今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。【完結】   作:沙希斗

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「古龍」の話は、なんとなく古風なタイトルを付けたくなるのです。


白き角、雷(いかづち)を纏いて

 

 

 

 その日アレクトロは、ベナトールと共に【塔】に来ていた。

 以前【火事場】で【グラビモス】二頭の討伐競争をして以来、なぜか気に入られてしまったのである。

 この大男もカイとは知り合いとの事だったのだが、カイの方は【クエスト】には誘おうとしない。

 理由を聞いたら「【モンスター】ではなくて【カイ】の方を襲いたくなるから」なんだそうな。

 それ故か、カイの方もベナトールとは一緒に【クエスト】には行きたがらない様子。

 なので、仕方なくアレクトロだけ付いて行くハメになったのである。

 

 【塔】で多く採れる【古代豆】や、たまに採れる【怪力の種】などを採取しつつ、ついでに【王族カナブン】やら【ドスヘラクレス】やらの虫も捕りつつ、上に進む。

 地図でいう《5》に入った時、【それ】はいた。

 周りで喧しく鳴き交わす、【白ランポス(ギアノスとも言われている)】共を従えるかのように、堂々と歩いている。

 その威厳に満ちた純白の体は、内側から光を放っているかのよう。

 【モンスター】としては決して大きくなく、それどころか【鳥竜種】より小さいのではないかと思われる程の体躯ながら、神々しささえ感じる美しい姿。

 アレクトロはその姿を見るたびに、まるで神の使いに遇ったかのように【それ】が狩りの対象である事を一瞬忘れて見惚れてしまうのだった。

 

「出やがったな? 【白ケルビ】め」

 隣で嬉しそうに、身も蓋もない事を言うベナトール。

「【キリン】だっつの!」

 突っ込みつつ、まあ殺され続けた【ケルビ】が、恨みで蘇った姿っつう噂もあるしなぁ。などと考えていた。

 最も、【ケルビ】が二本角なのに対し、こちらは一本角なのだが……。

 そう。今回の狩猟対象は【キリン】という、馬(もしくはケルビ)によく似た【古龍】なのである。

 

 ヒイィン!

 

 二人に気が付いた【キリン】は、嘶いて跳ねながら近寄って来た。

 そのステップは真っ直ぐではなくジグザグなので、相手の体が小さいのもあって、中々攻撃が当て辛い。

 このジグザグステップは【ケルビ】と同じなので、通称【ケルビステップ】と呼ばれている。

 相手が小さいのと、動きがちょこまかして速いのもあって翻弄されるため、アレクトロにとっては苦手な部類に入る【モンスター】だった。

 それ故少しでも攻撃を当てやすくしようと、いつもの【大剣】ではなく【双剣】を持って来ていた。

 ベナトールはと見ると、いつものように重い武器である【ハンマー】を携えている。

 この男程の筋肉量なら、むしろ軽い武器に入るのかもしれないが。

 

 【キリン】には特に弱点属性が無いと言われているのだが、それでも僅かに火が通るとの事なので、二人とも【火属性】の武器を使っている。

 そのために【キリン】に攻撃が当たるたびに派手に火の粉が飛び、輝く体が一瞬紅く照らされた。

 

【挿絵表示】

 

 

 ヒイィン!

 

 再び嘶いて首を反らした【キリン】の白い角が、輝きを増す。

 角を振り下ろす仕草をしたと同時に、前方に雷が落ちて来た。

「うぉっと!」

 正面から叩き付けようと近付いていたベナトールは、間一髪で横回避している。

 左右ずつの切り下しを試みようとして脇をすり抜けられたアレクトロは、慣れているなと思った。

 恐らくそうやっては一人でも狩っているのだろう。

 

 ヒイィン!

 

 嘶いて角が輝くたびに、前方、後方、あるいは周囲と雷が落ちる。

 それを避けつつ攻撃しなければならないのだが、よく観察してみると雷が落ちる場所に規則性があるらしく、それが当たらない安全地帯から近付けられるようだ。

 熟知している様子のベナトールは難なく回避しつつ攻撃しているようだが、翻弄されているアレクトロにとっては、それは苦行だった。

 二人は周りにいる【白ランポス】を無視し、【キリン】にだけ攻撃を集中させていたのだが、【彼ら】は双方の攻撃に巻き込まれては数を減らしていき、結局意識して攻撃を仕掛けなくとも全滅してしまった。 

 

 

 やがて、度重なる攻撃に怒ったのか、【キリン】の速度と攻撃力が増して来た。

 それどころか常にバチバチと全身に雷を纏わせており、脇をすり抜けられるだけでもビリっと電気を感じるようになった。

「うほっ♪ 効くねぇこりゃ」

 それすら楽しんでいる様子のベナトール。

「余裕がある奴は良いな!」

 アレクトロは吐き捨てつつ攻撃した。

 それでも振り向き様に叩き付けているベナトールに合わせ、後ろ脇辺りから【鬼人化乱舞】で切り込んだり出来るようにはなってきた。

 

 が、やはり落雷を受けて浮っ飛ばされてしまった。

 スキルポイントが足りなくて、〈麻痺無効〉ではなく〈麻痺軽減〉しか付けられなかったアレクトロは、通常よりは短い時間ではあるが麻痺ってしまう。

「お、おい大丈夫かよ!?」

「な、なんとか……」

 麻痺が抜けたアレクトロがよろ付きながら立ち上がった、まさにその時。駆け寄って来た【キリン】が頭を低くしたのを彼は見た。

「避けろアレ――!」

 声より先に体が勝手に駆け出したベナトールは、間に合わないと思った。

 アレクトロは自分に迫って来る角を見ながら、ガード出来ない【双剣】を持って来た事を後悔した。

 

 ドンッ!

 

 それでも避けようと試みたアレクトロの右胸辺りに、衝撃が走る。

 【キリン】の角は、重装備の鎧を易々と通り抜け、肺を穿った。

 相手は彼を串刺しにしたまま一旦首を持ち上げると、まるで角に付いたゴミを振り落とすがごとく、勢いよく横に首を振った。

 角が抜けた事で大出血したアレクトロは、血飛沫と共に地面に叩き付けられた。

「アレク!!」

 悲痛な呼びかけに答えようとした彼は、代わりに大量の血を吐いてしまう。

 傷付いた肺からせり上がって来た血が喉を塞ぎ、息が出来ない。

 胸を押さえて何度も喀血していたアレクトロは、やがてヒクヒクと必死で息を吸おうとする動作をした後、動かなくなった。

「アレク!! アレク!!!」

 【キリン】に攻撃しながら、ベナトールは呼びかけ続けた。

 

 状況から見て息が止まってしまったらしいと分かったが、【キリン】には【閃光玉】が効かないので、それを投げて目晦ましになっている内に逃げるという方法が行えない。

 それに隙が無い【モンスター】なので、このままでは担いで逃げる事を許してもらえないだろう。

 かといってこのまま討伐するまで闘うなどという悠長な事をしていると、その間に確実に死んでしまう。

 

 と、どこからか賑やかな猫の声が聞こえて来たと思ったら、倒れたアレクトロを担ぎ上げて【猫車】に乗せ、【アイルー】達が運び去って行った。

 これで追撃される心配はなくなったが、【救助アイルー】は【ベースキャンプ】まで運ぶのが仕事なので、手当まではしてくれないだろう。

 

 絶望の面持ちで闘っていたベナトール。

 だが自分が【眠り投げナイフ】を持っていた事を、今更ながら思い出した。

 それを使って眠らせ、最大溜めを当てるつもりで持って来ていたのである。

 希望が見えたベナトールは即行動に移すと、【キリン】が寝ている間に【ベースキャンプ】まで駆けた。

 

 死ぬなアレク! 死なんでくれ!

 

 そう心で強く呼び掛けながら。

 

 

 到着したベナトールが見たものは、テント前に転がされたままのアレクトロの姿。

 やはり彼奴等(きゃつら)は【猫車】から彼を放り出したまま、その場に放置して去って行ったようである。

「アレク!!」

 呼び掛けるが、やはり反応が無い。

 胸の起伏も無い、まだ息が止まったままなのだ。

 急いで胴鎧を引き剥がし、穴の空いた右胸の出血を止める。

 先にそれをやっておかないと、呼吸を確保してもまた血で塞がってしまうからだ。

 喉に詰まった血を吐き出させたいが、意識が無いので無理だろう。

 ならば取るべき方法は……。

 自分の兜と彼の兜を取ったベナトールは深く息を吐き出すと、彼の口を自分の口で覆って思い切り吸い込んだ。

 

 急に喉の中に空気が入り込んだ事を感じたアレクトロは目を覚まし、自分がどういう状況になっているのかを知るや否や、思い切りベナトールを突き飛ばした。

「おぉ目を覚ましたか!」

 吸い出した血を吐き出しつつ、嬉しそうにベナトールが言う。

「おえぇっ!」

 彼がしてくれた事は理解出来たが、えづいてしまうアレクトロ。

「ひでぇ奴だな。こうしなきゃ死ぬとこだったんだぜ? お前」

「分かって……おぇっ! それには有難いと思っ……おえぇ!」

「ちっとも有難いように見えんのだがな」

 ベナトールは苦笑いした。 

 

 

 【秘薬】を飲んで休憩したアレクトロは、再び【キリン】の前へ。

 ベナトールには「【リタイア】しても良いんだぞ?」と言われたが、【幻獣】と呼ばれる程数が少なく、また目撃例も少ないこの【古龍】の依頼を逃せばまたいつ狩れるかも分からないため、無理を承知で通したのだ。

 それに【キリン】相手に重症になるのは覚悟の上だったので、死にかけたといって【リタイア】する気など、ハナからアレクトロにはなかった。

 

 調合した【眠り投げナイフ】を再び当てたベナトールは、最大溜めを振り被り、寝ている【麒麟】の弱点である角に叩き付けた。

 その直後、【鬼人化乱舞】で切り刻むアレクトロ。

 【キリン】の皮膚はかなり硬いのだが、それでも幾筋かの裂傷が走る。

 純白に輝く体にいくつもの血の筋を付けられた【キリン】は、それでも抵抗を止めようとしない。

 が、やがてベナトールが当てた攻撃に吹っ飛ばされると、そのまま動かなくなった。

 

「……やったのか……?」

 肩で息をしながら、アレクトロが言う。

「あぁ。【クエスト成功】おめでとう」

 そう言われてその場にへたり込み、四つん這いで喘いだ。

「やはりまだ、上位【キリン】はキツかったか?」

 ほくそ笑みながらベナトールは言った。

「キツいなんてもんじゃねぇぞ! なんだよあの攻撃力!?」

 彼にしては珍しく、弱音を吐いた。

「まあ【慣れ】だな。どの【クエスト】にも言えるが、こればかりは数踏んで立ち回りを自分で覚えるしかねぇぞ」 

「んなこた分かってるよ」

「ま、その内お前の得意な【大剣】でも、翻弄されずに狩れるようになるだろうよ。慣れれば【裸】でも」

「オッサンよぉ、そんな状態で【キリン】狩ってんのかぁ!?」

「おう。電気刺激が気持ち良いからな♪」

「変態かよ……」

 

 ぼやきつつ、彼のように無駄な動きが無いハンターになりたいなと思ったアレクトロであった。

 

  

 




「フロンティア」が「2(ドス)」ベースだった頃(今よりも2に近かった頃)は、白い「ランポス」には「ギアノス」という名前がありませんでした。
なのでその頃のハンター達は「ランポス亜種」とか「白ランポス」などと呼んでいたんです。

あ、それから「猫タク」というのはPSPに「モンスターハンター」の世界が移行してからの言葉なので、「フロンティア」の世界には未だにその言葉はありません。
なので私は「猫車(ねこぐるま)」と呼んでおります。

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