流石に距離があったため殺しきれなかった残りの三割。
異形へと変じた英雄派構成員を見てアルケイデス………ヘラクレスは目を細める。
「人の身でどこまでいけるか、やってみたくなったのではなかったのか?人を捨てて……その夢すら叶えられんぞ」
『それがどうした!クソみたいな人生を変えてくれた、俺達の力が役に立つと言ってくれた!そいつのために死ねるなら本望だ!』
と、影の獣が吠える。鬼灯が金棒を振るうとすり抜ける。
『はっ!無駄だ、今の俺に──』
「透過………いや、通過か。なら、入りきらない威力をくれてやる」
そう言って再び金棒を叩きつける鬼灯。金棒の棘が僅かにめり込んだ瞬間影の獣は大爆発した。
「少し強すぎましたか」
パンパンと埃を払う鬼灯。そこにドラゴン系神器と融合しドラゴンのような姿になった英雄派が迫る。
「ふん!」
と、ヘラクレスが電柱を引っこ抜き振り下ろす。空気摩擦で表面が赤く溶け、ドラゴンを地面に圧し潰した瞬間砕け散る。
『ゴアアァァァ!』
『くたばれぇぇぇ!』
「野蛮ねぇ」
獣と怪人へと変じた英雄派の攻撃を何処からか取り出した扇子で受け流し、その扇子で首を切る。女性の構成員の生首を掴むとその血をペロリと舐める。
「酷い味。蛇と混じってたから美味しいと思ったのに」
ペッと赤く染まった唾を吐き出す妲己。その影から現れた蜥蜴のような怪人も尾に頭を吹き飛ばされた。
「………妙だな」
柳はタコ怪人になった英雄派の首を締め付け足を千切りながら首を傾げる。
「むぐむぐ………何が?」
「ペッしなさいそんなもん。何って………気配だよ。ゲゲゲの何とかを探してんのに見つからねー。この世界を作ってるのは彼奴だし、気配を消しきれるとは思えねーんだが」
「サマエル使うならアレ借りたのかも、ハーデスの………鍬形虫」
「は?ハーデスの鍬形虫?何、ハーデス様虫好きなの?今度鬼灯様に、訪問する時ムシ王者のゲーム台持ってくと良いって教えるか……」
と、裏拳で甲冑と融合した英雄派の頭を吹き飛ばす。カランと音を立て落ちる兜を見て、柳は目を見開く。
「カブトかよ!」
「?我黄金虫が好き───っ!?」
柳が周囲を睨みだした瞬間三子はチリリと肌に痛みを感じる。次の瞬間、視界が大きく移り変わる。投げられた。誰に?もちろん柳だ。
三子が柳の居た場所を見るとそこには影も形もなかった。
「偽物か………」
グシャリと頭を踏みつぶされ命を絶たれ男は全く別の服装と体つきに変わる。変身系の神器。それも、自分達の前に平然と立つという命を捨てる覚悟のある構成員。
『その通り。いやいや備えあれば憂いなしだね』
反響するように様々な方向から聞こえてくる声。それは曹操の声だった。気配は、追えない。
「………ハーデスの隠れ兜ですか」
『その通り。冥府のオリジナルと、レプリカを幾つか。幹部に持たせていたけど二つほど破壊されてしまったよ』
そう言って笑う曹操。この声だって下手したら遠くから魔法で話している可能性も、それどころか偽京都の外から話している可能性すらある。
「しかし、どちらにしろ戦力を失っただけだな」
鬼灯と同じ判断をしたのかヘラクレスは虚空を睨みつける。これだけ兵を失っておきながら、大将は高みの見物と来た。これでこちらに被害があるならまだ解る。作戦として割り切ろう。が、無駄死にさせることを作戦とは呼ばない。
『まあ今回の目的はとあるドラゴンだからね。でも、本当は実験。最終的な目標が向こうから来てくれた。今、ゲオルクが発動したようだ』
「…………三子さんか……」
鬼灯はその言葉で全てを察しビルの上に向かって飛ぶ。高いところから探す気なのだろう。残されたヘラクレスの鼓膜を曹操の馬鹿にしたような声が震わせる。
『無駄なことを。オリジナルの隠れ兜はサマエルに使った。サマエルが何をしようと君達は気付くことも………ん?何だゲオルク、え?失敗?サマエルの頭がはじけたぁ!?だ、誰に!?は、オーフィス!?捕まえたんじゃ───』
「………………」
ヘラクレスが頭を押さえていると、慌てた様子の三子が子供を抱えて走ってきた。慌てた様子と言っても無表情だが。
「柳、様が……サマエルの毒食らって、消えちゃって……柳様センサーで探したら柳様の中の蛇の力食べたサマエルで、殴り殺したけど柳様弱って………小さくなった」
「『何がどうしてそうなった!?』」
曹操とヘラクレスの言葉が重なる。仕方ないだろう。何せサマエルの毒を食らった半人半龍が小さくなったなど訳が解らない。
『え?ていうか、サマエル殺した?オーフィスが?』
「我三子。サマエルの竜殺し、我より格下の奴の呪い。直接食らって力を不安定にさせられなければ指一本で勝てる。ちょっと火傷した………」
よく見ると三子の手は皮膚が無くなり肉がむき出しになっていた。シュウシュウと黒い煙を上げている。本来なら一瞬で治る筈の傷がまだあるのは龍殺しの呪いの影響なのだろう。
「…………見つけたぞ」
『────ッ!』
と、不意に鬼灯がビルの一つに向かって鉄骨をぶん投げた。
「鬼灯殿、見えるのか!?」
「見えませんよ。が、感じます。日本の祟り神をなめるなよ大陸の人間。呪いたい対象はたとえ地の果てに逃げようと見つけてみせる。ましてやたかだかレプリカなど」
「──ッ!どうする曹操!」
「引くぞ、撤退だ!」
「逃がさん」
と、鬼灯は金棒を投げつける。完全に転移しきる前に人間二人など破壊する一撃。が、突如発生した濃密な霧が速度を削ぐ。
「………一人逃がしたか。しかし今の霧……先程までは加減していたのか?」
「いや、よく見ろ鬼灯殿。肉体が霧に溶けて消滅していっている。おそらくあの薬を使ったのだろう」
しかも手元に注射器がないということは恐らく曹操に打たれたのだろう。そして、神器と違い神滅具のドーピングには身体が耐えられなかったのか、既に息絶えている。
「絶霧は日本神話が回収してくれてかまわない」
「助かります………」