デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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大変ご無沙汰しております。
何となしに日々を過ごしていくうちに、10年も経ってしまいました。
しかしながら、更新が途絶えてしまってもいまだに感想が受けてくださる皆様のおかげで、こうしてまた執筆させていただくことにしました。
この間に色々なデジモン関連の情報が出ておりますが、それらをゆっくり履修しながら無理のない範囲で今度こそ続けていければと思っています。どうぞ、よろしくお願いいたします。


第44話 パンプとゴツは魔法使いの弟子

信人達がストライクドラモンの治療を終えてからまた数日が経った夕暮れ時、ウィッチモンは夕日に照らされた砂漠の上空を持ち前のスピードで疾走していた。

 

「今日も成果なし……まぁ、無理もないかしらねぇ」

 

 爽快なスピードを出しつつも、ウィッチモンは浮かない表情でため息交じりに呟いた。

 ストライクドラモンの治療した翌日から、信人達とウィッチモン、ミケモンは3手に分かれて各地にあるデジモンの集落を訪問し始めた。

 訪問の目的はデジタルワールドに訪れている危機を知らせる事と、ダークマスターズ侵攻の影響と太一の行方に関しての情報収集だった。

 もっとも信人は太一の行方は知っているので、信人が一番ほしいのはダークマスターズの情報のみである。

 しかし、ウィッチモンの呟きから分かるように今日まで成果はほとんどない。

 

 太一の行方はともかくダークマスターズ侵攻の情報も今のところなく、デジタルワールドの危機を伝えても、今のように影響が見られない段階では真剣に対策を講じようとする集落はなかった。一応、どの集落も注意を払うという言葉は口にしたものの、話したデジモン達の様子を見る限り、実際はどれだけ警戒をしてくれるのかは分からないのが現実だ。

 最初は危機の周知さえできればよいと考えていた信人でも、この手応えのなさは予想外だった

 

「それでも、『選ばれし子供達が何とかしてくれる』ってのはないでしょう。自分達の世界の危機なんだから、自分達で何とかしようとするのが筋でしょうに」

 

 ウィッチモンが呟いたセリフは訪問した集落のデジモンが冗談交じりに言い放った言葉だった。これを聞いたウィッチモンは呆れと同時に危機感を募らせた。

 まだ、世界の危機に対して実感がないことはいい。エテモンが倒されたことで平和な生活が戻り、世界の危機を連想させるような影響も今のところないのだから、安心してしまうのは仕方がないだろう。

 だが、平和をもたらした子供達に感謝こそすれど、冗談でもそれを当てにするような発言はどうなのだろうとウィッチモンは思う。

 今まだ冗談の類いで口にされるものだが、もしこれが本格的に信じられて広まってしまえば、ダークマスターズの侵攻に対してデジモン達は戦うのではなく、祈ることしかしなくなってしまうのではないかという懸念が拭えない。

 ウィッチモンはこれがエテモンが倒されたことによって生じてしまった悪影響だと考えていた。

 

 デジモン達の危機感が薄すぎる事と、選ばれし子供達の力があてにされてしまうかもしれないという問題については、恐らく今日の夜にでも話し合いの場が設けられるだろう。ウィッチモンはそれに備えて自分の見解をまとめつつ研究所へと帰還している途中である。

 

「……私が帰っても、全員が集まるまでは少し時間がありそうね。それまで何をしましょうか……? あれは……」

 

 砂漠を進み、もう少し飛んで行けばすぐに研究所という地点まで来たところで、ウィッチモンの視線の先に砂漠を進む2体の小さなデジモンの影が見えた。

 砂漠のような過酷な環境を棲家とするデジモンは少なく、砂漠でデジモンを見ること自体珍しいので、興味が湧いたウィッチモンはそのデジモン達を上空から観察することにした。

 

「……おい、ほんとにこっちでいいのかよ?」

 

「地図にそう書いてあるから間違いないって」

 

「でも、もう随分歩いたけど砂ばっかだ……はぁ~、こんなことだったらもっとデビドラモンに乗ってけばよかった」

 

「何だよ! 目的地に早く着きたくないから、歩いてゆっくり行こうって言ったのはそっちだろ!」

 

「でもお前だって賛成したじゃないか、今更何だよ!」

 

「そっちが蒸し返したんだろ!」

 

「何ぃ~!」

 

 ウィッチモンが近づいて見ると二体のデジモンの細かい容姿が確認でき、一方はカボチャ頭のデジモン、もう一方は石で体が構成されているデジモンだということが分かった。ただし、会話の内容までは聞き取れなかった。

 

「あれはゴツモンと……パンプモンね! ウィッチェルニーではよく見かけたけど、この辺りも住んでいるのね」

 

 そのデジモンの姿が以外にも馴染みのあるものだったため、ウィッチモンは思わず故郷のことを思い出す。

 

「ハロウィンの時期になると、徒党を組んで騒ぎ出してたわね……懐かしいわ」

 

 そのウィッチェルニーではハロウィンの時期になるとパンプモン達が集結し、街中を練り歩いて騒いだり悪戯をするという現象が起こる。街に住むデジモン達はそれをハロウィンの名物の1つと受け入れており、悪戯に対してもそこまで怒ったりせず、笑って済ませている。ウィッチモンもパンプモン達の騒々しさを楽しんだ覚えがあった。

 暫く懐かしさに浸るような表情を見せていたウィッチモンだったが、その思い出に関係する何かを事を思い出したらしく、その表情は悔しさと寂しさが混ぜ合わさった表情になっていく。

 

「……まったく、あいつはどこに居るのかしら。同じ術式を使ったから、世界が違うってことはないはずなんだけど……今度会ったら、絶対に私が勝つんだから、見てなさいよ……」

 

 気合いの入った独り言を呟いている内に、眼下で起こっている小さな争いがヒートアップの一途を辿り、今にも取っ組み合いになりそうになっている。それに気づいたウィッチモンは回想をやめて眼下のデジモン達をどうするか考える。

 

「どうしましょうか。別に放って置いてしまってもいいけど……そうだわ!」

 

 ウィッチモンが何か思いついたらしく、このいざこざに介入することを決めて高度を下げ、2体の頭上に陣取って声を掛けた。

 

「あなた達、ちょっといいかしら」

 

「うわぁ! びっくりした!」

 

「うおー、きれいなお姉さんのデジモンだな~。お姉さん、なんてデジモン?」

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。私はウィッチモンよ。よろしくね」

 

「俺、ゴツモン」

 

「俺はパンプモンだ!」

 

 ウィッチモンンがにこやかに自己紹介をすると、パンプモン達も元気よく自己紹介を返す。

 

「あなた達、こんなところで何してるの?」

 

「え? ……いやぁ、別に何もしてないよ。なぁ?」

 

「そ、そう。俺達、ただ散歩してるだけだよ」

 

「?」

 

 先ほどの元気な様子とは打って変わり、挙動不審な様子で視線を彷徨わせる。上空から観察した限りではそんなに怪しいことをしている様子はなかったので、ウィッチモンは目の前で狼狽える二体を不思議そうに見つめている。そんなウィッチモンを尻目に二体のデジモンはこそこそと小さな声で相談する。

 

「一応、極秘任務って言ってたし……」

 

「言っちゃまずいよな……おい、何とか誤魔化せよ」

 

「えぇ~……ウィ、ウィッチモンはこんなところで何しているの?」

 

「私? ここから少し行った研究所があるんだけど、そこにいて魔法の研究とか、ちょっと頼みごとを聞いているの。具体的には周りの集落をまわってるんだけど……」

 

「「研究所……!?」」

 

 「研究所」と言う言葉を聞いたパンプモン達は驚くように顔を見合わせた。その様子をウィッチモンは少し怪訝に思うが、この先に研究所があるという事や、魔法と言う単語に反応して驚いたのだろうと勝手に判断し、話しを進める。

 

「それで頼みごとにも人手がいるし、研究の方にも何かと便利そうだから助手がほしいのよ。見たところ悪いデジモンでもなさそうだし……どう? どうせ暇ならちょっと手伝ってもらえないかしら?」

 

 ウィッチモンはパンプモン達ににこやかに協力を依頼する。ウィッチモンにとってパンプモンが故郷で馴染みのあるデジモンであるためか、対応の物腰はやわらかかった。実際、こうして協力の要請をしてみたのも、馴染みのあるデジモンだからこそである。

 その申し出に対して、パンプモン達がまたしても小声で相談をする。

 

「研究所って……俺達の極秘任務の目的地だよな?」

 

「そこで手伝えるってことは、俺らにとって好都合ってわけだ」

 

「でも、ばれたらまずいことになりそう……」

 

「そんなの、遠くで見張ってても同じだって。それに、こっちの方がスパイっぽくておもしろそうじゃん」

 

「おぉ~、そうだな。じゃあそうしよう。地図、隠しとけよ」

 

「おっけー」

 

 ゴツモンから注意を受けたパンプモンが持っていた地図をマントの中にこっそり隠し、二体のデジモンはウィッチモンに向き直った。

 

「うん、いいよー」

 

「魔術とか何か面白そうだしー」

 

「あら、ありがとう。それじゃあ、私も歩いて行こうかしら。ここからならもうそんなに遠くないから、お手伝いの内容も説明するわ」

 

「「はーい!」」

 

 赤い魔女と、その愉快な手下とも言えなくもない二体のデジモンは意気揚々と研究所へと向かって行った。

 

……………

………

……

 

信人がメカノリモンに搭乗し、メカノリモンの肩にストライクドラモンを担いで研究所に帰還したのは、日が沈んで暫く経ってからだっただった。信人は溜息交じりにメカノリモンから飛び降り、ストライクドラモンもそれに続いて砂地に下りた。

 

「今日も特に有益な話は聞けなかったな……」

 

「当初予定シテイタ集落ハ、明日ノ午前中デ回リ終エテシマイマスネ。シカシ……」

 

「まぁ、あんまり期待はできそうにねぇな」

 

 ストライクドラモンが呟いた通り、信人達のグループでも情報の収集はうまくいっておらず、その事から明日の情報収集に関しても悲観的であった。

 

(まさかここまで成果がないとは思わなかったなぁ……これからどうしようか)

 

 ダークマスターズの情報は得られず、デジモン達への危機の周知もどれだけ効果が得られるか疑わしい……得られた成果と言えば、デジモン達が平和な生活が戻ったことで安堵しきっているという事実を知ったことだけだ。ようやく行動を始めた信人にとって、この結果は出鼻を挫かれてしまう形となった。

 信人が途方に暮れながら研究上の入り口を潜ろうとしたところで、後ろから腹の音が聞こえてきた。メカノリモンがそのような音をだすことがあるわけもないので、自然に信人はストライクドラモンの方を向く。ストライクドモンは信人の呆れたような目を気にすることもなく、腹をさすりながら信人を追い越して研究所に入っていってしまう。

 

「とりあえず、飯にしようぜ。明日の事は、飯食ってあいつらと話し合ってから考えた方がいいだろ」

 

「……私モ、研究所ノエネルギーデ補給ヲ行イマス。話合イヲスル時ハ、地下ノ私ヲ呼ンデクダサイ」

 

 メカノリモンは地下の整備場に直通する入り口に向かって行き、ストライクドラモンも信人に目もくれずに扉の先に消えて行ってしまう。

 

「……まったく、食い意地が張ってるのは進化前から変わらないな。まぁ、あいつの言う事はもっともだし、メカノリモンが止めずに中に入って行ったのも、それに賛成だからだろうな」

 

 信人も素直に二体の後を追い、研究所の中に入って行く。

 中に入って通路を歩き、扉を潜った先には何時もの大きなコンピューターがある部屋があったが、そこでは何やらストライクドラモンとミケモンが話している。

 ストライクドラモンは驚いたような様子で、説明するミケモンもどこか困惑した様子であった。

 

「どうしたんだ?」

 

「おかえりなさい、信人」

 

「……なぁ信人。一緒に実験室にいかねぇか?」

 

「実験室? ウィッチモンに会いに行くのか」

 

 実験室とは、以前に選ばれし子供達が研究所を探索した際に、子供達が気味悪がっていた場所のことだ。ウィッチモンの姿が見えない時は大抵そこにいる。

 

「まぁな……ちょっと確かめたいことがある」

 

「……先に見てもらった方がいいかも。私も行く」

 

「?」

 

 疑問符を浮かべる信人を置いて、二体はさっさと部屋を出て行ってしまう。信人はそれを慌てて追いかける。

 信人がミケモン達に追いつくと、ミケモン達は扉の影から実験室の中をそっと覗いているところだった。信人はそれを怪訝に思いながらも、ミケモン達を真似て扉の影から中の様子を伺った。

 実験室の中では、一般的な大きさの鍋を火にかけて何やら薬を作っているウィッチモンの姿と、その足元をうろちょろする小さな2つの影があった。

 

「……パンプモン、そこにある赤い草を取って頂戴」

 

「おっけー……何か2種類あるけど、どっち?」

 

「カラカラに干からびている方よ」

 

「ウィッチモン、さっき渡された木の実、すり潰せたよ」

 

「ありがとう。あとはこれを全部入れて……少し煮込んで完成ね。やっぱり助手がいると捗るわ。ミケモンとか信人にはこういう事って頼みづらいのよね。連れてきて正解だったわ」

 

「なぁなぁ! 手伝ったんだから、何作ってたのか教えてよ」

「そうそう! これ飲めるの? おいしいの?」

 

「飲んらたぶん燃えるわよ」

 

「「……え!?」」

 

「これは火炎薬……一定の刺激を与えれば発火する薬なの。フラスコに入れて投げれば、落ちたところが火の海よ」

 

「へ、へぇ~」

「そうなんだ……」

 

「私の戦闘手段の一つだからもっと数を揃えておきたいんだけど、手持ちの器具じゃ量産が難しいのよねぇ……ちょっと調合の加減を間違うと爆発しちゃうから、今のあなた達に任せるわけにはいかないし……」

 

「え!? それ俺達に作らせる気かよ!」

 

「あら、魔法使いの助手になるならこれくらいの事はできないと」

 

「俺達ずっと助手なの!? ちょっと手伝うだけじゃないの!?」

 

「最初はそのつもりだったんだけど、実際に手伝ってもらうとかなり捗ることが分かったの。手放すのが惜しくなったわ」

 

「「えぇー!!」」

 

 当然、ちょっと手伝うだけと聞いていたパンプモン達は不満の声を上げる。しかし、ウィッチモンはそれを抑えるための秘策があるようで、2体の不満の声に動揺することはない。そして不敵に笑いながら次の言葉を言い放つ。

 

「そんなに嫌がらなくてもいいじゃない。さっきも言ったけどあなた達は「魔法使い」の助手になることができるのよ? あなた達が真面目に私の手伝いをし続けてくれれば……魔法を教えてあげてもいい」

 

「「魔法!?」」

 

 パンプモン達の驚きの声を上げた後に、ウィッチモンは鍋にかけていた火を少し弱めてから、2体の目の前に手のひらを差し出した。2体がそれに注目した次の瞬間、右手には小さな竜巻が立ち昇り、左手には水が手の平から溢れ出ない程度に水が滲み出た。それを目の当たりしたパンプモン達は、好奇心と興奮で目と口が大きく開く。

 

「すっげー!」

「おもしろい! ねぇ、これ俺達にもできるの!?」

 

「それは、あなた達の今後の働き次第ね」

 

 そこからパンプモン達はウィッチモンに魔術を教えてくれるように頼むが、ウィッチモンはそれを軽くあしらい、言葉巧みに次の作業を指示していった。それを聞いたパンプモン達は忙しなく働き始め、ウィッチモンも次の調合を行うために器具を用意しはじめた。

 

 それを物陰から一部始終を見ていた信人達の反応は2つに分かれた。

 

「……あいつ、あんな風に話せるのかよ。俺達と最初にあったときは相当きつかったぜ」

 

「私も、初対面の時はちょっと傲慢な印象だった。自分がどうやって結界を見つけたかいきなり語りだしたし……まぁ、おもしろいデジモンとも思ったけど」

 

 ミケモンとストライクドラモンは自らが思い描いていたウィッチモンの人物像と、目の前の光景とのズレに困惑していた。

 一方、信人は別の困惑を内心に抱えており、ウィッチモンの様子など眼中になく、その原因となるパンプモン達に視線が釘付けだった。

 何故なら、信人は自身の持つ前世の記憶の中により、目の前にいるデジモン達に見覚えがあったからだ。

 

(えぇ……まさか、あいつらって渋谷好きのパンプモンとゴツモン……?)

 

 信人は偶然にも、当分先の未来を書き換えるチャンスを手にしようとしていた。

 

……………

………

……

 

 時が少し過ぎ、研究所の面々は夕食を取ることになる。ただし、パンプモン達もその輪の中に加わり、今まで食事をとっていた場所では手狭となったので、その場所は地下の整備場へと変わっている。

 

「改めて紹介するわね。今日付けで私の助手になったパンプモンとゴツモンよ」

 

「「よろしくー!」」

 

 研究所の面々の好奇の視線をものともせず、パンプモン達は元気よく挨拶をする。それに対して信人達も挨拶と軽い自己紹介を返し、会談しながら食事を取り始めた。その話題の中心は、研究所に新しく加わったパンプモン達についてだった。

 

「ウィッチモン、彼らはどこから来たの?」

 

「彼らが散歩していた時に、私が空から見つけたの。どこから来たかは……知らないわ」

 

「北にある山脈だよ。あのずっと薄暗いところ」

 

「え……?」

 

「お、おい!」

 

 ミケモンはゴツモンの答えを聞いて思わず困惑の声を上げる。

 しかし、それでもパンプモンがゴツモンを小さく小突くのを見逃さなかった。

 目つき僅かに鋭くし、ミケモンは言葉を重ねる。

 

「……随分、遠いところから来た」

 

「お、俺たち旅が好きなんだよ。野宿してた場所から近くを散歩してたんだよ」

 

「……そう。旅の目的地は?」

 

「え~っと……特にないよ。何か面白いところないかなーって探索してただけ」

 

「そしたら、ウィッチモンと出会ってさ! 魔法なんてすごくて、面白そうだったからここに来たんだ」

 

「そうそう!」

 

 自分の素性についてはぎごちない回答をしたパンプモン達だったが、ウィッチモンの魔法のことになると目を輝かせて喋りだした。それに気を良くしたのか、ウィッチモンはミケモンの尋問を遮って得意げに話し出す。

 

「うふふ……そうよ。私の魔法はすごいのよ。どれくらいすごいかって言うと……」

 

「魔法って誰でも使えるもんなのか? デジモンごとに使える技は違うだろ」

 

 ストライクドラモンに話の出鼻を挫かれたウィッチモンは一転して不満顔になるが、その点については全員興味があるらしく、視線でウィッチモンに回答を促した。

 

「……私の故郷では、どんなデジモンだって魔法が使えたわよ」

 

「そんな場所がデジタルワールドにあるのか?」

 

「あら、そこから話さないとダメなのね。私の故郷はね――」

 

 そしてウィッチモンは自分の故郷であるウィッチェルニーがどんなものであるかを信人達へ説明していく。

 

 ウィッチモンの故郷は選ばれし子供達が冒険してきたデジタルワールドに存在しない。

 そのデジタルワールドとはまた別の次元に存在する、"ウィッチェルニー"と呼ばれるデジタルワールドからウィッチモンはやってきた。

 同じデジタルワールドではあるものの、二つの世界の様相は大きく違っている。

 

 ウィッチェルニーはデジタルワールドよりも発展を遂げている地域が多く、中には都市と呼べるほど発展した場所も少なくない。

 デジモン達の都市や街は中世ヨーロッパ風の街並みとなっており、そこに住むデジモン達は魔法使いを連想させるような装飾を身に着けており、まさに魔法使い達のファンタジー世界というイメージがぴったりな世界観が展開されている。郊外に目を移すと、怪しい植物達が光を放ち、異様に成長した樹木を天蓋とした森、夜になると光り放つ澄んだ湖など、摩訶不思議な景観の環境が広がっている。

 そのような魔法世界を連想させる世界観の通り、ウィッチェルニーではデジモン達が「魔法」を扱うことができ、その恩恵で世界を発展させてきた。

 

 魔法とは言うものの、魔法を発動させるための呪文に用いられるのはプログラミング言語である。ウィッチェルニーもデジタルワールドの1つであり、プログラムによって何らかの事象を引き起こすことが出来る。ウィッチェルニーではその現象を魔法と呼び、さらにその技術を体系的にまとめ、ウィッチェルニーに生息するデジモン達の間で利用されている。ここがこれまでに冒険してきたデジタルワールドとウィッチェルニーとの大きな違いである。

 

「ウィッチェルニーではアカデミーっていうところで魔法を勉強すれば、どんなデジモンでも魔法が使えるようになるのよ。そのおかげで、ウィッチェルニーはここのデジタルワールドよりも発展できたの」

 

「……魔法には、前に言ってた魔力が必要?」

 

「そうよ。ちょっと見てて」

 

 ミケモンの質問に答えると、ウィッチモンは目を閉じて集中を始める。

 すると、ウィッチモン体を覆うように青と緑が入り混じった光が発生した。

 

「これが魔力。この力を魔法陣に流し込んだり、魔力を込めて呪文を唱えたりすると魔法が発動するわ」

 

 ウィッチモンが装着している手袋の掌の部分を信人達に見えるように差し出した。

 その表面には薄っすらと魔法陣が描かれているのが見え、さらにその中心に向かって緑色の光が流れていく。

 そして光がビー玉ほどの球体に集まった瞬間、ウィッチモンの掌に小さな竜巻が出現した。

 

「「すっげぇ!!」」

 

「おぉ……これって人間でも使えるのか?」

 

「魔力と正しい呪文さえあれば魔法は発動するはずよ。人間では試したことないけど……」

 

「んー…魔力って奴は感じたことはないな。呪文の方は何とかなると思う」

 

 信人はファイル島で船を作る際に、ソーサリモンが魔法を使って様々な機能を追加していたことを思い出していた。

 その魔法はデジタルワールド言語で記述されていたものの、プログラミング言語の知識で読み解くことができた。

 今の信人であればナノモンにインストールされた知識があるため、より高度なことができるかもしれないと信人は考えていた。

 

「ぱっと見、人間には魔力を感じないのよね。自力で魔法を発動させるのは難しいかしら」

 

「そうか、残念だ」

 

「ねぇねぇ、俺たちは?」

 

「デジモンならできるはずよ。ウィッチェルニー以外で魔法を教えたことはないけど、まぁ何とかなるでしょ」

 

「「やったー!」」

 

 万歳して喜ぶパンプモンとゴツモン達を見ながら、信人は彼らのことについて考える。

 

(もしこいつらが原作のパンプモン達と仮定するなら、ヴァンデモンの命令で研究所に近づいてきたんだろうな。とういうことは、俺が研究所にいることが知られている……もしかすると、クワガーモン達の襲撃も奴らの指金か?)

 

 一連の状況から信人はヴァンデモンの思惑を考察する。

 

(ヴァンデモンは俺が選ばれし子供じゃないことまで知っているんだろうか……こういう風に干渉してくるってことは、無視されていることはなさそうだ。いや、もしかして俺が選ばれし子供かどうかを確かめているのか?)

 

 一連の状況から信人はヴァンデモンの思惑を考察する。

 

(ヴァンデモンは俺が選ばれし子供じゃないことまで知っているんだろうか……こういう風に干渉してくるってことは、無視されていることはなさそうだけど、この期間に接触してくることは考えてなかったなぁ。関わるとしても太一先輩が帰ってきたくらいだと思ってた。でも確かそろそろ空先輩が離脱する時期か……あ、そうだ)

 

 思惑の考察から原作の再開時期について思考が及んだ時、自分の行ってきた活動について思い出した。

 

「そうえば……ウィッチモン、ミケモン、今日はどうだった?」

 

「あー……あんまりだったわ」

 

「……同じく。目新しい情報はない」

 

「そっかー……」

 

 2体から成果がないことを聞いた信人は腕を組んで頭を悩ませる。

 

「……ちょっと予定より範囲を広げようか。聞き込みの中で新たに分かった集落も含めて回ることにしよう」

 

「分かった」

 

「何の話してるのー?」

 

「あぁ、それはね――」

 

 何の話題か分からなかったパンプモンの質問に、ウィッチモンがここ数日の活動を説明する。

 その間に信人は周辺の地図を確認するため、それを記録しているメカノリモンを呼んだ。

 メカノリモンが来る間に、ウィッチモンの話を聞いているパンプモン達に視線を向ける。

 

(パンプモン達からならヴァンデモンの情報を聞けるかもしれない……ヴァンデモンへの対応をするのはそれからの方が自然だ。そのためにも、パンプモン達には怪しい行動をしても研究所にいてくれた方がいい。魔法に興味を持っている今なら、下手なことはしないだろう)

 

 パンプモン達及びヴァンデモンへの対応を一旦保留し、近づいてきたメカノリモンに顔を向ける。

 こうして、信人達は明日の予定を立てながら時間が過ぎていく……その裏で、運命の歯車が回り始めていることを知らずに……

 

……………

………

……

 

この日、空は太一を探すために他の子供達とは離れ、バードラモンに乗って砂漠を飛び越えて森があるエリアまで移動していた。

 

「砂漠は散々探したから森まで来たけど、探すのは大変そうね」

 

「うん。でも私も頑張るから、絶対に太一を見つけよう!」

 

「そうね、頑張ろうピヨモン」

 

 夜も深け、月明りのみが照らす森の中を二人は進んでいく。

 

「……! 待って、誰かいる!」

 

 ピヨモンが空を呼び止め、木々の隙間から様子を伺う。

 その視線の先には蝙蝠の姿をしたデジモン…ピコデビモンと虚空の裂け目から話している黒い影があった。

 

『選ばれし子供達の動向はどうなっている』

 

「ハッ! 今も行方不明となったアグモン達を探しております。しかし、中々チャンスがなく……」

 

『フン……確かに紋章は覚醒していないとはいえ、お前一人では荷が重いか。ならば、紋章を奪うだけでも良い』

 

「ハハァ! して、その紋章とは……?」

 

 ピコデビモンの問いかけに応じて、裂け目の向こうに紋章の形が7つ現れる。

 

『「勇気」「友情」「知識」「純真」「愛情」「誠実」「希望」……これが今の選ばれし子供たちが持つ紋章だ。紋章が光を放つ前に、これを奪うのだ』

 

(愛情……)

 

 木々の隙間から様子を伺っていた空が、自分の紋章に視線を落とした。

 そして、仲間たちが持っていた紋章の形を思いだす。

 

(太一が勇気、ヤマトが友情、光四郎君は知識、ミミちゃんは純真、丈先輩が誠実、タケル君が希望……この紋章にそんな意味があったなんて。でも、それを奪うってことは……!)

 

 空は目の前のデジモンが新たなる敵であることを察し、緊張が走る。

 より一層身を潜める空達をよそに、新たな敵たちの会話は進んでいく。

 

「承知しました! そうえば、あの研究所にいた子供はどうなさったのですか?」

 

『すでにパンプモンとゴツモンを派遣した。目的は調査だが、もし脅威であるなら……手を打たなければな』

 

(!? 信人君達のところにはすでに敵が!)

 

 すでに仲間の元に敵の魔の手が迫っているとを知り、空は息を飲んだ。

 

『では行け、ピコデビモン! もし失敗したら分かっているだろうな』

 

「ハハァ!」

 

 虚空の裂け目は消えてしまい、ピコデビモンのみが残される。

 

「よし、それじゃあ……! 誰だ!」

 

 会話を終えたピコデビモンが空達の気配に気づいた。

 ピヨモンは空を庇いながら前に出て、ピコデビモンと対峙する。

 

「あなた、何者なの?」

 

「これはこれは、とんだところを見られてしまいましたねぇ。紋章の話、聞いちゃいました?」

 

「き、聞いたわよ」

 

 ピコデビモンはピヨモンと空の持っている紋章を見ながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「あなた、空さんでしょう。クックック、愛情の紋章ねぇ」

 

「何がおかしいのよ!」

 

「おかわいそうなあなた、本当の愛情を知らずに育ってしまった。それじゃあ、愛情の紋章は光はしません」

 

「本当の……愛情……」

 

「変なこと言わないで! ≪マジカルファイヤー≫!」

 

「おっと!」

 

 ピヨモンが技を放ち、ピコデビモンを追い払う。ピコデビモンはそのまま薄ら笑いを浮かべて飛び去ってしまう。

 

「空、あんな奴のいう事を気にしないで」

 

「…………」

 

 ピヨモンの言葉を聞いても、空は手元の紋章に目を落としながら動揺した表情を浮かべる。

 脳裏に浮かべるのは、自分が女子サッカークラブに所属していたある日のことであった。

 怪我を負ってでも大事な試合に出たい空に対して、華道の家元である空の母親は厳しく叱責し、空と言い争う。

 

『どうして分かってくれないのよ!?』

 

 結局、言い争いは平行線のまま、空が涙を浮かべたまま家から飛び出した。

 自分の気持ちを分かってくれない、それは家元の娘としか自分を見ていないからだと空は思った。

 自分の娘ということよりも、家元の娘ということを重要視し、家元の立場のことしか考えていないのだと思った。

 愛情を向けられていないのだと思った。

 

「空……ねぇ、これからどうする? 信人のところにも敵がいるらしいけど……」

 

「! そうだわ、信人君が危ない!」

 

 ピヨモンの言葉に弾かれた様に空は顔を上げる。今は自分のことよりも、仲間のことが気がかりだった。

 

「すぐに研究所に向かいましょう! ピヨモン、バードラモンに進化して!」

 

「うん!」

 

 ピヨモンはバードラモンに進化し、空をその足に乗せて森を飛び立ち、砂漠へと引き返していく。

 複雑な胸中を抱えたまま……

 




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