《と、止まれ!ここが何処だか解っているのか!》
「うん解ってるよ。だからどけ………」
そう言って女は剣を水平に構える。禍々しい魔力が女の持つ凍える魔力と混じり合い、増幅し周囲の、冥府の気温が下がっていく。
「私はねぇ、怒ってるんだよ。あんなもの使わせてまで私達に嫌がらせしてくるし、冥界を見直す機会を与えてくれた恩人にあんな事するから………」
カチカチと死神たちの歯が鳴る。それは決して寒さからではない。ただ純粋な恐怖だ。
《あまり配下をいじめるな、小娘……》
「………………」
その言葉に女、セラフォルーは迸る魔力を収め魔剣を異空間にしまう。
現れたのは骸骨。冥府の王、ギリシャの死後の世界を司る神ハーデスだ。
《して、何用かな?アポも無しに無粋な輩め》
「現場処理を行っている日本神話の鬼灯殿に代わり、その場に居合わせた私が
《え、なにそれ聞いてない》
最初は、二天龍に使うのかと思っていた。英雄派の連中が名誉欲に酔っただけの集まりであることには気付いてた。近いうちに破局することも想像できた。
とはいえ、三大勢力への嫌がらせにはなった。そこに加えギリシャに小うるさい雑兵を送るのをやめるからサマエルを貸してくれと言ってきた。
イヤだってさぁ、人間の限界に挑戦するとか言ってたけど、仮にも英雄名乗ってんじゃん?まさか人に何の迷惑もかけてない日本神話に喧嘩売るとか思わなかったんだって。
《つまりワシもまた被害者》
「言いたいことはそれだけかホラーマン」
《ホラーマン?》
ハーデスはあれ、こいつこんなキャラだっけ?と首を傾げる。集めた情報ではキャピキャピした格好でおちゃらけていると聞いていたのだが……とんでもない殺気放ってマフィアの女ボスみたいなんだが。と言うかホラーマンってなんだ?
《貴様!ハーデス様をよりによって赤い小悪魔キャラ気取りにベタぼれの骸骨扱いだと!確かに映画なんかじゃたまに格好良くなるけど、許せん!せめてブルックにしろ!》
「はぁぁぁ!?一番ねーよ!何?この人バイオリンが趣味なの?それともギター?あの世に住んでるソウルキングってか!?」
《ハーデス様を馬鹿にするか!この人は、無理矢理さらってきたペルセポネー様との距離感が掴めず楽器に手を出し全て失敗したという過去も持つが、それでも何度も挑もうとしたお方だ!ギターもバイオリンも聴いてると吐き気がこみ上げてくるが音は出る!》
《おいプルート黙れ》
こいつはいきなり何ぶっちゃけてくれてるのだろうか?腹心だと思っていたが実は嫌われてるのだろうか?
「まあ大方二天龍のエロガキの方にでも使うと思ってたんでしょうね。彼奴なら寧ろ死んでよし!ていうか死ね、何だよ人を痴漢に変える可能性の固まりって………馬鹿なの?死ぬの?殺されたいの?殺して良いの?」
《……………》
何だろう。基本的に悪魔と天使と堕天使が嫌いなハーデスも思わず同情してしまいそうな哀愁がセラフォルーから漂った。
「まあサマエルも死んじゃったらしいし、もう借りられないか」
《……何?》
「ん?」
サマエルが帰還していなかった。恐らく使用後の転移中に盗まれたのだろう。
「これ、大失態じゃないのハーデス殿」
《あっるぇー?》
空っぽの氷の固まりを見て顎に手をやるハーデス。
本来なら居るはずのサマエルは影も形もない。
《く、こうなったら盗まれたことにして……》
「ちなみに発言は録音済み」
《ならば奪うまでよ!》
と、プルートが駆ける。が、気がつくとプルートが倒れていた。
《がは──ッ!な、何が………》
「時間を
《………………》
ハーデスにも何が起きたか見えなかった。つまりハーデスの時も凍り付いていたのだろう。何こいつ。何で魔王最強はサーゼクスかアジュカって噂が流れてたの?
「それじゃあ私はこれで……被害を受けたのは日本神話。私はその事に関して報告しに来ただけですので」
《あ、うむ……》
「後でくる鬼灯殿、そして今回の件に関する各勢力からの抗議、対応頑張ってください。外交って本当大変なんですから」
《……………………》
「あ、鬼灯様お帰りなさい。冥府はどうでした?」
「行って早々土下座されたので、取り敢えず賠償金と城の半壊と全治5ヶ月で勘弁しました」
「………勘弁したんですか……それで……」
鬼灯のやらかした事に、頬に手を当てあらあらとため息を吐くお香。まあ日本国内でサマエルが使用されるなんて暴挙が行われれば仕方ないことだろう。
「それで、柳さんは?」
「呼吸は安定してますけど……意識は、まだ」
「……そうですか」
サマエルの攻撃を受けた柳は何故か縮んでおり、未だ目を覚まさない。最強の龍殺しの呪いを半龍の身でくらったのだ。生きているだけでも喜ぶべきなのかもしれない。
「少し、見てきます」
「ご一緒します」
病室の扉を開ける鬼灯。目があった。
「あ、柳ちゃん起きたの?」
と、お香が安心したように言うが、柳は反応せずジッと此方を見ている。いや、睨んでいるのだろうか?
「柳さん、意識ははっきりしてます────」
ガブリと柳に伸ばされた手が咬まれる。しかも鬼にとってはどうってことないが、柳の表情からして本気で。
「……………」
「ぎゃん!?」
鬼灯は迷わず柳の頭を叩いた。
「ええ!?ここは普通『怖くない、怖くない』をする場面では!?」
「ナウシカは好きですよ。ただ私はきちんと罰を与えます。それで、いきなりどういうつもりですか柳さん」
「や、なぎ………?」
名を呼ばれ不思議そうに首を傾げる柳。鬼灯はふむ、と顎に手を当てる。
「貴方の名前は?」
「
その名を、鬼灯は出会った当初にも聞いた。名の由来も。兄姉八人はおろされたか、孕んだ女から父が逃げたので顔も知らないらしい。