魔法科らは逃げれない。   作:天道無心ビームサーべ流
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強き力を持つと人は使わずにいられない。それが人の常なり

『「悪いな、壬生!!」』

 

勝負は中盤に差し掛かっていた。

どちらも模造刀を構えて互いの皿を順番通り割っており、桐原は黄色まで割っており、壬生はまだ橙色まで割っていた。

 

『「…」』

 

桐原の攻めを体の重心を動かして、ギリギリのところで避ける壬生。

模造刀なのでビームを放ったりはしてこず壬生は避ける、避ける。

ただひたすらに試合が始まってから一度も声を発せず、まともな会話をせずに、避ける。

そして極稀に出来る大きな隙で攻撃をする。

 

『「…そんなものかしら?」』

 

「手塚くん…壬生先輩になにを教えたの?」

 

そんな光景を控え室のモニターで見るエリカ。

何度か壬生の戦い方を見ていて知っていたのだが、モニターに映っている壬生の戦闘スタイルが今までと違う事に驚きを隠せない。

寺での修行中、光國と時折マンツーマンでなにかをしており、それでああなったと考えて光國に聞いた。

 

「お前達の目にはどう見える?」

 

「…なにも読めないわ」

 

壬生の動きには一切の無駄が無い…とは言い切れない。

だが、なんの反応もなくただただ無を貫こうとしており、雰囲気からなにかを察したり、読心術を使ったりする事が出来ない。

 

「アレは完全に桐原先輩に対して…例えるなら、心を閉ざしている…」

 

達也は今の壬生の様子を見て、ふと思い出す。

それは入学した次の日の朝、体術の師匠である九重八雲の元で朝の鍛練をしていると九重八雲が深雪にセクハラ紛いの事をした時の事だ、嫌がっていた深雪を助けるために達也は九重八雲に挑んだ。殺すつもりは全くないがそれなりに殴っておこうと本気で挑んだが負けた。

九重八雲は体術だけならば、自分よりも上だと達也を誉めていた。

それなのに勝てないのは場の空気を読んだり相手の癖なんかを見抜く洞察力や戦いの運び方などの経験で得るものが九重八雲の方が遥かに上だった為だ。

ヘラヘラと笑っていた九重八雲とは対極ではあるものの、壬生はその時の九重八雲と似ている。

 

「読心術の反対の閉心術を教えた…とでも言っておこうか」

 

「読心術が効かなくなるのはスゴいですけど…どういう作用があるんですか?」

 

閉心術のスゴさがイマイチ分からない美月。

スゴいぞと言うだけで光國はその理由を答えなかったので、ヨシヒコが説明をはじめる。

 

「ある程度の実力を持った者同士が戦う場合は単純な身体能力勝負とかじゃなくなるんだ。

相手より有利に勝負を進めることが出来るかが重要で、有利に進めることが出来れば大物喰い、つまりジャイアントキリングが出来るんだ。

戦いを有利に進める時に誰もが相手を見て動いたりするんだけど、それも読心術の一種で壬生先輩は無駄を省いて心を閉ざして桐原先輩に動きを読めなくしている。」

 

「ましてはどっちも一度でも斬られれば敗けの剣よ…そう言う読み取る力は高いわ」

 

ヨシヒコの説明に補則をするエリカ。

美月は成る程と納得するのだが達也は余り良い顔をしない。

壬生が閉心術を出来るようになったのは、手塚のお陰だ。つまり、手塚も同じ事を出来る。

 

「けど、大丈夫なのか!?

壬生先輩は心を閉ざして、桐原先輩を上手くかわしてて互角だけどこのままじゃジリ貧だぞ!」

 

レオはこのままでは勝てないと感じていた。

レオだけでなくエリカやヨシヒコも同じ事を感じており、まだなにかあるのかと光國を見た。

 

「ただ心を穏やかに、無にして読まれなくする方法と軽い手品を教えただけだ」

 

「手品を教えるぐらいなら攻め方を教えなさいよ!」

 

「あの人は強いから攻める方法なんて教えなくても問題ない…まぁ、折れかけていた精神がなんとも言えないが…倒れて立ち上がった人は強い」

 

エリカのツッコミを気にせず、壬生の試合を見る光國。

 

『「くそ、こうなったら!!」』

 

「あの人…入れてたの!?」

 

「オレなら大丈夫、そう思ってるんじゃないのか?」

 

避け続ける壬生に攻め続ける桐原。

痺れを切らしたのは桐原でCADを操作して魔法を模造刀へと入れた。

エリカは桐原の十八番とも言える魔法を使ったのを見ていたので、直ぐに高周波ブレードだと気づいた。

 

「エリカ、落ち着け。

あの人は壬生先輩に高周波ブレードを向けない…模造刀を斬り落とし、リーチを半分にするつもりだ…それに会長、風紀委員長、会頭の三巨頭がいるから問題はない」

 

カッとなって壬生に向けたのに、大丈夫か心配するエリカを達也は落ち着かせる。

 

「…千葉、ヨシヒコ、西城、司波、柴田

武術家やスポーツ選手にとってなにが一番大事なのか、悪人のなにが一番最悪なのか知っているか?」

 

最後の峠がやって来たと口を開いた光國。

 

「…心ですか?」

 

「…オレは昔はそこそこテニスをやっていた。

テニスを諦めたオレが言える義理ではないが、決して折れることの無い心はスポーツ選手や武術家にとっては一番大事なものだ」

 

問いかけに美月が答えると頷いた光國。

 

「悪人の心はなにが最悪か分かるか?」

 

「悪いことをしようとする心か?」

 

「違う」

 

今度は達也が答えたが、首を横に振った光國。

ほんの些細なイタズラやジョークをしない人間なんて、達也の様に妹への愛以外の強い感情を持てない感じの人間ぐらいだろう。

誰にだって悪い心はある。美月やヨシヒコだって、悪い心はある。堅物の十文字にもだ。

それを抑制する強い心?いや、それも違う

 

「悪人の心の問題点は」

 

『「ぎゃあああああああああ!?」』

 

光國が質問の答えを教えようとしたその時だった。

モニター越しで叫び声が聞こえ、光國に集中をしていたエリカ達は直ぐにモニターに目を向ける

 

「そんな…」

 

顔を青くするエリカ

 

「うっ!」

 

嘔吐しそうになり口を抑える美月

 

「柴田さん!!」

 

そんな美月に駆け寄るヨシヒコ

 

「くそ!!」

 

控え室から出ていこうとするレオ

 

「待て、何処に行くつもりだ?

フィールドに入った時点で壬生先輩の負けになる、勝手な事はするな」

 

大きく心が動く四人に対して、光國は冷静だった。

まるでこうなることを予想していたかの様に冷静で、眉一つ動かさずにモニターを見る。

 

「もう負けとか勝ちとか、そんな話じゃないだろ!」

 

「皆、僕は柴田さんを保健室に連れていく。だから、急いで壬生先輩の元に」

 

「幹比古、美月を連れていくのは構わないがそれは引き受けられない」

 

「どうしてよ…壬生先輩の手が斬られてるのよ!!」

 

ヨシヒコの頼みを引き受けない達也に叫び、自分だけでもと控え室から出ようとするエリカ。

しかし、達也が扉の前に立っており通り抜ける事は出来なかった。

 

『「み、壬生」』

 

『「きり…はら、くん…」

 

壬生に近寄り模造刀を握っている手が小刻みに震える桐原。

壬生の手は切り落とされており、切断面から血を流す。

 

「…悪い心は誰にだってある。

誰だって悪いことをした事はある…悪いことをしたら、怒られる。そして怒られたら二度としない様にしようと反省する。もし怒ってくれる人がいなくても、そいつのした悪いことの被害にあった人の顔を見て、自分は悪いことをしたと感じる…だが、悪人はその辺に疎い、性格の悪い奴は説教してくれた人をウザイやクソジジイだと思うだけだ…桐原先輩はカッとなるが悪人ではない」

 

「…この試合は壬生先輩の勝ちだ」

 

達也は光國の言いたいことが分かった。

何故、心を閉ざして避ける方法と手品しか教えないのかが分かった。

 

『「試合は一旦、中止だ!」』

 

『「ま、待って!ジョーク、ジョークよ!!」』

 

モニターの映像に入り込み、試合を強制的に終わらせようとする摩利。

それはまずいと焦った壬生は切断面から、自分の手を出して大丈夫だと見せる。

 

「アレって…ド●キとかで売ってる、本物そっくりの手?」

 

落ちている手を拾う壬生はそれがなにかを摩利に説明をはじめる。

 

「三年前にリーナとマジックショーを見に行った。

そして切断マジックを見た…マジックは毎日進化していた。

20世紀終盤から今にかけてマジックの道具は簡単に手に入るようになり、有名なマジシャン達がタネを明かし、オレ達より何個か上の世代からマジックのタネは目の錯覚を利用していたりするとバレているから専門家じゃなくても見抜かれるケースが多い…が、マジシャンはそれを利用する。

偽の腕を用意して、偽の腕を切り落として布で包んで1、2、3の指パッチンで本物の腕が出てくるマジックの応用…引っ掛かったか?」

 

「引っ掛かったか、じゃないわよ!!

美月が気分を悪くするし、私達の心臓もヒヤヒヤして寿命が縮まるかと思ったわ!!」

 

「安心しろ、オレなんてリーナが居ないと1ヶ月で死ぬ命だ」

 

「どんだけ依存しているの!?」

 

「それよりも、これに意味があるのかい?」

 

切断マジックは達也以外が騙されるぐらいに高度なものだった。

いったいどこから偽の腕で、どこから本物の腕か分からないぐらいのものだが戦闘とは全く関係の無いものだった。

桐原が動揺している隙に攻撃をするのならばいいが、摩利が間に入った為に試合が一時中断されてしまったので出来ない。

ヨシヒコはこれだとなにも出来ないと思うが、それは全く違う。

 

「…桐原先輩はもうおしまいだ」

 

「人間力を鍛える授業は本当に重要だな…」

 

もう勝ちは決まったと見守る光國と達也。

義手などは事前に申請してくれと摩利はため息を吐いて、場を離れて数十秒がたって真由美の試合再開の掛け声と共に壬生と桐原は構える。

 

「桐原先輩、動きが悪くなってる…手塚くん、これって」

 

「狙ってやった」

 

ヨシヒコが柴田をトイレへと連れていく為に部屋を出ていくと桐原の異変に気付くエリカ。

先程までの攻めもなければ気迫も落ちており、高周波ブレードを使わなくなっていた。

 

「本当に手遅れなことになってから悪いことをしてしまったと気付けば人は罪悪感に苦しむ。

ランクBで、刃を相手に触れさせる事が出来れば確実に人を殺せる高周波ブレードをCADに入れてて、カッとなって壬生先輩にぶんまわす桐原先輩だ…そう言った意識は薄いが…壬生先輩を斬ってしまったら話は別だ」

 

「手塚、ここまでやらなくたって」

 

「アホぬかせ、スポーツ選手はともかく武術家全員がこの辺を考えて自分の答えを導きださんとアカンことやで…一番最後に待ち受けるものは色々とあるけど武術は人を傷つけるもんやからな」

 

「レオ…手塚の言うとおりだ」

 

「…あんまり、認めたくない事だし触れたらダメだけど…」

 

勝つための事とはいえ、やりすぎだと思うレオだがエリカと達也は強くは否定できなかった。

誰かを傷つける技術を、エリカと達也は覚えた。

誰かを傷つけたりする技術を手に入れるのは簡単だが、問題はそれを使えるかどうかだ。

活かすも殺すもその人の心次第で、桐原には活かす覚悟も殺す覚悟も全くなかった。

 

「人を殺す技術を教えているが、活かす機会もなければ練習もない。

いや、無い方がエエし使う機会があったら大問題やねんから当然っちゃ当然の反応。

西城、人を殴ったりする可能性のある職業につくならばそれ相応の覚悟を持たないといけない…お前なら問題無さそうだが」

 

『「くそ…」』

 

桐原は次第に追い詰められていき、藍色の皿まで割られており残りは紫色の皿だけだった。

 

『「桐原くん、終わらせるわ…」』

 

心臓がある部分に紫色の皿を置いている桐原。

壬生は突いて倒そうと距離を取ったあとに独特の構えをとった。

 

「アレは!?」

 

壬生の試合中、眉一つ動かさなかった光國ははじめて驚きをみせる。

あの構えを知っているには知っている。だがしかし、閉心と手品の練習中には一度も見せなかった。

 

『「手塚くんにだけ、頼っていたら意味はないから…皆には内緒だったのよ!」』

 

「あれは、自己加速魔法…」

 

『「桐原くん…私は魔法の腕は劣っているかもしれないわ。

だけど…剣士としては劣っていなかったみたい…努力して、覚える事が出来たわ」』

 

「いや、違う…あの動きは!」

 

壬生は桐原との間合いを一気に詰める。

走って間合いを詰めず、縮地法で一歩、また一歩と素早く間合いを詰めて

 

『「三段突き!!」』

 

高速の三段突きを決めた。

 

「…アレは確か、素のスペックだけだったな」

 

見事なまでの三段突きを見て、沖田さんの無明三段突きを思い出す光國。

アレには魔法的な要素はなく沖田さんがびょうじょてんさいけんしだったからこそ出来たもので、極限なまでの物理である。

 

『「桐原武明の虹が破壊された事により、勝者、壬生沙耶香!!」』

 

真由美の声と共にモニターには壬生の顔写真が写り、下にはwinnerの文字が書いてあった。

 

 

第三試合 ロストレインボーロード

 

二科生 壬生沙耶香 ○ 一科生 桐原武明 ●

 

「…あの人、最後の最後で魔法だけじゃないと証明したな…」

 

三段突きが出来たのは、壬生の魔法と剣の才能のお陰だった。

首の皮一枚繋がった事に安堵するエリカ達だが、まだ安心することは出来ない。

 

「お前達、まだ試合する余裕はあるか?」

 

まだ試合は残っている。

エリカとレオは第一試合で、プレッシャーに負けることなく真っ直ぐに走った。

第五試合の団体戦で動けるかどうかを光國は気にした。

 

「問題ねえよ。

幹比古に美月に壬生先輩があんなに頑張ってくれたんだ…これでオレ達が動けませんじゃ笑い話にもならねえよ。」

 

「それよりも、手塚くんの方がどうなの?」

 

団体戦は第五試合、次に行われるのは第四試合だ。

首の皮一枚で繋がった二科生はもう負けることなんて許されない状況で、光國はストレート負けにならない様にした壬生以上に責任が重大だ。

 

「失礼します」

 

第四試合が大丈夫なのかと言う心配の中、控え室に入ってきた市原。

 

「市原先輩、どうかしましたか?」

 

「…後の二人は?」

 

「ちょっとトイレに行っています…壬生先輩の手品が少し、強すぎて」

 

「…そうですか…」

 

達也がヨシヒコと美月が居ない理由を説明すると顔を少し悪くする市原。

見物していた人達にとってこの試合はとても重たいものであったのが、達也にはよくわかった。

 

「それでなにかありましたか?」

 

「はい…第四試合はモニター越しの観戦ではなく、直ぐ側での観戦になりました。

現在、服部副会長が一科生と二科生を連れて移動していますので皆さんも移動をしてくださいと」

 

 

「あの~」

 

「なんでしょうか?」

 

「第四試合って、なにをやるんですか?

手塚が出るって最初から決めてて、他の試合を選べって言われててオレ達、どんな試合か知らないんですよ」

 

市原が観戦の為に部屋にやって来たので第四試合がなんなのか益々分からなくなるレオ達。

他の試合と違い、観客が直ぐ近くに居ても問題無いとなれば考えられる試合は数少ない。

 

「やっぱり、単純なクイズですか?」

 

一番妥当なものと言えば、やはりクイズである。

魔法師としての知恵は重要で、それならば干渉力とか関係無く一科生と互角に渡り合う事が出来る。

 

「いえ、違います」

 

しかし市原はエリカの考えは違うと否定する。

 

「その手の勝負なら筆記がぶっちぎりトップの達也にここで交代する。

高校生クイズの様に体力とかも使う感じのやつでも、達也ならば一位を取ることは出来る。

ここに来てクイズするならば、筆記試験で真面目に頑張って一位を取った方が効率が良いだろう」

 

「だろうな」

 

最もらしい光國の意見に達也は頷いた。

そして市原を見て、試合のルールを教えてくださいと視線を送った。

 

「…テニ…です」

 

「クラウド・ボールに似た競技ですか?」

 

ボソッと呟いた市原の言葉を聞き取った達也。

九校全てが今みたいなルールありの試合で勝負して競いあう九校戦、その九校戦の競技の一つであるクラウド・ボールに似たものと考えたのだが市原は首を横に振る。

 

「クラウド・ボールではありません、テニヌです」

 

 

一科・二科対抗戦

 

第一試合 エリカ・レオ ● 深雪・リーナ ○

 

第二試合 幹比古・美月 ● ほのか・雫 ○

 

第三試合 壬生 ○ 桐原 ●

 

 

 

第四試合

 

 

 

一科生代表 1-A 森崎駿

 

 

二科生代表 1-E 手塚光國

 

第四試合競技名

 

 

 

 

 

テニヌ

 

 








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