魔法科らは逃げれない。   作:天道無心ビームサーべ流
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テニヌの王子様

「はぁ…はぁ…急がないと!」

 

第三試合を勝利した壬生。

桐原の方がダメージは大きかったものの、壬生もそれなりのダメージをおっており体に幾つかの湿布を貼って治療をしており、ついさっき治療を終えて一度荷物を取りに控え室に戻るととんでもない事に気付き、全速力でテニスコートに向かって走っていた。

 

「まだ時間的にもそんなに経っていない…わよね?」

 

屋内テニスコートに辿り着くと、不気味なほどに物静かで少しだけ怖くなった壬生。

程よい風が心地良いはずがとても冷たく恐る恐る入るとそこにはちゃんと一科生と二科生が居て、光國と森崎が試合をしていた。

 

「なんでこんなに静かなの?」

 

「あ、壬生先輩…」

 

とりあえずは一番話しやすい空を見上げるエリカにこの状況を聞くと、見上げたまま空を指さすエリカ。

なにかあるのかと壬生も空を見上げると物凄い速さでテニスボールが森崎のコートのセンターマークへと落下して、弾んだ際に観客席に向かって飛んでいった。

 

第6の返し球(シックススカウンター)星花火…七草主審、コールは?」

 

「ゲ、ゲーム手塚…1-0、チェンジコート!」

 

真由美の判定のコールと共に、大きく騒ぐ二科生達。

 

「手塚くんが勝ってるのね…」

 

序盤とはいえ、光國が勝っている事に安堵する壬生。

光國はベンチに置いている、ドリンクを飲みに近付いてくる。

 

「手塚、さっきの星花火ってどんな技なんだ!」

 

「相手のコードボールを上空へ強烈に打ち上げ打球を相手の視界から消す。

建物の内側と外側に吹く風が、高速落下する球に不規則な回転を与えて相手のコートのセンターマークへと向かい、最終的にはコートで起きるバウンドが不規則になり、大きく弾んで観客席へと向かう技だ…お疲れ様です、壬生先輩」

 

目を輝かせるレオに虎視眈々と答える光國。

壬生の事に気付くとペコリと一礼をしてきた。

 

「手塚、内側と外側の風と言うが不規則に吹き荒れている。精霊魔法を使って、調整を?」

 

「そんなものは必要ない…ただ風を読んだだけだ」

 

「風を読むって、そんな事は出来ないわよ」

 

星花火を精霊魔法でしたと考えるヨシヒコだが光國は魔法を使っていない、と言うか使えない。

 

「千葉さん…手塚くんは魔法を使ってないわ。

だって、ブレスレット型のCADを控え室に置いていたのよ」

 

壬生はそれを証明する。

控え室に戻った時に、光國が置いていったCADに気付いた。

魔法が使えないんじゃいくら光國でもと慌てていたが、星花火を見てそんな心配はむしろ不要だったと考えを改める。

 

「って、事は手塚くんは本当に風を?」

 

「別に珍しい事でもなんでもない。

今の時代は天気予報で空から科学的に予測するが、科学技術が余り発展していない時代ではヨシヒコの様な今で言う古式魔法の使い手が予測するか雲や風の流れをなんとなくで読んでいたんだから…」

 

「確かに古式魔法の中には天気を予測したり見たりする魔法があって、そう言った使い方をしていたらしいけど…まさか、手塚が風を読めるだなんて」

 

呆れたと言うか天晴れと言うか、なにも言えないヨシヒコ。

光國は水分補給を終えるとコートへと戻って女子テニス部部長からボールを貰うのだが、女子テニス部部長が光國にペコペコと頭を下げている。

 

「アイツ、掌返しをして…光國の事をわかると!!」

 

その光景を見て、怒りを露にするリーナ

 

「落ち着きなさい、リーナ!」

 

「いや、深雪も達也さん関係だとあんな感じだよ…」

 

そんなリーナを宥める深雪だが、お兄様関係だと同じことをしている。

雫は深雪に呆れつつも、森崎ではなく光國に視線を向けて仮想ディスプレイ型の端末を起動させる。

 

「それにしても、まさか手塚さんがテニスの世界チャンピオンだったなんて」

 

「世界、チャンピオン?」

 

「三年前の話よ。

三年前までは15歳以下で最強だったけど、今は別の誰かが最強らしいわ…」

 

苦虫を噛み潰したかの様な顔をするリーナ。

それは明らかにイラついており、その視線の先には森崎ではなく光國がいた。

 

「って、サーブはやっ!!」

 

光國のサーブに驚くエリカ。

森崎は油断しており、全くと言って反応が出来なかった。

 

「…誰か、速度を測ってくれないか?」

 

「俺が測ろう」

 

油断しているのか、していないのか分からないが取り敢えずは志願する達也。

スピードガンを借りて構えると光國は超高速のサーブを打つ…が

 

「舐めるなぁああ!!」

 

森崎は打ち返した。

森崎はと言うか森崎家は、如何にして素早くCADを使い相手にやられる前にやるクイック・ドロウを得意としており、反射や反応速度は人よりも鍛えており、ただ単に素早いサーブだけなら反応がする事が出来た。

 

「お兄様、何キロでした?」

 

「208キロ…俺はテニスの事を詳しくは知らないが、これはぶっちぎりの一位なのか?」

 

光國と森崎がラリーを続ける中、測定を終えて戻ってきた達也。

光國のサーブがスゴいのかスゴくないのかイマイチ分かっておらず、どう反応して良いのか分かっていなかった。

 

「速いには速いけど…もっと上なら新幹線並みの速度のサーブらしいわ」

 

「本当にそれテニスなの?」

 

「テニスよ」

 

壬生はテニスを知らないだけで、これがテニスである。

 

「しかし、これはテニスではなくテニヌ。

魔法ありの勝負で、森崎くんは魔法を使い粘ってラリーをしています…ボールを打つと同時に魔法をかける感覚は掴めていませんが、このままだと掴みそうで」

 

「問題無いわ…光國、まだ本気じゃないもの」

 

森崎がやや劣性ながらもラリーを続ける光國。

明らかに余裕があり、市原の心配が薄れていく

 

「そろそろ前に出て良いか?」

 

「前に出て打ち返せるものなら、打ち返してみろ!!」

 

光國の発言を挑発と思った森崎は挑発で返した。

ボールをネットにぶつけて、コードボールを狙う森崎。空中に浮いている隙に加重魔法をかけて、重さを足して光國のコールへと倍速で落とそうとするのだが

 

「ああ、打ち返してやる」

 

「なっ!?」

 

ボールがバウンドする前に光國はネット際まで一瞬で近づき打ち返した。

 

「30-0!…今の動きは、達也くんの…」

 

コールをすると光國の動きが達也の動きに似ていると呟く真由美。

摩利からボールを受け取ると光國はサーブを打って、森崎が打ち返して再びラリーを始めるのだが

 

「疾きこと、風の如く」

 

光國が一瞬にしてネット際に現れ、超至近距離でボールをコートに叩き込んだ。

 

ふぉ、40-0(フォーティーンラブ)!!」

 

「お兄様、あれは!」

 

「ああ…」

 

ボールでも森崎でもなく、光國の姿だけを見ていた深雪と達也。

センターマークがあるところから、ネット際までの距離を移動した際の動きをしっかりと見ていた。

 

「武術の歩法だ」

 

森崎と揉めたあの日、光國は言った。

森崎のCADを弾いたのは魔法でもなんでもない体術で、自分も似たような動きは出来ると。

出来るといっている割には素振りを見せなかったが、ここで使うとは思っていなかった。

 

「どうした、そんなものか?」

 

「これなら、どうだ!!」

 

再びネット際までやって来た光國だが、森崎は動きを読むことに成功し大きくロブを上げる。

 

「疾きこと風の如く」

 

打ち上げられたボールはセンターラインギリギリの所まで向かうのだが、ボールが落下するよりも先に光國がセンターラインに立ち、構える。

 

「そうか、縮地法か!!」

 

「そう言うことだ」

 

本当の意味で強い魔法師ではないもののそれなりの知識がある森崎。

一瞬にして移動する光國の動きをたった数回で見抜いたのは中々と言うところだ。

 

「縮地法…そうか、約10メートル内部なら1、2歩あれば良いから縮地法なら素早くいける!!」

 

「エリカちゃん、縮地法ってなに?」

 

原理が分かるとうんうんと頷くエリカだが、縮地法がなにか分からない美月。

美月だけじゃなく、エイミィやほのか達も分かっておらずどう説明をしようかと達也が考えていると真ん中に座っていたオジイが口を開く。

 

「縮地法…沖縄武術なんかでぇ、相手に気配を悟られず接近する方法でぇ、地面を蹴って走るのではなく地球の引力や倒れる力ぉ利用して早く歩く…歩くよりも、跨ぐ感じかなぁ…」

 

「爺さん、知ってたのか!?」

 

「レオ、落ち着け。

それよりも問題なのは見抜かれた事だ…武術の中には重心を移動させて早く動く歩法はそれなりにある。森崎家はボディーガードをしていて、体術の心得もあり…恐らく縮地法の弱点も知っている」

 

縮地法を使い、一瞬でボールの元へと向かい打ち返す光國。

森崎はなにかを狙っており、隙が無いかと探している。

 

「バカね…自分の弱点を理解していない奴が居ると思うの?」

 

「スゴいねぇ…」

 

「…!」

 

「縮地法を使うとは、やるようだがそれは前後の動きしか出来ない!!テニスじゃ、役立たずだ!!」

 

縮地法で相手の間合いを一瞬にして詰めて、体重を乗せて殴ったりするのが正しい使い方だ。

人を殴って動きを封じたりして、そこで終わりだがテニスは違う。森崎は詰め寄った光國の左斜め後ろにボールを打ったのだが

 

「お前のCADに入っているテニヌ用の魔法の方が役立たずだ」

 

「なっ!?」

 

「え、嘘!?」

 

光國は一瞬にして左斜め後ろに移動して、打ち返す。

打ち返したボールは打った位置から大きく横に移動せず、ジャイロ回転を起こしつつ真正面に飛んでいった。

 

「ゲーム手塚!2-0!」

 

「斜め後ろへの縮地って…魔法、は…使ってないわよね…」

 

光國のCADは壬生が持っている。

だから、魔法は使っていない。光國専用の武装型CADはあるにはあるが、このテニヌでは全くと言って使えない。

 

「光國は…常人の何倍も優れたバランスを持っているわ。

常人の何倍ものバランスを持っているから、筋肉を別々の方向に働かせる事が可能で横への縮地法…いえ、360度全ての方向に一瞬で間合いを詰めることが出来るわ。

そして一瞬で移動した後に、油断している相手に移動する隙を与えずにジャイロ回転を起こしたパッシングショットで抜く…」

 

「これがオレの相手を真っ向で叩き潰すテニス、風林火山の風だ…次は林で行かせて貰う」

 

「まだ、あるだと…」

 

そこからはもう、ただただ圧倒的だった。

 

「静かなること、林の如く…妙技綱渡り」

 

ボレーを使いコードボールを狙ったかと思えば、ネットの上にボールが乗って転がり森崎のコートに落とし

 

「鳳凰返し!」

 

「ボールが全く弾まねえ!?」

 

上回転をかけたボールに更に上回転をかけて、弾まない球を返し

 

「くたばれぇえええええ!!」

 

「麒麟落とし!」

 

遥か上空から加重魔法をかけて打ってきたダンクスマッシュを背を向けたままラケットを振り上げ遠心力を利用してセンターマークへと打ち返し

 

「っ、レーザービームか!」

 

「違うな」

 

ジャイロレーザーと同じモーションをとって森崎を動かしたあと、全く同じモーションから放たれるトルネードスネイクを決めた。

 

「レベルが…違いすぎるよ…」

 

森崎はボールに触れる事は出来ている。

森崎は攻めることも出来ている。

森崎は隙をつくことも出来ている。

森崎は守りも出来ている。

森崎は咄嗟の判断も正しく出来ている。

森崎は勝とうとする強い気持ちも持っている。

だが、それら全てが光國の足元にも届くことはなかった。

単純なテニスの技術と基本的なスペックが森崎と光國の間は絶望的な迄にあり、観戦しているほのかでも分かることだった。

 

「侵略すること火の如く」

 

光國は背を向け飛び、体を捻るように一回転をしてクランドスマッシュを決め

 

「ゲームアンドファーストセット、手塚!6-0!」

 

「あった!」

 

遂に森崎は1ポイントも取れることなく、1セットを光國に先取される。

それと同時になにかを調べていた雫が、目的のものを見つけ出した。

 

「…すごい……」

 

「雫、なにを見ているの?」

 

「手塚さんのデータ。

世界大会に出るぐらいだから、なにか記録が無いかなって探したんだけど…ぶっちぎりだよ。

手塚さんのテニス選手としてのパラメーターが載ってて…スピード 6 パワー 5 スタミナ 6,5 メンタル 7 テクニック 8…」

 

「それって低いんじゃないの?」

 

「ほのか、違うよ…これ、1から10段階の評価じゃなくて1から5段階の評価だよ」

 

「え…」

 

仮想ディスプレイを全員に見せる雫。

そこには今となんら変わりの無い光國の顔写真と五角形のレーダーチャートが写っており、パワーの部分以外が全て五角形の外に出ていた。

 

「そろそろテニヌらしい事をしてみる…いや、違うな…」

 

全員が様々な事に驚く中、光國は別の事を考えていた。








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