『起動』   作:浜能来


原作:ロボ子さん
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改めて、ロボ子さんお誕生日おめでとう!
ロボレターにて送らせていただいた小説、その原文になります。

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第1話

 ――ノイズだ。

 真っ暗だった光学センサに走るノイズ。外部からの刺激は久しぶりで、ボクはずぅっとスリープ状態にしていた疑似電脳を起動させる。充電用のカプセルベッドに寝転がったまま埋もれ続けて、どれだけ経ったのか。経年劣化したメモリは、はっきりとした答えを出さない。

 

 確実なのは、この世界にはもう、ボクしかいないってことだけ。

 

 高性能だったはずのボクが、ゆっくりとした再起動を終えた。カプセルの中は真っ暗で、開閉するガラス部分の本当に小さな一点から、一筋だけ光が差し込んでいる。乾燥地帯、砂漠と呼ばれる地域に似た黄色っぽい砂が、ボクのカプセルを覆っているのだと、そう気付くのに時間はかからなかった。

 何があったのかはわからないけれど、また埋もれてしまう前にここから出よう。人間の数倍鋭敏な聴覚が、砂がさらさらと流れ込んでくる音を、振動を捉えていた。だが、関節部が悲鳴を上げる。体の中で、マイクロマシンがどくんと流れ、修復を始めた。

 

「……ごほっ」

 

 声帯を模した発声器官も損傷しているらしい。本当に、どれだけ僕は眠っていたのか。あちこちにガタが来ていて、喉の修復は後回しにするしかないだろう。

 

「どうせ、お話する友達もいないしね……」

 

 呟いた。ほとんど音のしない静音アクチュエーターの囁きだけが返事をくれる。最低限の修復を終えて、僕は力任せにカプセルベッドを押し開いた。

 

「うんしょ……っと」

 

 あぁ、本当に。

 押しのけられた大量の砂が講義するように巻き上がって、喉がイガイガと。つられて、咳が一つ、二つ、三つ。ベッドに入り込もうとする砂を三本指の足で蹴りだしながら、砂地を這い上がる。焼けるような砂の熱さは、自動で減衰処理をされ遠く感じた。

 やっと這い出て、納得してしまう。

 

「そりゃあ劣化もしちゃうかぁ」

 

 そこにあったのは、廃墟。

 鉄塔が規則的に立ち並び、鋼の天蓋を支えている。整備のためだけに取り付けられた、登れるだけの階段も錆びつき、天蓋には所々穴が開いて、ぎらぎらとした太陽にたまらず手をかざした。そこから流れ落ちてくる大量の砂が、あちらこちらに山を作って。

 

 もう本当に、ボク以外はいないのだと。

 

「どうしよっかなー」

 

 とりあえず、歩く。砂の浸食を免れた鉄板の地面と、僕のヒールのパーツがぶつかって。こつこつ、こつこつ。面白く音が響く。ふと、顔にかかる前髪をつまみ上げてみると、栗色の合成頭髪の先からは色素が抜け始めていた。グラデーションがかかったように毛先にかけて栗毛から赤毛へ。

 

「えへへ、変なのー」

 

 そうは言っても、やはり誰の返事もなくて。

 どうしようか。そればかし考えるけど、ボクにできることなんてたかが知れている。そして、ボクには何もできることがないとはわかっている。したいことも特になかった。

 

 ただ、話し相手がいてくれたら。

 

 それこそ、一番どうしようもない。

 

「ほんと、どうしようか」

 

 そうぼやいた時だった。

 ボクの前を何かが通り過ぎる。データベースにヒットなし。ふわふわと漂う、柔らかな。光としか形容しようのない、ひどくぼんやりしたものが。触ってみようにも触れず、ソレはボクなど知ったことじゃないと気ままに漂い続けていて。

 

「待って!」

 

 理由はない。だけど追いかけた。

 

 コッ、コッ、コッ。

 

 僕の足音は急く。きっと、人間の心臓っていうパーツもこんな感じ。

 光りはどんどん増えていく。まるで僕を迎えてくれるよう。それがたまらなく嬉しくて。

 

 コッコッコッ!

 

 いつの間にか僕は駆け足になっている。だから、楽しい追いかけっこはすぐに終わってしまう。

 

「うわぁ、すごい」

 

 追いかけ続けてたどり着いたのは、ボクと同じくらいの砂の山。その中から染み出るように、光りがあふれ出てきている。最初に見つけた光りが、山の上をくるくると回った。

 

「ここに、何かあるの?」

 

 聞くと、肯定するように縦に揺れるから。実際にそこを掘ってみる。掘って、掘って、掘って。出てきたのは、とても旧式の、板状の携帯端末。砂を払ってやっていると、振動を感知したのか液晶に画面が表示される。いくつものアイコンがあって、それぞれに一つのアプリケーションが割り当てられているらしく。

 

「なんだろう、これ……」

 

 色とりどりの中から、青地に白く鳥形が染め抜かれたものを起動させてみる。

 

 途端、画面から光があふれた。

 

 ひっきりなしに文字が、言葉が、会話が流れる。見たこともない誰かが、画面の向こうでたしかにコミュニケーションしている。

 

「ボクだけじゃ、なかった」

 

 この人たちは人間なのかロボットなのかもよくわからないし、もしかしたらもっと違うものかもしれないし。遠くにいるのも確かだし、もしかしたら、本当にもしかしたら違う世界かもしれないし。

 でも、きっとこの光は、みんなの記憶だ。みんなの楽しい記憶だから、こんなにふわふわとしてきれいなんだって。

 

「ふふっ、ふふふっ」

 

 後ろでは、また空を覆う鉄板のうちの一つが剥がれて落ちて、耳障りな音を立てるけど。ボクには全然気にならない。

 

 どうしようか。その答えが見つかったから。

 

 ボクも、この人たちの友達になれたらなって。


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