってるのに色気無いですよね」

「今更か!つーかうっさいわ!閻魔大王も地蔵菩薩と似とらんじゃろうが!」

 

 ポカポカ殴るウカにケラケラ笑う柳。ボリボリ煎餅を食べる三子に三子の口元に煎餅を持って行く桐生。茶を持ってやってきた巫女が見たのはそんな光景だった。

 

 

 

「すまん取り乱した」

「構いませんよ故意犯ですし」

「ぬぅ。補佐官殿と違いお主は相変わらず、親しげに揶揄ってくるからやりにくい……」

 

 例えば鬼灯なら、彼のドSは基本的に亡者をいたぶる事に発揮されるだろう。しかし柳は親しい間柄にもSが向く。揶揄うだけだが、本気で怒られないギリギリを見計らってくるから質が悪い。鬼灯と違い十数年、人から忌避された故か、人との繋がりを求めかつ、微妙に歪んだやり方でやりとりする。こいつの恋人絶対苦労するなと何度か思った。ていうか10回目辺りから少し楽しくなってきてしまってる。揶揄われることと言うより、その後のやりとりが。

 ウカははぁ、とため息を吐き素戔嗚尊の子を揶揄ってくる友人を見た。

 

「さて、改めて数年ぶりだな。其方が?」

「あ、ども……」

「うむ。我が友の神事を行ってくれて感謝する。神事は神が人に紛れる数少ない行事、特にそれが自分のモノとなれば……もっと言えばイチョウのように人と触れ合えるモノとなればな……」

 

 イチョウは木霊と違い若い樹木だ。故に人に見えるように姿を現すこともあった。だからこそ、神の中で割と人と関わるのが好きなのだ。楽しそうに話していた。

 

「本当に、ありがとう人の子よ」

「あ、えっと………どうも?」

 

 神性EXのウカの微笑みにたじろぐ桐生。と、その時一匹の白狐が現れウカに耳打ちする。

 

「何じゃと!?」

「どうしたんですか?」

「う、うむ……実は当代の九尾の狐……八坂…………の娘九重が攫われたらしい」

「………娘?」

「うむ。最初は八坂が襲われたそうじゃが、護衛についていた補佐官殿が………金棒で霧を払ったらしい。この霧って恐らく神滅具だと思うんだが、補佐官殿の金棒って何じゃったっけ?」

「数々の拷問器具を圧縮した金棒です。持ち主と認められないと棘を踏む呪いがかかった………まあ考えてみればアレ、日常的に地獄の最高神叩いてるので何らかの力に目覚めてる可能性も」

「日常的なのか………てか今更じゃが神滅具が神を討ったという話聞いたこと無いぞ」

「それより、情報を交換しに行きましょう。相手はロリペド、ウカ様も狙われるかも」

「そうじゃな………認めたくないが、わらわ幼児体型だし………」

 

 あれ、元々は母親の方狙ってたんじゃ無いの?と桐生は首を傾げたがまあ実際娘が攫われてるし母親の方は陽動の可能性もある。業の深いテロリストもいるな。あったらエロリストと呼んでやろう。

 

「今残ってる派閥だと旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブ、それと英雄派だな…………今回は恐らく英雄派」

「シャルバ・ロリゼブブとau派?私はdokodemo派」

「態とか?」

「うん」

「………似た者師弟だな」

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