君は小宇宙を感じたことがあるか?俺はない。   作:高任斎

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ちょっとやりすぎたかもしれない。(震え声)


あいりすさんじゅうはっさいの回顧録。

1:あいりすさん16歳。(ぽんこつ味)

 

 

 週に1~2回の頻度で、アルさんのもとに出向き、飛ばされ続けて早一年。

 

 階段を登るように成長したというわけではなく、ある日、いきなり壁を越えた感じがした。

 小宇宙が燃えるというか、自分そのものが広がったような感覚。

 もしかすると、これがイオニス様が言ってた、セブンセンシズってものかしら。

 

 私の拳が、光の速さに到達した。

 

 光の速さでアルさんを攻撃したら、光の速さでぶっ飛ばされた。

 いい気になりました、ごめんなさい。

 

 そしてアルさんが、微笑みながら言ってくれた。

 

『これでようやく、黄金聖闘士として最低水準に届いたかな』

 

 アルさんの、黄金聖闘士の基準がよくわからない……。

 

 教皇様にイオニス様。

 あの2人を基準にしているのかしら?

 

 私、褒めて欲しかったんだけどなあ。

 

 

 もやもやした気持ちを抱えながら、アリスとしてアルさんに会いにいく。

 

 アルさんの手料理と、私が持参した飲み物。

 ぶ、分担作業よね。

 そう、これは分担作業。

 飲食物っていうし。

 食べ物と飲み物で、負担は半分ずつ。

 

『人は、満足するとそこで成長を止めてしまうから。もし、アイリスさんが落ち込んでいるようなら、アリスさんは優しい声をかけてあげてください』

 

 んもー、アルさんったら。(手のひらぐるんぐるん)

 

 これからも、頑張ります。

 

 

 

2:あいりすさん17歳。(ぽんこつ味)

 

 

 アルさんの底が見えない。

 いまさら小宇宙の事を言い出すつもりはないけれど、この人はどこまで行けるのだろう?

 

 私は成長した。

 強くなった。

 

 でも、アルさんは……ずっと変わらず、私を飛ばす。

 多彩に、緩急をつけて、いろんな手段で私をぶっ飛ばす。

 

 ……あの、謎の治療とか、本当になんなのかしら?(震え声)

 

 ああ、でも。

 アルさんが、私のことを考えて、見てくれている。

 それが、嬉しい。

 

 

 そしてまた、私はアリスとしてアルさんに会いにいく。

 

 アルさんの料理、美味しい。

 アルさんが、優しい。

 

 でも。

 アリスに……優しいのよね?

 アリスだから、優しいの?(心の闇フラグ+1)

 

『アリスさん。最近、アイリスさんのことで気がついたこととかありませんか?』

 

 んもー、アルさんったら。(心の闇、ぱああぁぁぁ)

 

 毎日、楽しいです。

 

 

 

3:あいりすさん18歳。(乙女味)

 

 

 うん、間違いない。

 最近、アルさんが格好いい。

 背も伸びて、いつの間にか追い抜かれてしまった。

 

 

 最初に会った時から3年……アルさんも、15歳かぁ。

 

 え、3年?

 いつの間に?

 

 

 また私は、アリスとしてアルさんに……あ、あ、あ、アルに会いにいく。

 

『知り合って3年も経つのに、さん付けで呼ばれるって、他人っぽくていやね』

 

 アリスとして、アイリス様の近況を報告する。

 ふ、普通よね。

 従者だもの。

 

『じゃあ、アリスさんのことも、アリスとお呼びしたほうがいいですか?』

 

 へえ……。(心の闇フラグ+1)

 私じゃなく、アリスが先に、ねえ……同じ私だけど、気分悪いわ。(さらに+1)

 私のほうが先に出会ったのに……。(さらに+1)

 

『……ちょっと待っていてくださいね、アリスさん』

 

 アルが、席を立つ。

 

 え、今……アリス『さん』だった?(-1)

 そ、そうよね……アリスよりも、私のほうが優先よね。(-1)

 

 少し時間がかかったけど、アルが堅焼きクッキーを持ってきてくれた。

 

『これを、アイリスさんに渡してください。お口に合うといいんですが』

 

 あいますあいます、あわせます。(心の闇、ぱあぁぁ)

 あ、でも今アイリス『さん』だった。(+1)

 

 でも嬉しい。

 アルさんの手料理を、アイリスとして初めて食べられる。(混乱により、+1)

 アリスにはあげない。(+1)

 

 

 クッキー美味しい。(心の闇、ぱああぁ)

 

 

 

4:あいりすさん19歳。(乙女味)

 

 

『おはよう、アル』

『おはよう、アイリス』

 

 自然な挨拶。

 いい感じね。

 

 ふふん、アリスは未だにアリス『さん』だものね。(+1)

 

 さて、今日も元気に、頑張って飛ぶわ。

 

 

 

 アルに会いにいく。

 

 でも最近、ちょっとアルがアリスによそよそしい気がする。

 それでいいんだけど、嫌な感じ。(+1)

 

 ちょっと、聞いてみようかしら。

 

 

『最近、アイリス様と仲が良いようですが、私に対してよそよそしくありませんか?未だにさん付で呼ばれますし』(直球)

『……えっと、嫌だったのでは?』

『は?』(無意識の威圧)

『アリスとお呼びしたほうがいいですかと聞いたとき、ものすごく嫌そうな表情だったので……すみません』

 

 え、これって、喜べばいいの?

 アリスが私でアイリスで……混乱してきたわ。(+3)

 

『アイリスもアリスも、その、まずひとりの女の子として尊重したいなと思ってたので……その、すみません』

 

 女の子、女の子、ひとりの女の子。(混乱してるけど幸せ)

 

 

 帰り際に渡してくれたクッキーが美味しい。

 アルが、私のために作ってくれたクッキー。

 

 

 私の仮面。

 素顔を見せても、アリスは私の仮面だ。

 

 もう少し、正直になったほうがいいのかもしれない……。

 

 

 

5:あいりすさん20歳。(迷子味)

 

 

 アテナの身体の具合が良くない。

 

 身体を診るということで、アルさんが毎日聖域へとやってきてくれるのがちょっと嬉しい。

 なので、ちょっとだけアテナに懺悔。

 ただ、アテナご自身の口から、『もう長くない』と聞いているので、覚悟は決めているつもりだ。

 実際、治療といっても……延命に近いものらしい。

 

『がんばりなさい』

 

 戸惑う私に、アテナが微笑む。

 

『アルに付き添って、ほら、聖域を出るまで見送るとか……ここまで連れてくるとか、あるでしょ』

 

 アテナ……。(忠誠度天元突破)

 

 

 アリスとして、アルを迎えにいき、アイリスとしてアルを見送る日々。

 

 行きと帰り。

 アリスとアイリス。

 アルは、変わらない。

 それはつまり、アリスとアイリスも変わらないということで。

 

 アリスとアイリスは、アルにとって同価値だとすると……。

 

 私は、アルに2人分の視線と意識を向けられていることに……それって、普通の倍?

 アリスは、私にとって必要悪……。(フラグ)

 

 

 ……最近、アテナが、頭を抱えることが多くなった。

『違う、そうじゃないの』って、なんのことだろう?

 

 

6:あいりすさん21歳。(悟り味)

 

 

 アテナが、地上から去られた。

 覚悟を決めていたけど、この胸に去来する思いは……。

 

『がんばりなさい』

 

 その言葉を胸に、私は空を飛ぶ。

 なんかいつもより飛ばされた。

 飛ばされて治療されて、飛ばされて治療されて、自分が無に近づいていくのを感じた。

 

 そして、気づいた。

 

 アリスがいるからいけない。(フラグポキー)

 

 

 私は、アイリスとしてアルに会いにいく。

 

 なんか、ものすごく不審がられたけど……そのうち、慣れるわよね?

 

 

 アイリスとして、アルと一緒に食べる彼の手料理、美味しい。

 

 

7:あいりすさん22歳。(ホワイト味)

 

 

 イオニス様が満足そうに見ていた。

 

 小宇宙を高めてアルを攻撃し、飛ばされる私を。

 

 

 

 次の日、教皇様に補佐につくように命じられた。

 ええー。

 私、忙しいのに……。

 

 

 アルに会いにいく。

 

『そうか、教皇補佐に……うん、認められたってことだ。今まで、よく頑張ったな、アイリス。お疲れ様』

 

 アルが、褒めて……くれた。(浄化)

 

 

 ウキウキ気分で聖域に戻る。

 

 ……。

 待って!

 お疲れ様って、どういうこと?

 

 

 

8:あいりすさん23~26歳。(森の小道味)

 

 

 仕事を早く終わらせる。

 終わらせる。

 ただ、それを考えればいいのです……。

 

『アイリス、次はこれを頼む』

 

 はあい、よろこんでー。(謎ポイント+1)

 

 

 

 うう、アルと会う時間が……。

 

 アルも、なんか忙しいみたいだし……すれ違いの日々が続く。

 家を訪ねても、いない時があるし。

 

 

 

 

 はぁ。

 昨日は、時間をひねり出してアルに会いに行ったら、留守だった。

 

 そんな私の前に現れたのは……。

 

『黄金聖闘士として最低水準に……』

 

 アルの言葉を思い出し、彼を連れて行く。

 

 わぁい。

 アルに会える。

 

 

 

9:あいりすさんじゅっさい。(三十路味)

 

 

 鏡を見る。

 この10年ほど、外見の変化は見られない。

 

 おそらく、私はこのまま生きていくのだろう。

 聖戦が起これば、この姿のまま死ぬこともあるかも知れない。

 

 変わらない。

 変わらないはず。

 

 なのに、なんなのかしら、この気持ち。

 

 アルは27歳か、いいなぁ。

 

 今夜は、お酒飲んで寝る。

 

 

10:あいりすさんじゅういっさい。(四捨五入したら、みそじ味)

 

 

 アルの師匠のテリオスさんが、聖闘士を引退した。

 戦いの中で命を落とすことがほとんどなので、珍しいと言える。

 

『そうか、テリオスがなあ……』

 

 教皇様のつぶやきに反応したら、話してくれた。

 教皇様が聖闘士候補として訓練していた頃、テリオスさんはもう聖闘士として活動していたらしい。

 嘘か本当か、先の聖戦のその前の聖戦を知っているという。

 

 それって……300歳?

 

 あ、30歳(こっそりサバ読み)なんてちっちゃいちっちゃい。(浄化)

 

 うん、先は長いわ。

 焦る必要はないけど、頑張ろう。

 

 

『アイリス、この、アルが見つけてきた芋の栽培についてだが……』(震え声)

 

 やります!(+1)

 是非、私に!

 

 

 詳しいことは、アルに聞きますから。

 

 

 留守っ、圧倒的、留守ッ……!!

 

 なんだか、テリオスさんに、生暖かい目で見られたわ。

 

 

11:あいりすさんじゅうさんさい。(自覚味)

 

 

 アテナ降臨の気配。

 緊張する。

 聖戦の兆し。

 

 あぁ、そうか。

 聖闘士は、いつ死んでもおかしくない。

 

 アルを見る。

 

 私は……アルと一緒にいたい。

 

 すとんと、胸に落ちてくる、愛という言葉。

 

 そうか。

 あの時。

 

 胸が高鳴る。

 なのに、心は穏やか。

 

 

 

 

 あ、でも……アテナの搜索が最優先よね。

 うん、仕方ない。

 仕方ないわ。

 んもー、黄金聖闘士で、教皇の補佐ってつらいわー。(目逸らし)

 

 

12:あいりすさんじゅうはっさい。(ぽんこつ味)

 

 

 アルが目覚めない。

 怪我は治った。

 

 う、腕も生えたし。(震え声)

 

 そ、そう、あとは目覚めるだけ。

 

 

 今にも消えそうな小宇宙。

 不安になる。

 でも、アルだから。

 

 食事をとれないから、毎日、私が小宇宙を注入する。

 吸い込まれていくような手応え。

 

 不安。

 でも……毎日毎日、私の小宇宙を注入して、この消えそうな小宇宙。

 

 あ、アルの小宇宙は、私の小宇宙と言っても過言ではないのではないかしら?(お目目ぐるぐる)

 

 もうちょっとだけ、注入しちゃお。

 

 

 

 

 

『アイリス、俺の小宇宙を感じるか?』

 

 心が震えた。

 身体も震えた。

 つまり、アルは私のもの。(謎の理論)

 

 覚悟が決まった。

 

 

 ……アテナよ、私のアルに触れるな。

 

 

 

 アルを呼び戻して、仮面を外す。

 本当に。

 本当の意味で、仮面を外す。

 

 私は、アイリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふえぇぇぇ。

 え、なにこれ?

 嫌じゃないけど、嫌じゃないんだけど。

 恥ずかしくて、なんか……顔が熱い。

 

 

 じたばたしてたら、アルに、生暖かい目で見られた。

 

 

 

 今度誰かに聞いてみよう。

 教皇様おつきの女官とか……。

 




ぽんこつかわいい。

ちなみに、アイリスは3度ほど死亡フラグを回避しました。

お、俺の中に悪魔がいる。(震え声・厨二風味)
おまけとしてあとがきっぽい『悪魔の囁き集』とかいいかもしれない。

でも次は、おまけの小ネタ集を。

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