カラ一花漫小説です
よろしくお願いします

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花漫の派性が出た瞬間、「書かねば!」と思って4か月。
いつの間にかブーム終わった気もしますが、お楽しみいただければ幸いです。


僕らのフラワーアレンジメント

志望動機はごくごく単純で、特に深く考えることはなく。ただ、夢である「漫画家」になるために。生きていくためには金を稼がないと、といった理由で古臭い眼鏡と薄くなった髪の毛の男の面接を潜り抜け、俺は花屋でバイトすることになった。

24歳独身、松野 一松初のバイトの日。がたんがたん、と花屋に行くため、ぎゅうぎゅうに人の詰められたバスに乗り込む。俺は、その時からずっと不安だった。数少ない知り合いからの話だが、バイト先の上下関係が厳しく、ルールも事細やかに決めてあってとても忙しい、とのこと。そんなのは御免だ。堅苦しいのは性に合わない。それに、休みは多いほど嬉しい。バイト初日にも関わらず、休みが多くほしいだなんてな、と自分を一度小さく嘲笑った。

ぷしゅう、と音を立て、バスは花屋の真向かいに停車した。「ありがとうございます」と口に出せない俺は、運転手に小さく会釈する。

近くにあった横断歩道を渡り、花屋を目の前にした時、ごくりと息をのんだ。あの面接をしたおじさんが店主なんだろうか。だったら嫌だな、なんてまた贅沢なことを考え出して、頭を左右にぶんぶんと振った。それから意を決し、ゆっくりと店内に足を踏み入れた。

「……こ、こんにちは」

ひくっ、と喉が引き攣った。声は裏返り、またそれはとてつもなくか細く、これから自分が接客業をやっていいのだろうかとさえ思うレベルだった。

「あ、あの、今日からバイト来たんですけど」

うぅ、と自分の不甲斐なさに下唇を噛み締めると。

「ちょっと待ってくれ、今行く!」

溌剌とした明るい声が奥から聞こえてきて、それからすぐに若い男が顔を出した。「赤塚Flower」と書かれた鮮やかなライトブルーのエプロンをつけている。

「話は聞いている、松野 一松くんだろ?」

ふと、微笑する姿に慌てて「そ、そうです」と返す。

「て、店員さんですか、店長に挨拶したいんですけど……」

仕事を始める前には、経営者に挨拶をしなければならないと思い、もじもじしながらこう尋ねる。すると青年は軽く笑った。

「心配いらない、ここの店長は俺だ」

ぴ、と目の前に首からかけていた名前札を掲げられる。確かにそこには、「店長」としっかり明記してあった。

「……え?そ、そしたら、あの面接の人は……」

関係者が面接を行う、と俺が見たチラシには書いてあったはずなんだけど……。首を傾げると、「嗚呼」と呟いた店長さん。

「面接を頼んだのはダディーだ。お前は人が良すぎる、と言われたことがあって。俺は多分誰でも合格させてあげようとするから」

「なるほど……」

なるほど、とは言ったものの、あの男がこの人の父親だなんて、想像できない。年の流れというのは、やはり酷なものらしい。苦笑いする店長さんを見ながら、ふむ、と一度頷いた。

「そういうわけだ。じゃあこの際だから、自己紹介でもしておこうか」

ぱん、と手を打った店長さんは人の良さそうな顔で笑った。

「俺は松野 カラ松だ。今年で27になる。実家の花屋を継いだんだ。これから、宜しくな!一松くん」

そのキラキラした笑顔は俺には眩しくて、でもカッコよくて。憧れと、またもう一つ別の感情が心のどこかに芽吹くのを感じながら、俺は彼に目と心を奪われた。

とくんとくん、と繰り返す鼓動。

俺は花屋の店長に、淡い恋情を抱いてしまっていた。

 

 

「名前のない草花はない、と何処かで俺は聞いたことがある」

若い店主は、歯を見せて俺に笑いかけた。

「そこらにある雑草ですら、ちゃんと名前があるそうだ。誰も発見したことのない草花は分からないが。嗚呼、これはスズメノカタビラか」

すい、と指差されたのは、俺の足元にあった一つの雑草。俺は驚いて、カラ松さんの方を向いた。

「ざ、雑草にも詳しいんですか?」

「ん?いや、そういう訳ではないな。道端に咲いているものはそんなに知らない。だが、仕入れられてくる花たちの名前はほぼすべて分かるぞ」

「へぇ……」

花について語るこの人の目は星を含んだように煌めいている。この人にとって花は、俺でいう漫画みたいに大好きで大切な存在なんだな、と思った。

「まぁ、そう言う訳でだな。一松くんにはこの花屋にある花を覚えてもらおうと思っている」

「はぁ!?」

「そう言う訳で」ってどういう訳!?吃驚し猫耳を飛び立たせた俺を見て「君は一体どうなっているんだ」と言った後、カラ松さんは笑った。

「安心してくれ、いっぺんに覚えろとは言わない。一日一つ、俺が教えるから一緒に覚えていこう。ほら、365日あるんだ。休みを入れたとしても、100は覚えられるぞ」

100だなんて、と気が遠くなったが、「ダメか?」と角ばった手で俺の猫耳を撫でるその優しい瞳に、俺は弱いらしい。もじ、と一度視線を逸らして、小さな声で返した。

「い、いいですよ……」

「ホントか!」

そんな笑顔を向けられると、こちらも嬉しい。猫耳を引っ込めると、彼は少しだけ残念そうな顔をしていた。

「それじゃあ、先ずは一本目といこうか」

すっく、と立ち上がったカラ松さんに、「来て」と手招きされ、後をついていく。カラ松さんは、とある花の前で足を止めた。

「この花が何だか分かるか?」

「え、バカなんですか?薔薇ですよね」

「ビンゴ~?」

「いや、これくらい常識ですから」

こんなのも分からないヤツだと思われているのかと思って不機嫌に顔を歪めると、「そう怒るな」といなされた。

「嗚呼そうだ、薔薇だよ。赤や黄色、ピンクに白。最近では青のものもあるらしいな。花言葉は『愛情』『ロマンス』、それから、『貴方を愛している』」

店主の最後の一言で、喉がくっ、と動いたのが自分でわかった。

「く、詳しいんですね……」

「まぁな、後薔薇は色や本数でも意味が違うらしい。例えば2本は、『この世界に二人だけ』、101本で『これ以上ないほどまでに愛しています』という意味らしい」

「じゃあ一松くんにも、一本あげよう」とその場で手際よく小さなブーケを作り、俺にそれを手渡した。

「初バイト記念日のプレゼントだ、家に持ち帰ってすぐ捨てないでくれよ?」

ぱちん、とウィンクするその仕草。からかうような口調に、こくりと頷きながらブーケを受けとる。

「じゃあ、仕事内容の説明に移ろうか」

俺の心臓は、また息の詰まるような振動を繰り返していた。

 

「おはよう」

次の日。出社すると、カラ松さんが店先の花に水をやりながら笑顔をこちらに向けてきた。朝から心臓に悪い、と小さく会釈して店の中に入る。

バックの中から、昨日もらったエプロンを取りだし、着る。「……お揃い」と呟いてしまって、慌てて辺りを見渡した。取り敢えず、誰も居なかったことに安堵する。まぁ、当たり前だ。この店はカラ松さんと、バイトの俺しかいないんだから。

エプロンをつけて部屋を出ると、カラ松さんはもうシャワーを片付けてしまっていた。黒シャツの腕をまくったせいで見える、無駄のない筋肉のつき方にどきりとした。

「おぉ、似合ってるじゃないか!」

「え、あ、ありがとう、ございますっ……」

誉められるのは嬉しい。好きな人だから尚更。

「あ、ブーケ、花瓶に生けました……」

昨日貰ったブーケの話をすると、「そうか、水は定期的に変えてやってくれ。そうしたら意外と長く持つんだ」と。「はい」の返事はやっぱり小さかったはずなのに、カラ松さんは頭を撫でてくれた。

 

「それじゃあ、二本目を覚えようか」

カラ松さんがそう言ったのは、丁度休憩が終わった頃。客の入りが落ち着いた頃だった。

「は、はい」

「今日はどれにするかな……」

カラ松さんは楽しそうに店内を歩き回り、それから「決めた」と足を止める。

「一松くん、今日はコレだ」

「……何ですか、…………色違いの向日葵?」

「全然違う、ガーベラさ」

「ガーベラ……」

全然違う、という言葉に多少ショックを受けながら、花を見る。その花は仄かな赤色を灯していた。

「この花も何種類か色があるんだ。花言葉は、『希望』」

「希望……」

「嗚呼」

そう言いながら、カラ松さんは花弁を指先でちょい、とつつく。その手つきがあまりに優しいものだから、お前はずるいよな、なんて女々しいことを考えてしまって、そんな自分を恥じた。

「そうだ、一松くんは漫画家を目指しているんだろう?」

「ひやぁ!」

ぐるん、といきなりカラ松さんの首が此方に動いて、後方にのけぞる。

「え、えぇ、まぁ……、目指してるだけで、普段はイラスト描いたり模写したりしかしてないです、けど……」

「ガーベラにはな?」

ふと、口許を緩ませた彼の瞳と、俺の瞳が交じり合う。

「『前に前進』という花言葉もある。漫画に詳しくない俺が言うのもおかしな話だが、一話。一話、一松くんの納得のいきそうな漫画を描いてみてはどうだろうか。試し描きでいい、ゆっくり時間をかけてでいい、描いてみてくれ。そしたら少しは漫画家に近付けるかもしれないだろ?まぁ、正確に言うと俺自身の感情も入ってくるんだが」

心臓がきゅう、と締め付けられて息が上手くできない。何でこの人は、そんなに人の心の中をこじ開けて入ってこようとするんだろう。そんな能力があるんだろう。苦しいのにそれに対する嫌悪感はなく、寧ろ温かい毛布に包まされたような、優しい気持ちになる。

「一松くんの漫画を読んでみたいんだ」

俺はぎゅう、と目をつむって小さく頷いた。ガーベラの花弁が、が風にふわりと揺れた。

 

 

「こ、こんにちは……」

おどおどしながら古めかしい書店へと足を踏み入れる。すると、本屋に似合わずカウンターで競馬新聞を読んでいた男が顔をあげた。

「お、いちまっちゃんじゃーん!何かあった?」

「おそ松兄さん……」

この人は俺の知り合いのおそ松さん。親同士の仲がよく、俺は「おそ松兄さん」と慕ってきたが、中身は小学六年生みたいな人だ。この前会ったときに、書店で仕事をしていると聞いて、「想像つかない……」と切実に思ったのをほんの数週間前に思い出したのである。俺はカウンターの前に立って、それからショルダーバッグの紐を、ぎゅっと握りしめた。

「じ、実は漫画を」

「んあ、あー、漫画好きだもんね~。これとか買うの?」

にやにやと手近にあった、女の人のグラビアの載った雑誌を掲げるおそ松兄さんに、「……違うよ」とじっとりとした目を向けた。

「俺はおそ松兄さんみたいに欲にまみれた人間じゃないの……」

「相変わらずお堅いねぇ、むっつりはタチ悪いんじゃなぁい?」

「……殺すよ?」

鋭く睨むように見据えると、「こわぁい、お兄ちゃん泣いちゃうよ」と声。そんなこと思ってない癖に、と深い溜息を吐いて切り出した。

「……今回は、ホントに違くて。……漫画、描こうと、思ってて」

うっ、と言葉に詰まりそうになりながらこう言って、それから視線を床に落とす。おそ松兄さんの方から、くしゃりと紙の擦れる音がした。

「ふぅん、描く気になったんだ?」

「う、うん……」

「そっかそっか」

何処か、嬉しそうな声に俺は顔をあげる。おそ松兄さんは、俺を見てケラケラと楽しそうに笑った。

「いいじゃん、一松ぅ。小さい頃から叶えたかったこと、叶えようとしてるのは引っ込み思案なお前にしては上出来じゃん、お兄ちゃん嬉しい!」

ぐりぐりと、髪が更にぐしゃぐしゃになるまで撫でられる。それが恥ずかしくて、でも嬉しくて、俺は暫く撫でられたままでいた。

 

「一松にーさーん!!」

「うぐぇ」

ぎゅ、と黄色の長い袖で首を絞められ呻き声をあげる。

「あはっ、ただいまぁ!」

「十四松……、それは玄関で最初に言って欲しかった……」

「言ったよぉ?」

きょと、と袖で口を隠す弟に「ホントかよ」と思いながら、「今大事なことしてるからそれ止めて」と首を絞める袖をくいくい、と引っ張った。

俺と十四松は双子の弟。実家暮らしで二人の仲も良好なため、この弟は頻繁に俺に絡んでくる。因みに十四松は、動物園の方で仕事を始めたらしい。

「兄さん、大事なことって……、漫画?」

「ん、まぁ、そんなところ」

しゅっ、と輪郭を描きながらこう返答する。その俺の隣には、一冊の雑誌が開いて置かれてある。

「あれー?兄さん少女漫画読むんすか?」

その雑誌をちら、と見て「珍しーっ」とページを捲り始めるものだから、俺は慌ててそれを掻っ攫い胸に抱いた。

「よ、読むわけじゃなくて。……一番締め切り早いの、これだったから。その、おそ松兄さんに、探すの手伝ってもらって」

もごもごと語尾が誤魔化すように小さくなる。

「漫画って時間かかるんじゃないの?」

「……かかるよ、でも長いのにしたら、俺はやらないって知ってるから」

きゅ、と雑誌を抱きしめてそう言った俺を物珍し気に見た弟は、また楽しそうに溌剌とした笑顔を振りまいた。

「兄さんのそんな楽しそうにしてるの、久しぶりに見た!!」

「え」

「兄さんが楽しそうにしてると僕も嬉しい!」

「……そう」

「何があったかは分からないけど、僕は兄さんを応援しマッスル!あのねあのね、少女漫画は、兄さんがどきどきっ、ってした感情を女の子の視点で描いたらいいんじゃないかなっ」

長い袖を振りあげて「ふぁいとぉー!」と言ってくれるその様に、胸が熱くなる。例えそれが参考にならないことを言っているのであっても、そんなことは俺にはどうでもよかった。

「じゅ、十四松、……その、ありがと」

恥ずかしさから顔を逸らした俺を、「どういたしまして!」の声が追いかける。目の前で揺れる赤い薔薇の花を暫く眺めて、俺は鉛筆を手に取った。

 

ぎちぎちと痛む肩を揉みながら、くあ、と大きめの欠伸を漏らす。両肩に貼った湿布の匂いが、つん、と鼻を過る。

「んー、昨日はちゃんと寝れたか?」

隣から茶化すような声が聞こえて、「ひあっ!?」と驚く。猫耳が飛び出そうになるのは、どうにか堪えた。

「いや、驚かすつもりはなかったんだが。すまない」

「ちょっと心配でな」と苦笑するカラ松さんに、ふるふると頭を横に振った。

「い、いえ、……実は漫画、描き始めたんですけど……」

「お、そうなのか!」

ぱ、とカラ松さんの顔が明るくなる。それを嬉しい、と思いながら言葉を続ける。

「でっ、でも、その、いいアイデアが纏まらなくて……」

「寝たのか?」

「ちょっと、だけ……」

ごしごしと目元を擦る俺を見て、彼は小さく息を吐く。その表情は困った様で。

「んー、頑張るのはいいことだが、ここでバイトをする以上は、最低限しっかり寝てくれ。過労死だなんだと、君に死なれては困るんだ、俺が」

「す、すみません」

幾ら漫画家志望でも、仕事に支障が出てしまえばそれはただの役立たずだ。店主として、俺を怒るのは当然だと、頭を垂れた。

すると、ぽん、と頭に置かれる温かい手。

「怒ってるわけでは無いんだ。漫画が読みたい、と言ったのは俺だしな。責任は俺にもある」

くしゃり、と髪を掬う様に撫でる手つきがくすぐったい。小さい子をあやすような優しい仕草に、また堕ちそうになる自分がいる。もう手遅れだってのは、分かってはいるんだけれど。

「は、はいっ。気をつけます」

「嗚呼」

返事をすると、こくりと頷いたカラ松さん。生物学的には同じ種である筈なのに、何故この人は俺を惹きつけるまでに……。

「それじゃあ、今日のフラワーに会いに行こうか」

兄さんとは違い、さらりと髪を撫でる手を止めたカラ松さんは、俺にこう言って微笑んだ。

 

「一松兄さん、進んでるー?」

すぱぁん、と勢いよく開いた襖の方を振り向くと、仕事帰りらしい十四松の姿。彼の服は、少し泥で煤けている。俺は資料から顔を上げ、思いきり伸びをした。

「んー……っ、十四松」

「何かいい案、思いついたぁ?」

「どう?どう?」と興味津々に尋ねる十四松に、俺はにやりと意味深に笑った。

「十四松」

「あいっ!」

「『恋』って、何だと思う?」

「え!」

あわあわと顔の前で袖を振り、猫目のままほんの少し頬を朱くする。俺はそんな初な弟に微笑みを浮かべ、花瓶で咲く薔薇の花弁を指でなぞった。

 

「一松くん、今日はこれだな!」

ぱ、と楽しそうにカラ松さんが見せたのは、大きめのスズランのような白い花。

「当ててみてくれ」と嬉々とした表情をした彼に、「絶対間違えるんで、やです」と言うとしょぼん、と肩を落とした。

「今日の花は、スノーワレーク」

「……冬の花ですか」

「ノンノン、スノーワレークは4月上旬が開花の花さ。別名はスズランスイセン、オオマツユキソウ」

スズラン、というのも強ち間違いでもなかったじゃないか、と思いながら花を見る。

「スノーワレークは英語名でな、『雪のかけら』もしくは『雪のひとひら』といった、真っ白な花の様子にちなんで名前が付けられたとされているらしい。土質を選ばず、どこにでも咲けるんだ。因みに、花言葉は穢れなきピュアなハート、だぜ?」

「今なんて言いました?」

「……花言葉は『穢れない心』だ」

キラキラ目を輝かせ始めた店主に白い目を向けると、こほんと咳払いして言い直す。

「……穢れのない純粋な心なんて……、俺には程遠い単語ですね」

「ん?そうでもないと思うぞ」

「はい?」

「いやいや、どうせお世辞なんでしょ?」と返そうとして店主を見れば、ふざけている様でもなく裏があるわけでもなさそうな、普通の顔をしているのに言葉を失った。

「んー、俺はそうは思わないがなぁ。ほら、例えば一松くんが漫画が好きだったから漫画家になりたいだとかいうのは純粋な感情だろ?人間誰しも純粋な心というものは存在する。……だろ?」

「BARN」と指で拳銃を作って、その指先で俺を射抜く。それを顰めっ面で見た後、俺は少し寂し気に彼に気づかれぬ様、視線を地面へ滑らせるのだ。

 

 

「おはようございます……」

俺が仕事を始めて約三ヵ月。漫画は、花屋の男と少女の恋愛ものに決定した。恥ずかしい話だが、俺の思うトキメキは全部このバイトに詰まっていると思ったからだ。

無意識に男の雰囲気はほとんどカラ松さんに寄せた。ビジュアルもちょっとだけ似せてみたけど、実物の方が断然カッコいい。ラフ画を描いては消し描いては消しを繰り返しているため、進んでいる感じはあまりしないが今までの模写や一枚画よりもやりがいがあるのは確かだ。

でも、恋愛経験など俺には元々ありはしないのだから、女の子的な心情など分かるわけがない。十四松には、純粋に自分がときめいたことを女の子目線で描けばいい、と言われたけど案外それを伝わるように表現するのが難しい。そもそも、男が男に恋してるっていうのを無理やり女子目線で描いて、今みたいな、ませた女の子たちの共感を得られるのか…………?今日も、悶々とその事を考えながら仕事場に入った。

「おはよう一松くん!」

カラ松さんが花に水を与えながら、眩しいほどの笑顔で出迎えてくれるのは変わらない。俺は彼に小さく会釈した。ホースからの水が朝の日に照らされて、キラキラと反射的に光る。

「今日も早いんですね……」

「そうでもないぞ?俺の家はここから近いのもあるから」

前までは頭を下げて部屋に逃げるように着替えに行っていたが、今ではちょっとした会話も自分からできるようになった。花屋でバイトするようになってからの、俺のちょっとした進歩に嬉しく思う。

「嗚呼、そういや今日はお得意さんが来るからな。弟もその時、ちょっと様子を見に来ると言っていたから」

「あ、分かりました……」

俺は着替えの為に、一礼して部屋に引っ込んだ。

 

「兄さぁん、トト子ちゃん連れて来たよぉ!」

午後の休憩開け。何処かあざとい声が聞こえてきて、慌てて店先に出る。すると、お洒落に服を着こなした可愛い系の男の人と、ぱっちりした瞳の綺麗な女の人が立っていた。

「あ、あの」

「あ、君が新しいバイトくん?どう、この仕事。花壇運んだりとか腐葉土の詰まった袋とか、重たいもの運ぶ仕事多くて大変でしょー?」

「あらぁ、カラ松くん、バイトくん雇ったんだぁ!ふぅん、そっかぁ、ここの仕事って楽しい?カラ松くんも、お父さんの仕事は継がなきゃいけないものだからって、ねぇ?真面目すぎぃ」

「すみません、一人ずつゆっくり……」

普段のお客よりも距離の近い二人にたじたじになりながら、ようやく声を発する。すると、とん、と肩に手を置かれて、黒いパーカーが一歩前に進み出た。

「トド松、確かに大変な重労働だとは思う。でも、これも花屋の仕事だから仕方がないだろ?んー、真面目かぁ。トト子ちゃん、俺は好きでこの仕事継いでるから問題ないぞ。後二人共、一松くん困ってるから、質問攻めにしないでやってくれ」

それから「大丈夫だったか?」と、俺を見て微笑む。

「は、はいっ、大丈夫です……」

俺を助けてくれたカラ松さんの男らしさに、またもどかしく心臓が疼く。こんな些細なことで気持ちが舞い上がってしまう。

「ちょっとぉ、カラ松くん!トト子がぜーんぶ悪いみたいに言わないで。……まぁ、ごめんね。聞いてみたかったの。私は、弱井 トト子。この兄弟の幼馴染で、魚系アイドルを稼業にしてるわ」

「そっか、一松くんって言うんだね。さっきはごめんねぇ、後いつも兄がお世話になってます。僕は、カラ松兄さんの弟の松野 トド松です。スタバァの方で今はバイト中だよ」

ぺこ、と一礼する二人。一気に話された時は吃驚したけれど、悪い人達では無いんだな、と思った。

「トド松、こっちは手が足りてないんだから、バイトするならこっちでと何度も……」

「バイト代も少ない上に、このか弱い僕に重労働させるつもり!?絶対嫌っ。家業継いだ、兄さんの気が知れないよ」

「えぇ……」

しょぼん、と小さくなるカラ松さん。でも、二人の仲は良さそうだ。微笑ましいな、とその様子を見ていると、トト子さんがカラ松さんのパーカーの袖を「ね」と引っ張った。どくん、心臓が脈打つ。さっきの嬉しい気持ちを上書きするように、一気に不安が押し寄せる。

「あのね、カラ松くん。今日はお願いがあってぇ」

「ん、俺で出来ることがあったら何でもするぞ?何せ、トト子ちゃんの頼みだったらな!」

「うふふ、カラ松くんのそういうとこだけ好きよ」

「ははっ、それは嬉しいな」

楽しそうに笑うカラ松さん。胸がチクチクと痛んで、苦しくて。そっと視線を逸らす。寄り添う様に立つ二人はお似合いで、自分の中では嫌な筈なのに何故かしっくりきて。嬉しそうにほんの少し頬を朱色に染めたカラ松さんの姿が、脳裏から離れようとしてくれない。悔しいけど俺は男で、カラ松さんと付き合いたいだとかいう願望は、不毛であったことを今更のように突き付けられた。付き合ってるとか、そんなの聞いてないのに。涙が涙袋で膨らんでいきそうになるのを堪えた。

「……トト子ちゃん」

ふと、トド松さんが口を開いた。

「ねぇねぇ、その話って長くなりそう?」

「んー、どうかしらぁ。多分長くなるんじゃないかな」

「えー、そうなのー?じゃあさ、カラ松兄さん。奥の休憩所、借りてもいい?ここに来るまでに買ってきたスイーツ、早く食べたくってさー。ほら、紅茶も買ってきたんだよ!」

かさっ、と紙袋を掲げるトド松さん。カラ松さんは渋った顔をしていたけれど、「仕方ないな」と溜息を吐いた。

「ラッキー!ありがと、にーさんっ。じゃあさ、一松くんも一緒に休憩タイムといこうよ!」

「え、俺はさっきまで休憩してたんで仕事……」

「いいじゃんいいじゃん!僕だって一松くんとお喋りしたいもん、行こ!」

「え、ちょっとトド松」

カラ松さんが何か言っていたようだけれど、トド松さんはにこにこと俺の腕を引いて休憩所へと歩いていった。

 

「カラ松さん、何言ってたんでしょう……」

「んー、あんまり気にしなくていいんじゃなぁい?ってかさぁ、一松くん何歳?」

「に、24です……」

「あ、兄さんより年下なんだ」

こぽこぽとお湯を沸かしながら、部屋の扉をちらりと見る。カラ松さんとトト子さんの仲良さげな姿は、見てるだけでしんどくなるから、ここに連れて来てもらったのは有り難いんだけど、気になって気になってしょうがない。一方、トド松さんは、テーブルの近くに座って、ケーキが入っているらしい箱を開けながら、時にスマホで写真を撮っている様だった。それを横目で見やってから、茶葉のパック入っている棚を漁った。

「あ、兄さんの好きな紅茶って多分ダージリンだよ」

「え」

くるり、と振り返った瞬間、ぱしゃっ、とシャッター音。

「おー、いい感じのが撮れたね」

「ちょっと待ってください、何で急にカラ松さんの好きな紅茶とか教えてくるんですか」

あわあわとトド松さんに問うと、たぷたぷとスマホを弄りながら、普通の顔でこう言い放った。

「一松くんさぁ、兄さんのこと好きでしょ」

ぐわん、と耳に響いたその言葉。取り繕うように、口をもごもごと動かした。

「……え、ええ?」

「一松くん分かりやすいもん」

「いっ、いやいやいやいや?俺、男ですよ?そんな、カラ松さんが好きだなんて……」

「パック、落としてる」

トド松さんに言われて床を見ると、手に持っていた筈のパックたちは全て落ちてしまっていた。一瞬にして顔に熱が集まる。恥ずかしくなって俯き加減でパックを拾った。

「うん、僕もまさかねぇ、とは思ってたんだけど。兄さんが一松くんと僕たちの会話に割り込んで来た時とか嬉しそうな顔してたし」

「……嘘」

「トト子ちゃんと兄さんが仲良さそうにしてるの見て、嫉妬しtsでしょ?」

「……そ、それ以上言わないでください」

「後、さっきから外心配そうに見てる」

「う、う、うわあああああ!!!!」

「ちょ、テーブルひっくり返そうとしないで!ケーキ、チーズケーキダメになっちゃうじゃん!」

「……紅茶淹れてきます」

「ん、うん、僕ローズヒップがいいな……」

「ちっ、……分かりました」

「……今舌打ちした?」

「……気のせいじゃ無いですかね」

かちゃん、と紅茶をトド松さんの前に置く。淡いピンク色の紅茶は、部屋を優しい匂いで包んだ。

「もー、ごめんってばぁ。だって一松くんが可愛くって」

「無理して言わなくていいですよ、気持ち悪いですよね。自分の兄を恋愛的に好きな男とか……」

「無理してないからっ!ねぇ、本気で悪いと思ってるから、ブラックにならないでよぉ。け、ケーキ、食べないの?」

「……食べ、ます」

未だ頬は熱を持っている。甘いものの誘惑には勝てなかった俺を見て、トド松さんは「どうぞ」とブルーベリーの乗ったチーズケーキを皿にのせてくれた。ただ俺は、フォークを手に取ることが出来ない。

「一松くんが兄さんを好きなことについては偏見とかはないよ。ただ、ホントかどうか知りたかったし、……兄さんの何処がいいのかとか正直教えて欲しい……」

「えっ」

ぐたっ、とその場に頬杖を吐いたトド松さんに驚いた。

「あんなナルシサイコイタ松兄さんの何処がいいの!?ホント教えて欲しい!」

「カラ松さん、カッコいいですよ……?あの無駄のない筋肉の付き方とか丁寧な所作とか、優しい物言いとか、きゅ、急に向けて来るあの、笑顔、とか……っ」

言ってる途中で恥ずかしくなって、顔を両手で隠す。「流石、カラ松ボーイはよく見てるねぇ~」とトド松さんは俺を茶化した。

「あの人、顔面偏差値はそこそこだとは思うけどさぁ~?家ではね?いっつも鏡の中の自分に何かしら囁いてるの!しかも忙しい時間帯に!!それにさぁ、店長になった初めての日にはねぇー、ギラッギラのスパンコール付いたスーツと靴履いていこうとするの!恥ずかしくって恥ずかしくってさ。今着てきてるパーカーも、僕のセレクトなの。まぁ、最近の服は大分マシなの着るようになったけど?救いようのないサイコパスだし、兄弟でも引いちゃうことだってあるよ。サイコパス検定とか、さらっと模範解答を満面の笑みで言ってきたときは背筋凍ったよ……」

そこまで言ってから、トド松さんは息を吐いた。

「ここまで聞いても兄さんのこと、好き?」

何処か試す様な口調。ふっ、とカラ松さんの顔が脳を過って、下唇を噛みしめた。

「すっ……、好き、です。それでも、カラ松さんが、好きです……」

「…………そっかぁ」

そろ、と指と指の隙間からトド松さんを見ると、目元を緩ませて笑っていた。系統は違う筈なのにその顔がカラ松さんにちょっぴり似ていて、ドキッとした。

「変な質問ばっかりごめんね?でも、一松くんがそんなに兄さんを好きなら止めることはないよ。寧ろ、一松くん応援したいって思った」

「ぅえ……っ」

「ホントだよ、『一松義兄(にい)さん』」

「まっ、まだ付き合っても無いのに、それに義兄さんて」

「言ってなかったけど、僕今年22だから年下だよ。一松義兄さんはカラ松兄さんと付き合う気でいるんでしょ?まだ諦める気無いんでしょ?だったらいいじゃん。一松義兄さんがこの恋を諦めたとき、僕はこの呼び方辞めるから、ね?」

「う……っ」

じわり、目元が緩んだ。情けないくらい涙がぼろぼろ零れて、指でせき止めようとしても頬を伝い落ちていってしまう。

「え、泣いちゃった!?も、もしかして嫌だった?」

慌ててトド松さんがこっちに寄ってきて、顔色を伺う様に覗き込む。

「違っ、違くて、嬉しく、て……っ、その、ありがとう、トド松さん……」

ぐすっずびっ、と鼻をすすりながら彼に目を向けると、ホッとしたような顔で頷いてくれた。

「……うん」

「トド松くーん!トト子もスイーツ食べたいなぁ~?」

ガラッ、と扉が開いてトト子さんが顔を出した。どうやら話し合いは折り合いがついたらしい。

「あ、いいよ!飲み物は何がいーい?」

席を立つトド松さん。入れ替わりに、トト子さんと一緒に部屋に入って来たらしいカラ松さんが、隣に座った。

「……お、お疲れ様、です」

目をごし、と擦ってカラ松さんを見て笑うと、目元をするりと撫でられた。

「……泣いたのか?」

「どうか、しました?」

「トド松に何か言われて泣いたかって聞いてる、目元が赤いから」

心配する口調の裏にとげとげしいものを感じて、俺は首を振った。

「違いますよ、このケーキが僕の一番好きなので……、嬉しくて。子供っぽいとこ、見せて心配させてすみません。『トド松』は悪くないですから、……ね?普通に親睦深めただけだよね」

ふひっ、と笑ってトド松を見ると、何のことだかは分かっていない様だったけれど、「うん、そうだよねー、一松義兄さんっ!」と応えてくれた。

「……そうか、ならいいんだ」

ただその時、何故かカラ松さんが視線を逸らしたのが気になった。

 

「一松くん、今日の花はこれだ」

約半年が経過して、この時間も大分恒例化してきた。わくわくしたような、楽しそうなカラ松さんの姿を見るのはこちらも好きだから、一石二鳥だ。

「今日はベゴニアだ」

今回ぱっ、と指差されたのは、ポットに入った赤と白の花だった。

「プレゼント用というより、これは園芸用だな。野生種の交配によって生み出されたものらしいが……。花言葉は『親切』『丁寧』『幸せな日々』ってのがあるらしいな」

「幸せな日々、ですか」

「嗚呼、一松くんが漫画家になれたら、それこそ毎日が幸せな日々になるんじゃないか?」

「……かもしれませんね」

 

漫画はそろそろペン描きに入ろうとしていた。十四松との二人部屋で、くるり、鉛筆を手の上で弄んで溜息を吐く。

「兄さん、溜息吐いたら幸せ逃げまっせ?」

「……ほっといて……」

「ほっとくけど」

幸せな日々、なんてのはまさに今だ。でも、そんなのあの人の前で言えるわけがない。悶々とその事を考えだしたら堂々巡りになって、筆が上手く乗らない。

「漫画、進めなきゃいけないんだけどなぁ……」

ぽつ、と呟くと十四松がこう言った。

「あ、あのね、兄さん。行き詰ってるときに悪いと思うんだけど、言いたいことがありまっする……」

「……ん?」

きぃ、と回転椅子を回して十四松を見ると、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

「ぼ、僕、彼女が出来やした……」

「……え」

「抜け駆けするのは嫌だったんだけど、……ごめんね、兄さん」

「確かに吃驚はしたけど……、な、何で謝るの……、おめでと」

ふひっ、と笑ってこう言うと十四松は、ぱぁっ、と顔を明るくした。

「あいあいっ!!兄さんに僕、怒られちゃうものだと思ってたから……、言ってみて良かったっす!!」

「言ってみて……」

「ありがとうございマッスル、兄さん!」

勢いよく頭を下げた十四松。俺は、呟くように言葉を発し、しばらくしてスマホに文字を打ち始めた。

 

「トッティ……」

「はいはい、義兄さんどうしたの」

ぺたん、と頬をテーブルにつける。ひんやりとした感覚が心地いい。あの十四松との会話の後、相談したいことがある、と連絡したら、「明日、バイト終わりに僕のバイト先まで迎えに来てよ」と返信された。そこでちゃっかりココアを二人分買わされ、そして今に至る。トッティ、というのはいつの間にか定着したトド松の愛称。一軍が多い、という恐怖心を若干感じつつ、口を開いた。

「カラ松さんのこと……」

「うん、だろうと思った」

「今日もカッコよかったの………」

「のろけ話はいいよ、それで?」

「んん……」

俺の言葉をドライにあしらったトド松の態度を不服に思い、ストローを咥えて、ココアをずずっ、と啜る。

「伝えたいことって……、やっぱり口に出さなきゃダメなのかなぁって……」

「何言ってんの!?ダメに決まってるじゃん!まさか義兄さん、うちのカラ松兄さんがそんなの察せる男だと思ってるの!?脳内お花畑ポンコツ野郎だよ!?」

「トッティ、そこまで言わなくても……」

「う、ごめんって。でも、ホントだよ?兄さんは、レディファーストとかは流れるように出来る紳士ではあると思う。でも人の気持ちを察せてるかって聞かれたら間違いなくノーだね」

「マジか……」

口で伝えるなんて、俺の一番苦手な分野だ。喋っている途中で何を言っているか分からなくなって、思わず脱糞しそうになる。俺には難易度が高すぎる、こんなの。

「言わないと何にも始んないよ。義兄さんからしたら、難攻不落の城だとは思うけどさぁ。ほら、自分の考えてる事をちょこっと言ってみるとか、ね?」

「うぇ……」

「嫌な顔しない!」

トド松に言われて、仕方なくこくんと頷く。いつの間にか、ココアは底をついてしまっていた。

 

「一松くん、今日はクリスマスローズについてだな!」

漫画が最終仕上げに入った冬の日。締め切りは大分間近なものとなり、最近は、十四松にアシスタント料金を払いながら手伝ってもらっている。

カラ松さんは白い息を吐きながら、寒さのためかほんのり頬を赤く染めていた。その指先が、小さな白い花弁に触れる。

「……クリスマス、近くなってきましたし丁度いいですよね」

「そうだな。後花言葉的には、一松くんにもぴったりだと思うぞ」

「はい?」

すり、と両の手をこすりながら、視線をカラ松さんに寄こす。冷たい風が俺たちの間を通り過ぎていって、ぶるりと身震いした。

「Relieve my anxiety」

「え、ちょっと今何て……?」

発音のいい英語が聞き取れず、首を傾げる。するとカラ松さんは「ははっ」と苦笑した。

「『私の不安を和らげて』。何か心配なことでもあったら何時でも声を掛けてくれ、相談に乗る」

「あ、ありがとうございます……っ!」

この人に俺の相談なんて出来るわけがないんだけど。でもその気持ちが嬉しくて、胸がぽかぽかした。

 

「……っ!で、出来たっ」

あれからラストスパートを掛け、締め切り一週間前に出来上がった漫画を、俺は空に掲げた。一番凝ったバラの花が最初のページに咲いているのを見て、顔がほころんだ。

「兄さんお疲れ!!」

「……何でお前がそんなぼろぼろなの。ペン入れとか頼んだ覚えないんだけど……、顔インクべっとり……」

「あっはぁ、何でだろう!!」

この弟はよく分からない。まぁいいか、と原稿を封筒にしまってから、はたと思い出した。

「じゅっ、十四松、ちょっと出かける……!」

「あいあいっ!」

厚手のコートを着て、封筒を鞄に突っ込み足早に家を出る。電話で連絡先を発信したのは、勿論カラ松さんだった。

 

それからの月日が流れるのは、恐ろしく早かった。カラ松さんに見せた後、トッティたちにも批評してもらった。おそ松兄さんは「サービスシーンは無いのぉ?」とか言って、同伴してた十四松に卍固め喰らわされてたけど。直接編集社に持っていく勇気のなかった俺は、ひっそりと原稿をポストに投函した。

 

 

漫画で賞を取ったら、電話がかかってくる。その予定日とされていた今日はバイトが入っていた。

「電話かかってくるかもしれないのに、今日休まないの?シフト組むの間違えた?」

どうもデートらしい十四松が服を選びながら聞いてきたけれど、「入賞なんて素人がする訳ないんだから」って笑った。それに、仕事している方が色々考えなくていいし。ここで落ちたら、もう正規雇用として花屋で働くのもありか、なんて考えた。

 

「お疲れ」

水の滴るホースを片付けながら振り返ると、カラ松さんが立っていた。

「良かったのか、今日発表だったんだろ?あの前に出した、って言っていた漫画の。俺は発表があるから仕事休む、って朝連絡が来るんだろうと。まぁ、来てくれるのはとても助かるんだが」

「あは、それ弟からも言われました……」

へにゃ、と崩れた笑みをこぼしながら、頬を掻く。

「漫画描き上げたのは今回が初めてですし……、俺よりキャリアとかセンスがいい人はいっぱい居ますから……。……夢を追う仕事は、そう簡単じゃ無いですよ」

「そうか?俺が読ませて貰った時は、少女漫画っぽく無くて読みやすかったけどなぁ」

「少女漫画の部門に出しといて、「少女漫画っぽくない」は褒め言葉じゃ無いです、カラ松さん」

「それもそうか」と苦笑するカラ松さん。ずっとこの人の側で働くのも、案外悪くないかもしれない。寧ろ、付き合うことは出来ずとも、好きな人と一緒に仕事出来るのは楽しいだろう。カラ松さんと一緒に……。

「カラ松さん。も、もしも、落ちたら……、って落ちる確率が高いんですけど」

「ん?」

「あの、俺」

「ピルルルル!」

「ひにゃっ!?」

びくっ、として猫耳どころか尾っぽまで飛び出てしまった。俺のジーンズの尻ポケットでスマホが震えている。

「す、すみません電話……っ」

「あ、嗚呼、構わないが」

慌ててスマホをポケットから取り出す。相手は見知らぬ番号だったが、今日ばかりは迷いなく着信ボタンを押した。

「っあ、あの」

「こんにちは、松野さんの携帯でお間違いなかったでしょうか?」

「は、はいっ」

礼儀正しく優し気な電話の相手に、心臓がバックンバックンと鳴る。カラカラに渇いた喉を少しでも潤す為に、唾をごくりと飲み込んだ。

「おめでとうございます、佳作です!」

「佳、作……」

確か、大賞は担当がついて作品を連載できるって……、佳作だったら……。

「れ、連載は、出来ないんです、よね……」

「あの、そうはなってるんですけどね」

電話の向こう側から、かさりと音がした。

「近々、連載作品が一つ終わるんです。で、ですね、松野さんの表現は少女漫画っぽく直す部分がいくつかありますが、ストーリーを見ているとなかなか面白くて。これは話の幅が広がりそうだな、と。大賞には至りませんでしたが、伸びしろはかなりあると思います」

「え」

「松野さん。担当もつけますから。そちらがよければ、是非うちで連載してみませんか?」

俺はプルプル震える手でスマホを握りなおしてから、息の詰まる思いではっきりと言った。

「……はいっ、ぜ、是非連載、やらせてください!」

 

 

それからは、俺の日常は急に目まぐるしく動き始めた。不動産での仕事場探しにアシスタントの募集。一番厄介だったのは、担当さんとの打ち合わせだった。

「ペンネームはミネット松野にしましょう!」

「……何ですか、ミネットって」

「この少年の行動はイニシアチブを取らせて、あー、アーバンな雰囲気の背景にするのもいいかも。ソフィスティケートにコミットさせていきましょうね!アニメ化されたら、可愛い声優さんとかの出会いのきっかけになるかもしれませんし!」

「……チョロ松さん、日本語使って貰えますか。後本音漏れてんだよ」

こんな下らない感じでも毎日の充足感を感じる。ただ、このために取った長期休みは、カラ松さんに会えない寂しさを募らせていった。カラ松さんは、「精いっぱい頑張ってこい」って言ってたけど……。

「……会いたいよぉ」

布団にダイブしてぽつり、その言葉を吐いた。

「寂しいよ、カラ松さん……」

漫画を描くのは楽しい、連載も嬉しい。でもこれで良かったの?

「……止めよ」

打ち合わせとか、こういう忙しいのに目途が付いたら、またしばらくの間はバイトで会えるんだから。深く考えるのが、怖くて仕方なかった。

 

二週間後。ようやくキリがいいところまで打ち合わせを終え、一か月後から本格的に漫画業を始めることとなった。俺はそのことをカラ松さんに報告に行った。

「お、久しぶりだな、一松くん」

「お、お久しぶりです……」

久々にカラ松さんを見て、嬉しさのあまり泣きそうになってしまう。俺の涙腺は、こんなに脆いものだったっけ。

「今後のこと、だろ?」

「分ってるよ」と、カラ松さんは笑った。

 

「一松くん、今日の花に会いに行こうか」

今日もカラ松さんは、こうやって俺を呼ぶ。

「この花はな?」

この話をしている時は、とても楽しい。でも最近はこの時間が終わるたび、「後何回これができるんだろうか」と考える。

「一松くん」

「終わりたくない」と思う。切実に。

「一つ一つ名前や深い意味の花言葉がある、だから俺は花が好きなんだよ」

「俺に好きって言って欲しい」なんて。「その笑顔を俺だけに向けて欲しい」なんて。

叶いもしないことを思ってしまう。

それが悲しくて苦しくて、死んでしまいたくなるほどだった。

いっそ、誰か俺を殺してくれ、とさえ思った。

でも、そんなこと出来るわけがなくて、時間は刻々と過ぎていくばかりだった。

 

「一松くんも明日で仕事も終わりか」

「案外短かったものだな」とカラ松さんが呟いた。遂に来てしまった、最終日が。

「そう、ですかね」

す、と視線を逸らす。それにはお構いなしに、カラ松さんは上機嫌に笑っている。

「俺にはそう思う。君に教えた花の数の分だけ時間が過ぎたのは分かるが、楽しかったんだろうな。1年をこんなにも早く過ぎてしまったと感じたことはない」

「楽しかった」の一言に、とくんと胸が高鳴る。でもそれはきっと、カラ松さんが一番好きな話をし続けることができたからだ。披露できる相手が俺だった、というだけのことなんだって。浮かれた気分になりそうになる自分を戒めるように、ネガティブな思考を巡らせた。

「それで何だが、……聞いているか一松くん?」

「……え、あ、はいっ」

慌てて返答すると、俺の頭からぴょこんと猫耳が飛び出すのはお決まりになってしまった。「これももう終わりなんだよなぁ」と店主が面白そうに言うのが気恥ずかしく、同時に寂しくも思った。

「一松くん、話を戻すんだが。明日臨時休業にしようと考えていてな」

「臨時、休業?」

ふるふると猫耳を引っ込めながら、相手の口から発された言葉に愕然とした。カラ松さんは何処か遠くを見て、優し気に目元を細めている。どくん、鼓動がときめきとは違う大きな音を立てて繰り返されていく。明日が休みとなったら、俺の仕事はこれで終わり?まだ、さよならする心の準備もできていないのに、もうこの人とは会えなくなるの?自分のこの抑えの効かない感情を殺しきれてないのに?今日が、本当の最終日?

きゅ、と唇を閉じて視線を僅かに下に落とす。

「大事な用があるんだよ、といっても想い人への買い物なんだが」

「想い人」。どくんどくん、と心臓の音が煩く鳴っていて耳を塞ぎたくなる。「ほらね、こういうできる人には相応の彼女ができるんだよ」って心の隅で何かが俺を嘲笑う。

「そう、なんですか。なっ……、なら仕方ない、ですね」

喉が渇いて、顔の筋肉が引き攣った。思いきって出した言葉は、ちゃんとこの頬をほんの少し朱色に染めた「俺の想い人」に届いたであろうか。この際どちらでもいいと思った。

「そこでだがな、一松くん」

「……何ですか?」

「俺の買い物に付き合ってくれないか?」

「…………はい?」

はっ、と顔をあげた先に見えたのは微笑んだカラ松さんの顔だった。

 

『同じ男としての目線で考えて欲しいんだ。俺一人だと心細いじゃないか』

「心細いって……、カラ松さん友達いないのかな。……トッティと行けばいいのに」

昨日言われた言葉を一人反芻して、小さく息を吐く。友達としてなら、カラ松さんにこれから先も会えるんだろうか。そう思いたって、彼の隣に立った綺麗な女の人を想像してしまって胸がちくりとした。……カラ松さん、トト子さんとか好き、みたいだし。

「おまたせ、一松くん!」

後ろからかけられた言葉にびくん、と身体が震える。恐る恐る振り返ってみると、真っ青な薔薇が目の前に飛び込んできた。

「これを作っていたら少々遅れてしまった。退職記念と漫画連載記念だ、ミネット先生?」

茶化すように言われて急に顔が火照る。真っ青なシャツと白の細いデニムを履いたカラ松さんはいつもよりずっとカッコよくて、まるでデートのそれのようだと錯覚しそうになった。

「真っ青、ですね」

「一松くんに最初にあげた花も薔薇だったろう?それに青の薔薇は珍しい品種なんだ。まぁ、そう言うのはさておき、最初と最後の締めくらいカッコよくしたいじゃないか」

「ふぅん?」とキザに前髪を掻き上げて、半ば強引に花束を俺に渡す。近づいた時に、ふわりと甘い香水の匂いがして、また身体がほんの少し熱を帯びる。

「……綺麗」

これは心からの本音だった。カラ松さんの色だ、と花束に顔を寄せてみる。そこで、「何を俺は女みたいなことを」と我に返りはたと視線を相手に向ける。すると、「気にいってくれたようで嬉しいぜ?」ととても喜んだ表情をしていた。その顔も、ズルい。

「……でも、これ持って店内に入るとか目立つんで嫌ですよ。何か、普通の花束よりこれ大きいですし」

「おう……、最後に渡せば良かったな」

しまった、といったような顔をするカラ松さんに「意外と馬鹿なんですね」と毒を吐いてみせた。

 

「綺麗だなぁ、一松くん」

「……はい」

淡い桃色の花弁の舞う木の下を歩きながら笑うカラ松さん。「貴方の方が眩しくて、桜なんかに目はいきませんよ」って言葉を、ごくりと飲み込んだ。俺なんかに言われるよりも、素敵で美人な女の人に言われる方が常識的に嬉しい筈だ、絶対。でも、ズルいのはカッコいいカラ松さんだ。「好きだ」って気持ちを今だけ、後この瞬間だけなら持ったままでもいいよね、って下唇を噛みしめた。

「嗚呼、こんなにも咲いているのなら酒でも持って来ればよかった」

「酒なんて……、男二人で花見でもする気ですか?虚しいですよ」

隣を歩く彼に、くす、と笑うとぴたり、カラ松さんがその場で足を止めた。その様は至って真剣で、俺は笑うのを止める。

「酒でも飲んでいたらこんなにも緊張しなかったのに」

ぽつ、と視線を逸らされて呟かれたあの人の言葉に、どくん、と脈が一度大きく動いた。

「一松くん」

こちらに向けられるカラ松さんの顔。その視線が熱くて身体が震える。その言葉が甘くて優しくて、胸が締め付けられる。まるでそれは、俺の描いた漫画のヒロインのように。

「俺は君が好きだ」

どくん。身体中の血液が、沸騰したかのように熱くなる。

「う、そ」

「嘘じゃない」

はくはく、と唇は動くのに、なかなか言葉が出てこようとしてくれない。こつん、とカラ松さんの革靴がこちらに近づいてくる音が聞こえて、ぎゅっと目をつむった。

「目を開けて欲しい、一松くん」

こつ、と靴音が止まった時、耳元でこう囁かれた。その口調も、チョコレートみたいに甘美で耳から俺の脳を溶かしにきたのかとさえ思った。びくびくと目を開けると、カラ松さんは額に軽くキスを落とした。

「冗談はやめてください……、やだ……っ、怖い……」

「怖くはないから」

ぐ、と腕を引かれて、次の瞬間には唇同士が触れていた。カサカサの唇を、赤い舌でぺろりと舐められる。ぴくん、と震えた俺に「可愛い」と熱っぽいカラ松さんの声。唇を割って入ってきた生暖かい舌を絡められ、くちゅりと卑猥な音が鼓膜を刺激する。頭が混乱と快楽でぐちゃぐちゃになって、ぽわぽわした。

「一松くん、好きだ」

顔を離した時、俺を見据えたカラ松さんの顔は真っ赤で。つぅ、と垂れた銀色の糸をぐい、と手の甲で拭いながら言う。それから、俺の口の端に残った唾液を舐めあげた。その視線と視線がもう一度交じり合ったとき、じわりじわりと、カラ松さんの言葉が自分の心臓の奥の方に染み込んでいく。すとん、と自分の中に落ちてしまった瞬間、ゆっくりと言葉を発した。

「嘘でも、冗談でも、無いの……」

「嗚呼、嘘でも冗談でもない。本気だ。買い物なんて建前で、俺は君と二人きりになりたかったんだ」

ふと、頬に触れる手の平の感覚が心地よくて、それと同時に俺の涙腺は決壊した。

「カラ松さん、カラ松さん……っ」

「うん」

名前を呼ばずにはいられなかった。この喉までせり上がってくる、何とも言えない幸福な苦しさをどうすればいいのか、俺には分からなかった。ぼろぼろと情けなくも零れ落ちる涙を止めることは到底できそうになかった。

「一松くんにあげた薔薇の花な?一番初めにあげた一本には、「一目惚れ」という意味。この青色には「奇跡」、という意味があるんだ。……そしてこの花束の薔薇の本数は999本」

ふわり、あの甘い香水の匂いがする、と思ったら、俺はカラ松さんに抱き締められていて。

「俺は、「何度生まれ変わったって君を愛すよ」。一松くん」

嗚呼、もうズルいってば。こんなに幸せになっちゃ、到底自分を戒められそうにないじゃないか。

秘めて開ける筈のなかった箱を、ゆっくりと。俺自身も覚悟を決めた。

「……っ、好きっ。俺も、好きです、大好きです、カラ松さん……っ」

絞り出す様に言葉を吐きだした時、喉のつっかえが一瞬にして何処かに消え去ってしまって。代わりに、愛おしさがこみ上げる。そろそろと相手の背中に腕を回すと、微かに笑う声が聞こえた。

「良かった、ここで振られたら俺は一生立ち直れないところだった」

「一生だなんて……」

そっと瞳を伏せて、カラ松さんの固い胸板に額を押し当てる。すり、と擦り寄ると、きゅうんと切なさに似た感情が湧き起こるのを感じた。

「……カラ松さんにはもっといい人が居たんじゃないんですか?トト子さんとか……。俺を選んだからって、後悔、しませんか……っ」

「何故そこで卑屈になるんだ。一松くんは、俺が他の女と一緒に居たほうがいいのか?」

「い、嫌です、けど……」

「俺も一松くんが、俺意外と仲良くするのは嫌だ」

きっぱりとこう言い放たれて、俺は上を見上げる。きゅ、と横一字に口を結んでいたカラ松さんは、俺と視線が合った瞬間、幸せそうに相好を崩した。

「一松くんがトド松と急に距離が近くなった時。妬いたんだぞ、俺は」

「妬いた……?」

「それに、俺のことは「さん」を付けて呼ぶのに、いつの間にかトド松は愛称で呼ぶようになってたじゃないか」

「それはカラ松さんが上司だからで……」

「だとしても嫌だな」

意地悪な顔になった相手。言われ続けられるのも嫌で、俺も必死に考えた。

「そ、そう言うなら、俺だって……。……カラ松さん、トト子さんと随分仲好さそうでしたよね。……あれ、嫌です。あんな優しそうで嬉しそうな顔は、お、俺だけにして下さい……っ」

言い終わって、ハッと我に返る。い、今、俺、凄い恥ずかしいこと言って……!

「か、カラ松さん、さっきのは忘れて」

「無理だ」

「わ」

強くなる抱きしめられる力。頭を包み込むように抱かれ直されたせいで、カラ松さんの顔が見えなくなってしまう。

「ったく……、我儘なHoneyだなぁ」

「う、五月蠅いですよ」

「まぁ、そんな甘えん坊なところも、堪らなく可愛いが」

さらり、と淀みない言葉が嬉しい。カラ松さんの服を小さく掴んで、ふふっと笑みを漏らした。

「トト子ちゃんはただの幼馴染で、それ以上の関係になるつもりはないさ。トト子ちゃんは、石油王と結婚したいらしいから、こんな花屋の店長如きではお眼鏡に合わないし。そもそも俺は一松くん一筋だから、石油王と戦う必要性もないだろ?馬鹿らしい」

「それもそうですね……」

幸せ借金はどれくらいかさんでしまっただろうか。でも、怖くはない。カラ松さんが隣に居てくれさえいれば、もう後はどうだっていいのだ。

「一松くん、キスしたい……」

頭上から声がする。する、と腕が退いて、カラ松さんの顔が見えるようになる。その困ったような顔がいじらしく、そして愛しく思い、ちょっぴり背伸びして彼の唇に触れるだけのキスをした。

「……いいよ、してよ。ハグもキスも、それから先も。ねぇ、『カラ松』。俺は、貴方がいっぱい、欲しいよ」

「んぐ……っ、煽ってくるなぁ……、……いいのか?」

「ん……、『恋人』なんだから、いいでしょ……」

「止まって、って言っても聞かないからな」

「言わないよ……」

そっと視線絡ませ、唇を寄せる。ちゅぷっ、と小さなリップ音。カラ松さんは、今回は舌なんて入れずに、角度を変えてキスの雨を降らせてくる。とろん、と瞼が落ち、身体の力が抜けかけてきた時、カラ松さんはキスを止めた。

「……続きは後でな?」

その甘くて低い声に身震いする。それを面白そうに見たカラ松さんは、追い打ちをかけるように「愛してる、『一松』」と耳元で囁いた。

 

 




読了、ありがとうございました
如何でしたでしょうか
闇ゼロの一松くんを書いていくのがひたすら楽しかったです
またお会いできましたら何処かで


絵琉


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