吸血鬼を超越したと自称する貴族吸血鬼達と対面するのは黒いオーラを放つ魔王の一角。元テロリストの所持していた魔剣であり、北欧から同盟の証として進呈された魔帝剣グラムを持つ魔王は吸血鬼を睨みつける。
「ふ。来るが良い、小娘」
「500も生きてないクソガキどもがナマ言うな」
一人の吸血鬼がセラフォルーを挑発する。瞬間上半身が砕け散った。が、直ぐに上半身が生えてくる。
「おお、すばらしい。まるでフェニックスのようだ」
「ふふ。これぞ吸血鬼のあるべき姿よ」
「これでようやく、耐え難き家畜の時代が終わりますな」
「家畜?」
首を傾げるセラフォルーに貴族吸血鬼がふふん、と誇らしげに今回の目的を語る。人間より優れたはずの吸血鬼は、しかし弱点が余りに多いため領土を広げることが出来なかった。しかしようやくその弱点も消え、今から人間達を支配しに行くらしい。
「それって、まさか日本も含んでますの?」
「カーミラ派の女か……当然であろう?極東の島国といえど家畜が我が物顔で生存する土地。それに、聞けば地獄に身の程を弁えない家畜が居ると聞く」
「ああ………貴方達は、何も知らないのですね」
「ん?何だ、そのハムに加工された子豚を見る目は」
途轍もない哀れみに満ちたエルメンヒルデの目に狼狽える吸血鬼達。何だろうあの目は。吸血鬼のくせに聖母を名乗れそうな程慈愛に満ちている。
「どーでも良いけどさぁ。人間を家畜化って、全勢力敵に回すの解ってる?」
「ふん。やはり見た目と同じく、中身も若い。今の不死性を見たでしょう?我々を殺せるものなどもうこの世には────」
パキン、と凍り付き砕け散る吸血鬼。再生は、しない。
「そんなの
「───な!?」
砕け散り再生しない仲間を見て目を見開く吸血鬼達。セラフォルーは形の残っていた頭を踏みつぶす。
「私さぁ………最近とぉってもイライラしてるの。力が強いって理由だけで魔王にされて、そのくせ王としての仕事を果たせと言われて……なのにどいつもこいつも問題をポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン………挙げ句の果てには何でこんなガキどもに小娘扱いされなきゃ何ねーんだよぉぉぉ!」
ゴゥ!と魔力が突風になり吹き荒れる。キラキラと氷の結晶が宙を舞う。
「ダイヤモンドダストだな。溢れる冷気に空気中の水分が凍り付いたんだ」
「この辺りではたまに見る光景ですね。月に照らされたそれはもう大変綺麗です」
「私は朝何度か。それも綺麗ですよ……」
「きれい」
「……ん」
と、マイペースに防塵マスクをかぶり事の成り行きを見る五人。ふとエルメンヒルデは気になったことを尋ねる。若干怯えながら。
「あの、柳様は今回何もしないのですか?家畜扱いされ、柳様が何もしないなど少し怖───ふ、不思議なのですが」
「あん?愉快なわけねーだろ一々口に出すな」
「ひぇ!も、ももも、申し訳ありません!」
「ただまあ、セラフォルー様のストレス発散相手にされると思うとなぁ」
「そうですね。あれは、初めてあった時の柳様に通ずるものがあります」
と、エルメンヒルデは、体内に入った氷の欠片を媒体に吸血鬼達を内側から氷の剣で貫くセラフォルーを見る。スッ、とロスヴァイセの後ろに隠れた。
「そんな、バカな………いや、私は聖杯を持つもの!叔父上達のようには」
「うっさい死ね」
セラフォルーは氷像から聖杯を引ったくると軽く押す。倒れた氷像が粉々に砕け散った。
「お、おお……すげぇなセラフォルー!神滅具をこうもあっさり」
「………アザゼル総督ってさー……堕天使だよねー?」
「お、おう…どした?」
「何で堕天使がうちの悪魔達の保護者面して同盟結んでない吸血鬼領に連れてきてんだ殺すぞおい」
「お、落ち着けセラフォルー!お前どうした!?何かに憑かれてんのか!?」
アザゼルの襟をつかみ持ち上げるセラフォルー。ピキピキ音を立て凍り始める服を見て顔を青ざめさせるアザゼル。
「せ、セラフォルー様!冷静に、冷静になってください!」
「ギャーギャーピーピーうるせぇよ!冷静になれ?冷静になって物事見たからこうなってんだよ!落ち着け?落ち着いたらてめぇら暴走するだろ!疲れてる?疲れてるに決まってんだろうがぁぁぁ!」
「うおおおお!?」
ドゴォ!と壁に向かってぶん投げられるアザゼル。セラフォルーはギロリとリアスを睨みつける。
「だいたいお前もさぁ!何なの!?まともに領地経営も出来ない、大王派の罪の秘匿のために担ぎ上げられたら評価に満足して、調子に乗って魔王で外交官の私になんの相談もしないし!何なの!?私のこと嫌いなの!?私を困らせて楽しいの!?」
「ええ!?ち、ちが───!」
「もーやだよー!疲れるよぉ!魔王なんて疲れるよぉ!辞めたいよぉぉぉ!なのに何で他の魔王はバカと怠惰とゲーム脳しかいないのよぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁん!!」
とうとうへたり込みギャン泣きしだすセラフォルー。と、そこへジャンヌが現れる。
「あー、やっぱりこうなった。ほらほら泣かないの魔王ちゃん。飴食べる?」
「食べりゅ」
ジャンヌが差し出した飴をころころ口の中で転がすセラフォルー。スンスン泣きながらも、とりあえず落ち着いたようだ。
「な、何だか闇の深い方ですわね」
「まああんな連中の王なんてやってりゃなぁ」
「あら、まるで私たちがセラフォルー様の手を煩わせているみたいな言い方はやめてもらえるかしら?」
「ねぇね、ねぇね、現在進行形で困らせてたのにあれ何?」
「名指しされてたのに……どーいう頭してる?」
「じゃあ魔王ちゃん、とりあえずグレモリー達連れて冥界に帰ろっか」
「帰って寝たい」
「だーめ。仕事残ってるんだから……私も手伝うから、ね?」
よしよしとセラフォルーの頭を撫でるジャンヌ。よくよく探れば彼女から悪魔の気配がする。魔力量からして僧侶の可能性が高い。
「せめて後一人ぐらい仕事できる奴がいればなぁ」
と、その時だった。
「んひゃひゃ!セラフォルーったらずいぶんおっかない娘になったねぇー!」
「…………お父さんの物真似?そんな事しても小物なのは変わらないよ……えっと、お前……何だっけ名前」
「ラゼヴァンだ!忘れるな!」
そういって現れたのは銀髪の男二人。セラフォルーは面倒くさそうにその二人を睨みつける。
「雑魚に用はないよ。お前等どうせ何も出来ないんだから、帰った帰った」
「ふん。そんな口が利けるのも今のうちだ」
「あん?」
「私は邪龍達を復活させた!トライヘキサも居場所が分かった。じきに手に入れる!そうしてこの世界全てを支配してやるのだ!父でもなく、祖父でもなく、このラゼヴァン・ルシファーが!」
「あっそ。じゃあ死ね」
と、セラフォルーがラゼヴァンに向かって氷を放つ。しかしそれは複数のグレンデルによって防がれた。
「量産品とはいえ邪龍の中でも特に堅牢な鱗を持つグレンデルの群だ。貴様如きで貫けまい。そして、追加だ!」
「「「────!!」」」
ドクン!と吸血鬼達の死体が蠢く。やがてそれは巨大な黒いドラゴンへと姿を変え、セラフォルー達に襲いかかってくる。
セラフォルーはチッ、と舌打ちして凍り付けにして砕く。その隙にラゼヴァン達は逃げたようだ。
「─────はぁぁぁぁ」
ズゥン、と重いため息をはくセラフォルー。天井を突き破り地上まで一気に飛ぶ。
ツェペシュ領だけではない。カーミラ領でも火の手が上がるのが見えた。
「何奴も此奴も何奴も此奴も何奴も此奴も………いい加減にしろってんだよ畜生め───」
セラフォルーを相手するように命じられていたのかセラフォルー向かって襲いかかる量産型グレンデル。と、セラフォルーの肌と髪が白く染まる。気にせず殴りかかった量産型グレンデルの拳が凍り付き砕ける。
「凍れ」
「「「────」」」
ピシリと凍り付く量産型グレンデル。その氷像の一つの頭にグラムを突き刺すセラフォルー。グラムから龍殺しのオーラが流れ込みピシピシひび割れていく。
「砕けろ」
次の瞬間、量産型グレンデルがはじけ周囲に龍殺しの冷気が放たれる。それはカーミラ領まで覆い全ての邪龍を一瞬にして凍り付かせた。
「あいつ殺す。絶対殺す。何時か殺す。必ず殺す────ん?」
と、セラフォルーは視線を感じて振り返る。グラムが反応している。ドラゴンだ。邪龍に討ち漏らしが居たのかと振り返るとそこには───
「…………兎?」
オッドアイの黒兎がドラゴンの翼をはやしパタパタと飛んでいた。