もし、立花響にも妹がいたら? そんな平行世界のお話 作:ミカンコーヒー
だとしてもッ! この胸の内を吐き出すまでは止まれないッ!
振り返らないッ! 常にこの身は全力疾走だッ!
「ただいま~」
「おかえり。もう! おねちゃんこんな時間までなにしてたの!」
既に太陽は天辺を通り過ぎ、水平線へと沈もうとしている。茜色の空に夜の帳が下りつつある。
彼女の年齢を考えて、帰宅するには遅い時間帯だろう。
「うん、ちょっとねー」
姉と呼ばれた少女はあははー と目を逸らしながらそう口にした。
服には所々土が付いていたり、擦ったのか知らないがほつれていたりしている。
膝は転んだのだろうか痛々しい擦り傷が出来ていた。
「ちょっと、っておねちゃんボロボロじゃない! もう。また人助けなの?」
妹と思わしき少女は心配そうに姉を見ている。
「うっ! で、でもね本当に困ってみたいだし! 私としても見捨てられなかったというか、なんというか......うぅ、心配掛けてごめんね」
図星を突かれて言い訳を言っていたが妹の視線に耐えられず声は徐々に小さくなっていき、最後には謝っていた。
姉を見つめていた妹は、はぁ~、とため息をついた後、仕方がなさそうに姉を見ながら
「まあ、おねえちゃんだから仕方がないね。...でもね、それでおねえちゃんがケガしたらダメなんだから」
「わかったわかった。ごめんね、光」
全然分かってなさそうな顔で軽く流そうとする姉に、もー 本当にわかってるのー! とぷりぷり怒る妹こと光。
いくら光が怒っても姉の方は全然分かってない様子だった。このままでは埒が明かないと、光は姉の瞳を見ながら宣言するように
「なら、おねえちゃんがみんなを助けるなら、私がお姉ちゃん助けてあげる! おねえちゃんがケガするのイヤだから私が守ってあげる! お姉ちゃんだけで無理するなら、私が一緒に手伝ってあげる! だから無理したらダメ!」
「約束だよ、ひびきおねえちゃんっ」
まっすぐ瞳を見てそう言われた響は一瞬呆気に取られた顔をしたが、光に言われたことを理解すると照れくさそうに頬を掻きながら、うん約束だよ、とわしゃわしゃと光の頭を撫でる。
頭を撫でられる光はにひひー、と嬉しそうに笑うのであった。
※※※※※※
一週間の内二日しかない貴重な休日。その休日に立花家のリビングでは姉妹二人が仲良くテレビを観ながら愛すべき休日を謳歌していた。つまるところ、グータラしていた。
「ねぇねぇ! お姉ちゃん、ツヴァイウィングのライブに一緒に行こうよ!」
いきなり何を言い出すかこの妹は、と妹の方に振り返る響。
「この妹はいきなりそんなことを言って、第一私ツヴァイウィングの曲知らないし~」
「一回聴いてみなって。かっこいいし絶対ハマるよ! 未来ちゃんも好きって言ってたし、誘って一緒にいこうよ!」
「未来も一緒か~」
一度ライブに行ってしまえばお姉ちゃんはツヴァイウィングの曲に魅了されるだろう。つまりお姉ちゃんは堕ちる(確信)
うぬぬっ、と唸っている響を尻目に準備を始める光。唸っているものの、もう来ることは確定しているようなものだ。
お姉ちゃんは未来ちゃんと言えば大抵のことは何とかなると内心ほくそ笑む。逆もまた然りである。
まあ、チケットが取れたらの話なんだけどね、大人気だしと心の中で付け加える。取れなかったらその時はその時だ。
早速電話の元に行き、未来ちゃんに連絡する。
小日向家の電話番号を打ち込み、コール音聞きながら今か今かと待つ。
『はい、もしもし小日向ですけど』
「あ、もしもし立花ですけど、未来ちゃんは居ますか?」
『あら、その声は光ちゃん。未来ね、少し待ってね』
未来ー、光ちゃんからよー、とおばちゃんが未来ちゃんを呼んだ後、ドタバタと階段を駆け下りる足音が聞こえてきた。
『もしもし、光ちゃん。どうしたの?』
「あのね次のツヴァイウィングのコンサートに行く予定なんだけどね、一緒にどうかなーって。因みにお姉ちゃんも一緒だよ」
『響も一緒なの! 行く行く! ご一緒させて下さい!』
ふっ、チョロいぜ
これぞまさに二つ返事。未来ちゃんもお姉ちゃんの名前を出せば大抵上手くいく。
「まあ、今からチケットを取るからまだ行けるかは分からないけど。もし取れなくても三人で遊びに行こうよ。とにかく準備は任せて!」
『うん、分かった。全部任せちゃってごめんね。それじゃあ―――』
計 画 通 り
後はチケットが取れるのを祈るだけ。
後日
チケット取れました。あさっりと三人分。
一番危惧していた問題が達成されてしまった。
この運の良さに我ながら恐ろしいと一人戦慄する光。
まるで世界が私たちにライブに行けと言っているようなものじゃありませんか。
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ライブ当日
「未来ちゃん遅いね」
「うん、早く来ないかな、未来」
私達姉妹は会場に到着したが、どうも未来ちゃんの姿が見当たらない。
二人で探しているが会場も広く、人数も多いせいもあって中々見つからない。
そんな時お姉ちゃんの携帯電話に着信があった。
「お姉ちゃん電話鳴ってるよ」
「うん。あ、未来からだ! もう、連絡が遅いよ~ 何処で何してるんだろう」
プンプンといった様子で電話に出るお姉ちゃん。
しかし―――
「ええっ!! 急用で来れなくなったーぁ!?」
いきなりお姉ちゃんからそんな叫び声が聞こえた。
事情を聞いているのだろうお姉ちゃんの表情がどんどん曇っていっている。
「...うん、分かった。それじゃあ」
「未来ちゃん来れないの?」
「うん、そうみたい。家族の絡みの急用だってさ」
「そっか...」
残念だけど家族絡みの急用なら仕方がない。誰かがケガした、急に倒れたとか。何かあったら大変だからね。
ワタシノロワレテルカモーとかお姉ちゃんが何か言っているが右から左に聞き流す。
来られない未来ちゃんの分も今日は楽しんで行きますか。
列に並んで会場内に入る。
指定された席に座って待機。これと言ったトラブルも無く、ライブも間も無く開演だ。
ライブが始まる直前になるとそわそわしちゃう私。
そして忘れないうちにサイリウムをパキパキ折っておく。
これ好き。
待ちに待ったライブが今始まるッ......!
「わぁ...! すごいね、お姉ちゃんっ...!」
「うん...! これがライブなんだッ! ドキドキして目が離せないっ...!」
お姉ちゃん陥落。ふっ、夢中でサイリウムを降っちゃって。かわいい姉め。
この様子だと間違いなくツヴァイウィングの虜になっているだろう。
クックック、これでまた1人。
マダマダイクゾー!!
ワアァァァァアアアアア!!
私も最後まで楽しもう。イェーイ!
※※※※※※
誰もが何事もなく、このままライブが終わると思っていただろう。ある意味それは普通のことで、逆に何かあってはいけないのだ。
だが、もし何かがあったのだとしたら。
例えば、ライブ会場の地下で何か特殊な実験をしていたとか。
普通ではない特別なことがあったとすれば。
それは必然の出来事だったのかもしれない。
公演中、湧き上がる歓声も冷めない中、突如会場で爆発が起こった。爆発だけならまだ良かったのかもしれない。
あろうことか、そこからノイズが大量発生。
突然の出来事に会場は水を打ったように静まり返る。
だがそれも一瞬の事。誰かがノイズだァー! と叫ぶと、止まっていた時が動きだすように人々は悲鳴を上げ、我先にと出口に向かって一斉に逃げ出した。限られた出口を巡っての暴動とノイズの襲撃でライブ会場は阿鼻叫喚の渦に叩き込まれた。
逃げ遅れた人は突撃してきたノイズに次々と接触して炭素と変わる。
悲鳴を上げながら炭に変わっていく人、何が起こっているのか理解出来ず自分の体が炭に変わるのを眺める人、涙を流しながら家族に最後の別れを告げる人、皆一様にノイズによって炭素転換されていく。
そしてノイズ自身も炭素の塊となって崩れ落ちる。
辺りに転がるそれは元が人間だったのか、それともノイズだったのかさえ分からない。
なんとか出口まで無事にたどり着けど、そこもまた地獄。
出口付近は暴動が起きて人間同士で殺しあっていた。
階段では誰かが一度転倒してしまえば後はドミノ倒しの如く倒れていき、多くの人が転倒するだろう。もし下敷きになるようなことがあれば、圧死は免れない。
しかし、後ろからはこちらの事情などお構いなしにノイズが迫ってくるので人々は構うことなく転倒している人間でさえ踏み越え進んでいく。下敷きになった人の中にはまだ息がある人もいて自分達を踏み越えて行こうとしている人に助けを求め手を伸ばす。が、それがまた転倒を引き起こし、また同じことが繰り返される。
前門の虎、後門の狼ならぬ前門の人間に後門のノイズ。
進むも地獄で、戻るも地獄。
道は足の踏み場が無いほどに遺体で埋め尽くされている。もはや人間で道ができているのでは無いかと錯覚さえしてしまう。
あまりにもおぞましい光景だがパニックに陥った人間はそれに気が付かない。いや、本当は分かっているが他に道はない。たとえ自分の足元が死屍累々であろうとも死にたくないから、同じ人間でも踏み越え、助けを求めていても見捨て、道を塞ぐのなら殺してでも進む。
死にたくない。そんな誰もが抱いて当然の感情。
本能に刻み込まれている死への恐怖。
本能に従い行動する。それは正しい。正しいのだが。
それは余りにも惨かった。
※※※※※※
走る、走る、走る。
この地獄から逃げる為に、生き残る為に。
その一心で出口に繋がる通路口を目指す響達。
そんな通路口は、もう目の前。息をするのも忘れ、ひたすら走り、とうとう目的の所まで辿り着く。
「...ッ!! そんな......ッ!」
「どうしようお姉ちゃん......」
命からがら通路口まで辿り着いたは良いもの、そこで待っていたのは無残に破壊され瓦礫に埋もれた通路口だった。
その光景を目の当たりにした響達の表情は絶望に染まる。
「もう......おしまいだよ......」
光はその光景に心折られ、その場に力なく座り込み泣き出した。
響も口を引き結び、下を向いてしまう。しかし直ぐに顔を上げると、座り込んでいる光の手を取り、無理矢理立たせる。
「諦めないで光! きっとまだ無事な所があるッ!」
行くよッ! と、響は光を連れてまた走り出す。
※※※※※※
辺りは煤が舞い、元がノイズなのか人間なのか分からないような炭の塊があちこちに転がっている。
出口は瓦礫で埋もれてしまっていて、通ることが出来ない。逃げ遅れた2人は他の出口を探している途中、ノイズ達に見つかってしまう。
もう出口どころでは無く、とにかくノイズ達から逃げるように走っていた。
だが、そんな懸命な逃走劇も終わってしまう。
気がつけば目の前には瓦礫の山が広がっている。とてもじゃないが少女2人が乗り越えられるようなものではない。
つまり、それは行き止まりを意味していた。
急いで別の所にと、振り返れば視界に広がるは大量のノイズ達。
背後には瓦礫の山。前にはノイズ達が直ぐ近くに迫っている。
この状況はどうしようも無く、詰みだった。
「はぁああああーー!!」
絶体絶命の中、彼女たちとノイズ達の間に誰かが割り込んできてノイズ達を殲滅していった。
「なんとか間に合ったッ! 大丈夫か!」
割り込んできた人はオレンジ色のベースとしたボディースーツを纏い各部に装甲のような物を装着し、手には大きな槍を持ち。
燃え上がるような朱い髪がとても特徴的な―――
「奏さんっ!? なんでノイズと!?」
割り込んできたのはツヴァイウィングの片割れの天羽奏だった。
「説明は後だッ! それよりも早く―――」
「奏さんッ! 後ろッ!」
「危ないッ!」
その時、響と光の方に向いていた奏の背後からノイズ達が飛びかかって来た。
響と光の叫びに素早く反応してノイズ達の攻撃を防ぐ奏。
「くぅぅ......ッ!」
咄嗟に槍を盾にしてノイズ達の攻撃を防ぐ。が、槍からはピキピキと嫌な音が鳴り、罅が目に見えて増えていく。だがノイズ達の猛攻の前にはどうすることも出来ず、防戦一方となる奏。
そして事は起こってしまう。
「なッ......! ギアが!?」
奏の持っている槍、および装甲の一部がノイズの攻撃に耐えられず破損した。
破片はは弾丸の様に飛んでいき、周囲に突き刺さっていく。
それは奏の背後にいる響と光も例外では無く―――
※※※※※※
奏の纏っている物がはじけた直後、光はドンッ、と今まで感じたことの無い衝撃を腹部に受けた。
「えっ......? こふッ......!」
突然のことで理解が追い付いておらず茫然としてしている光。だが喉の奥から込み上げてきたものを吐き出すと嫌でも理解できた。
衝撃があった腹部がとても熱く、そっと手を当ててみると、血がべっとり付いている。
目をやれば赤い染みがどんどん広がっていく。次第に力が抜けていきその場に倒れこんでしまう。
姉は大丈夫なのか、倒れたまま顔を上げ、隣に居るはずの姉の方を見るが居ない。
急いで探すと本来いた位置よりも後ろ。瓦礫の近くに倒れている。
何故そこに、と思いかけたところで思考が止まる。響の胸のあたりを中心に血だまりができている。それは今もなお広がり続けており決して無事ではないということが分かってしまう。
意識もなく、ここからでは生きているのか死んでいるのかすら分からない。
光は今すぐにでも駆け寄りたいが碌に立ち上がる事も出来ず這いずって響の下に向かう。
腹部の痛みが酷く意識がはっきりしないがそれでも向かう。今行かないと姉がもう手の届かない遠くに行ってしまう、そんな気がしたから。
光が進むたびに地面に血で這いずった跡が残り、一目で光の出血も酷いということが分かる。
「お...ねえちゃ...ん.....目を...あけてぇ.......!」
なんとかたどり着き、か細いが息はまだしている事は確認できた。しかし一向に意識を取り戻す気配は無く、 血だまりはこの間にもどんどん広がり続けている。
早く病院に行かないと命に関わると今の光でも分かった。
それは今の光にも言える事だが響の怪我を見るとそんなことはどうでもいいと思えてくる。
ノイズの相手をしていた奏が近づいて来て響を抱き起し、必死に死ぬなと呼び掛けている。
そして今も呼びかけ続けている光の怪我を見ると
「おいお前だって酷い怪我じゃないかッ! 無理するなッ!」
「わたしよりも......おねえ...ちゃんがぁ......」
「......ッ!」
「目を.....あけてぇ.....死なない.....でぇ.....」
「おい死ぬな! 目を開けてくれ! 生きるのを諦めるなッ!」
痛みと出血で霞む視界、ぐらつく意識の中、光も必死に呼びかける。
すると奏と光の思いが届いたのか、響が目を開ける。
響が意識を取り戻したことで奏と光は安堵する。
※※※※※※
響の意識が戻ったところでこのままノイズとの戦闘が続けば、この二人の命は直に燃え尽きるだろう。
奏は、自分のことを差し置いて姉の安否を気にする妹、光を見ていると自身の妹の事を思い出す。
奏はしばらく俯いていたが、何かを決心した面持ちで顔を上げ、抱きかかえていた響を優しく置くと近くに置いてあった槍を持ち、立ち上がる。
その表情は何かを決心した割には不思議と穏やかで。だが、ただ穏やかなのではなく何かを悟ったような。
そう死を覚悟した。否、死を決意した顔でノイズ達に向き直る。
(あの時は逃げる事しかできなかった。そしてノイズに復讐できるのなら地獄に落ちてもいいとさえ思えた)
奏は思い出す、嘗ての己を。
(でも、こんな自分の歌でも誰かを勇気づけ、救うことが出来ると分かったんだ)
ならば、復讐なんかではなく誰かを守る為に歌おうと。
沢山の人と接し、その中で大切な物を見つけた、今を想う。
(あの子たちを見ていると、どうしようもなく思い出してしまう)
妹との楽しかった日々。そして無情にもノイズに炭化させられる瞬間を。
(もうあんな思いは懲り懲りだ。自分自身も名前も顔も知らない誰かにもあんな思いは、もうしたくもないし、させたくもない)
だからこそ彼女たちを死なせるわけにはいかない。
(Linkerの効果はもう切れた。ギアの構築もそう長く維持できないだろうな)
ノイズが残っている限り、遅いか早いかの違いで結果は変わらないだろう。
ならば―――
「まだこんなに観客が残ってるんだ。
―――最後の歌を歌うには丁度良い」
歌うのは次で最後。
それは命を燃やす最後の歌。
頬に涙が伝う。
決して心残りが無いわけでは無い。
でも、助けた人達が残っているのなら、その歌もその人達の記憶や心に残ると信じている。
「あたしの歌はあたしの生きた証...... たとえ燃え尽きたとしても覚えている人がいるなら」
今まさに燃え尽きようとしているあの子達の未来を照らすことが出来るのならば―――
――――――怖くない
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」
「生きていてくれて、ありがとう」
響 13歳
光 11歳