もしも孤独のグルメの井之頭五郎が、ブレンド・Sの属性喫茶スティーレに行ったら。

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東京秋葉原の属性喫茶スティーレ

「暑いなあ」

 

東京のど真ん中で太陽を見上げて呆然とする。

電気街にある橋の上は少しの風も無く、アスファルトの照り返しを浴びせてくる。

 

それにしても何度来ても慣れない街だ。

仕事でやって来たものの、秋葉原は苦手だ。

行き交う人々の会話を聞いても何一つ理解できない。

本当にここが日本なのかと困惑する。

いや、この街ほど日本らしい場所もないか……。

 

さぁて、クライアントへの訪問も終わったことだし。

さっさと帰って見積もりを作るかぁ。

 

そんなとき、アニメショップの看板が目に入った。

美味しそうにラーメンを啜る、金髪の女子高生。

どうやらアニメの宣伝のようだ。

女子高生がラーメンを食べるだけのアニメなんて需要があるのか?

オジさんが飯を食うだけのドラマよりは面白いかもしれないが……。

 

そんなことを考えていたら。

 

 

 

腹が、

 

 

減った――。

 

 

 

 

店を探そう。

 

今の俺は何腹なんだ?

 

ラーメンは美味そうに見えたが、このクソ暑い日にラーメンは避けたい。

 

ケバブ、じゃないな。

いつから秋葉原ってこんなにケバブ屋が増えたんだろう。

 

秋葉原らしい店っていうとメイド喫茶だろうが、俺には無理だなあ。

店の前に立っているメイドさんに苦笑いをしながら、軽く会釈をして逃げ出す。

 

そこで、ふと目に入った看板が気になった。

属性喫茶?

何だそれは……?

 

属性と言う言葉からは何も連想できない。

立ち尽くしていると、何やら店頭に立っている外国人が近づいてくる。

 

「よろしければドウゾー! 激辛フェア中デス!」

 

激辛料理!

この炎天下ならば挑むのも悪くない。

 

得体の知れない店に多少の不安を感じつつも、なにか新しい出会いがあるような希望を感じていた。

ようし、ままよ!

ドアを押し開くと、喫茶店らしいカランカランという音が鳴る。

 

「いらっしゃい、お兄ちゃん! スティーレへようこそ~!」

 

おいおい。

……お兄ちゃんって俺か?

俺にこんな小さな妹がいるわけないだろう。

 

まず、身長が低すぎる。

へそ辺りまでしか無いんじゃないか?

娘だとしてもおかしくないぞ。

 

「あ~、そのなんだ。親に借金でもあるのか? 相談に乗るぞ」

 

俺は膝を曲げて彼女と目線を同じくする。

いたいけな少女が不当に労働させられているとしたら、見過ごせない。

 

「んも~! 失礼だぞお兄ちゃん!」

 

ぷんすかという擬音を背負っているかのようなコミカルな怒り方をした彼女は、こっそり耳打ちしてきた。

 

「こう見えても二十歳ですからご心配なく。あと、私はお客様の妹っていう設定なんです。ウェイトレス全員がそういうキャラクターを設定してるお店なので、楽しんでいってくださいね」

 

同じ人間とは思えないほど、しっかりした口調と声だった。

信じれられないという顔をした俺に、大学の学生証を見せてくる。

よく疑われるのだろう。

小声ですまないと詫びて、脚を伸ばした。

 

「は~い、それでは大きなお兄ちゃんはこちらの席へどうぞ~」

 

あっと言う間に10歳若返った彼女に案内される。

しかし、この店は一体なんなんだ?

キャラクター設定?

なんのこっちゃ。

 

案内されるがままに座ると、今度はまた違う女性がやってきた。

先程の女の子は黄色だったが、ピンク色の制服を着ている。

こちらはいかにも女子高生という印象だ。

 

「お客様、お暑かったでしょう、こちらをどうぞ」

 

あぁ、炎天下を歩いてきて冷たいオシボリは有り難い。

受け取るなり、顔を拭く。

オシボリで顔を拭くなんて、オジさんのやることだなんて意見があるようだが。

こちとらオジさんなんだ、好きにやらせてもらう。

 

「あっっちぃい~~~~!?」

 

冷たいと思っていたオシボリは、床屋のひげ剃りの蒸しタオルより遥かに熱かった!

 

「他のお客様のご迷惑になりますので、醜い雄叫びを上げるのは遠慮していただけますか?」

 

死ぬほど熱いオシボリを持ってきたウェイトレスは、もの凄い目つきで俺を睨んでいた。

ど、どういうことなんだ。

確かに顔を拭いて雄叫びを上げたのは事実だが、なぜこんな扱いを受けることになる!?

 

いかん、落ち着け……。

完全に、この店のペースに飲まれている。

焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ。

 

「す、すまない。あまりに顔が熱くて、つい」

 

そう答えた俺に、お冷を注ぐポットを構える彼女。

 

「じゃあ、お顔を冷たくしてあげますね、お客様~?」

 

彼女は、俺の顔面にどばどばとお冷をかけた!

冷たいっ、冷たいし、声をあげることもできない!

 

苺香と書かれたネームプレートの少女は、家畜の糞でも見るかのように蔑んだ目をしていた。

一体、俺が何をしたというんだ!?

 

水掛けが終わり、呆然とした状態で息を整える。

あまりの出来事に、頭が追いつかない。

 

「う、羨ましい~」

「苺香さん、今日もキレッキレですね~!」

 

なんと隣の客が俺たちを羨望の眼差しで見ていた。

この一連の流れをみて、羨ましいという人間がいるのか?

これが秋葉原という街なのか……。

 

「俺らのようなドMには、たまらないよな~!」

 

ドM……!?

そういうお店ということか?

今のがプレイ!?

ちなみに、苺香と呼ばれた女の子は水をぶっかけただけで去っていった。

お冷はまだ注がれてもいない。

 

「はい、タオル。勘違いしないでよね、濡れたままお店を歩かれると掃除が大変なんだから」

 

今度は青い制服を来た、ツインテールの女の子がやってきた。

客の俺を真っ直ぐに見ないで、斜め上を見ながらタオルを差し出している。

タオルは有り難いが、この子も何か接客としてはおかしい。

 

「夏帆さんのツンデレキタ~!」

 

先程のドMコンビが叫ぶ。

ツンデレって何だ?

ツンデレ気候? それはツンドラか。

 

よくわからないが、素直になれないひねくれ者みたいな感じだろうか。

よく見ると、口を少し尖らせて、可愛く拗ねている。

これが萌え……ってやつなのか?

う~む、奥が深いぞ、属性喫茶……。

 

俺はタオルで顔を拭きながら考えをまとめていた。

つまりコレは全てが演出で、エンターテイメントということなのか?

 

卓上のPOPを見ると、このお店の説明が書いてあった。

これを先に教えてくれよ。

なになに、このお店には現在5つの属性のウェイトレスが在籍しています。

ツンデレ、妹、ドS、お姉さん、男の娘。

ほ~、属性ってそういうことか。

それを楽しむというのはまだ理解できませんが。

郷に入りては郷に従え。

この店の流儀だというなら、従いましょう。

 

「メニューはお決まりですか?」

 

また新しいウェイトレスがやってきた。

妙に色っぽく、胸元が開いている。

かけている眼鏡も真面目さを強調するのではなく、妖艶さを醸し出していた。

 

「あの、あなたも何かの属性があるんですか?」

「んふっ、私は、お・ね・え・さ・ん、よ」

 

たっぷりと溜めて人差し指を動かしながらの自己紹介は、なるほど確かにお姉さんだ。

 

お姉さん属性、堪能させてもらおうじゃないの。

彼女をじっくりと観察する。

 

肉厚の胸肉は、柔らかそうでボリュームもたっぷり。

口に入れるまでもなく、ぷりぷりとした弾力が想像できる。

もも肉に関しても、思わずむしゃぶりつきたくなるほど旨そうだ。

唇も艶かしくつややかで、口に含めばいくらでも蜜がでてきそうに見える。

 

いいじゃないか、いいじゃないか。

こういうのでいいんだよ。

 

ドSやらツンデレやら、わかりにくいものは苦手だ。

 

夜のお供だって、女教師とかナースとかでいいんだよ。

なんで時間を止めるとか訳のわからないことをするのか理解できないね。

 

「ご注文はお決まりですか?」

 

おっと、忘れていた。

俺は飯を食いに来たんだ。

しかし、何も考えていなかった。

 

「ええっと~、おすすめって、ありますか?」

「そうねぇ~、期間限定の激辛スペシャルはどう?」

「じゃあ、それで」

「ん、すぐに持ってくるから、いい子で待っててね?」

 

ええ、いい子で待ちますとも。

去っていく彼女の臀部を凝視しながら、下半身が悪い子になるのを我慢していた。

 

手持ち無沙汰になり、再度先程のテーブルに置かれたPOPを読む。

5つの属性のうち4人には会ったな。

この男の娘ってなんだ?

男の子の誤植だろうか?

いや、それじゃ属性にならないだろう……。

いいや、聞いちまえ。

 

「あの~、すいません」

 

片手を上げてウェイトレスを呼ぶ。

 

「は~い、どうしたのお兄ちゃん?」

 

ええと、この娘は妹属性の麻冬ちゃんか。

 

あまりにも小さな胸肉は、北京ダックのように食べれるのは皮だけ。

しかし、初鰹のように解禁されたばかりの食べられるようになってすぐに食べる楽しみというものがある。

その背徳感が、最高のスパイスなのかもしれないなあ。

 

「お兄ちゃん、目つきがいやらしいんだけど、通報してもいいかな?」

「つ、通報は勘弁してください。え~っと、ちょっと聞きたいことがあって」

「なにかなぁ~、麻冬にわかることだといいけどぉ~」

「この男の娘、っていうのはなんですか」

「あぁ、あそこにいるひでりちゃんがそうだよ?」

 

彼女の指の先には、これまたぶりっ子が、きゃぴきゃぴと接客していた。

見るからにアイドルのような美少女ではあるが……。

 

「あの娘が?」

「男なんです。女装した男の子だから、男の娘」

 

ほー。

女装した男の子だから、男の娘。

あはっ、オモシロすぎるぞ、この店。

 

それにしてもこれだけ可愛い女の子がいるのに、わざわざ男の娘を好き好む男がいるのか。

恐るべし、秋葉原。

 

暫くして、その男の娘が料理を運んできた。

 

「はい、激辛スペシャル~! きらっ☆」

 

腕や脚をくるくると無駄な動きをさせながら、アイドルの振り付けのように料理を出してきた。

それはどうみても、オムライスとナポリタンとトマトジュースだった。

激辛料理って担々麺とか麻婆豆腐とか、そういうものじゃないのか。

 

「はい、それでは~、デスソースをかけていきまーす♪」

 

おいおい、デスソースって。

穏やかじゃないぞ。

 

「こちらはジョロギアやハバネロから作られた、タバスコの何十倍も辛いというソース! 辛さはなんと10万スコビル!」

 

へ~。

そういうのがあるのか。

10万スコビル、すこびる辛そう。

 

「辛~くな~れ、萌え萌えきゅ~~ん!」

 

オムライスにハートマークを大量に描いていく、ひでりちゃんとやら。

ケチャップで文字を書くのは聞いたことがある。

激辛バージョンってことか。

 

「そして~! ひでりんスペシャル~」

 

ナポリタンにもたっぷりと振り入れて去っていった。

おいおい、大丈夫なのか。

酸味と辛味が匂い立つ料理を前にして、まずはスプーンを手にとった。

 

「いただきます」

 

はぐっ。

んぐんぐ。

 

うを―――!?

 

辛い、辛いなんてもんじゃない。

痛い。

舌が拷問にかかっている。

 

でも、いい。

 

デスソースって、男の娘の味だよな――。

 

男だとわかっていても、そこがいい。

激辛だとわかっていても、それがいい。

 

少しわかった気がするよ、男の娘。

 

はぐっ、ごく。

むぐっ、ごく。

 

一口ごとに水を飲まずにいられない。

 

「ちょっ、キモっ!? 汗かきすぎ!」

 

そう言いながらもお冷を注いでくれるツインテールの夏帆さん。

あぁ、これがツンデレなのか。

わかってきた。

 

いいぞ、ツンデレ。

いいぞ、スティーレ。

 

オムライスを半分やっつけたところで、今度はフォークをとって、ナポリタンを巻きつける。

 

これも辛い!

 

うおォン、俺の胃はまるで火力発電所だ。

腹の中が熱くて熱くて、煮えたぎっている。

 

そうじゃなくっちゃ、今日は祭りだ。

美味いとか不味いとか、そんな話じゃあないんだ。

 

「がんばれ、がんばれ」

 

お姉さんキャラの美雨さんが、応援してくれている。

食べることを応援されるなんて、初めてだ。

 

「お兄ちゃん、かっこいい!」

 

妹キャラの麻冬さんが、称賛してくれている。

食べるだけで評価されるなんて、初めてだ。

 

「そこまでして食べたいんですか? 豚以下ですね」

 

ドSキャラの苺香さんが、蔑んでくれている。

食べてるだけで冷ややかな目で見られるなんて、初めてだ。

 

あぁ、うまい。

しかし、辛い。

 

ゴキュゴキュゴキュゴキュ!

俺はトマトジュースを飲み干した。

 

「―――――ァ―――――ー!?」

 

死ぬ!

間違えて、マグマでも飲んでしまったのか!?

悶えながら目線を彷徨わすと、そこにはデスソースを持った苺香さんが立っていた。

 

「美味しいですか?」

 

トマトジュースにも入れちゃったの!?

怖い!

そんなことを笑顔で訊くことが!

 

「ハ、ハイ……」

 

完全に声が潰れていて、ミスタープロレスのような声しか出ない。

 

「味覚障害のお客様にも、喜んでいただけて良かったです!」

 

天使のような笑顔だが、悪魔にしか見えない。

しかしそれが、なんか、なんかもう、気持ちよくなってきた。

これがドM……!?

そうか、俺はドMだったのか。

 

ツンデレも好きだし、妹もお姉さんもいいし、男の娘も面白い。

 

この店、当たり。

 

ようし。

残りを食おう。

 

俺はスプーンとフォークを握りしめ、ナポリタンとオムライスを交互に口に入れていく。

行儀悪く食べたっていいじゃないか。

 

外食っていうのは何も、腹を満たすためだけじゃないんだ。

こうやって店の人とのコミュニケーションを通して楽しく過ごす。

そういう一面もあるはずなんだ。

 

可愛いウェイトレスの応援を受けて、地獄のような料理を腹に入れていく。

そして、最後の一匙を口に放り込み、水を流し込んで咀嚼した。

 

「ごちそうさま」

 

万感の思いを込めて、食事への感謝を述べる。

俺は手を合わせて、お辞儀をした。

 

「「おめでとう」」

「「コングラッチュレーション」」

 

周囲からの拍手と称賛の声が鳴り止まない。

 

こんなウェイトレスさん達がいるなんて。

こんな素敵なお店があったなんて。

こんな世界があったなんて。

 

暫くの間、滝のように流れる汗を拭きながら、満足感に浸っていた。

 

会計を済ませて、店を出る。

街路を歩きながら、ふと思うのだ。

 

俺は今まで、ひとりで、何にも縛られないで、自由に飯を食うのがいいと思っていたが――。

 

お店のルールや、やり方に振り回されるのも楽しいのかもしれない。

料理よりも、店員の個性を味わう店があってもいいのかもしれない。

 

この店では、お腹以外の色々なものも、満たされた気がする。

 

どうやら俺も新しい属性に目覚めてしまったかもな――。

 

 

 




作者が実際にお店訪問。
ふらっとぐれいーじが出来たらイイのになあ。

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