―――――音楽室
Side 川上宗一
「つまり、景品の白金の腕輪は明久と雄二以外の生徒が使うと暴走する危険品で、教頭は学園長を失脚させるために常夏コンビを従わせて優勝を取りに来てる、と」
「ああ、大雑把だがその認識で間違ってはいない。宗一の予想はやはり当たっていたようだ」
「なるほどのう。じゃから学園長は明久と雄二に優勝させようとしておるのか」
「…………納得」
僕はギターを、秀吉がキーボードを、康太がドラムを叩いて音を調節しながら、僕らは話していた。
姫路たちをチンピラ共から救出した後、校舎へ戻ってきた時には学園祭1日目は終了し、校舎に残る人はまばらだった。
日はほとんど沈み、辺りは夜になりつつある。
こんな時間にさっきまで誘拐されていた女子達を帰らせるのも憚られた僕達は、秀吉と康太と一緒に女子5人を家まで送ることになった。
ただまあ大勢でぞろぞろと女子達を送って行くのも効率が悪いので、二手に分かれることになったんだけど――
「じゃあ僕は、工藤と姫路を送って――」
「―――っ!」
「……工藤?どしたん?」
「なななな、なんでもないよっ!!」
なんでもないって言う奴に限って大体何かある。そんな工藤はカラオケから学校まで連れ戻してからずっと顔を真っ赤にして、僕とずっと目を合わせてくれない。
なんだろう、嫌われるようなことをしたっけ。
ひょっとしてお姫様抱っこをしている時、こっそりとお尻触ったり太ももの感触を楽しんでいたのがバレていたのかしらん。
それとも僕に触られるって、そんなに嫌だったのかな。でも前の時のことは気にしなくていいって言ってたし……。
「……」(ササッ)
「……」(ササッ)
工藤の正面に回り込んで顔を覗きこもうとすると、工藤はそっぽを向くように体を反対側に向けてしまう。
更に回り込んで顔を覗きこもうとするとまたもや工藤はそっぽを向き、もう一度顔を覗きこもうとするとやはりそっぽ向く工藤。なんといういたちごっこ。
「とりあえず、ちょっとボクのことは放っておいて……今気持ちに整理がつかないの……」
とりあえず僕が痴漢で訴えられる事態は避けられたということは一応分かった。けどなんだそのとろけた声音は。顔は手で隠されちゃっているからどんな表情をしているかは分からないけど、両手の隙間から見える彼女の顔から首まで真っ赤になってしまっている。
どういうことなの、誰か説明プリーズ。
そんな救いを求めて姫路と美波の方に視線を向けると――
「「……(にっこり)」」
なんだその慈愛に満ちた笑みは!子供を見守る親のような優しい微笑みしやがってコンチクショウ。
結局まともにコミュニケーションをとることができなかった工藤と知らない間に工藤と仲良くなったらしい姫路を、秀吉と康太が送ることになり、美波の家には何回か行ったことがある僕が、美波と葉月ちゃんを送っていくことになった。
「変態のお兄ちゃん、本当にありがとうございましたですっ!とーってもかっこよかったですよっ!」
「ありがとね、宗一。本当に助かったわ」
「ふふん。どういたしまして。これからはヒーロー川上くんと呼んでくれてもいいんだよ」
不良達から
「じゃあ、
「オイ待てコラ」
よりによってそのあだ名をチョイスするとは。悪意しか感じられんぞゴラァ。
けれどまあ、誘拐されたと言うのに茶化せるなら大丈夫だろう。葉月ちゃんも怖かったけれど、トラウマになるほどのことじゃなかったみたい。大好きな明久が助けてくれたという出来事が印象に残り、むしろプラスになっているようだ。よかったよかった。
けれどさ、美波だったらあんなチンピラぐらい簡単に倒せるんじゃないの?いつものゴリラみたいな馬鹿力は一体どこにアイタタタタタやめてぇ!右手首はダメ!作家にとっての命だからぁぁぁぁぁぁ!
無事に二人を家まで送り届けた僕は学校まで戻ってくると、さっきまで今回の騒動の元凶ともいえる学園長と話していたらしい明久と雄二が神妙な顔をして待っていた。
姫路たちを家まで送った秀吉、康太と合流した僕らは、さっそくと言わんばかりに今回の騒動の原因について訊いてみたのだが――
「控えめに言って、学園の危機?」
「そうじゃのう……かなりまずい話じゃ」
「え、秀吉も宗一も、今の話分かったの……?」
「いや、普通に分かるでしょ……って、なんで膝を着いてるのさ明久」
「見ないで……ババアと雄二の話のほとんどが分からなかった僕を見ないで……」
試験召喚システムを導入した学校は、まだ多くない。この学園の学費が私立なのにバカみたいに安いのも、このシステムはまだまだ試験段階であるからだ。
海外には姉妹校があるらしいが、いくら試験召喚獣のシステムが画期的とはいえ、世間に受け入れられたかと言われると「NO」だろう。
そんな時にシステムの一部である『白金の腕輪』が暴走し、誰かが怪我をした――なんてことになれば、まず間違いなく世間からバッシングを受ける。
ただでさえ注目を受けている文月学園だ、世論に押されれば最悪の場合、学校自体が閉鎖、なんてこともありうるのだ。
「学園の運命はまさに二人にかかってる、って感じだね」
「…………責任重大」
「何言ってやがる。元々俺達は優勝するために参加してんだ。今更学園の問題だとか関係ねえ。ただ勝つだけだ」
雄二はそう言ってにやりと笑う。普通の人だったらプレッシャーを感じて縮こまっても仕方ないだろうけど、雄二の肝っ玉の太さはやはりすごい。
「明久は平気?」
「うん。幸い、平均点が高くないと暴走は起きないらしいから。僕らが暴走を起こしたらシャレにならないしね」
「あ、いやそうじゃない」
「?」
「明日の決勝戦、常夏コンビなんでしょ。しかもAクラス。大丈夫なの?」
「何言ってるのさ」
明久はそう言って笑った。
「雄二に宗一、ムッツリーニに秀吉。皆に手伝ってもらってここまで来たんだ。しっかり勝つよ!あんな卑怯なことばっかりしてくる常夏コンビに負けるわけないじゃないか!」
明久はそう力強く――勝利宣言をした。
なんの疑いもなく。Aクラスの連中を
自分達の勝利に確信を抱いているのか、何も考えていないのか。
前も言ったけれど、文月学園は学力至上主義だ。
本来、勝ち組のAクラスに最底辺のFクラスはどう戦っても勝てない。
それが不変のルール。学園の常識。
けれど、明久ならそのルールさえ、覆してくれるような。
そんな風に想わされてしまえる。
明久の言葉に、思わず僕らは眼を見開き、顔を見合わせ――笑ってしまう。
「な、なにさみんなして笑って!」
「いやいや――明久はバカだなって」
「そうじゃの。明久はバカじゃ」
「底が知れないバカだよ」
「…………(コクコク)」
「皆なんて嫌いだっ!」
違うよ明久。今のはバカにしたんじゃなくて、褒め言葉なんだから。素直に受け取っておきなよ。
「じゃ、後夜祭のバンドの練習しよっか。明日は雄二達も速いから、かるーく済ませよ」
明日はいよいよ学園祭二日目。明久達は大会の決勝戦、そしてその後後夜祭だ。
キャンプファイヤーに集まる生徒を対象に、グラウンドでコンサートとして音楽を演奏する手はずになっている。
大きな炎の周りで学園祭の終わりを音楽で締めくくろうと言う考えだった。
ステージは既に軽音部が使ったステージを使い回しで使えることになっているので、僕らはこうやって曲を練習することに専念できる。
「明久のテストの見直しもあるからな。そっちに時間を回せるのならありがたい」
「そうじゃのう……それにしても宗一よ」
「何?」
「宗一は物を教えるのが得意のようじゃのう」
「そう?」
秀吉の言葉に、僕は思わず目を丸くする。すると雄二も、その言葉に同意するように頷いた。
「ああ。俺もたった2、3回指導を受けただけでここまで劇的に変わるとは思ってもいなかったぞ。それなりにギターはやってきたつもりだが、前より格段に腕が上がったのが実感できる。それにあの明久でさえ、すぐに曲をマスターできたんだからな」
「大したことはしてないよ。下地はできてたから、コツをちょっと教えただけだって」
「つい先日までチューニングとチューイングガムの区別がついてなかった奴がコツを教えられただけでそう簡単にマスターできるのか……?」
うーんどうだろう。確かに明久はバカだけど、好きなことややりたいことにはとことん集中できるタイプだ。それが勉強に向かなかっただけで、興味ややる気がギターに合っただけなんだと思うんだけどなぁ。
「宗一よ、お主はもしかしたら――教師の才能があるのかもしれんぞ」
秀吉はキーボードを軽くいじりながら、僕にそう言った。
「教師ねぇ……想像したこともないや。でもエロ漫画ばっか描いてる奴が聖職なんてなぁ」
「いいんじゃねえの?俺もそう思うぜ」
「雄二まで」
「人の相談や悩みを偏見を持たずに聞き、人の心理をよく理解する。物事を予測する力もあり、何かを教えることが上手い。宗一、お前はよく俺らのことを才能があると言うけどな、俺も才能はあると思うぞ?」
「そこまで言われると嫌な気はしないけどなぁ……」
どうにもむず痒い。普段罵倒されてばっかりなので、こういう風に褒められるのがどうしても慣れない。
「でもなぁ」
僕はちらりと明久を見る。
「? 何だよ宗一」
「明久みたいな馬鹿な生徒を持つの、すごく嫌だよ」
「ああ、そうだな。俺もよく考えたらすごく嫌だ。悪かった宗一」
「よし、二人とも表出ろ」
それにしても、教師かぁ。
考えたこともなかった。
でも――ちょっとだけいいかも、と思ってしまったのは内緒だ。
平成最後の投稿です。
令和になってものんびり書いていくのでどうぞよしなに。