暁美ほむらになろうとした暁美さんが大好きなだけの役立たずなクソザコオリ主が魔女になるだけの話


1 / 1
「友のある者は敗残者ではない 翼をありがとう」
映画『素晴らしき哉、人生!』より


暁美ほむらになりたいと願った少女が魔女になるまでの数日間

「やるよ」

 

 

 いつも優柔不断な私なのに、これはすぐに決断できた。

 自分でも驚くほどだった。

 

「願い事を叶えてくれるんでしょ? 大丈夫大丈夫、絶対叶えたい願いだしさ」

 

 公園の脇で手すりに腰掛けていると、アルミ製の棒が背中に当たって少し痛かった。

 しかし、その痛みも今は楽しく愉快な物にしか感じない。人生で一度有るか無いかという機会に恵まれて、浮かれているのは自覚できる。

 

「魔法少女になってくれるんだね。良かったよ、断られたら残念だからね」

 

 猫みたいな形の動物が、私に向かって嬉しそうに話していた。男の子と女の子の間という風な声で、どっちかと言えば女の子に近い。

 頭を軽く撫でてみても、アレルギーで身体がぞっとする気配はなかった。撫で回しても嫌がらず、お腹の辺りを触るとくすぐったそうに身体をよじった。

 この、キュゥべえと名乗った不思議な生き物は、微妙に造形が不気味だ。紅い目が多少無機質なのが気持ち悪い。でも仕草があざとく可愛らしいから許してしまう。不細工でもかわいい物はかわいいのだ。

 

「ひょっとして、即決する人って少ない方なの?」

「いいや、大抵の子は二つ返事で答えてくれるよ」

「そっか。なら良かった」

 

 もう少し慎重に決めた方が良かった、かもしれない。決めた後だというのに、微かな後悔が頭の中でぐるぐると回る。

 しかし、もう決めた物は決めたのだ。

 

「変わりたいの。なんにもできない奴でいるのはうんざり。顔だってもっと美人がいいし、魔法の力も欲しい。……あ、一応聞いておくけど、顔を変えたら家族に別人扱いされるって事は無い?」

「願いの内容次第かな」

「おっけー、じゃあ、最初から違う感じだった、って事にすれば間違いないね」

 

 危ない所だったと、冷や汗を隠す。

 うっかり今から別人に変わって、誰にも私だと気づいて貰えなくなる所だった。

 ほっと息を吐きつつ、自分の頭の回転に感謝する。短絡的でバカだと思っていたけど、今だけは冴えている。

 興奮が僅かに引いたが、まだまだ熱は下がらない。しっかり願い事を伝えて、一言一句間違えない様に叶えて貰わなければならない。願い事の言葉を決めるだけで、丸一日かかりそうだ。

 

「じゃあ、願い事を言って欲しいな。それだけで契約は成立、すぐに叶えてあげられるよ」

 

 急かすなよ、と、少し腹立たしく思う。だけど、私の人生を変えてくれるものに、文句をつけるのは正しくない。

 しかし、すぐに答えてあげたくても、人生の一大事だ。しっかり決めたくて、周囲を見回した。まばらだけど、私と同じ歳くらいの学生が下校している。

 

「どうしたんだい?」

 キュゥべえの顔をじっくり眺めてから答えた。

「……いやほら、だってさ、例えば今の自分から変わりたいって願ったら、何となく私が望んでいる様に叶うよね」

「そうだね。正確な願いであればあるほど、君が思い描く通りの結果になると思う」

 

 考えていた通りの答えだった。

 

「だったら、どういう外見の、どんな性格の人になりたいかをちゃんと願わないと、思ってたのと違ったら、困るかもしれない。違う?」

「可能性は十分にあるよ。願い事は一回きりだ、後からやり直しは出来ないからね」

「ね? だから、どういう風になるかをしっかり決めないと駄目じゃん」

 

 早く決めたいという気持ちを抑えて、冷静ぶってみた。

 気分転換に隣町まで来て、こんなチャンスが巡ってくるとは思わなかった。一生分の運を使い果たしたと言っても良いかもしれない。出来れば、限りなく理想の姿に近いものになりたいものだ。

 

「少し待ってね、キュゥべえ。自分がどんな姿形になるか、ちゃんと考えるから」

「うん。決まったら教えてね、待ってるよ」

 

 彼は快く待ってくれた。

 あまり待たせても良くないだろうと、頭の中でこねくり回して、なりたい自分を探し出す。 しかし、改めて言葉にしようと考えると、難しいものではっきりとした答えは出てこない。ああなりたい、こうなりたいと思ったところで、確かな形を定めるのは困難を極める。

 

「んー……ごめんね、なんか、これっていうのが無くて」

「参考になる人はいないのかい?」

「いないねえ……」

 

 目標としている人も、理想としている人も、生まれてから今まで一人だって居なかった。

 だから、本当に何も思い浮かばない。

 私は本当にどうしようもなくて、困った人間だ。願い一つ思い浮かべられないとは失望すらもったいない。そして、そんな風に自分を卑下するのも私の癖で趣味なのだ。

 

 困った困ったと口では言いながら、しっかりとした案を出す事も無い。

 そうして、何をするでもなくキュゥべえを待たせているのは少し申し訳なく思う。

 ふと、顔を上げると、私のすぐ傍を人が通った。隣町の学生が下校しているけど、もちろん知り合いは一人だっていない。

 

「あ、凄い美人」

 

 通り過ぎていった中で、どこか浮いていたその人。その顔に、なぜか目を引かれた。

 思わず声に出てしまうくらいの美人だ。

 長い黒の髪もそうだけど、怜悧で、それでいて柔らかさを帯びた顔つきがとても印象的だ。ただでさえ細く綺麗な体つきをしっかりと背筋を伸ばした歩き方が強調していて、見惚れてしまった。

 その姿が見えなくなるまで、じっと目で追う。やがて彼女は誰と共に歩むでもなく、一人で道の先へ消えていった。

 時間にして数十秒程度の出来事。一瞬とも呼べる出会いに、惹かれている自分が居た。

 

 着ているのは隣町の、見滝原中学の制服だった。

 現実離れした子だった。静かで、どこか気品があって、私みたいな俗で価値のない人間とは違う。同じ世界で空気をしているとは思えないくらいに差がある。

 きっと、沢山の人に尊敬されて愛されているんだろう。

 あんな風に綺麗で格好いい人になれたらいいなあ、と。名前も知らないその人に、輝かんばかりの憧れを感じてしまった。

 

「そうだ! あの人にしよう」

「……彼女にかい?」

 キュゥべえの返事には少し間があった。

「あれ? ひょっとして有名な人? モデルとか? ひょっとして女優? ごめん、私そういうの詳しくないの」

「違うよ。ボクが知っているだけだね」

「そうなんだ。あんなに美人なんだし、絶対人気出そうだけど」

 

 確信があった。あれくらいの人を選べば、きっと私は後悔しないだろう。いや、後悔したとしても、そこまで辛くないに違いない。

 うっとりしてしまいそうだった。自分があんな風になれると想像するだけで、舞い上がったまま戻れそうにない事なのに、それを実現できる手段が目の前に転がっているのだから。

 

「ねえ、願いを言っていい?」

「大丈夫だよ、さあ、君は何を願う?」

 

 キュゥべえは改めてこちらを向き、両目でこちらを見つめている。

 もう迷う理由は無い。これでいいのか、という頭の隅の葛藤は一度忘れて、私は、今望む全てを口にした。

 

「キュゥべえ、私」一息吸って、静かに吐く。「自分が昔から、あんな綺麗な人だった事にしたい」

 

 

 風が身体を通り過ぎ、何か衝撃にも似た感覚が走った。

 胸の奥から何かが現れる。キュゥべえは私の中から何かを生み出し、その両耳で掴んでみせた。

 痛みとも痺れとも、両方とも言えるものが消えていく。

 思わず深い息を吐いた。そして顔に手を触れる。心なしか、手触りが前よりずっと良く、髪に触れてみれば艶やかに流れてくれる。痛んだ髪に慣れ過ぎていて、こんなに触り心地が良くなるものとは知らなかった。

 

「……これでいいの?」

「未夕すい、君の願いは確かに遂げられた」

 

 叶えられたと言われても、顔が確認できなければ意味が無かった。手早くどこかで見たかったのだが、あいにくと手元には鏡などはない。逸る気持ちを何とか堪えて、我慢して、キュゥべえへ声をかける。

 

「私、どんな顔になってるの?」

「分からないよ」

「えっ? どうして?」

「君が願った通り、昔から君はそういう顔だという風に記憶を変えられているからね。僕にも、前の君の顔が分からないんだ」

「あー……なるほど、ね」

 

 他の方法で自分の顔を確認しなければならない。他の人に聞いても答えが聞けないのならば、私自身が見るしかないのだ。

 そういえば、と、携帯端末のカメラの存在を思い出す。ポケットから取り出した端末を自分の顔へ向けた。人生初の操作に、どのボタンを押せば良いのかが分からず手間取ってしまい、焦って空の雲を撮ってしまった。

 迷って操作を間違えた後で、自分の顔が画面上に写った。その瞬間、手から力が抜けて端末が鞄の上に落ちた。

 

 喜びが頭の中を一気に駆けめぐって、弾けて飛んで頭の中が光って、めまいがした。

 

「やった……!」

 

 思わず声を漏らして両手を強く強く握った。

 画面上の私はほとんど別人に変わっている。さっき見た女性とよく似た、だけど元の原型をほんの僅かに残す顔つきだ。髪だって流れる様に伸びている。

 もう少しカメラを下に向けると、体型も相応に変わっているのが見て取れた。ただ痩せていただけの身体が整えられて、全体的にほっそりとした印象を持っている。

 

「おおぉっ……!」

 

 こんなに変わっているのに、不思議と違和感はない。元の顔を覚えているけれど、今の顔も私の顔だとしっかり認識できる。

 これが私の願い通りかと聞かれたら、間違いなくその通りだと答えるだろう。ついさっき見た人に感じた憧れが、そのまま形になったかの様だ。

 

 心の方も、さっきとは違う気がする。両手で端末を抱きかかえ、胸の音を聞きながら思った。

 使命感に似た、感情のうねりが頭の中で渦を巻きながら熱を帯びている。心の虚しさは想いの濁流の前にすっかり洗い流され、気分は爽快そのものだ。

 

 気づけば、緑色の宝石が手の中にあった。

 私の中から出てきたにしては綺麗な黄緑色となっていて、手触りも輝きも高級感を漂わせ、手の中で転がしているだけで気持ちが良い。

 

「これ、ソウルジェム?」

「そうだね。君の願いが生んだんだ。魔法を使う時もそれが必要になるから、肌身離さず、いつも持っていてね」

「うんっ。ありがとう、キュゥべえ! 私、生まれ変わった気分!」

「喜んでくれて良かったよ」

 

 願いの結晶であるソウルジェムは、持っているだけで使い方が何となく伝わってくる。

 指輪の形に変えて、左手の薬指にはめた。こういったアクセサリーは似合わないと思っていたけれど、着けてみると思いのほか良い物だ。

 私が指輪と、綺麗になった爪や指を眺めていると、キュゥべえが地面に降りて背を向けた。

 

「それじゃあ、僕は次の子の所へ行くよ。魔女との戦いになったらすぐに向かうから呼んでね」

「うん、よろしく……本当にありがとう」

 

 キュゥべえはそのまま、どこかへと消えていった。

 

「ふ、いやぁ、ふふふ、最高、最高。さいっこう……」

 

 人目が無くなって、独り言も勝手に出てくる。

 カメラ越しに自分の髪型を見てみると、後頭部で左右に癖がついて別れていた。ただ長いだけの髪よりも、どこか特別な雰囲気がある。きっと、昔はツインテールか何かで左右に分けていたのだろう。

 

「うん、様になってる」自分で言ってから首を振った。「いや、違うね、違う。これは前の私だ」

 

 せっかく変わったのだから、話し方も相応にしてみたくなる。

 

「そうね、これでいいかしら」

 

 笑顔を浮かべてみると、改めて良い顔だと実感した。

 自惚れがひどいと思わなくも無い。しかし、それの何が悪いのだろうか。

 だって、これは私の理想の姿なのだから。

 

 

 

 

 

 

 元になった理想の人の名前を、私はまだ、知らなかった。

 そして、この胸の奥から溢れて零れる想いが何であるのかも、まだ、理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

+

 

 

 

 

 

 目を開けると、ぼんやりと意識が浮上した。

 朝は苦手だった。めまいがするし、頭が重くて身体が鈍い。

 でも今日は少し違う。昨日までよりは僅かばかりめまいは少なく、ベッドから出ても立ちくらみは起きない。何より、とても大切な夢を見ていた気がして、身体の調子は二の次だった。

 

「夢……」

 

 必死に、その夢を思い出そうとする。

 

「なんだっけ。どんな夢をみてたっけ……あー」

 

 思い出せない。ただ、漠然とだけど頭には残っている。病院のベッドに、見知らぬ教室。赤い眼鏡。紅い髪、黄色の髪、青色の髪。崩壊した町並み。雨。握った拳銃。何か巨大で恐ろしい黒いもの。

 そして、そして、桃色の、大切な、世界で唯一の愛しいもの。

 

「ダメだ。出てこないや」

 

 とてつもない夢を見た記憶がほんのり残っている時は、どんなに思い出したいと思っても記憶は掠りもしない。

 早々と諦め、欠伸をひとつ。まだ眠り足りないけれど、二度寝するには時間が足りない。残り一分と迫っていた時計のアラーム機能を切っておき、多少の不本意さ胸に伸びをする。

 昨日までは、起きる度にまともに歩けないくらい立ちくらみがした物だけれど、今日は平気だった。魔力のお陰か願いのお陰か、朝がさほど辛くないのは素直に嬉しかった。

 

「さーて、本日の寝癖はー」

「おや、あんまりない。ふふ、ちゃんと乾かして良かったぁ」

「一応は魔法で何とか出来るんだっけ。今度やってみよっと」

 

 勝手に出てくる独り言と会話をしながら、少し髪を整える。

 昨日までホコリで汚れていた鏡も、今は綺麗に顔を写してくれた。そのせいか、今までの私では気にしていなかった様な、些細な髪型の乱れもしっかり直そうという気になれる。

 髪質がずっと良くて、さらさらで、手を通してみるだけでふわりと揺れるのだ。ただ、少しお手入れをするだけで夢中になってしまいそうだ。

 自分の髪なんて適当で良いと思っていたけれど、それはただ美しい髪という物を知らず、自分がそうなれるとも考えなかったからだと痛感させられる。

 

「今度、結んでみようかな」

 

 せっかくこんなにも長いのだから、素敵な、今まで出来なかった髪型にしてみるのも面白そうだった。

 少し考え込んでから、校則違反だと気づいた。

 

「……やめとこ。注意されたら面倒だし」

 

 鏡の前でしっかりと自分の髪や顔を整えて、小さく笑う姿を見せる。鏡の向こうの私は、非常に美しく笑っていた。

 不意に、前の自分が恥ずかしくなった。今の自分と比べてしまえば、髪一つ肌一つとっても、どれほどやる気が無かったのかが理解できてしまう。

 

「んっ……こういう話し方のほうが、それらしいわね、やっぱり」

 

 試しに口調も変えてみると、これが思いのほか話しやすかった。しっくり来るのだ。

 演技をしているのに演技をしていない。作っているのに作っていない。そんな感覚だ。これからの私には、相応しい言葉遣いだった。

 

「なんだか私だと思えないわね」「でも、とても似合っているわ、私」

 

 調子を変えてみても、独り言が止まらない。思わず苦笑いしてしまったつもりだけれど、あまり表情に出なかった。顔色は平静そのもので、上手く隠れていた。

 

「うん、この感じで行きましょう」

 

 大きく頷いて鏡から離れると、時間はすっかり経っていた。

 

「っとと、まずいまずい」

 

 そろそろ朝ご飯が出来上がる頃だろう。今までなら、お母さんが私を呼んでから階段を降りて、歯を磨き、顔を洗って椅子に座って待つ所だ。

 しかし、これからは早めに行って手伝うべき、と頭の中で囁く声が聞こえた。

 

「……そう。そうよね」

 

 その指示に従って、いつもより早めに部屋を出る。

 階段を、あまり大きく音を立てない様に降り、気持ちは弾んでも仕草には出さない。

 

「それにしても……まどかって、誰なのかしら」

 

 頭の中でずっと残る、その名前。思い浮かべるだけで心が揺れた。

 その人を思うだけで、胸の奥底から熱い想いが湧き出す様だ。初恋の時もこんな気持ちにはならなかった。

 今まで一度だって、私はこんなにも強い気持ちを人に抱いた事があっただろうか。

 いや、無い。

 

 親であれ友達であれ誰であれ、自分自身であれ、こんなに深く強く人を大切に思った経験はない。

 これはきっと、生まれてからずっと無縁でいた気持ちなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

+

 

 

「ええ、じゃあまた明日」

 

 友達に挨拶をして、三叉路で別れた。

 その友達はよく知っている人だけど、前より、私を優遇している気がする。あまり褒められた事では無いけれど、やっぱり嬉しいものだった。

 

「あー……でも、そうね……ああ……」

 

 思ったより嬉しくはなかった、と感じている自分がいる。

 理由もわかる。本当なら、もっともっと大切な、もっともっと愛おしく、心から認めている人に褒められたいし、認められたいし、愛おしいと思って欲しい。ただ好意的に思うだけの人や、ただ友達というだけの人よりも、そういう人と私は生きたい。

 そんな人なんて、私には居ないけど。

 

「は……この口調ではないわね、ええ」

 

 肩を幾度か叩き、漏れ出た昔の自分を黙らせる。

 意識一つで、息を吐く様に外見相応の言動を取れた。演じる必要さえ無かった。

 中身の性格はともかく、人から見て、今の私は完全な別人に見えるだろう。

 何せ、今の私はクールで格好良くて、運動も勉強も出来る。苦手だった筈の数学が、あっさりと、まるで最初から知っていた様に答える事が出来たんだ。

 

「でも残念、みんな私が凄くなった事を知らないんだから」「おっと……話し方はこっちにしようと決めたのに、つい出てしまうから私は良くないのよ」

 

 しかし、どれほど変わっても独り言だけは抜けそうも無い。性格までは変わるものではないのだろう。

 髪をかき上げながら、そう思う。

 何度触っても飽きない。前髪をくるくる撫でながら、その気持ち良い感触に夢中となっていった。どんな生活をすればこんなに素敵で魅力溢れる髪になるのだろう。

 

「何にせよお手入れをしっかりやらないと、あの子が褒めてくれたこの身体を、大切にしない訳にはいかないものね」

 

 小さく肩を揺らせて、伸びを一つ。この身体は幾つもの点で昔の私より華奢で弱い所が多いけど、魔法のお陰で疲れ一つ感じずに済む。

 あらゆる点で便利だった。鈍くさい身体は機敏に動き、ぼやけた思考は明瞭になり、何となく生きているだけだった自分に、強烈な生きる意味と意義が生まれた気さえする。

 しかも、魔法で肉体の全てを自由にコントロールできるのだ。素晴らしい。 

 

「本当に、魔法少女になって良かったわ」「今更魔法少女なんて、と思った自分が愚かだったのね」

 

 今ある幸せを噛みしめ、言葉に出して再確認する。

 願い事は完璧に叶った。後は、対価として戦いに身を投じるだけだ。流石に、戦う事は抵抗があるけれど。

 

「……っ」

 

 その時、直感的な衝撃が頭の中を通り抜けた。

 

「これって」

 

 とっさに数歩退くと、視界の先で何かが動いた。視力を強化して見通せば、それがどんな形をしているのかはよく見える。

 まるで子供の落書きか何かの様な形の怪異。そんな姿だ。しかし、子供の悪戯にしてはあまりにも出来が良すぎる。そもそもの全体的な見た目も、大人が子供の様な絵を描こうとした風で、違和感が強い。

 無論、それが当たり前の様に動いている姿のおかしさに比べれば、多少の違和感など吹き飛んでしまう。

 

「早くもデビュー戦になる、そういう事かしら」

 

 かつん、と意図的に靴の音を立てて、意識的な呼吸を一つ。

 心はしっかり切り替わってくれて、動揺は冷徹な思考に飲み込まれた。

 あれがキュゥべえの言う魔女、あるいは使い魔という存在である事は明白だった。むしろ、それ以外何なのだと言える程に異質な存在と空間が、現世と繋がっているのだ。別の物であった方が恐ろしい。

 向こうはこちらの存在に気づかず、笑い声をあげながら、私の居る位置とは反対方向に飛んでいく。

 

「……」

 

 切り替えた意識からか、それとも緊張によるものか、独り言が出ない。

 静かに、ごく自然な風を装って、使い魔の姿を追った。走って飛び込めばすぐに追いつくが、その先には魔女がいる可能性が高い。人を襲う仕草を見せるまでは泳がせるのだ。

 使い魔はそこまで早くなく、魔法少女であれば十分に追いかけられる速度だった。

 

 向こうはこちらに気づいていない。ただ子供の様に笑い声をあげながら、道を飛び回っている。

 

 どれくらい追いかけただろうか。標識を通り過ぎて、気づけば見滝原市に足を踏み入れていた。

 バス停には見滝原市のマスコットキャラクターが描かれていたけど、名前は忘れてしまった。昔から、興味の無いものの事は気をつけていても心に留めるのが難しい。

 

「おっと」使い魔の姿が、河川敷の下で消えた。「ここかな」

 

 橋の下を覗いてみると、壁に魔女の物と思わしきグリーフシードが突き刺さっていた。

 周囲に人影は無く、まだ犠牲者を出している様子は無いが、一見して危険な呪いの気配を漂わせている。覆う様に書き込まれた子供っぽい落書きの数々が、見ていて不安定な気分にさせられる。

 こんな恐ろしい物と戦うのか、と、腰が引けた。しかし、不思議な話だけど、逃げる気は全く起きない。むしろ、魔法少女としての戦いを当たり前の宿命として受け止めている自分がいた。

 

「そういえば、まだ魔法少女の服装になってなかったわね」

 

 多少気恥ずかしくて使っていなかったけれど、制服姿のままで戦うのも不格好だ。

 ソウルジェムを指輪から宝石に変えて、一瞬で魔法少女としての姿に着替える。

 私にデザインの才能は無い。だからか、頭の中で何となく着たいと思っていた服装が具現化した。

 燕尾服に黒のシルクハット。そしてマントだ。遠目にはクラシックな吸血鬼象そのものに見えるだろう。時計や時間を思わせる意匠が施された手袋も中々着け心地が良かった。

 

「うん、これで問題ない」

 

 何となくだけど、格好いい。野暮ったい顔の前の自分が着ると下手なコスプレ衣装にしか見えなかっただろう。けど、今は立派な美少女だ。しっかりと着こなせている実感がある。

 そしてソウルジェムは左胸の前だ。壊されない様に気をつけないと。

 

「あれ、武器……ないのかしら」

 

 自分の格好を確認してから、戦う為の道具が何一つない事に気づく。

 腕を振ってみても、何も出てこない。

 手を握っても会わせてみても、特筆すべき現象は起きない。

 そうやって自分の力に迷っていると、白い影がこちらに近づいてきた。視界の端に入り込む小動物的なフォルムから、その正体はすぐに分かる。

 

「やあ」

「キュゥべえ! なんだ、気づいてたの?」

「もちろん気づいていたよ。ひどいじゃないか、魔女との戦いになったら呼んで欲しいと言ったのに」

「ごめんなさい、教える余裕がなかったわ」「ところで、良い所に来たわね。キュゥべえ、武器はどうやって出せばいいのかしら」

 

 もふもふとした毛並みを楽しみながら問いかける。

 中々の手触りだ。猫アレルギーの身にはありがたい事に、全身の怖気と呼吸の乱れは現れない。やはり、彼らは既存の猫の類いとは違うのだろう。

 

「出し方が分からないのかい?」

「そうよ」

「……」

「キュゥべえ?」

 

 こちらを見る目は相変わらず無機質かつ、無表情だ。しかしどうしてか、呆れられている気がした。

 

「変だよ。特に意識しなくても、自然と使える筈なんだ」

「そういうものなのね。でも、残念ながら私にはやり方が分からないの」「ま、私にはその程度の才能もなかった、という事ね」

 

 キュゥべえがお世辞の一つでも言うかと思ったけれど、彼は何も口に出さずに視線を逸らした。

 ただ、現実的に戦える魔法が一つもない。

 

「何か武器になる物を持ってこないと、魔女との戦いは難しいよ」

「武器? 武器と言われても……あっ」

 

 河川敷の隅に、プラスチック製の雑なモデルガンが転がっていた。

 きっと誰かがここで遊んで、忘れて帰ったのだろう。足下をよく見ると、小さな弾が転がっている。

 グリップを持ってみると、意外と握りやすかった。大きさは程よく重さも許容範囲だ。弾は入っていないけど、魔力で代用すれば存外使える様な気がした。

 

「それを使うんだね」

「ええ。ちょうどいいでしょう」

 

 片手で無造作に壁の落書きを撃つと、見事に中央部へと命中した。

 もう一度撃ってみても結果は同じで、全く同じ場所に当たる。やはり使いやすく、魔法で補正をかければ練習の必要も無い。

 遠距離攻撃が可能というのも、近距離で戦うよりは気が楽そうで嬉しい所だった。

 

「行くわ」

「うん。気をつけるんだ」

「もちろん、そうするわ」

 

 本物で無くても、銃を持っていると安心感があった。

 魔力で身体と銃を強化するだけで何でも出来る気がしてくる。結界の中に踏み込む瞬間に景色が変わっても、使い魔が飛び出してこちらへ迫ってきても、全く怖くは無い。

 片手で銃を握って引き金を引く。すると、魔力が撃ち出され、使い魔が一体あっさりと消えた。

 

 いける。

 

 その確信と自信を胸に、私は結界の奥へと進んだ。

 

+

 

 

 使い魔から隠れ、切り抜けながら進むと、一番奥には魔女が鎮座していた。この世ならざる姿に呪いと絶望をこもらせて、その空間で飛び回っている。

 謎の文字列がその場に浮かび上がっていたが、まるで読み取れず意味もわからない。

 これが、魔女。

 危険だとは感じても、恐ろしいとは思わない。しかし、私に倒せるのだろうか。

 

「でも、必要な事なのよ」

 

 モデルガンを構えると、向こうも私の存在に気づいた。

 単純な突進でこちらに飛びかかってくる。

 相手の動きが何となく捉えられ、ある程度は回避も用意だった。想像よりは難しくない。

 すかさず引き金を引けば魔力弾が魔女に当たり、奴は悲鳴にも聞こえる声を出す。

 少し、心が痛んだ。これだから動く生き物を傷つけるのは嫌いなのだ。これが近接武器だったら私は攻撃を躊躇っていただろう。

 

 僅かに思考が逸れたその隙に、魔女はこちらへ最接近していた。

 素早い。身体の軌道を無視して魔力で弾き、飛び跳ねて逃げ切る。魔女がその場を通り過ぎたのは、一瞬後の事だった。

 落下する身体を魔力のクッションで守り、再び立ち上がった。復帰に数秒、再び魔女がこちらに飛び込んでくるのは一秒後だ。何とか紙一重で避けたけれど、華麗に戦うセンスがないのは分かった。

 

「意外な才能でも持ち合わせていれば良かったわ」「もうちょっと、綺麗に戦えたら良かったのだけれど」

 

 残念だけど、魔法少女になってもそこまでの才能は無かったようだ。

 しかし、驚くべき事では無い。わかっていた。どれほどの能力を手に入れようと、それを扱う私は三流以下だ。

 

「それでも……これは、魔法少女としての使命だから!」

 

 モデルガンを両手で握り、その場でしっかりと立って思い切り撃つ。

 精一杯魔力を乗せると、撃ち出された魔弾は紫混じりの光の軌跡を描きながら使い魔を貫通し、そのまま魔女を直撃した。途端に魔女は痛みに悲鳴をあげて壁にぶつかり、崩れ落ちる。

 荒い息に似た音が聞こえる。魔女も呼吸をするようだ。あるいは、何かしらの擬態かもしれないが。

 

「お返しよ」

 

 そう、これはお返しなのだから、悲痛なうめき声に罪悪感を覚える必要は無い筈だ。自分が有利になった途端、都合良く浮かび上がってきた感情に辟易させられる。

 魔女は動きを止めて、こちらへ視線を送ってきた。

 哀れだ。なぜか、そう感じた。

 

「……」

 

 髪をひと撫でし、息を整える。これから私は魔女を始末するのだ。傷つけたくらいで何だというのだ。

 そんな迷いが、敵にも伝わったらしい。

 

 魔女の姿が一気に動いた。

 与えたダメージは無視して飛び上がり、一気に距離を離すと危険な魔力を帯びる。

 不規則かつ無意味な蠢きではなく、確かな意味のある行動。その身から伸びた絵の具が恐るべき勢いでもって私へ迫った。

 予想外の動きで一瞬思考が止まり、我に返った時には既に避けられない所まで来ていた。

 

「ぅっ!?」

 

 反射的に左腕で受けると、強い衝撃が私を襲った。

 弾き飛ばされて壁にぶつかってしまう。鈍い音が身体から響くが、奇跡的に痛みは少なく、むしろ壁に亀裂が走っていた。

 ふらついていた所に、魔女が再び絵の具を伸ばしてきた。

 魔力で無理矢理に立ち上がって己の身を吹き飛ばす。こんな衝撃の後でもめまいはすぐに消えて、思考は明瞭だ

 

「そう……身体も頑丈になったのね……」

 

 反撃を受けたら、私が痛みに怯えて逃げるかもしれない。

 幸い、そんな懸念は杞憂に終わった。

 痛みが少なく、何より、この魔女は恐ろしくない。むしろ可哀想だった。

 

 しかし、簡単にはいかない。

 私が無駄に気遣ったり、奴の殺害を忌避する余裕など本当はないのだ。

 髪をもう一度、今度は深くかき上げる。片手で使い魔を何体か葬り去ると、気持ちはすっかり冷えた。

 感情を切り替えて、戦う為に意識を傾けた。

 

 

「行くわ……!」

 

 独り言と共に、身を乗り出して飛び込む。

 そして、気づいた時には魔女が爆発していた。

 

「……あれ?」

 

 取り繕う暇も無く、素の声が出てしまう。

 私は何もしていない。そもそも、爆破なんて私には起こせないのだ。

 しかし、伝わってくる熱と衝撃は本物で、強い威力を物語っている。

 あれほど固く危険な魔女というものであっても、このような破壊力は想定外だったらしい。断末魔にも似た声をあげながら消えていき、何も残さず吹き飛んだ。

 

「え、え?」

 

 戸惑っている間にも、結界が歪んで消滅した。さっきまで居た見滝原の河川敷に戻ってきて、何事もなかった様に景色が広がっている。

 その場にグリーフシードが転がっていた。それを拾う人の姿も、そこにあった。

 

 グリーフシードを拾うその姿は、私が契約する時に目に焼き付けた人と全く同じだった。

 

「あっ、ああっ、あ……」

 

 言葉を失い、ただ彼女を見つめた。

 

「……」

 

 彼女は私の姿を一瞥し、特に何の感慨も浮かべずに背を向けたる。

 全く相手にされていない。でも当然だ。あんなに鮮やかで美しい人が、私の様なものを意識に留める筈も無い。頂点に至った存在が、地を転がる塵を意識しないのと同じ様に。

 

「あっ……待って……待って!」

 

 それでも、思わず声が出ていた。

 

 彼女はふと足を止めて、視線はこちらへと向かった。澄み切った湖畔の水面より清らかな印象だ。

 服装は少し学校の制服に似ていたけれど、もっと現実離れしていて、白の中に引かれた紫の線が非常に似合う。背中から垂れている紫のリボンがかわいらしく、女の子として綺麗さと可愛らしさの全てを詰め込んだ雰囲気が漂っていた。

 それに、長い睫毛に柔らかそうな頬と、艶やかに光る黒の長い髪、すらりと伸びた腕と小さな肩、そして肩から腰にかけての一本線の通った美しさ。ストッキングに包まれた脚の細さときたら、思わず見惚れてしまう。

 凜とした立ち姿のまま、彼女はこちらを見つめている。

 私にとって、美しさとはかくあるべき、というべき物がここにいた。私がなりたいと願った姿の全てがここにあった。

 

 そして彼女は、魔法少女だったんだ。

 

「何かしら」

 

 冷たさの籠もった声音だ。だけど、その声の響きは特徴的な格好良さがある。クールさがカッコいい、と言えば良いのだろうか。何かを抑え付ける風な雰囲気の声質は、聞いているだけでたまらなく美しい。

 何にせよ良い声だ。とてもとても綺麗な声だ。

 

「あの、助かったよ。ありがとう」

「特に助けたわけでは無いわ。あなたに気づいたのもついさっきよ」

 

 そこまで言うと後は何も言わず、こちらの姿を観察してきた。察しの悪い私でも、彼女が私と顔を合わせていないのは明らかだった。

 気まずい沈黙である。

 

「その様子だと、奴と契約したのは最近の様ね」

「うん。昨日魔法少女になったばっかり!」

「……そう」

 

 向こうは私を全く知らない。私も、彼女が何者であるかすら知らないのだ。

 そういえば、私はまだ魔法少女の格好をしたままだ。武器も持ったままでは、無駄な警戒をさせてしまう。

 私が元の制服姿へ戻ると、彼女も同じく姿を戻した。それは、通り過ぎていった時と同じ見滝原中学の制服だ。

 一歩踏み出すと、彼女は明らかに警戒している。そんな雰囲気を見せられるだけで、緊張のあまり手が震えた。

 

「あ、あの。ですね。せ、先輩。私、貴女みたいに素敵で格好いい魔法少女になりたくて契約したんだ」深めに頭を下げる。「だからその、できたら、一緒に魔法少女としてお仕事させて貰えたらなーっと思うんですが」

「先輩? 私が? ……あなたの?」

 明らかに雰囲気が緩んだ。鈍い私にも困惑が伝わってきた。

「はいっ。弟子入りさせてくれたら」

 

 気づいたら言葉遣いも何も吹き飛んでいた。

 祈りを捧げる様に両手を握り、膝を崩す。

 

 ほんの少し頭を上げて彼女の様子を伺うと、黙り込んだまま、じっとこちらを見つめていた。

 近くから見ると、人はこんなにも綺麗になれるのかと感じてしまうくらいに繊細な瞳をしていた。薄めの紫の中にほのくらい光が宿り、見惚れる輝きを放っていた。

 背は、私より十センチくらい低い。けど、今は私が腰を落としているので、彼女から見下ろされる形になっている。

 

 こんな、私とは住む世界がまるで違う人に対して、とんでもない頼み事をしてしまった気がする。

 私に出来るのは、彼女が答えてくれるのを待つだけだった。

 

 彼女は一度目を瞑り、小さな息を吐いた。無意識からか、疲れた様子に見える。

 

「私には、人に教えている程の時間がないわ」

 

 明確な拒否だ。声のトーンから食い下がっても無駄なのは明らかだ。

 そして、危険な目に遭わせる気は無いと、そう言われている気がした。

 

「分かりました。無理をお願いしてごめんなさい、足手まといにならない程度に訓練したら、またお願いします!」

 

 また一度、頭を下げた。

 私なんかの言葉にしっかり返事をくれた。それだけでも嬉しかった。

 

「そうね……」

 

 こちらに近づいてくる。どうしたのだろう。

 何か怒らせてしまったかと不安になっている内に、暁美さんはグリーフシードを持ってきた。

 説明はせずに、彼女はソウルジェムへグリーフシードを当てる。すると、戦闘で溜まっていた穢れが見る見るうちに消えていき、数秒もすれば綺麗な宝石へ戻っていた。

 

「気をつけなさい。無駄な戦い方で魔力を消耗すれば、後には何も残らないわ」

 

 グリーフシードを盾の中にしまい込むと、こちらを冷たく見上げている。

 

「魔女との戦いは命がけよ。信じられるのは自分だけ。魔女と戦う前に、訓練をして慣れておきなさい」片足を踏み込んでくるりと周り、私には背だけを向けて歩き出す。「もうあなたは、魔法少女なのだから」

 

 どこか不器用ながらも、ちゃんとしたアドバイスだった。

 声が寂しげで、しかも優しさを宿した物に聞こえるのは、私の錯覚なのだろうか。いや、だとしても構わない。

 

 彼女はたった一人でしっかりと立って歩いている。

 だけど、背中が泣いている風にも見えるんだ。

 

「あの!」

 

 呼び止めると、彼女は素直に足を止めた。

 

「私、未夕すいって言うんだ。貴女の名前を、聞いてもいい?」

 

 首を傾けて振り返り、その静けさ漂う瞳で私の姿を捉えると、ただ名前を私に告げた。

 

「私は暁美ほむら」

「暁美、さん……暁美さんだね。分かった……ありがとう」

「お礼は要らないわ」

 

 暁美さんはそれだけを言うと、すぐにその場から消えた。立ち去る時の歩く姿すら芯が通っていて、黙っていても強い意志が伝わってきた。

 

「きれいな子だったなあ……」

 

 私の目に狂いは無かった。いや、想像以上だった。

 

 私に向けられたのはかなり厳しい言葉だった筈だ。普段の自分なら鋭い言葉に傷ついて、塞ぎ込んでいる所だろう。自分が傷つきやすく傷を残しやすい人間なのはよく知っているし、今までも何度か経験がある。

 

 なのに、彼女に言われると嫌な気分にならなかった。痛みはあっても、その痛みが嬉しかった。

 冷徹な言葉の中に包まれて見えなくなった一抹の優しさが、手に取る様に読み取れたのだ。

「暁美ほむら、さん」

 

 もう一度名前を呼んでみる。

 魂の熱を感じさせる、良い名前だった。

 

+

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ぼんやりと歩きながら、彼女の姿を反芻する。

 素晴らしい人だ。

 私の願いは正しかった。あんな風になれるとすれば、それは素晴らしい事だ。

 あの瞳の奥に宿った強い意志、きっと何か、大切なものがあるのだろう。私にはないものだ。

 

 悔しいとは思わない。

 素晴らしい物を持つ人への嫉妬など抱いた事はない。私より優れた人間なんて山ほどいるけど、人がどんなに優れていようとどうでもいい。興味もない。所詮はたかが人間なんだから、五十歩百歩でくだらない。

 しかし、彼女だけは、暁美さんは違う。ただ姿を思い描くだけで、なぜか尊敬の念が沸き上がるのだ。彼女に近づきたい、彼女みたいになりたいと、強く渇望させられる。

 どうしたらあんなになれるのか。私には決して得られない物を、彼女は持っているに違いない。

 

 そう思いながらも、私は大きめの病院を通り過ぎた。そこに立っている人を、横切って。

 

「……あ」

 

 その、全く無関係なはずの子に、妙に惹かれた。思わず足を止め、その桃色の髪とかわいらしい顔を凝視してしまうくらいに。

 誰かを待っている様子で、何とはなしに佇んでいる。平均よりは上の顔立ちに、平凡な背丈、学生服で、普段ならそこまで気に留める事もないであろう、普通のかわいい子だった。だけど、そんな彼女だけが、周囲の世界の中できらきらと輝いて見える。

 

「あ、あの」

 

 気づいた時には既に、彼女の肩に手を置いていた。

 これではまるで不審者だ。同性とはいえ、警察を呼ばれてしまうかもしれない。

 驚いた様子でこちらを振り向いて、彼女は大きく目を見開いた。

 

「ほむらちゃん……?」

 

 いかにも穏やかで優しそうな声をしていて、聞くだけで心がとろけそうだ。

 だけど、呼ばれた名前は私の物ではなかった。その残念さときたら。

 

「あ、ううん、ごめんなさい。なんだか、知ってる子によく似てて」

「気にしないで、別に構わないから」

 

 なんだろう、この子は。

 控えめで、どこか弱気に見える。かわいらしいけど、纏う雰囲気はごく普通で、暁美さんと比べると平凡な人間でしかない。けど、どうしてだろう。ただの普通の子というには、視界に入れているだけで特別な輝きを感じる。いいや、特別どころか彼女だけが世界の全てにすら見える。

 軽い会話をするだけで目が潤み、心が揺らいだ。抑え付けるだけでもかなりの労力が必要で、彼女を相手に表面上でも冷静さを保てるのは、きっと願い事の賜物だ。

 

「それよりも、急に驚かせてしまったわね」

「は、はい? うん、別にそれは構わないんですけど、わたしに、何か用ですか?」

「そうね、用事、という訳ではないけれど」

 

 ただこうして話しているだけなのに、心が跳ねて爆発しそう。

 胸がひどく痛んで、ばくばくと高鳴って、この子が居てくれるだけで幸せになれるって、そう確信できる。

 

「んっ」

「あの。私、未夕すいっていうんだけれど。あっ、あなたは?」

「わ、わたしっ? わたしは鹿目まどかです」

「まどか、まどかねっ……そ、そう、まどか、って呼んでも良いかしら?」

「え? う、うん」

 

 もう少し見栄えの良い雰囲気を装うつもりだったのに、まどかと会話をしている間にボロが出てきてしまった。必死になりすぎたからか、まどかが逃げ腰になってしまう程だ。

 慌てて取り繕うものの、次から次へと溢れる深い感動が私を逃がさない。

 

「ごっ、ごめんなさい。知ってる子によく似てたから、つい声が出てしまって」

 

 苦しい言い訳だと自分でも思う。しかし、これしか言い様がない

 

「実は、私の知ってる人もまどかっていうの。同名で、顔もそっくり」

「すい……さんもなんだ? わたしも、クラスメイトによく似た人が居たからビックリしちゃって」

 

 そう言われてやっと、まどかの格好を確認した。

 見滝原中学の制服だ。今の私によく似た人なんて、この町の中に何人もいるわけもなく。

 

「暁美ほむらさん、かしら」

「えっ!? ほむらちゃんの事、知ってるんですか?」

「ええ。前に少しね、危ない所を助けて貰ったの」

 

 まどかの反応に、内心で思わず拳を握った。

 共通の知り合いが居ると見るや、まどかは漂わせていた警戒心を一気に緩めた。表情からはぎこちなさが抜けて、柔和であたたかな彼女本来の魅力が露わになる。

 ちょっと人を疑わなさすぎるのではないだろうか。まだ多少は心の距離を感じるけど、ぐっと近くなった気がする。

 

「それで、暁美ほむらとはどういう間柄なの? 友達?」

「どうかなあ、ほむらちゃんとはもっと仲良くしたいんだけど、なんだか上手くいかなくて」

「そう……心配しなくても、貴女が辛抱強く優しく接してあげたらすぐよ」

 

 少なくとも、私は我慢できない。彼女に優しくされたら心の壁なんかすぐに消えて無くなってしまう。きっと暁美さんも同じ反応をする筈だ。

 なんて愛おしい。桃色の髪も光の宿った眩しい瞳も、暁美さんとは違って可愛らしさが極まっている。背も小さめだけど、その身から感じるおおらかな気配と、慈悲とも言うべき包容力を漂わせた雰囲気が私を確実に包んでいた。

 彼女と一緒に居られるのなら、絶望すら絶望とならないだろう。

 

「私も、貴女の友達になっていいかしら?」

 

 自分の耳をまず疑った。私は急に何を言っているのか、意味の分からないおかしな人だと思われたら立ち直れる気がしない。

 

「え、えっと」

 

 まどかの反応は、首を傾げて戸惑う程度だった。戦闘中よりもよほど神経を使う。まどかに嫌われる方が、魔女と戦うより恐ろしい。

 

「ああ、ごめんなさい。急すぎたわね」

「ううん、そんなこと……ないんですけど、ちょっと驚いちゃって」

「無理も無いわ。つい言葉に出てしまったの」

 

 何せ、私自身も驚いている。

 そんな私の反応をどう見たのか、まどかは困惑気味でありつつも、決して逃げ出しはしなかった。

 やっぱり、いい人だ。それに、とてもかわいい。きっと沢山の人に愛されている。家族や友達から深く深く愛され大切にされて、まどか自身も周囲の人達を愛している。姿を見ているだけで、そう思えた。

 

「あ」

 

 こちらの挙動を観察していたまどかの視線が、ある一点、私の指で止まった。

 思わず指を隠してしまう。綺麗になったと分かっていても、この子に見られるのは中々に恥ずかしい。

 

「その指輪……」

 

 まどかの声で、どこを見られているのかを察せた。指の細さや爪の形を見られていた訳では無かったらしい。

 

「これの事なら、ソウルジェムって言うらしいわ」

 

 指輪を見せて、嘘偽り無く告げた。

 他人からはただのアクセサリーにしか見えない筈だ。だから名前も隠さなかった。

 しかし、まどかは驚きの表情で私の発言を受け止めると、聞きにくそうに口を開く。

 

「ひょっとして……すいさんって、魔法少女?」

「……知っているの?」

 

 期待と不安が私の中に満ちた。

 

「はっ、はい。わたしはその、違うんですけど」

 

 なんだ、魔法少女仲間じゃなかったのか。

 多少の落胆と、何故だか感じる強い安堵。その両方が頭の中でぐるぐると渦を巻く。

 そうしている内にもまどかが私の言葉を待っていた。内心で慌てて咳払いを一つ、それからまどかとの会話を再開した。

 

「その様子だと、もうキュゥべえとは会ったのね?」

「そう、です。でも、契約するかどうか迷ってるかな」

「願い事が決まらないの?」

「いや、ちょっと違うかな……やっぱり、なった方がいいのかもしれないけど……」

「それは違うわっ!」

 

 私の中から何か感情が突き上げた。

 悲鳴混じりの声が漏れ、思わず彼女の肩を掴んでしまう。

 

「えっ?」

「……」

 

 そのまま抱きしめ、背中に手を回した。自分でやっておいて意味が分からない。

 それにしても、伝わる体温が心地良い。まどかの身体は小さく、とてもかわいらしい。お陰で少し落ち着いた。

 さほど身長に差は無いはずだけれど、どうしてかまどかは非常に小さく思える。こうして近くにいると、幸せと愛おしさが勢いよく沸き起こって止まらなかった。

 

「あ、あの……すいさん?」

「ごめん。貴女を見ていたら、つい身体が動いてしまって……気持ち悪かったよね。ごめんね」

 

 やっとの事で身体を離すと、じわじわと涙が浮かんだ。名伏しがたい感情が襲ってきて、私はあっけなく膝を屈する。

 身体が勝手に動くなんて初めての経験だ。それに、こんなに他人を強く思うのなんて生まれて初めてかもしれない。

 

「えっ……と?」

 

 まどかは何も理解していない。当然だ。私の中で生まれた激情の正体は、私自身にも掴めていないのだから。

 むしろ、今まで逃げられていないのが不思議だった。怖くて逃げられないのだろうか。だとしたら私は死んだ方がいいのかもしれない。

 

「まどか、お待たせー」

「あっ……」

 

 まどかの顔がどこか焦りを帯びた物に変わった。

 彼女の名を呼んだ人がこちらへ向かってくる。青い髪で、手を振りながら近づいてくるのだ。

 

「ごめんなさい。友達が来たから、また後で」

 

 私の方へ向き直ると、まどかは柔らかな笑みを浮かべてそう言った。

 

「ええ、構わないわ。さっきの話はまた今度にしましょう」

 

 何とか平静を保ちながらも、心の奥底で感じる痛みは抑えきれなかった。表情に出さない様に必死で堪えていたが、苦しみはますます増すばかりだ。

 

 だって、友達が来ると言っても、別に私と離れる必要はないじゃないか。

 きっと、まどかは逃げたいんだ。急に抱きついてくる女が怖かったんだろう。

 きっと次に会った時は避けられて、もう仲良くはなれない。今度は恐怖と怯えの混じった瞳で見られるのかもしれない。やんわりと拒絶されるんだろう。そう思うと、「余計な事はしなければよかった」と後悔が次々にこみ上げる。

 

「待って」

 

 何故かまどかの服を掴んでしまった。

 私から離れようとした子を捕まえたんだ。悲鳴をあげられても仕方が無いと分かっていても、身体が言うことを聞かない。

 

「ごめんごめん。いやー、良い気分」

 

 青の髪の子がこちらを視界に入れるなり、首を傾げた。 

 そして、まどかを掴む手を目にして警戒心を露わにする。

 

「まどか? その人は?」

「私は、あなたには関係がない人間よ」

 

 美樹さやか、と。

 聞いても居ない名前が思い浮かぶ。

 不信感の溢れる厳しい視線からは、こちらを意味不明な人物と見なしているのが明らかだ。今にもまどかと私の間に割って入り、私を追い払おうとするだろう。そうだ、それが正しい

 そうやって、まどかから引き剥がされてしまう前に、その耳元へと囁いた。

 

「まどか、魔女や使い魔を見かけたらすぐに知らせて。すぐに駆けつけるわ」

「……わかった。ほむらちゃんも気をつけてね」

「ええ」

 

 美樹さやかが心配そうにまどかへ駆け寄り、こちらを睨み付けてくる。

 

「あの人、転校生じゃないでしょ?」

「あっ……ごめん、どうしてだろう」

 

 話し声を背に、彼女達から遠ざかる。

 美樹さやかは何の話をして、なぜまどかは疑問を浮かべているのだろうか。気に留めない様にした。

 

「大丈夫? あいつに何かされたの?」なんて声が聞こえてくる。

 中々に傷つく事を言ってくる。

 しかし、まどかが大切にされているのは理解できた。その事実が、胸の痛みを帳消しにしてくれる。

 まどかは格好良くて、つよくて、優しい子だ。沢山の人へ等しく慈悲を振りまく分だけ、沢山の人に大切にされなければならない。私が眼鏡をかけていた時なんて、いつも私を助けてくれた。その分、まどかを助けたいんだ。

 彼女を救う事。彼女を守る事が、私の唯一の願いなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……助けて、くれた?

 

「……おかしい」

 

 足を止めた。まどかと美樹さやかの声はもう聞こえない。

 

 いや、美樹さやかって誰? 私がいつ、まどかに助けられた?

 なんだ? その願いは。

 私はそんな事を願った覚えは。いや、ある。覚えがある。

 あの時のアンダーリムの眼鏡に三つ編みで、今よりもっと弱く。いや、これは私では無い。

 ……これは、私では、無い!

 

 

「私は」「……私は?」

 

 私は未夕すい。ついさっき鹿目まどかと出会ったばかりの、隣町の学生で、ひ弱な魔法少女。そうでしかない筈だ。

 だのに、暁美ほむらと呼ばれる事に違和感を一つも覚えなかった。むしろ、自分の名前を呼んで貰えた事に幸せを感じたほどだ。

 まどかと話している間に、まどかを思う間に、知らない記憶が私を書き換えていた。

 なぜ私は、遭って間もないまどかの事を、こんなにも愛おしく思うんだ?

 

 なぜ私はまどかに友情を感じている?

 いつから私はこんな風になったのだろう?

 そもそも私は、誰?

 

 

 不安の中で、足取りが自然と速くなった。

 

 

 

+

 

 

 

「おかしい」

 

 椅子に座って頭を抱え、そう呟くのも何度目だろう。いい加減に答えの出ない呟きに飽きてきた。

 しかし、考えれば考えるほど深まる恐怖には耐えがたいものがある。

 さっきからずっと、ずっと考えが止まらず溢れては漏れて、その度に「おかしい」と呟いていた。

 

 私は、暁美ほむらだ。しかし未夕すいだ。どっちだろう。両方なのか?

 いいや、違う。違うのだ。

 契約した時はまだ未夕すいだった。その後、姿が変わった時も私はまだ自分が未夕すいだと胸を張って言えた。

 いつからだ。私が暁美ほむらになっていたのは。

 いや、そんなもの答えは既に出ている。

 

「……なんでこうなったんだろう」

「それは、まったく自然な事だよ」

 

 この声を憎らしく思うのは初めてだ。

 知らない名前が頭の中に浮かんで、迷うこと無くその名で呼ぶ。

 

「インキュベーター」

「……その様子では、君は君の知らない筈の事まで知っている様だね」

「おかげさまで、その通りよ」

 

 奴は私の隣に座り、わざとらしく毛繕いなんてして見せた。

 自覚していると、警戒心が芽生える。

 これは願いを叶える生物などではない。まして猿の手でも、希望の運び手でもない。ただの外宇宙よりの異星生物だ。

 それは私に近寄ってきた。かわいげを感じない。むしろ傍に寄られると鬱陶しさすら覚える。

 

「それなら、君の願いが君に対してどんな風に作用したのか、もう分かっているよね?」

「ええ」

「君は、魔法少女になった時に別の人間になったんだ。未夕すい、以前の君では考えられなかった事や、出来なかった事ができる様になった。つまり、君の心と身体は願いを叶えた時点で変質し、別物になったんだ。そう願ったんだから、その通りに叶うのはおかしいかい?」

「……そうね。その通りだわ。まったくおかしくない。変でも無い」

 

 当たり前だ。昔の私に出来なかった事が、今の私には出来てしまう。それは経験から来る成長ではなく、強制的に自我を歪めたからこそ獲得した奇跡だ。

 そんなつもりではなかった。

 

 机を叩いた。叩かずにはいられなかった。

 

「でも私は、暁美ほむらじゃない! 未夕すいなの!」

「変わりたいと願ったのは君なのに」

「わかっている、と言ったでしょう……! 自分の愚かさに嫌気がさすわ……!」

 

 変わりたくない。幾ら私がろくでもない人間だからって、全てを捨てて別人になりたい訳じゃ無い。

 それじゃまるで、未夕すいが死んでいる様じゃ無いか。いや、待て。

 

「昔の私は、それを気にしなかった? じゃあ、今の私はどうしてこんなに、己の心に悩んでいるの?」

 

 決まっている。

 こうして悩んでいる私の感情もまた、暁美ほむらの思考だという、ただそれだけの事だ。

 

 ……ああ、つらい。

 

「……」

「…………」

 

 

 

 

 

「……まどか」

 

 その呟きが私の心に突き刺さった。

 

「まどかあ……」

 

 己の自我に嘆いている間ですら、まどかを想う気持ちと案ずる気持ちが止まらない。もう契約しているのではないかと思うと身を引き裂かれる想いだった。まどかが危険な目に遭うのはとても耐えられない。

 まどかを助けたい、まどかを守らなければならない。どんなに苦しくても辛くてもまどかの未来を繋げなければ。ワルプルギスの夜を倒し、まどかを守る。それが私で、私の希望そのものだ。

 ワルプルギスの夜?

 

 この気持ちも記憶も、恐らくは私自身の物では無い。知りもしない魔女、身に覚えの無いまどかとの出会いの数々、我が事のように感じる記憶も、他人のものだ。

 

 

 かつての自分ならどう思い、どう語ったのか。どう動いたのか。

 それすらも思い出せなかった。

 

 

+

 

 

 

 寝不足の頭と絶望感を抱いたまま、気づいたら見滝原市の公園で転がっていた。

 背中に当たる草は良い感触で、決して不快ではないけれど、気持ち良さも感じない。

 

 中々眠れなくて、無理矢理に寝て起きても学校へ行く気は起きなかった。

 今の自分を誰かに見られたら、昔の自分が完全に死んでしまう気がしたから。

 

 ふらふらと見滝原まで来て、ここに倒れ込んで、そのままだ。

 出来ればこのままぐったりとして、時間を無意味に過ごしたい。しばらくは何も考えたくない気分だ。

 それが逃避に過ぎないのは分かっているのだが、心は一向に動かない。むしろ、どんどんと沈み込んでいって、そのまま地面に埋まってしまいそうだ。

 また、ため息が出た。じわじわと私を浸食する絶望は、ソウルジェムを濁らせていく。

 

 憧れの存在になりたいと思った。あんな綺麗な人になれたらと、心から願った。

 けど、代わりに今までの自分は消えていく。

 自分を失うのがそれがどんなに怖いか、私は身をもって思い知らされた。

 

 どんなに自分が嫌でも、どれほど己を嫌っていたとしても、その気持ちは私自身の物だった。誰の物にもさせない、誰の物でも無い。私自身が、私を無価値だと思っていた。

 それを失ってしまったら、私は一体、どうすればいいのか。

 恐怖からか、手がカタカタと震えていた。指を握って無理矢理に押さえ付けるけど、今度は腕が震え出す。

 

 だが、なぜか震えが止まった。覚えのある気配が傍に、ううん、顔の上から私を見下ろしていたんだ。

 まどかが、こちらを覗き込んでいた。

 

「あ……」

 

 こんな気持ちの中にあっても、まどかが傍に居るだけで感情が上を向いた。

 すぐさま起き上がり、彼女に挨拶をする。学校帰りの制服姿に、髪を纏めたピンクのリボンがとっても似合ってかわいらしい。見惚れてとろけそうだ。

 

「鹿目さん」

「ほむ……すいさん。学校は?」こちらの私服姿に気づいたらしい。

「……休んで来ちゃった。体調悪くて」

 

 心の体調が悪いのだ。嘘は言っていない。

 

「ねえ、少し、一緒に来てくれない? その、話があるの」

 

 ここで逃げられてしまったら、きっと私は壊れてしまう。

 祈る様にまどかを見ていると、あっさりと私の手を取ってくれた。そうする事に躊躇も、戸惑いも見せなかった。どれほど私を救ってくれたか。

 

 本当に、ごく自然に手を握ってくれた。明らかに私を誰かと、ううん、暁美ほむらと混同している。でも、まどかへ不満など抱きようも無い。

 少し歩くと、ベンチがあった。そこに二人で座り込むと、思ったよりも幅が小さくて、まどかと私の肩が触れる。

 まどかはあまり気にしていないけど、私の方は悲鳴を抑えるので手一杯で、身体が強烈な熱を帯びた。

 彼女が傍に居るだけで世界の全てがひっくり返りそうだ。彼女の呼吸、彼女の匂い、彼女の歩む音と、それら全てが私の精神と自我を確実に破壊する。にも関わらず、おそろしいくらいに抵抗する気が起きなかった。

 抱きしめたくて仕方が無い。でも、まどかに嫌われるのは恐怖だ。その愛おしさを我慢するのは、私の人生でも最上位に難しかった。

 

「すいさんはさ、どうして魔法少女になったんですか?」

 

 ふいに、まどかが話しかけてくる。

 興味、という風では無い。どちらかと言えば控えめで、どこか探りを入れる風な空気だった。

 

「う……あの、あんまり期待できる様な事じゃないよ?」

 

 こんな事、人に話すのは抵抗があった。

 だけど、まどかの声に応える。その欲求は耐えがたく、抑えられないものがある。

 

「私、昔っから運動神経悪くて、勉強も普通以下にしかできなくて、やる気とか、根気とか全然なくて……そういう自分が、なんだか嫌だった」

 

 漏れ出すと止まらない。

 まどかにこんな弱さを見せびらかしたくない。でも、まどかが聞いてくれている。そう思うと、弱音がどんどんと溢れてきた。

 

「羨ましいとかじゃなくてね、やっぱり、頑張れて、努力できて、根気のあって、そして綺麗な人に憧れてたの。だから、そういう風になりたいって願ったんだ」

 

 そうだ。私はそうなりたかった。

 でも、私は私のまま、憧れの存在になりたかったのだ。

 なんという我が儘だろう。しかし、そんな希望の一つも無ければ、人生はどれほど虚無の暗黒だろうか。

 ただし、そんな私の希望は、今の私へ確実な絶望を呼び込んでいた。

 

「やっぱり駄目だね。変わろうと願ったら、変わるのが怖くなっちゃった」

 

 別の人間になったら、変われた事を喜ぶ自分すら無くなってしまう。

 そんな簡単な真理に、今の今まで気づかなかった。

 私は愚かだ。膝を抱えて涙を隠し、自分の恥からは目を逸らした。こんな事なら、魔法少女になんかならなければ良かった。

 

「そう、なんだ」

 

 そんな時、まどかの鈴の音よりも優しい声が私を包んだ。

 いや、まどかはその両手で私の肩を掴み、寄り添ってくれた。

 

「じゃあ、わたしとおんなじなんですね」

 

 どこか悲しそうな雰囲気に、私の心の中で心配が膨れ上がった。

 表情は微笑んでいるのに、どうしてこんなにまどかが落ち込んで見えるのだ。

 

「鹿目さんも?」

「まどかでいいですよ? さっきもそう呼んでくれたよね?」

「う、うん。まどか」

 

 素敵な呼び方だ。しかし、今はまどかが語る言葉に関心があった。

 まどかが思い悩んでいるなら、助けになりたい。話くらいなら聞いてあげられるから。

 

「わたしも、特技とかないし、勉強も苦手で、誰かの役に立てる様な、素敵な魔法少女になりたいなって、思ってたんです」

 

 それはまるで、自分の事を聞いているかのようだった。

 ただ、「誰かの役に立ちたい」と語るまどかの言葉は溢れる慈しみの心が見え隠れしていて、やっぱり、私などとは人間的な美しさが違う。

 こんなにも幸せになるべき人が暗く俯いている。思わず背中を撫でて、せめて慰めたかった。

 そうすると、まどかはちょっとだけ元気になってくれる。それでも語る口調は暗かった。

 

「魔法少女になるのは怖くて。一歩踏み出せば実現できるのは分かるのに、危険で、死んじゃう事もあるって思ったら、怖くて足が動かないの」

 また目線を落とし、表情から光が薄れる。

「魔法少女になりたいって思って、一緒に戦うって約束もしたのに怖くなって……ずるいですよね」

「……いいえ、それでいいの」

 

 まどかの頬を掴んで、こちらを向かせて正面から見つめた。

 かつての自分が、今の自分に押し潰される。感情がまどかへの思いに侵略される。でも。いい。

 

「だって、まどかはまどかのままで十二分だわ。魔法少女なんかにならなくたって、貴女は素敵な人だもの」

「そう、ですか?」

「ええ、そうよ。だからもっと自信を持って、家族や友達を大切にすればいい。まどか、貴女はね、自分で思っているよりずっと優しい良い子なのよ? その優しさだけで、十分に周りの人を救っているわ」

 

 見つめ合っていると、彼女の桃色の瞳がきらりと輝く瞬間が見えた。

 ああ、この子は世界で最も価値のある人だ。他の誰がどう語ろうと、まどかより価値のある人間などない。

 私がそう決めた。暁美さんが、そう決めた。

 世界の全てに比べたって、まどかはあまりにも素敵すぎた。

 

「私なんかに比べたら、貴女はまるで女神様よ。胸を張りなさい、貴女の為にも、貴女を大切にしている人達の為にも」

 

 自分の憂鬱や絶望は一端外に追い出して、まどかを元気づける為に笑顔も気力も全て使う

 まどかは衝撃を受けた様子でこちらをまじまじと見つめ、やがて呟いた。

 

「すいさんって、わたしの知ってる人に似てるけど、でも、全然違うね」

 

 誰を指しているのかは理解できた。

 

「わたしの知ってる人はもっと、こう」

 

 ただ、まどかが曖昧な雰囲気で物を語るのが、胸に刺さる。

 私は暁美ほむらではない。ないのに、暁美ほむらの事を聞くだけで自分の事みたいに心が過敏に反応した。ひょっとしたら、自分自身の事よりも強い反応だったかもしれない。

 だからつい、まどかの前に顔を乗り出し、聞いてしまった。

 本当に、つい口に出してしまったんだ。

 

「その、変な事を聞くけど、私って誰だと思う?」

「え? あなたは、すいさんだよ?」

 

 それは、何の気も無い答えだった。深みも強さもない、ただの普通の返事に過ぎなかった。

 何か大きな意味合いをもって答えた訳ではない。特別な意味などどこにもない。日常会話でしかないのだ。

 

 でも。ああっ、まどか。貴女が、そう言ってくれるのなら。嬉しい。

 

 

 嬉しいんだ!

 

 

 がばっ、と。まどかを抱きしめてしまった。

 

「まどかぁ!」

「ひあっ……!?」

 

 そのまま勢いがつきすぎて、私達はもつれながら倒れ込んだ。

 

「あっ、わわっ!?」

「っまどか!」

 

 そのまま一緒に地面へ転がり、まどかが怪我をしない様に私の身体を下敷きにする。

 一瞬の痛みはすぐに緩和され、まどかの感触が全身で伝わった。幸せと罪悪感が同時に襲ってきたが、この喜びの前では些細だった。

 

「うっ」

 

 まどかの声が耳元で響いて、そのまままどかを思いっきり抱きしめて捕まえる。

 あったかくて、吐息が柔らかくて、身体から良い香りがする。肌も汚れなんて何一つなくて、自然なかわいさに満ちている。大好き。本当に大好き、本当にだ。愛おしくて、まどかが欲しい。私だけを見て欲しい。

 むしろ、まどかに……まどかに、私を見て欲しい。わたしをっ、みて……

 

 ふざけないで。まどかは、誰かのものじゃない。

 

「あの……」

「あっ、ああ、ごめん。ごめんね……」

 

 強烈な欲望に歯止めがかかった。自分の中からの囁きと、まどかの困惑気味な表情が私を正気に戻してくれた。

 自分が何をしてしまったのかを理解するにつれて、不安が膨張していった。嫌われてしまっただろうか。まどかは優しい良い子だけど、だからって気持ち悪い物は気持ち悪い筈だ。怖い人だと思われるのも嫌だった。

 

「私を私だって言ってくれたのが、嬉しくって」

 

 慌てて理由を説明すると、涙があふれ出た。

 不思議そうに首を傾けられた。変な人だと思うだろう。私も自分をそう思っている。

 

「うん。まどかには分からないかもしれないけど。私にとっては大切な事なの」

 

 当然、私自身も今の自分をおかしく思う。だってそうだろう。私は愚かで、壊れかけの魔法少女だ。

 己を定義する物すら持たない私の心に、まどかからの言葉が染み渡る。それは確固とした己を作る事の出来ない私の様な弱い存在にとって、まさに救済だった。

 他者に存在を認められる。その事をこんなにも素直に幸せに受け取れたのは人生で初、生まれてから初めて、誰かに認められる事を心の底からの幸福だと言い切れる経験となった。

 

「私は、未夕すいだもんね」

 

 気休めでしかなくても、まどかが私の事をそう呼んでくれるなら、私は私で居られる気がする。

 この子の前では、私は他の誰でも無い存在で居られる。

 運命なんて信じていなかった。

 けど、この出会いは信じられないくらいの偶然の中にあって、信じたくなるほどの奇跡だった。

 

 

「ありがとうっ……まどかにそう言って貰えて、私、とっても幸せだ……!」

 

 

 その時、周囲の空間が別な物に変わった。

 

「なっ……」

 

 爽快だった風景は非現実的なものに、柔らかな草は固い石畳に、あたりには到底人には見えないうごめくものの姿がちらほらと見える。

 魔女の結界に取り込まれていた。

 まどかに集中しすぎていた。そのせいで、察知するのが遅れた。魔法少女の癖に情けない。

「こんな、こんな時にっ……!?」

 

 そして、今戦ったら確実にソウルジェムが保たないだろう。

 そこまで私は強くない。魔女の結界に閉じ込められてしまった時点で、逃げるしか生き残る手は無いのだ。

 

 だのに、足が動かない。

 私の中の暁美ほむらが、それを許してくれなかった。まどかが私の腕に抱きついていたからだ。

 

「ひっ」使い魔の視線に、まどかがくぐもった悲鳴を漏らす。

「……」

 

 できれば、離して欲しかった。戦いたくない。死にたくない。

 

 しかし、まどかは無意識からか私に身を寄せ、震えて、顔には怯えが浮かんでいた。

 弱々しい手の力を感じて、自分の事みたいに心が痛む。

 「助けて」と雰囲気が語っていた。声に出さなくたって、必死で我慢しているのは明らかだった。

 

「ああ……」

 

 気持ちが、切り替わった。頭の中のスイッチが押されて、オンとオフが切り替わる気がした。

 引いていた足を前に向けて、魔女と使い魔を睨み付ける。ソウルジェムは濁りの中から輝き出して、身体を紫色の光が包んだ。

 

「まどか」

「あっ」

「怖いよね……」まどかの肩を強く抱き寄せ、穏やかに笑いかける。「いいの。怖くて当然よ」

 

 ……まどかに、鹿目さんに頼られているのに、何も出来ないままで居てはいけない。

 

 鹿目さんを救わなければならない。鹿目さんを守れる自分でいなければ生きている価値がない。鹿目さんは生きて、誰より幸せにならなければいけない。それが私の、唯一の願いなんだから。

 そうだ。時間操作の魔法が使えないとか、私の身体が暁美ほむらの物じゃないとか、そんな言い訳で、まどかを救う事から背を向けて良い筈がない。

 まどかを救う為ならば、私は私で無くなる事も厭わない。受け入れよう。そして、戦おう。

 暁美ほむらが、そうであるように。

 

 

【はやぁく!! まどかを助けにきてぇッ!!】

 

 

 意識を全力で結界の外へ、そして、暁美さんの耳に届く様に声を轟かせた。

 さて、暁美さんは気づいただろうか。私、いや暁美さんは鈍いから、気のせいだと思わない事を願う。

 

 さあ、心が立ち直ったからって、ソウルジェムが浄化される訳ではない。さっきまで生み出していた呪いは今も残っている。

 これが真っ黒に染まったらどうなるのか、私の中の暁美さんが答えてくれた。ああ、そうなのか!

 

「ふん……なるほどね」

 

 私は魔女になるそうだ。なんとも、なんとも。面白い末路ではないだろうか。

 だが、それが何だというのだ。魔女に殺されるのも魔女になるのも死ぬならどうせ同じ事で、どっちにせよ私が頑張らねばまどかが危ない。私の死に方は、まどかの命と比べられる程の価値はない。

 私は死ぬんだろうな。

 だけど、別にいい。心残りは沢山あるけれど、暁美さんが来るまでは何としてでも持ち堪えなければならない。

 心が沈み込んで上がって来れなくなって壊れるのが絶望だというのなら、これはきっと絶望ではなかった。頭が興奮に支配されていて、恐怖を感じる余裕すら無くなっていた。

 この子を守らなきゃ。魔法少女として、私として、この胸の願いとしても……年上の高校生としても。

 

 何より、この子は……

 

「まどか」

「え?」

「ふふっ。名前を呼んだだけよ。安心して、私は魔法少女で、年上の高校生なんだから」

 

 肩を撫で、出来る限り彼女が怖い思いをしないように微笑みかける。

 この子こそ、私がずっと求めていた大切で愛おしい人なのだ。

 彼女を救う事ができたなら、それだけで私の人生は価値があったと思えるだろう。

 この気持ちが暁美ほむらの物であったとしても、私は結局、その想いを受け入れたのだから。

 

 ああ、でも。本当は、こんな形の死に方じゃなくて。

 

「あの人と一緒に、戦えたら良かったのにな」

 

 まどかではなく、暁美さんに抱くこの誇らしさと憧れと、尊敬の念。

 この気持ちだけはかつての自分に思えて、愉快だ。

 だって、暁美さんが暁美さんに憧れる訳がないのだから。

 

 

 

+

 

 

 まどかを助けて、という言葉がどこかから聞こえてきた時から、ひどく嫌な予感がしていた。

 時間操作を併用しながら必死に走り、ほのかな魔女の痕跡を追って、今で数分ほどだろうか。

 やっとの事で見つけた魔女を倒して、それがたった今の事だ。

 

 爆風が魔女を消し去り、空間が歪む。

 本来ならば元の現実に戻るべきところが、何故か、別な魔女の結界に書き換わった。いや、最初から混ざり込んでいた結界が、一つの物に戻ったと言うべきだろうか。

 生まれたばかりの魔女は、まだ不完全な結界のままでそこにいた。

 

 その魔女を見た時に私が感じたのは、既視感であり、無力感だった。

 

 姿形に覚えは無い。これまでで一度も見た記憶の無い魔女だ。しかし、魔女の傍に倒れているのは、昨日遭遇した魔法少女だった。繰り返す中で初めて見た顔だから、印象深く記憶に残っていた。

 ソウルジェムが無くなっている。となると、目の前に居るのは彼女の魔女だろう。

 

 衝撃は、受けなかった。そうなる可能性は頭の中にあったからだ。

 いかにも初心者らしい立ち回りや魔力の少なさから言っても危うい人だった。ここで魔女になるのも、不自然ではない。

 でも、その気になれば助けられたかもしれなかった。

 私に好意的だった言動から考えても、ワルプルギスの夜との戦いに協力してくれるかもしれなかった。だが、結局は私は新しく出会った人の命を背負う事が怖くて、人を導く力などないと、きっとまた信じて貰えないと諦めて、逃げたんだ。

 

 ごめんなさいと、口に出かけた言葉を飲み込んだ。

 

 今やるべき事は、自己満足の謝罪なんかじゃない。まどかを助けなければならない。

 

 まどかの姿はそこにない。はやく、早く見つけないと。

 

 焦りを無理矢理に抑え付けつつ、見知った彼女の姿を探す。今できたばかりの結界には使い魔すらいない。後には砂漠に近い暗黒が広まるのみだった。

 

 魔女はその場で留まって、大きな人型になっては崩れ、また人型に戻ろうとして、崩れている。

 その魔女から生えた人間の腕の中に、覚えのある、忘れられる筈も無い髪が見えた。

 

「まどかっ!」

 

 名前を呼ぶと、彼女の身体が魔女から浮き上がった。

 気を失っているのか、まどかは返事をしない。

 あの魔女に殺されているのかもしれない。そんな最悪の想定を振り切って、時間を止めて駆けた。

 距離としては長くないのに、永劫と感じる程に遠い。それでも、私は気づけば魔女の目の前に立っていた。だけど、まどかは魔女に包まれていて、攻撃すれば巻き込んでしまう。

 

「くっ……」

 

 困難かもしれないけど、引き剥がすしかない。

 時間が流れ出したその瞬間、魔女はこちらを凝視した。形が崩れかけの人型で固まると、なにやら、その口元がニタァと笑顔に歪む。

 

 それが友好的な笑みに見えたのは、私の中の期待からかもしれない。

 魔女からの敵意は僅かにも感じられなかった。

 

 早く始末すべきなのに、気づけば私は何もせず、まどかの顔を見ていた。

 あの子は静かに呼吸をしていて、顔色もとても良い。

 

 ハサミやカッターナイフがまどかに向く度、人間の手がその指や腕を傷だらけにしてまどかの身を守っていた。

 その腕を、どこかで見た気がする。まどかを抱きしめるその手つき、肩を撫でる仕草も、なぜか知っている気がした。

 

 魔女を抑え付けていたものが、私を見た。目は無くても、見られた。

 そして、こちらの姿を認めるなり両手を突き出し、まどかをそっと抱き上げる。

 

 警戒する私に構わず、魔女はまどかをこちらに差し出した。

 黙ってまどかを受け取り、すぐさま退いた。

 まどかの身体は確かに動いていて、心臓の音が伝わってくる。あたたかで、優しい鼓動が彼女の生命を示してくれた。

 

「……私にしては、よくやったでしょう?」

 

 魔女が人間の声を発する。それだけでも驚くべき事だったけれど、それより衝撃的だったのが、その声に聞き覚えがあった事だ。

 そうだ、これは。録音して聞いた時の、自分の声そのものだ。

 

「ありがとう、まどかを助けに来てくれて」

 

 人型が、魔女の身体を突き破って現れた。

 その姿はどう見ても私自身で、髪をゆるやかにかき上げる仕草も私にそっくりだった。

 背後で魔女が苦しみだした。人型の、私の姿をした何かだけが静かにこちらを見つめている。

 

「ふふ」

 

 まどかと私を見比べて、その指で魔女に触れる。

 

「やっぱり、この子はあなたではないわね」

 

 表面を撫で回されて、魔女はその場を転がった。

 

「あなたになっていたのなら、この子はもう少しまどかを大切にできた筈だから」

 

 何者かの声は私には向けられていない。ただの独り言だ。

 ただ、自分の声を客観的に聞くのはあまり気持ちが良くなかった。そうやって嘆く姿も気分が悪い。

 

「ええ、そうよ。私には出来なかった」

 

 私の形をした何かは、顔を覆って泣き出した。

 魔女もまた同じ様に涙を浮かべて嗚咽を漏らす。その仕草は全く同じで、姿形だけが全く違う。

 

「結局のところ、私は寄生していただけ。何も出来なかった」

「……」

「私には出来なかった。ワルプルギスの夜の日を迎える事ですら私には出来なかった……私は、本当に無価値で」

 

 何者かがかっと目を見開き、涙混じりに魔女を罵った。

 

「役立たず!」

 

 そして己の指先を首筋に当てれば、魔女もまた同じように動く。

 魔女は抵抗していた。ふるふると首を振って嫌がっていた。だが、私の姿の何者かは止まらない。最後にまどかを愛おしげに見つめると、「まどか、ありがとう」と呟いて。

 

「せめて私に出来るのは、この程度の愚かな事だけよ」

 

 抵抗を諦めると、ほんの一言だけ魔女が何事か口にした。

 

「頑張ってね、暁美さん」

 

 魔女と人型が同時に動き、己の首に勢いよく指を這わせて。

 私の前で、魔女は消え去った。

 

 グリーフシードが転がって、私の手に落ちてくる。

 

 ああ、名前しか知らない魔法少女の遺体も、結界と一緒に消えて無くなった。

 

「珍しいね」

「インキュベーター」

 

 消えた結界の外から、待機していたインキュベーターが現れた。魔女に閉め出されたか、妨害を受けていたらしい。その身は満身創痍で、崩れかけだった。

 しかし、彼らにそんな事を気に留める思考は無い。己の受けた傷など全く考慮していない様子で、私の持っているグリーフシードを興味深そうに眺めている。

 

「時々いるんだ。こういう、自分からグリーフシードを落とす魔女がね」

「そう。もう魔女はいないわ、消えなさい」

「……」

 

 こちらをじっと見つめていたインキュベーターだけど、やがて顔を背け、私の前から去って行った。

 その姿が完全に見えなくなったところで、まどかを抱きしめる力を弱めた。

 まどかには傷一つない。小さな寝息を漏らして、安心しきった様子だ。

 

 

 結果としては、彼女はまどかを守って死んだらしい。そういう事になった。

 私なんかより、よほど良い生き方だった。私はまどかを守れていない。いつも失敗して、上手くいかなくて、最後は結局まどかを不幸にしてしまう。

 でも、私は彼女と違ってまだ死ねない。死ぬわけには行かない。今はまだ、まどかの未来を切り開けては居ないのだから。

 

「ほむらちゃん……?」

 

 鈴の音よりも優しい音色のその声は、私の耳を駆け抜けた。

 平静さを保つ為に唇を噛み、空いた手でグリーフシードを握りしめる。

 

「あの人は、すいさんはどこ?」

「……誰の事かしら」

 

 彼女はいつ、まどかと出会っていたのだろう。

 その事も私は知らない。まどかの怪訝そうな視線は、ひどく、痛かった。

 

「だって、さっきまで」

「彼女は、いないわ」

「でも」

「何も言わないで」

 

 まどかは息を呑んで、しかし、察してくれた。

 

「……わかった。ごめんね、ほむらちゃん」

「気にすることは無いわ」

 

 その瞳に浮かぶ涙を、拭ってあげたくて仕方が無かった。いや、気づいた時にはまどかの目元にハンカチを当てて、頭を撫でていた。彼女が涙する姿を、これ以上見たくなかった。

 

「んっ」

「……」

 

 まどかの視界から外れるところでソウルジェムを浄化し、そのままグリーフシードを仕舞って意識の外に追いやる。きっと、もう思い出さない方が良い。

 そのまま、私達は口を閉ざしたまま、並んでその場から離れた。まどかの横顔は本当に悲しそうで、見ているだけで苦しくなる。

 

 

 なぜ、まどかがこんなに辛い思いをしなければならないのだろう。

 認められない。絶対に認められない。

 

 

 私は、その運命を否定する為に魔法少女になった。今も変わらず、この気持ちは胸の中にある。

 死ぬならまどかを救う為に。最期をまどかの腕の中で迎えるなんて夢のまた夢。

 今まで踏みにじってきた多くのものがそれを許す筈が無い。

 魂をすり潰してでも、己の心が壊れたとしても、それでも。

 

「あなたが言わなくても、私は頑張るわ」

「……?」

 

 まどかの視線を浴びながら、自身の心に刻みつけた。

 きっと、どんな存在になり果てたとしても。

 まどかに、未来を渡すのだ。

 

+

 

 

 そこに暁美さんが居た。

 いつぶりだろうか、あの人に出会うのは。

 

「こんにちは、暁美さん」

 

 声をかけると、彼女が静かに振り向いた。

 目元がひどく曇っていて、心なしか前よりも怖い。しかし、そうやって恐ろしく濁った瞳からでも、感情が読み取れる。私の願いが生んだものが、暁美さんの心を予測し始めるのだ。

 ゾッとする様な深い闇を漂わせた表情だった。だけど、そうやっておぞましい面持ちをしても、深い勇気と意思が秘められていて、あるいは気づいてすらいない寂しさや悲しさもひしひしと伝わってきた。

 

「変わらない。いや、前より格好良くなったね、貴女は……」

 

 そして、分かる。

 私は暁美さんになれてなどいなかった。とてもではないけど、暁美さんと同じ高さで物など出来ていなかったのだと。

 ああ、私の絶望の正体は、単なる気のせいだった。

 

 記憶をどれほど模写したところで、本物になどなれはしない。私は暁美さんから気持ちと記憶を写し取っただけの存在で、どれほど近づこうと彼女の影にすら触れられる存在ではない。

 記憶があっても、感情があっても、実際に考えているのは未夕すいでしか有り得ない。

 安心したけれど、残念でもあった。

 

 

 

「あなたは、随分と変わったわね」

「変わるよ。なんせ一回死んでるんだ。まどかに高みへ連れて行って貰ったよ」

「っ……」

 

 

 私から一瞬で距離を取りつつも髪をさらっとかき上げて、大胆不敵でおっかない笑顔を見せつけてきた。

 初対面の時よりも強い。魔力とも感情の塊ともつかない何かが周囲の空間に満たされて溢れ、同じ空気を吸うだけで気分が悪くなった。

 こみ上げてきた吐き気を全力で無理矢理に抑え付けて、胃の辺りに手をあてる。魔力で気分を保たなければそのまま気を失いそうだ。

 

「あなたは、円環の理? ……何をしに来たの」

「うっ」胃が潰れそうだ。一方で、ほのかな幸福感が走る。「私の事、覚えてくれてたんだ」

 

 一度だけ、しかも少し会話を交わしただけの他人を、覚えていてくれているなんて思わなかった。

 苦笑して、暁美さんへ向かって手をひらひら振った。

 

「ああ、そういうのいい。私の前でなんか取り繕ったりする必要はないよ。そういう顔されたって、私は気にしないから」

 

 いや、むしろその表情が余りにも尊く美しくて、今の彼女の方が、昔よりもずっと尊敬に値する。

 

「私を止めに来たというの?」

「いーえ。むしろ、手伝わせて欲しくて」

 

 意外そうに目を見開く。

 

「手伝う……何のために?」

「私の憧れの為」

 

 端的に答えると、彼女は僅かに視線を逸らしてきた。

 思わず笑い声が漏れる。ああ、そうだ。そうだよね、そんな風に言われたら、目を合わせられないよね。

 ああ、もうっ。なんて、この人はっ……!

 

「確かに私は何の役にも立たない魔法少女のどん底だし、何にも力になれないかもしれない。でもきっと、貴女には味方が必要だと思う」

「必要ないわ」

「貴女が必要ないと思ってるのは知ってる。でも勝手にさせて貰う」

 

 足下の花に手を触れる。

 枯れかけのネモフィラを両手で包んで魔法をかけると、白に紫の斑点が入った花弁が可憐に咲き誇った。

 こういう魔法もあるものだ。

 

「間違えないで。私は暁美さんが格好いいと思ってるだけなの。何の引け目も感じることはない。ただ、私は貴女と一緒に戦いたい」

 

「でも、私には貴女と会った記憶が一度しか無いわ」

「幸いこっちには貴女の事を知る時間だけは死ぬほど、おっと、死んでるので山ほどあってね」

 

 円環の理に導かれ、暁美さんを知る機会に恵まれた。

 他者への、いいや、鹿目さんへの尽きない献身と自己犠牲。あの輝かしく愛おしい聖なるものと共に在るのは私ではなく、この人の方がずっと相応しいのだ。

 その権利を捨てて、今、彼女は目の前に居る。

 どんなに痛かっただろう。どれほど辛かっただろう。そして今も、どれほど自分を傷つけているのだろう。

 

「私の何を知っている、と?」

 凄まれても怖くない。まるで自分自身が無理矢理に恐ろしげな顔で振る舞っている様に見えて、微笑ましさすら覚えた。

「色々と」

 

 この人には孤独が似合った。たった一人で苦しみ傷つき追い詰められて、それでも倒れずに震える足を立たせる姿がとても、魅力的だった。美しさとはかくあるべきと、身体の全てが語ってくれた。

 本当なら、私みたいなのが傍に居たら、暁美さんは汚れてしまう。

 でも、暁美ほむらの様になりたいと希望を抱いたかつての魔法少女として、己の意思で選んだ大切な人に尽くすという欲求を満たす為に、私はここに居た。

 

「はー、どっこらしょ」

 

 草原の上に思い切り座り込んだら、思わず変な声が出てしまった。

 

「けふん、外見不相応の話し方なのは許して。オリジナルの貴女の前で格好つけると、まあ、恥ずかしいから」

 

 暁美さんは何も言ってくれない。

 だけど、私の口は勝手に回った。

 

「想像以上。いや、想像以上というかもう、私の認識を遙かに超えてたよ」

「だけど私には貴女の気持ちが痛いくらいにわかる……というか、無理矢理にでも理解させられちゃって。貴女が一つ行動をする毎に、きっと貴女はこう考えているんだろう、きっと貴女はそう考えているって、頭が勝手に動き出す」

 

 叶えられた願いは、今も私の中で動いている。

 時折、自分が自分であるのか、暁美さんなのかよく分からなくなった。

 でも今は不安じゃ無くて、むしろ気分が良い。私が契約した時の暁美さんと、今の暁美さんが少し違うからだろうか。

 

「はぁ、こんな願いしなきゃ良かった。気が狂いそう」「でも、やっぱり貴女は私の憧れだ。今も変わらず、綺麗で、格好いい。こんな私でも貴女を理解できるのなら、あながち間違った願いでもなかったかなあ」

 

 手をひらひら振って、さも平然としている風を装う。そうしなければ心が暴れ出しそうだったから。

 

「ま、気にしないで。私の事は下僕かなんかだと思っとけばいいし、綺麗で尊敬できる人の下僕なら喜んでやるって。自分で言うのもなんだけど、結構尽くしたい方なの。何だったら私に甘えても良いよ? 一応、私の方が人生の先輩だしね……貴女が見た目通りの歳ならだけど」

 

 私の話を、暁美さんはじっと聞いていた。暗い目元も雰囲気も、優美な輝きを秘めていて、ただ傍に居るだけで、あまりの位の高さに私の意識が萎縮する。

 それでも彼女の身体は、私より小さかった。その小さな身がこちらに向くと、か細い声で呟いた。

 

「……きっと、後悔するわ」

「大丈夫。ずっと前から引きずる後悔しかない人生だから。願った希望にも裏切られたし。今更悔いが一つ増えたくらいで何さ」

 

 暁美さんがその場から一歩後ずさり、その面持ちは戸惑っている様にも見える。

 ああ、その気持ちは分かる。

 こんな風に誰かに尊敬されて、敬われて、崇拝されて、憧れを抱かれて。その対象が自分である事がどれほどの壮絶な驚きをもたらすか。私にも分かる。

 自分がそんな感情の対象になるなんて一度だって想像したことも無かっただろう。大切な人を大切だと言える心を持ったとしても、自分が大切な人だと言われる事は全く知らない。理解が遅れるのもごく自然だった。

 

「ま、あれだよ。もし何かあったら全部の責任を私に被せるといい。で、貴女は鹿目さんの傍で楽しく一生を過ごす。どう?」

「……必要ないわ」

「貴女に必要なくたって、私には必要なんです」

 

 努めて気軽な口調を維持していたけど、いい加減に限界だ。

 無遠慮に暁美さんへ近づいて、その腕を掴む。ああ、想像以上に細い。今にも壊れてしまいそうな、小さく細い肉体だ。掴んだ瞬間の一瞬の震えも、今の私は見逃さない。

 

「命も落として、希望も無くして、鹿目さんを裏切った。もう私には貴女しかいない。いないんだ」

 

 ずい、と顔を近づける。

 相変わらず柔らかそうで綺麗な肌だ。肌荒れとは無縁だろう。でも、その表情が心なしか疲れを現している気がした。

 

「だから、貴女は命を持って、希望を持って、鹿目さんと一緒に人生を過ごして欲しいんだ。私が失った物を貴女が手にする所を見て自分を慰めたい。今の私に残ったただ一つの願いだよ」

「方便ね」

「そう、貴女の味方でいる為の方便!」

 

 やっとしっかり反応してくれた。その喜びを声に出す。

 

「貴女が気に病む事なんか無い。私は私の為に暁美さんの味方でいる」

 

 決して暁美さんの為なんかでは無い。

 そう強調しておかなければ、暁美さんはきっと必要以上に気に病むのだ。

 

「なんだったら私に甘えてみる? 一応年上だし、色々聞いてあげるけど」

「話すことは何も無いわ」

「そう? ま、貴女って苦しいくせに頑張る人だよね」

「……」

「それにしても、一回くたばってみると、もうなーんにもしがらみが無くていいね。暁美さんはしがらみばっかりで大変そうだけど、大丈夫だよ。これからは私もいるし……役に立たない? まあ、そうなんだけどね。一人でやるよりは無能でも何でも話し相手の一つでも居た方が楽でしょ。無能でもね」

「……よく、喋るのね」

「ふふっ、これが今、憧れの子を前にして何を話して良いのか分からなくて内心混乱状態の人間って奴なんだ。ごめんね、なんか意味分かんないでしょ。私も意味分かんない気分だから、でもすっごい良い気分なの!」

 

 はしゃぎ過ぎた。恥ずかしくなって、咳払いを一つ。

 

「……この話はここまで」

 

 自分から話しかけておいて、と思われただろう。

 別に構わない。暁美さんに嫌われるのは身を突き刺される気分だけれど、好かれたくてここに居る訳ではない。

 むしろ嫌われていた方がいい。暁美さんと違って、円環の理に導かれた私に未来なんてないのだ。

 きっとこの方が、暁美さんの心は安らぐだろう。

 

「貴女は、悪魔なんでしょう? だったら悪魔のままでいいから、私を貴女の眷属にして欲しい」

 

 両手を広げ、堂々と言い切る。

 

「私だって、まどかが大好き。まどかを助けたい、まどかを救うんだって、ちゃんと思える」

 

 思えていると誤魔化している。自分で言っていて笑ってしまいそうだ。

 まどかに感じる薄汚い想いは、この人の前では絶対に見せたくない。あくまで、まどかを友達として愛さなければならない。

 

「まどかを救う力の一つになれるのであれば、この魂くらい悪魔に売り渡しても構わないから……」

 

 そして、人生の目標である魔法少女であり、憧れの悪魔である彼女の役に立てるのなら、既に失った私の命にも少しは意義が見いだせる気がするから。

 

「……ね、暁美さん。私を、貴女に巻き込んで?」

 

 下手かもしれないけど、それが私の、精一杯のウインクた。

 

 そして、そんな私の心を聞いた暁美さんの表情は、戸惑いと驚きでいっぱいいっぱいになっていた。

 

 ああ、やっぱり綺麗だ。

 

 相応に人間らしい表情と、その心の在り方の美しさ。両方を含めて、どんなものより熱く強く輝く人。

 少なくとも、私にとっての彼女は、そういう人だった。

 

 

 




変わるという事はそれまでの自分を殺害するという事だと私は思います。
そういう意味では、我々は一瞬前の自分を殺して成り代わっていると言っても良いのかもしれません。昔の私は、そのことを非常に気に病んでいました。
今も、暁美さんの事を尊敬している自分がいつ死ぬのかは分かりません。が、そうなった後に生きている私は、きっとこうしている私とは別人の様な物でしょう。

必死になって昔の自分を殺している暁美さんの姿を見ていると、なんだか、そうやって悩んでいる自分が悲しくなるやら、暁美さんの姿があまりにも悲壮で、だけどとても美しくて、私もこんな風に鹿目さんを想いたいと思います。


さて、あまりポエム臭い話をしてもしょうがないので、この作品の内容についてあとがきでも。

なんとなく書きたくなったのでリハビリがてら書きましたが、私の他の作品に目を通した方ならご存知の通り、いつもの「自己投影オリ主」です。今回は大部分を私が占めており、一部が単なる魔法少女でした。
それもそのはず、執筆時の私の精神状態が如実に反映されるので、ある種この作品は私の日記みたいなものです。
主人公がこんな風に考えるんだよ、と思った方は、その時の私がそう考えていたからだ、というのが答えです。残念ながら……
お察しの通り、未夕すいは「暁美ほむら」の反転です。美しい夜明けの炎で暁美ほむらなら、未だ夕焼け前の水面、で未夕すいだな、って。

で、こいつは別に暁美さんになったわけではありません。「暁美ほむらになったつもりでいた」だけです。
本人は勘違いした挙句絶望しましたが、ぜーんぜん。そもそも本当に暁美さんになっていたら別に気にならないですしね。



それにしても、尊敬と崇拝を向けられた暁美さんの混乱と気後れと、「なぜ?」という表情を想像すると、なんだろう、綺麗だなと思います。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。