魔法科らは逃げれない。   作:アルピ交通事務局

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よく分かるようでよく分からない魔法科高校 手塚光國とファントム略して手塚ファントム

「ここ、みたいね…」

 

「そうですね…」

 

達也が生徒会長になり、やっと色々と処理を終えた。

そして若作りの魔女もとい四葉真夜に報告書を作成していた、ある日の日曜日。

市原鈴音と壬生沙耶香は国の中央とも言える東京ではじめてみる一世代も二世代も前のアパートにやって来た。

 

「手塚くん、本当にこんな所に住んでるの?」

 

「あんた達なにか用かい?」

 

ここには光國とリーナが住んでいるのだが、あのクドウ(九島)や一応真面目な光國が住んでいるイメージがつかず怪しむ二人。

すると、後ろから濃い化粧のブサイクなおばさんが声をかけてきた。

 

「あの、ここに手塚光國と言う人が」

 

「なんだい、光國達に用事…光國に用事かい…」

 

光國に用事だと分かれば少し黙るブサイクなおばさん。

おばさんは光國が魔法師だと知っているのかは知らないが自分達も魔法師だと思っていて、嫌な顔をしていると感じる。

この辺には上京してきた第一高校の生徒が一人暮らしをするには良い物件や場所はあるが、光國達が住んでいるアパートはそことはかけ離れていた。

 

「光國は二階の端に住んでいるよ…全く、声をかけて正解だったよ」

 

「えっと…」

 

「光國も隅に置けないねぇ。

あんな美女を侍らせておきながら増やすとは…ほら、さっさとおいき!」

 

なにか勘違いをしているブサイクおばさん。

ゆっくりと市原と壬生の背中を押していく。

 

「光國は諦めない方が良いわよ。

なんだかんだで金は持っているんだから…籍だなんだ気にせず、愛に生きな!

人生の先輩から…一人の女としてのアドバイスさ」

 

光國達が住んでいる端の部屋に連れられ、インターホンを鳴らしてウィンクをして何処かに行くおばさん。

男の魔法師がパッとしなかったり、ゴリラみたいなゴツい奴だったりするが女の魔法師は美女揃いで、ブサイクに馴れていない市原と壬生は背筋がゾッとして吐き気が襲う。

 

「あ、来たわね」

 

「アンジェリーナさん…早速で悪いのだけど、トイレ貸してくれない?」

 

「すみません、紙袋かなにかありませんか?」

 

「…大家のババアにあったのね…このアパートの住人全員が週に一度ずつ吐いてるから、用意しているわ…この前なんて、地上げ屋的なイケメンが来て私の中の女が目覚めた責任を取れって…」

 

家にやって来て早々にゲロをすると言う失礼きわまりない始まりをする市原と壬生。

夢に出てきそうと軽くトラウマになりかけたが、まだなにも始まっていないとリーナからお茶を貰い、生まれてはじめてみるちゃぶ台の前に座る。

 

「こんな所に住んでいるなんて…意外だわ」

 

「ここに来る人達、皆に言われるわ。

魔法師全体がそれなりにお金持ちだから、こう言った物件とは縁遠いけれど実際に住んでみれば凄く快適よ…お風呂は無いけど」

 

「それは一番の問題では?」

 

「仕方ないじゃない…過去にここで風呂場で足を滑らせて、気絶して頭を浴槽につけて溺死した人がいるから、そう言うのは…」

 

「え、待って、ここ事故物件なの!?」

 

「東京じゃ至って普通の事故物件よ…ほら、現に後ろに幽霊と化した当時の人が」

 

「ひぃ!?」

 

「…冗談よ」

 

後ろを振り向いて、後退する市原を見てやり過ぎたと感じたリーナ。

申し訳ないと謝り、頭を下げる。

 

「言って良い冗談と、悪い冗談があるわよ!」

 

「ごめんごめん…この部屋じゃないわ」

 

魔法師なら除去出来るんじゃないかと思われているので、受け入れられたりする。

溺死したと言うのは本当だったりするが、この部屋ではない。

 

「それで…用件は?」

 

笑顔を止めて、真面目な顔をするリーナ。

この二人はただ遊びに来たわけじゃないのは分かっているが、詳しい用件をしらない。

 

「手塚くんは、手塚くんは何処かしら?」

 

「この押入れで寝ているわ…昨日まで貰った示談金の税金対策とかどうとか、今までの疲れが溜まっていて、後、三十分は絶対に起きないわ」

 

押入れを開けるとドラえもんみたいに寝ている光國。

スヤスヤと眠っており、起こすのは申し訳無いなとリーナと市原と壬生は甘やかす。

 

「…寝ている間、光國について話をしておこうかしら」

 

偶然な市原はともかく、壬生には色々と知らないといけない権利や義務がある。

光國がその事について呼んでいるのならば、語れる事だけ語っておこうとすると聞きたい顔をする二人。

 

「手塚光國

国立魔法大学付属第一高校 二科生 1-E

 

誕生日 6月4日(双子座) 血液型 O型

 

趣味 競艇、食べ歩き、レトロゲームと紙媒体の漫画集め

 

家族構成 父、母、兄、妹 好きな色 まつざきしげる色

 

座右の銘 やる時はやるけど、やらない時はやらない

 

好きな食べ物 鰻重 たこ焼き 焼肉(ロース)

 

好きな本 人をおちょくる50の方法

 

好みのタイプ モテるだけでありがたいのでいない

 

行きたいデートスポット NGKかUSJ

 

今一番ほしいもの 明日も休日で今日もなにもしなくても良い日

 

苦手なもの(こと) 人付き合い 責任ある立場

 

身長 185㎝ 体重 65キロ 利き手 基本的に右だけど左も問題なく使える」

 

スラスラと光國のプロフィールを語るリーナ。

深雪がお兄様のプロフィールを一字一句間違わず息継ぎ無しで言える様に、リーナも光國のプロフィールを一字一句間違わず言える様に特訓をした(アホ)。

市原と壬生は引くことなく、熱心に聞いているがエリカ達が聞けば確実に引いていた。

 

「これが基本的なプロフィール。

そして次は魔法師としてのプロフィール…は、持っているんじゃないかしら?」

 

市原の事をチラリと見るリーナ。

 

「今回の一見で実技や評価の見直しもあり、ゲームの様なパラメーター形式のデータは作っています…ただ、出来ればオフレコでお願いします…なにせ七草元会長よりも前から生徒会が生徒の個人の成績はまだしも、正確な点数を見ることが出来たり、一部の名のある家に流出していたりしていたので…」

 

「魔法科高校って、本当に厳重な警備システムなの!?」

 

科学技術で、電子機器で情報を保存しているこのご時世。

紙媒体の方が盗まれなかったりするんだから、なんとも言えない。

ある程度の文明で止まっておくのが一番なのがよくわかる。

しかし、本当に魔法科高校が厳重な警備なのかはわからない。もしかすると魔法師が最後の希望と言う名の最終警備システムとか言うオチかもしれない。

 

「手塚光國

国立魔法大学付属第一高校 二科生 入試の成績は101位

今年度は主席の深雪さんをはじめとする学生レベルで納まらない新入生が多く、更には司波くんの様に実技は苦手ですが筆記は問題ない生徒が多くいた為に例年と違い、成績が大きく変動していて例年通りだと普通に一科生です」

 

今度は市原が光國を語り出す。

個人情報ってなんだっけとなるが、光國の事を知れるので壬生は考えるのをやめた。

 

「魔法力 3.5 一般教養 5.5 魔法知識 3.5 知恵 8 身体能力 8 メンタル 9

1から5までの5段階評価で、今のところは学校側は手塚くんをこう評価しています。

魔法力はここから更に各系統の魔法や干渉力を含まれていますが…手塚くんは各系統の評価がAからCと魔法を使う度にコロコロと変わり、高い時は高いのですが、一定水準を保ち安定した魔法を使えないみたいですね」

 

「…あ~…うん」

 

安定して使えない理由を知っているが、まだ言えないわと一先ずは頷くリーナ。

 

「一般教養は問題らしい問題はなく、雑学なども豊富です。

魔法に関する知識も学生レベルと言うならば問題はありません。

知恵は今回の騒動を起こしたので異常に高くされていますが、特に問題なし。

身体能力は体力テストを手を抜いて満点を取っていたのと、魔法無しで森崎くんを圧倒していたのでこの成績かと思われます。気絶しても尚、戦い続けたのでメンタルはぶっちぎりです。

魔法力 8 一般教養 7 魔法知識 6.5 知恵 7 身体能力 7 メンタル 6

魔法力 8 一般教養 7 魔法知識 7 知恵 6 身体能力 6.5 メンタル 5

魔法力 1.5 一般教養 8 魔法知識 9 知恵 7 身体能力 8 メンタル 6

魔法力 5 一般教養 4 魔法知識 5 知恵 3 身体能力 3 メンタル 2

と言うのが、手塚くん以外の他の生徒に対して今のところ学校側がだしている評価です。」

 

「待って、最後以外5段階評価が仕事をしていないわ!!」

 

市原の解説にツッコミを入れる壬生。

四人目は誰かはわからないが、最初の三人はなんとなく分かる。

そして学生の範囲を越えているのも分かるのだが、5段階評価が仕事をしていない。

 

「…そろそろ本題に入りましょう…実は、私達は手塚くんにある事を頼まれていました」

 

「ある事?」

 

「何時も通りと言えばいいのかしら…単純に対象物に魔法を向ける実技をしたの。

貴女も入試の時にやった発動速度を測るやつで、一科生達は基本的に1000msを切るけれど、私みたいな二科生は…その、発動速度が遅くて1000msを切らない事が多いのよ」

 

光國そっちのけで、本題が入り語る側から聞く側になるリーナ。

エリカや美月が魔法の実技関係で補講をしているのを知っているので、特におかしな点はなにもない。

 

「その…手塚くんに、キスをされた時から…なんでかは分からないけれど、発動速度どころか魔法力が上がっていて、想子も尋常ないほど増えていて…」

 

「えっと………上がっているなら、問題ないんじゃないの?

15から20までの間に、色々な経験をしたりしなかったりして大きく成長するし、自信がついたから成績が上がったって言う一例もあるし」

 

精神的な問題で、真の力を発揮できなかった。

何処の世界でもそう言ったことはあるものだから、そう言うやつじゃないのかと考えていると市原が写真を出す。

 

「アンジェリーナさん…御自身の入試の実技成績を覚えていますか?」

 

「…285msだけど…」

 

恐る恐る、市原から写真を受け取り自身の実技の成績を語るリーナ。

嫌な予感しかしないとゆっくりとゆっくりと写真を見る

 

「嘘!?」

 

「私は細かく計測してほしいと手塚くんに頼まれて、壬生さんにコツを教えてから測ると最初は0、753193315秒でした。これぐらいならば、精神面で成長したとなるのですが…次に測ったら0、555秒と縮み、測れば測るほど早くなっていきました」

 

リーナは写真を見て、驚くことしか出来なかった。

 

「最終的には0、19194545109秒になりました…記録は残らない様に消しましたが、これはどう考えても異常です」

 

写真には壬生がリーナや深雪をも越える記録を叩き出している証拠が、数字が写っていた。

その数字は深雪やリーナをも越える。

 

「…どういうことなの…」

 

リーナは、戦闘力と言う点に置いては世界一…とは言えないが世界トップクラスだ。

魔法力も世界トップクラスだが、壬生はそんなリーナや同等の深雪を越えていた。

 

「これは七草元会長も十文字会頭でも出せない数字。

いえ、そもそもの話でこの現代魔法が世に出てから有名になった現代魔法の名家の大半は、特に十師族を含む二十八の家の開祖とも言うべき人達は人体実験を、魔法研究所で体を弄くられています…」

 

光國が寝ている押入れを見つめる市原。

体よりも頭で動く魔法師の市原は分からない。リーナにも分からない。壬生にも分からない。

だが、光國なら知っている、ちゃんと自分の口で知っていると言わなかったが知っていると三人は確信していた。

 

「ファントムが、力を貸しています」

 

答えてくれと教えてくれと知りたいと言う疑問に答えるべく、押入れが開いた。

 

「ファントム…」

 

「ちょっと、待ってください」

 

『ドライバー・オーン!!』

 

鞄からベルトを起動させる指輪を取り出し、卓袱台の空いている場所に座ってお茶を飲んで一息をつく光國。

 

「ファントム、と言うと壬生さんが絶望をして生まれそうになった精霊の様な存在ですか?」

 

「そうですけど、その言い方は少し違います。

壬生先輩が絶望をして、生まれそうになったんじゃなくて、壬生先輩が絶望をして生まれた精霊的な存在です」

 

光國は鞄から紙とペンを取り出し、絵を書き始める。

 

「かの有名な暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬の七つの大罪。暴食と怠惰は怪しいですけど、どれもこれも人間の持つ負の感情とも言える感情ですが絶望が入っていません。

オレは難しい理論や業界用語は苦手ですので、分かりやすく尚且つ大雑把に説明にします。

まず、高い魔力を持った人が絶望のドン底に落ちた時点でファントムは生まれます。

なんで絶望かは分かりませんけど、絶望は七つの大罪の負の感情とは方向性が違っていると思いますが、この辺は専門外なのですっ飛ばします」

 

壬生と書かれたORZの棒人間とドラゴンを描く光國。

 

「深い絶望をした時点で、別の人格が生まれます。

その人格は邪悪で、世に言う精霊的な存在に近くて絶望をしている生み出した人間の意識を乗っ取り、人体に有り得ない変化を起こして化物になる…主にドラゴンやグレムリンと言った幻獣的な生物に」

 

「それは前回、聞いたけど…私はなんともないわよ?」

 

「壬生先輩は絶望を乗り越えて、肉体を乗っ取られませんでした…じゃあ、生まれたファントムは今どうしていますか?」

 

「!」

 

「生まれたファントムは…もしかして!」

 

「光國、それって…」

 

「リーナ、絶対にクソジジイとかに言うなや…壬生先輩、あんたの中にはファントムがまだおる。

そいつはこれから先、深い絶望をしなければ絶対に肉体を乗っ取ることはない…だから、安心してくれや…」

 

肉体は乗っ取られることは、絶望しない限りはない。

それだけは断言できるが壬生達の心配や聞きたいことはそれだけではないのは、光國は分かっている。

 

「壬生先輩の魔法力がアホみたいに高まったんは、そのファントムのお陰や。

自身よりも、炎を使ったり雷を起こしたりするのが上手い存在、精霊にここに雷を起こせ、ここに炎を起こせと頼むのが精霊魔法で、これに類似しとる。

壬生先輩が魔法を発動すると壬生先輩だけでなく壬生先輩から生まれたファントムも引っ張られるかの様に魔法を使う…だから、魔法力が高まった」

 

「滅茶苦茶な理論や考えにほどが…ありますが、そう言った可能性が無いわけでは、ありません…」

 

「私の中にいる私が生んだファントムが、私に力を貸している…」

 

理解したのか、納得したのか分からないが信じてくれた市原と壬生。

だが、リーナには納得も理解もしている暇はない。

 

「待って…ファントムが体内にいるってことは!」

 

壬生と光國は似たような感じになっている。

互いに己の内にファントムを飼っており、光國は定期的に魔力を、想子を食べなければならない。でなければ、死んでしまう。

それならば、ミブもとリーナは慌てるが

 

「自身で生み出したファントムに食い殺されることはない…」

 

あくまでも似たような感じであり、一緒ではない。

ビーストドライバーが開き、キマイラが壬生は殺されないことを教えてくれる。

それを聞いてホッとするリーナだが、壬生と市原は驚いておりドライバーを見つめている。

 

「さて…市原先輩も壬生先輩も知りたいことは知った…」

 

 

次はどうする?

 

 

光國は声に出さないが、壬生と市原はそう言っていると感じた。

それと同時に必死になって頭を回転させる。ファントムを聞いたことにより光國に対して色々と新たな疑問を幾つも持った。

 

「…手塚くんは、どうしてアンジェリーナさんと一緒にいるのですか?」

 

「ナンパをした…嘘ちゃうで」

 

「どうして、ファントムの知識を…九島の研究成果ですか?」

 

21世紀から徐々に徐々に表に出た魔法、世に言う現代魔法。

その現代魔法が表に出る前からあった魔法を古式魔法と言い、九島はそう言ったものを集めており、光國はそれの研究成果だと市原は考える。

 

「ちゃうよ…カエルの子はカエル、瓜の蔓に茄子はならぬや…オレは魔法師なんてなりたくない、欲しくもない力を手に入れた…最後におまけで、魔力が高い人間と魔法が使える人間は違う…魔力は、想子は魔法師じゃなくても持っている」

 

答えを導き出して欲しい光國は、答えを言わずに大きなヒントを与える。

おまけのヒントが無くてもお兄様辺りなら答えを出すが、お兄様じゃないので大きなヒントを与える。

 

「まさか…手塚くんは…」

 

市原の頭の中でゆっくりとゆっくりとパーツが集まっていく。

壬生とキスをした時と、今回の光國の話などを聞いて分かったことが色々と集まっていく。

 

絶望をして心に立ち直れないレベルの傷がつくと生まれるファントム

 

ファントムは生み出した人とは全く違う独立した人格であると同時に妖怪や悪魔の一種

 

ファントムを生み出す大まかな条件は2つ

 

一つは高い魔力を持っていること

 

一つは立ち直れないレベルの深い絶望をすること

 

絶望をして立ち直れないレベルに精神が崩壊するとファントムに肉体が乗っ取られて、化物に変化する

 

立ち直れないレベルの絶望をしても、それでもと諦めずに前を向いて歩き出せばファントムを制御下における。

 

ファントムを制御する事が出来たものは日本どころか世界基準でもトップレベルの十師族の魔法の力と同等かそれ以上の魔法の力を手に入れる

 

手塚光國はその事を詳しく知っている。

 

手塚光國は望んで魔法師になった訳じゃない。

 

アンジェリーナ=クドウ=シールズは手塚光國は欲しくもない力を手に入れてしまったと語る

 

手塚光國は何処かの名家の魔法師ではない。

 

手塚光國はただのテニスプレイヤーだった。

 

現代魔法の家系でも古式魔法の家系にも手塚なんて家は無い。

 

魔力を現代風に言い換えたりすれば想子がこれに当てはまるケースが多い

 

想子(魔力)自体は魔法師でもなんでもない人間も持っている。

 

これに加えて、事象や状態の改変を行う力を持っている人が魔法師だ。

 

「手塚くんは…ただの人から、魔法演算領域が無い、たたの普通の人から…既存する特殊な実験を一切受けずに魔法師になった人ですか…」

 

「正確にはオレはファントムを生み出さずに、後天的に宿して魔法師になった一般人。

せやけど、市原先輩の考えは間違っとらん…オレと壬生先輩を足したら、そんな感じの人間になるんやから」

 

市原はそれらしい答えに辿りついた。

流石に正確な答えは出せなかったものの、それでもその事を世に知られるだけで大事になるだけではすまない。

 

 

 

 

 

魔法師じゃない人間を、魔法師にすることができる。

 

 

 

 

 

市原、いや、魔法業界に存在する人達からすれば喉から手が出るほどほしい情報だ。

 

「数年前に、ファントムが封印されている古墳が偶然に出てきた。

そこを偶然にも九島達が調査をしているとファントムの、キマイラの封印が解けて、近場で釣りをしていたオレに宿り…九島に見つかって後天的に魔法の力を手に入れた世界でも珍しい人間だと飼い殺しにされて…まぁ、今に至るわけや…はぁ…」

 

頭が痛いと寝転ぶ光國。

壬生の宿すファントムとか魔法力が十師族並みだと知られれば最後、大変な事しかならない。

クソジジイこと九島烈をはじめとする九島の人間がもし、その事を知ればなにをするか分からない。

ビーストドライバーの解析などは出来ていて、使いこなせるかどうかは別としてビーストの魔法をCADに移植することが出来ているにはいるのだが、肝心のキマイラの製造方法が判明していない。

九島御抱えの魔法師はおろかクソジジイこと九島烈やリーナですら演算処理仕切れない、後遺症が残るかもしれないオーバーヒート覚悟で使わないといけない。

超常的な存在であるキマイラがその辺の演算処理をしており、人工精霊的なのは作れるもののキマイラは作れなかった。

と言うか、魔法の演算処理を補助どころか単独でする魂だけの存在をどうやって作れと言うのだ。

この世界仕様に仮面ライダーのシステムとかが色々と弄くられたりしているけど、そもそもの話で仮面ライダーはこの世界に居ねえぞと心の中で愚痴る、愚痴る。

 

「剣道の小娘よ!」

 

「えっと、私よね?」

 

「貴様以外に誰が居ると言うのだ。

先に言っておく、このままではそれ以上の成長は見込めんぞ!

CADで使える魔法はファントムにとっては役不足にも程がある!」

 

その間、キマイラは語る。

 

「貴様自身の要領が悪く、尚且つこの時代の魔法が余りにも拙い。

古式魔法でしか空を飛ぶ事すら出来ない体たらく、そのままだと宝の持ち腐れだ!」

 

「私は、今の状態で充分ですけど…」

 

「戯けが!

ファントムを制御した者の魔法は桁違い、それこそ神の血を持つ者や神に関連する者レベル。

飛行魔法は勿論のこと、ここから光國の故郷の大阪まで転移魔法(テレポート)、空間をねじ曲げて別次元に干渉し隙間を作り出したり次元を繋ぎあわせたりして物を取り出す収納魔法(コネクト)、服を収納しておけば瞬時に早着替え(ドレスアップ)が出来て、香水を着けずとも臭い(スメル)を変える事が可能だ!」

 

「おい、徐々に徐々に地味になっとるやん…」

 

珍しく喋るキマイラ。

 

「黙っていろ…かれこれ数年が経つが、未だにミラージュマグナムが見つからん。

九島の老害達も一向に成果らしい成果もあげることもできず、我も光國もこのままでは永遠に飼い殺しだ、此処等で大きな変化が必要だ」

 

「変化は、欲しいけども…」

 

最早、後戻りは出来ないところまで来ている光國。

リーナと徳川の埋蔵金を見つけて以降は平凡な日々で今さら劇的な変化はそこまで求めてはいない。と言うよりは、光國にはどうして良いのかが分からない。

本音を言えば、テニスプレイヤーとして世界一になってCMとか出て、何十億も稼いだ後に引退して、そこそこの家に暮らして何処かのテニスクラブでコーチしたり体育会系のテレビに出たりする日々を過ごしたい。しかしそれはもう無理だ。

魔法科高校の劣等生と言う作品は、分かりやすい悪と分かりやすい正義の味方が戦うお話じゃない。強いだけの光國には限界がある。

 

「それに貴様、剣道の小娘を放置して構わぬのか?

ファントムの力は子には遺伝することはないが、それでも剣道の小娘は貴重な存在。

娯楽に満ち溢れて、海外旅行以外は出来ない事はなく食べたくても食べれない物は無いこのご時世、ファントムを生み出すレベルの絶望はそう易々とない…絶望をさせて、それを乗り越えるべく希望となったのだ…責任はとれ」

 

「………今、それ言う?」

 

あえて気にしない方向で話をしていた壬生の恋心とファーストキス。

その事について掘り下げてきたキマイラ。壬生は顔を真っ赤にして少し黙った後に口を開く。

 

「…多分、捨てられたら絶望するわ…ええ、絶望してしまうわね」

 

「手塚くんは、その辺についてどういったお考えをお持ちで?」

 

グイグイと距離を縮めてくる壬生と市原。

リーナに助けを求めようとするのだが、リーナは答え次第によっては殴る準備をしていた。

 

「…オレは正直モテるだけでもありがたいんやけど…両手に花とか嬉しいには嬉しいけど、そもそもの話で法律的にアウトやん。彼女の一人や二人連れてこいとか言うやつおるけど、二人はアウトやん。こう言うのは愛さえあれば当人達が喧嘩しなければ問題ないとか言って、結婚するけど養うお金とか子供の相続権とかがどうなるのか…犬神家並みに泥沼化しそうで怖い…」

 

ハーレムもので、ハーレムで良いよとヒロインが醜い喧嘩しない作品の主人公。

お前は女と子供を養う金があるのか?戸籍的には誰の父親になっているんだ?死んだ後の遺産相続権とか配当とかどうなるんだ?

愛さえあればなんとでもなるとかふざけたことは言わない光國。

 

「…はぁ、光國がチェリーなのを忘れていたわ」

 

呆れるリーナを見て え、これオレが悪いの? となるのだが光國が悪い。

市原と壬生も冷たい視線ではなく呆れた視線を向けており、もうどうでもいいとなっていた。

 

「話を戻しましょう。

その転移魔法などを壬生さんが使えるようになるには、どうすればよろしいのでしょうか?」

 

「…無理だな!」

 

「…無理、ですか」

 

「発動する道具がない!

CADとやらは魔法を如何に素早く発動出来るかを売りにしている。

高度な魔法となればなるほど、凡庸のCADでは処理も補助も出来んだろう…剣道の小娘よ十二分に使いこなすには、専用の道具が必要だ」

 

サラッととんでもない事を語りまくるキマイラと光國。

これ軍事利用以外にも役立つ魔法じゃないですか?と思えるものが多くねと感じる市原はとにかく、聞き出そうとするがいきなり無理だと言われた。

 

「つまり、専用のCADが必要と?」

 

「しかしそれの製造は九島ですら不可能なこと。

指輪に宿っている魔法の解析は出来たものの、指輪その物を再現する事は出来ないのがその証拠だ」

 

「これです…」

 

バッファ、ドルフィ、ファルコ、カメレオのウィザードリングを卓袱台の上に置くとマジマジと観察する市原

 

「これは…宝石を加工し、細かな刻印を入れている刻印型のCAD…この刻印に想子を流すだけで魔法は発動しますが…ただ流すだけでは無いですね……」

 

「そんな物欲しそうな目で見ないでください。

一個でもパクられたと知られれば、オレの人生はお先真っ暗っす…て言うか、宝石か…」

 

物凄い値がすると考えるのが普通だが、光國はそこは気にしない。

光國は過去の記憶を探る。仮面ライダーウィザードを必死になって思い出す。

仮面ライダーウィザードは指輪を使って変身するのだが、魔法を使うのにも最強形態になるのも魔法の指輪が必要で最強形態になる為の指輪は自力で作り出したが、あれは参考になりそうにない。

最強形態ではなく強化形態になる魔法の指輪を作る際に宝石みたいな石を加工して指輪にしてくれるおじさんがいる。

ジャムおじさん程とは言わないが、このおじさんが戦線離脱しなかった事は本当によかったことで途中怪人に殺されていたらウィザードは死んでいた可能性があるぐらいに重要なおじさんだが、そのおじさんが独自のルートで魔法の指輪を作るのに使う宝石を手に入れていたわけじゃない。裏でこそこそと怪しいことをしていて結局ヤバイことをしていた怪人の親玉的なのが宝石を産み出していた。

 

「…カーバンクルやったっけ?

 

ワイズマンと言う名前はあるのだが、それは名前であり種族的なのはカーバンクルと呼ばれる存在だと思い出す。

探したりググったりすれば、カーバンクルがなんなのかは分かるだろうが、そう言った存在は身近にいない。

 

「材料が無いなら、どうしようもないわね…はぁ…」

 

説明をしただけで終わって、疲れたのかため息を吐いたリーナ。

タンスから着替えとタオルを取り出して鞄に入れる。

 

「光國、お風呂行くわよ…なんか疲れた…」

 

「オレが一番精神的に疲れたわ…はぁ、なんも進まへんな…市原先輩、壬生先輩、オレら今から銭湯に行きますけど、来ますか?出しますよ、風呂代と飲み物代」

 

「あ、じゃあ甘えさせてもらうわ」

 

「ありがとうございます」

 

光國とファントムに関する話はこれで終わり、光國達は銭湯に向かう。

 

「ところで、私は物凄く魔法力が向上しているのにてづ…光國くんはどうして中途半端なの?」

 

「壬生先輩の中にいるファントムは想子とかの波長が全部一緒で、ファントムの演算処理+壬生先輩の演算処理なんかをしているから早いんです。

けれど、キマイラはオレから生まれた存在ではないのでオレ自身の想子の波長とかが全くといって異なり、オレの知る限りCADは肉体を通さないと使えません。

キマイラが魔法に必要な全ての事をしているんですが、オレの想子とかが邪魔をしていたり、CADがキマイラの波長やスペックに合わなかったりとなにかと余計な要素が多いんです。

あのベルトは、オレを介さずにキマイラに直接アクセスして魔法を使う道具でもあるんですが…再現する技術が無いどころか素材の時点で足りないらしいです…壬生先輩、別に光國と呼んでも良いですよ」

 

「じゃあ、私も紗耶香でいいわ…光國くん」

 

因みにだが、キマイラが光國の精神に宿るのも一種の精神干渉魔法だ。

光國が常に誰かの想子を食べ続けないといけないのは、その魔法を持続させる為と貯蓄である。

もしその魔法が発動しなくなれば、キマイラは光國を食い殺して肉体を乗っ取られ…キマイラは新しい宿主を探さなければならない。

干渉力とか演算処理能力とかは特に関係なく、魔法師の想子さえあればその魔法を持続させる事が可能なものであり、お兄様に知られればやばい代物だが光國達はキマイラは知らない。

 

仕様が若干変わっている仮面ライダービーストになった者は例えるならば、加熱され続ける天井知らずの鍋だ。

なにもせずとも加熱されて想子と言う水はなくなってしまう。

変身したり、魔法を使ったりすれば加熱されている鍋の火力は急激に上がり、水(想子)は大きく沸騰され消えていく。

外部からの水の補充を怠れば最後、天井知らずの鍋の底は穴が出来てしまう。

そうなればビーストとなっている者は死んでしまう。




「まだ終わってないわ!光國の鞄チェックよ!!」

ある日の手塚光國の鞄の中身

お弁当×2

「これは一個、私のお弁当よ!
光國が対抗戦に勝ってくれたから、言い寄る奴も居なくなって…ゆっくりと食べれるわ」

レトロゲーム(PSVITA)

「これは…また随分と古いものを…あ、トロフィーをコンプリートしている」

ペンと紙のメモ帳

「今時珍しい紙とペン、料理のレシピやテニス部の練習メニューとか細かく書いてあって…光國くんの家にあるものは古いのが多いけれど、古いのが好きなのかしら?」

端末型CAD

「何処にでもある極々普通のCADで、基本的な魔法しか入っておらず使われた痕跡が全くありません。手塚くんは魔法が下手だと認めて物理で攻めることをしていますね」

財布

「光國って、ああ見えてギャンブル好きなのよね。
必死にデータを集めて計算したりして知り合いに頼んで券を買ってるらしいけど、遊ぶ程度で稀に負けるレベルでやたら滅多に強くて、ここぞと言う時の大一番で勝利しているから財布は何時も分厚くて一度だけ札束ビンタをさせてもらったわ…けど、使う機会が少なくて全然薄くならないわ」

魔法の指輪とホルダー

「光國くんの持つ貴重な魔法の指輪だけど、滅多に使わないわ。
単純に使用制限がかかっているみたいで世間に知られている高度な魔法よりも難しくて複雑なものが多くて想子の使用量も桁違い…らしいけど、どれぐらいなのかしら?」

音楽プレーヤー

「各国の神話や伝承の解説が入っていたのですが…それ以上にヤンデレものが入っていました…ある意味、今回の調査で一番の驚きです…手塚くん…」

テニスラケットとテニスボール

「今の今まで私がコッソリと持ち歩いてたの。
やっぱり、光國はテニスをしている時が一番輝いているわ。
ただ…テニスボール10個は多すぎない?10球打ちを出来るようになって、やっと世界レベルらしいけど…」

ミニ将棋盤と若干削れてる駒

「持ち運び出来る簡単で格安の将棋盤ですね。
九重寺で暇な時に使っていましたが…物凄く強かったです。
本人は弱い方と言っていますが、魔法師は軍事職につく人が多いので将棋やチェスみたいなのは強い人が多いんですが…上には上が居ると言うことですね」


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