鬼灯の冷徹かと思ったが………   作:超高校級の切望

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人十

 その女は言う事をよく聞いたし金も持っていた。

 他の女に手を出しても文句を言わず、ただ戻ってきてくれればそれで良いと言う。都合が良かった。だから同棲してやった。食い物も、温かい風呂もある。

 娘が生まれたが世話も一人でやっていた。偶に夜泣き出して五月蝿い時は黙らせるのを手伝ってやった。

 名前は美九。確か以前子を孕んだとか言ってきた女が8人ほど居たからだ。金も持ってないくせに偉そうに責任云々言ってきたので無理矢理堕ろさせるか、無理なら逃げてた。

 二人目の子が産まれた。十人目なので人十(ジント)と名付けた。

 此奴は駄目だ。そう思ったのは五歳の時。此奴は何時か自分に反抗する。そう思った男は押入や浴槽に閉じこめるのをやめ徹底的に痛めつけた。恐怖を与え、逆らう気を無くさせるために。

 が、その努力は徒労に終わった。

 

 

 

「柳様の昔の名前って人十だったんだ」

「ええ。流石にそれではと思い、私が名付けました。人と十を重ねて木、そして最初に彼と地獄で出会った芥子さんの卯。これをあわせて柳」

 

 因みにその時柳が言った言葉は『採用』だった。

 

「因みに今の柳様は?」

「未だ幼くなったままです。原因は、癪ですが神獣に血と髪を渡して調べてもらってます」

「直接診せなかったんですか?」

「『酒と女の匂いがする、あの親父と同じだ!』と噛みつきました」

 

 警戒心が相当強いようだ。特に大人、それも頭にダメながつくタイプが。

 唐瓜は哀れな神獣の普段を思い返し納得してしまった。

 

「今はお香さんに診せてますが………」

 

 と、病室の扉を開けるとお香の腕に噛みつく人十の姿が。

 

「うおおお!お香姐さん!」

 

 と、人十を引きはがそうとする唐瓜。が、お香が止める。

 

「大丈夫よ唐瓜ちゃん。ねえ柳ちゃん……じゃなかったわね。人十ちゃん、何もしないから離して」

「うるせい!大人なんか大っ嫌いだ」

「あら、私何か嫌われるようなことしちゃったかしら?それなら謝るけど……」

「え、う……」

 

 お香の言葉に戸惑うように狼狽え後ずさる人十。その人十に視線を合わせるように屈み顔を近づけるお香。

 

「してた?」

「…………してない」

「あら、じゃあ悪いのは人十ちゃんね。この前も鬼灯様に噛みついてたし……悪い子」

「────ッ!」

 

 ビクリと人十の肩が震える。その人十の額をペシリと叩く。

 

「悪いことしたら言うことがあるわよね?」

「………ごめん、なさい……」

「はい。良くできました。さ、次は鬼灯様に……」

 

 と、幼い人十の身体を抱えるお香。漸く鬼灯達の存在に気付いたようだ。

 

「あら鬼灯様。ちょうど良かったです………ほら、人十ちゃん」

「…………昨日は、噛みついてごめん」

「いえ……しかしお香さん、手慣れてますね」

「あら、手慣れるも何もキチンと向き合って接して上げればいいだけですよ。亡者じゃないんだから、直ぐに手を上げるのは駄目です」

 

 お香はそう言うと抱えた人十を近付ける。

 

「ほら、子供はこんなに可愛いんですから」

「……………」

 

 にこりと笑うお香に人十を見つめる鬼灯。その姿はまるで………そこまで考え唐瓜は吐血した。ショックがデカすぎたようだ。

 

 

 

 

『結論から言うとね、柳君は若返った訳じゃない』

 

 と、白澤は言う。

 小さくなった柳は幼くなったのではなく、龍の力が、龍の細胞が無くなり、本来なら体の殆どを失い死ぬか死にかけになるはずだったのだとか。

 しかしそこは縁によって形作られる人間。しかも強い縁があるのが筆頭は無限の龍神、それに加え地獄の主神やその補佐官の鬼神。初代九尾に八岐大蛇と言った規格外の面々だ。そこに柳の龍になりかけという曖昧な状態だったのが幸いし、残った龍の力を以て身体を柳として再構築した。

 縮んだのは残された細胞で再現できる年齢がそれだったからだ。

 

『記憶の方は過去が原因だろうね。弱くて、まだ父に逆らえなかった時の体型。そのトラウマで記憶を本格的な虐待が行われる前に戻して、周囲に対する嫌悪感だけが残ったんじゃないかな?』

「………成る程。で、治す方法は?」

『取り敢えず失った分だけの龍の力の龍の細胞を与えることだね』

「それだけで?」

『後は本人の意思次第だよ。何せ、少なくとも今は本来その見た目だった頃より幸せだろうからね。そのまま新しい人生進むって可能性もある』

 

 そうならないようにするには、記憶でも刺激してみるんだね、と笑う白澤。記憶を刺激するとは、つまり()()()()()()だ。出来ないと解っていての言葉だろう。

 

『僕はこのままで良いと思うけどな~。忘れたい記憶は忘れたままで……』

「………柳さんは、そこまで弱くありませんよ」

 

 と、鬼灯が通話を切るとほぼ同時に扉が開け放たれる。

 

「ほ、鬼灯様大変です!や、人十さんが、亡者に……!」

 

 

 

 

 人十はここが地獄だと知り驚いた。死んだのかと思えばそうではないらしく、自分はここで働いているのだとか。

 

「ここが、俺の造った地獄?」

「はい~。人が人を傷つけても若気の至りですませちゃう者達が落ちる地獄で~すよ」

 

 未来の自分は何を思ってこんな地獄を造ったのだろうか?と、そこまで考え頭痛がする。吐き気もする。と、芥子が心配そうにのぞき込んだ瞬間亡者の一人が人十を捕らえる。

 

「あ、貴様!」

「あぁ!人十君を離すで~すよ!」

「う、うるせぇ!近づくな!」

 

 鋭い石の先端を人十の目に突きつけ叫ぶ亡者。年は30代ほど、病気か事故で亡くなったのだろう。

 

「何で俺が地獄に落ちなきゃなんねーんだ!何で、俺だけ!むしろ殺された俺は被害者だろうがよぉ!」

「殺された?」

「そうだよ、あの女……許さねえ、その他大勢のくせしやがって、何が子供の責任をとれだ、さっさと堕ろせば良いのに堕ろせなくなっただとか……」

 

 その男は生前多くの女と関係を持っていた。妻が居る身でありながら、だ。そして浮気相手が身ごもり、堕ろせなくなるまで腹の子が育ち、関係を切ろうとして刺された。

 

「浮気なんて誰でもしてるだろうが!まだ結婚したばかりで、こんなのやって当然なんだよ!」

「…………当然?」

 

 ミシリ、と男の骨が軋む。見れば人十が男の腕を掴んでおり、男の腕が()()()。人十が触れていた場所が、抉れるように無くなった。

 

「が、あああ!?」

「お前は、人の命を、産まれてくる者を何だと思っているんだ?誰でもしている?なら、そいつ等全員地獄に落とせば満足か?」

「ひぎ、ひあぁぁ!?」

 

 黒いオーラを纏い自分を放り投げた男に近づく人十。魂すら犯しそうなどす黒いオーラは男に恐怖を与えるには十分すぎた。

 

「人十さん!」

「…………鬼灯?」

 

 と、その声に振り返り、人十は倒れた。

 

 

 

 

「………呪いだね。それも強力な……これ、サマエルの呪いだよ」

「何故それが柳さんに?」

 

 診断した白澤の言葉に鬼灯が首を傾げる。サマエルの呪いと言えば神の呪いだけあり最高クラスの呪いだ。何故それを人十は操っていたのだろうか?

 

「呪術ってのは呪いに形を与える術だけど、呪いってのは元来恨み辛みから生まれるものだ。残っていた呪いの残滓を取り込んだんだろうね……」

 

 故にあれは龍殺しの呪いではない。恨みの対象を消し去る純粋な呪い。呪術でないので返しも出来なければ防ぐには純粋な力押しでなければならない。並みの結界など浸食して破壊する。

 

「なかなか戻らなかったのはこれも原因の一つだろうね。三子ちゃんの力を殺してたんだ。でも、これで戻る可能性はぐっと増えたと思うよ」

 

 後はきっかけだね、と白澤は笑った。

 

 

 

 

「………これはこれで食べ応えはありそうねぇ」

 

 見舞いに来た妲己は眠っている人十を見て笑う。

 幼い子供というのはそれだけで妖怪にとってはごちそうだ。白魚のような手が伸び、その頬にそっと触れる。

 

「でも、普段の貴方程じゃない。早く起きなさいよぉ、柳……?」

 

 

 

 

 

「……………っ、頭いってぇ」

 

 ムクリと起き上がり頭をガシガシ掻く。時間と日にちを確認をする。

 

「………マジか、結構寝てたな」

 

 そう呟くと起き上がる。

 そして、不意に頬に触れる。

 

「……何か、忘れたくないことを忘れたような」

 

 柳はそう呟くと、寝ている間にたまったであろう仕事をするために鬼灯の元に向かった。

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