今日も、ギリシャの空と海が綺麗です。
涙がこぼれるのは、眩しかったから。
そう、光がまぶしいの。
黄金聖闘士から放たれる、光の拳が眩しくってさ。
まあ、最初は光しか感じなかったのが、今は光の拳がわかるようになった。
うん、俺は成長している。
成長しているんだけどさあ。
わけのわからないまま吹っ飛ばされるのと、俺に向かって飛んでくる無数の光の筋を認識しながら、避けることもできずに吹っ飛ばされるのって、どっちが幸せだと思う?
見えてても避けられないって、結構心にくるよ。
全身を貫く痛みに耐えながら、海から這い上がる……と。
「ふふ……ついに、私の拳が見えるようになりましたか」
「イオニスよ、手加減しておいて何を言うか」
「それでもですよ、シュルツ」
ナイスミドルの外見のシュルツと同年代らしいのだが、なぜか見た目は二十歳ぐらいにしか見えない乙女座の黄金聖闘士、イオニスが微笑みを浮かべて言った。
「若者が成長する姿はいいものですね……明るい未来を思い描けます」
明るい未来を思い描きながら、7歳の子供を光の速さでぶっ飛ばすんですね、わかります。(白目)
「……そのためにも、小宇宙に目覚めてもらわねば。クリス・ピュア!!」
眩しい光が、まんべんなく俺の全身に叩き込まれる。
わぁ、綺麗な空。
そして俺は、母なる海へと還っていく……深く、深く。
……死にそうになって、這い上がってくるけどね。
俺のチートがすごいのか。
それとも、人間の生存本能がすごいのか。
あまり、検証したくはない。
なので、話しかけよう。
「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「なんでしょう?」
時間稼ぎとも言うが、この人たち、真面目な質問には、真面目に答えてくれるんだ。
基本的には、いい人なんだと思う。
「黄金聖闘士が、聖闘士の最高峰なのは身体で理解してますが……なんというか、師匠たちに比べると、別格すぎる気がします。ただ単純に小宇宙に目覚めて……ではなく、その先があるのではないですか?」
師匠の話では、鍛えた聖闘士候補が、聖衣に選ばれるという話だった。
それはつまり、その時点で黄金聖衣に選ばれた聖闘士候補は……。
「ふむ、いいところに気がついたな」
シュルツが笑い、イオニスを見た。
「私はもともと、黄金聖闘士ではなかったのですよ……邪悪と戦い、鍛錬を積み重ねていたある日、セブンセンシズに目覚めました」
ああ……あったなあ、そんなの。
口には出さず、頷くだけに留める。
「身にまとっていた聖衣が、私から離れて……ショックでしたよ。聖衣から見放されたのかと思いました」
「聖衣が、離れる……ですか?」
「ええ……そして、私を導くように……この、乙女座の黄金聖衣の前へと連れてきてくれました」
なるほどなあ、そういうのもあるのか。
「生命の危機に直面すると、人の意識は自分自身へと集中するものです……死にたくない、生きたい、そんな本能が、人の命そのものといえる小宇宙を感じ取らせ、死から生に向かって、燃やすことを覚える」
イオニスは、言葉を続ける。
「しかし、それだけでは黄金聖闘士には届かない……聖闘士の強さは、小宇宙に左右されます。自分を見つめ続けることは、小さく閉じこもることに似ています。己を見つめ、なおかつ、己の外に意識を向けること……大きな、宇宙を認識し、それとつながる……セブンセンシズに目覚めるということは、私にとってはそうでした」
……うん。
俺の『気』と、どこが違うんだろう。
セブンセンシズか。
通常の五感と、その先にある気づきと呼ばれる第六感。
そして、その先……ん?
なんか、そういうの……あったよな?
7、7だよ……7つ目の、なんだっけ?
「まあ、とりあえず今は……己を見つめることです。では、いきますよ」
空を飛びながら、俺は思い出していた。
そう、チャクラだ。
6つのチャクラ。
そして、7つ目のチャクラ。
「テリオス師匠、相談があるのですが」
「……黄金聖闘士2人に稽古をつけてもらえるなんて、アルは幸せ者だなあ」
「師匠、俺の目を見て言ってください。俺の目を見ながらもう一度言ってみてくださいよ!」
師匠の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶる。
弟子が師匠にやることじゃないと思うが、もっと大事なもののために敢えて目をつぶろうと思う。
「いや、しかしなあ……小宇宙にも目覚めていない、しかもまだ子供のお前がだ、あれだけの強さを見せたら……黄金聖闘士の2人も、後継者育成に目の色を変えるのも無理はないだろう」
このままだと、俺の目の色が物理的に変わりそうなんですが……。
「というか、昨日あれだけボロボロにされたのに、今朝はもうピンピンしてるじゃねえか……結局、死の間際まで追い込めてないってことじゃないのか?」
「怖いこと言わないでくださいよ!今は回復してますけど、毎回毎回、本当に死ぬんじゃないかって思ってるんですからね!」
あの2人がすごいのは……内臓を破壊するとか、骨を折るとかをせずに、ダメージだけを積み重ねられるところだろう。
一撃で破壊できる力を持ちながら、全身をまんべんなく痛めつけることで……俺の身体と心を極限状態へと追い詰めてくるのだ。
気を練り、全身へと巡らせて回復をはかる。
これを一晩中、寝ている間も行うのは地味に大変なんだが、それをやらないと次の日にダメージを残すことになる。
内臓損傷とか、骨が折れたりすれば、回復まで多少時間がかかるのに。
まあ、黄金聖闘士のかわいがり(物理)を受け始めてから、俺の『気』はずいぶん強化された気がする。
怪我の功名と言えなくもないのだろうが……小宇宙に目覚める気配は欠片もない。
……じゃなくて。
チャクラだ。
そのための修行の許可をもらいに来たんだった。
日本人は型から入る。
なので、俺はインドに向かった。
決して、黄金聖闘士が追いかけてこない場所へ、とか思ったわけじゃない。
それと。
俺の修行のために、シュルツとイオニスにぶっ飛ばされた、テリオス師匠には深く、深く感謝を。
うん。
インドだけど、当然インドなんて国はなかった。
北部と南部が統一されてないのは予想してたけど、どうも、動乱期ってやつなのかな?
なんか、20年か30年ぐらい前に、国がひとつ滅んだらしい。
それ、聖戦と関係ないだろうな?
俺、インドの神様だけは相手にしたくないんだけど。(震え声)
しかし、バーラとか、ブラティーハーラとか言われても……いつの時代だろ。
インドって言ったら、ムガルぐらいしか知らないよ、俺。
ゴールって国もインドだったか?いや、インドに侵入した、か?
ホラズムは、インドじゃなかったっけ?
まあ、世界三大宗教の名前をそれぞれ聞くってことは……8~12世紀ぐらいの時代なんだろうな。
それがわかったからといって、何がどうなるってわけでもないけど。
さて、インドに来たからには。
インドの山奥で修行だよな。
まあ、それは冗談だが……チャクラと言っても、あんまり詳しくはない。
正直、その言葉を知ったのは、漫画とエロゲがきっかけだったしな。(目逸らし)
早い話、エネルギー炉だ。
正中線というか、脊髄に沿って、存在する6つのチャクラ。
日本で言う、丹田に力を込めて……ってのも、この流れ。
7つ目のチャクラについては後回しだ。
言葉ってのは、認識を共有することで意志を伝えるツールに過ぎない。
認識を共有できない言葉は、ただの雑音になる。
聖闘士たちが小宇宙についてうまく説明できないのも、そこに理由があるんだろう。
でも、役に立たないってわけじゃない。
雑音が混じっても、そこにはちゃんとヒントが隠されているはずだ。
チャクラ。
サンスクリッド語で、円とか、回転するものを示す。
自分の中の『何か』を伝えようとして、『チャクラ』という言葉が選ばれた。
少なくとも、そこには注目すべきだろう。
詳しく調べれば色々とあるんだろうが、まずは自分が一番イメージしやすい理論で進めていこう。
正中線。
背骨。
脊椎……神経、か。
チャクラから……確か、プラーナだったか、それが流れていく。
ああ、俺の『気』は血管の流れを意識したけど、そう考えると区別しやすいな。
神経。
つながるもの。
そして、丸い……いや、回転するもの、か。
回転の力。
回転が生み出す力。
風車。
水車。
巡り、戻ってくるもの。
1週間。
回転するもの。
その場から動かず、身体を動かす力を送るもの。
1ヶ月。
気を練り、全身を巡らせる。
命を感じ取る。
そこにあるはずの何か。
回転するもの。
あぁ、もしかすると。
うん。
今は眠っている。
3ヶ月。
宇宙の中に、小宇宙を持つ個がある。
それは。
小宇宙の中にも、小さな宇宙がある。
6つの、宇宙。
目を覚ます。
静かに、動き出す。
回転する力を、感じる。
閉じていた何かが、開かれていく。
気とは違う。
熱い。
動き出そうとする力。
これが、プラーナか。
1年。
自分の中の6つの宇宙。
荒々しい力。
それを、『気』の力と重ねていく。
両輪をイメージする。
偏らず、支えあうもの。
命を感じる。
命が燃える。
混ざり合うもの。
同質ではなく、しかし異質ではないもの。
世界とつながる。
7つ目の宇宙は。
チャクラは。
己を、世界へとつなげる門なのか。
大きな世界と、小さな世界の境界。
それを。
無制限にではなく、限定してつなぐ。
個を意識しつつ、全体となる。
ならば、7つ目のチャクラは。
自分の中にはない。
頭頂部。
世界との接触部分。
今。
門が開いた。
俺は、山を降りた。
すべての景色が違って見えた。
美しいもの。
命の暖かさ。
今まで、目をそらしていたもの。
世界は、綺麗なものだけではない。
万能ではない。
強さは弱さだ。
出来ることをやる。
出来ることしかできない。
道に倒れた者。
まだ、望みのあるものを抱き起こし、手を当てる。
助かる命。
助からない命。
溢れる想い。
与える想い。
慈悲の心。
遠く離れた聖域の、アテナを感じた気がした。
帰ろう。
ギリシャへ。
……あの、すがりつかれても、その、困るっていうか。
ショウニン……って何?
いや、違いますからね。
俺、上人とか聖人とかじゃないですから、拝まないでください、お願いします。
目をそらしていたものに、正面から向かい合う。
綺麗なものだけではない世界。
光が消え。
拳が現れた。
受け止めていく。
必要な力で。
自分の中の円を、外側へ広げる。
拳を受け止めずに流し、支え、円の力を伝えた。
「ぬうっ!?」
半ば自分の力で飛ばされたシュルツの背中を、掌で押す。
地面に叩きつけたが、ダメージはないはずだ。
それを証明するように、シュルツがはね起きた。
「ただ今、戻りました」
一礼。
『気』を知った時とは違う。
やり遂げたという感傷はない。
もともとあったものを、知った。
ただ、それを報告するだけのこと。
シュルツが、イオニスが、そしてテリオス師匠が、俺を見る。
「「「なに、それ?」」」
……おや?
穏やかな水面に小波がたった。
美しいギリシャの海で捕まえたタコ。
その命に感謝しながら、岩に何度も叩きつける。
え、八つ当たりじゃないですよ。
これは、タコのぬめりを取り、身を柔らかくする調理方法の一つです。
この時代、塩は貴重ですからね。
塩で揉んでぬめりを取るなんて、とてもとても。
いや、ホントですよ。
ギリシャの漁師が、岸壁にタコを叩きつけてた映像を、前世で見たことありますから。
ははは。
子供ですけど、心は大人ですからね。
八つ当たりなんて、そんな。
「ほう、なかなかうまいな」
俺のタコ料理に、テリオス師匠が舌鼓を打つ。
まずタコを茹でてから、適当な大きさに切ったのを油で炒める。
軽く焦げ目がついたぐらいで、玉ねぎを。
海藻を小さく刻んだものを入れたら蓋をして、水を足しつつ弱火でコトコトと。
結構手間がかかるけど……まあ、心を落ち着かせる時間が必要だったんだ。
ちなみに、シュルツはタコを見て逃げ出し、イオニスは眉をひそめた。
そういやタコって、デビルフィッシュとか呼ばれてるんだっけ?
「このあたりじゃ、普通に食うけどな」
そういうテリオス師匠は、ギリシャの生まれらしい。
さて、俺も食べるか。
……ちょいと火加減をミスったか。
しかしなあ。
「師匠……小宇宙ってなんですかね?」
「う、む……」
師匠が困ったように後頭部を撫でる。
体格といい、その仕草がどこかのプロデューサーを連想させた。
「お前のそれが小宇宙ではないのは確かだが……小宇宙とは別の、お前の言う『何か』があるんだろうな。でも、生きとし生けるものすべてに小宇宙はあるんだから、お前の中にもあるはずだ」
「生きとし生けるものすべて、ですか……」
『化物は村から出て行け』
やはり。
よそ者ということなのかな、俺は。
痛みはない。
それは、痛みの記憶だ。
大人が、子供の頃のアルバムを見て、思い出す何か。
思い出すことはできても、感じることのできなくなった何か。
そういうもの。
黄金聖闘士は強い。
だが、こちらもむざむざとはぶっ飛ばされるつもりはない。
と、いうか。
こちらが、ぶっ飛ばしてしまっても構わんのだろう?
気を練る。
チャクラを全開放する。
慣れるまではと安全運転を心がけていたが、そろそろスペックテストも必要だ。
「むうっ……」
シュルツの表情が歪む。
「小宇宙の挙動が見えぬというのは、これほどに……」
そのつぶやきに、なるほどと思う。
相手の小宇宙を感じ取り、挙動を予測する弊害が現れたわけか。
でもそれは。
小宇宙を感じ取れない、俺も同じこと。
シュルツをぶっ飛ばし。
俺がぶっ飛ばされる。
あの黄金聖闘士と、拳を重ねて、戦っている。
心が高揚する。
男は、少年の心を持ち続けている生き物か。
お互いの拳が、地を裂き、海を割り。
そして……。
教皇にめっちゃ怒られました。(白目)
この教皇様、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士のひとりで、引退した前教皇に代わってその地位についたらしい。
つまり、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士は、シュルツにイオニス、そして教皇様の3人だったってことね。
「でも教皇様、聖闘士同士の私闘は禁止って……俺は、聖闘士じゃないですよ」
「そう、そうだアル。つまりこれは、私闘ではなく、稽古ですよ、教皇」
キジも鳴かずは撃たれまい。
知ってたはずなのになあ。
「……アル、生きてるか?」
水の、中に、いる。
「おい、アル!?しっかりしろ、アル!?あと3日の辛抱だ、頑張れ!」
自分も、大変なのに、いい人、だなあ、シュルツは。(息継ぎ)
しかし、黄金聖闘士でも抜け出せないって、そういうことか。
この岩牢、特殊な結界だ。
聖闘士は小宇宙を封じられるか、大きく制限されるんだろう。
そして俺は、気を上手く練ることができないし、チャクラが開かない。
はは、チートだけが友達だ。
君は小宇宙を感じたことがあるか?
俺はない。
というか、今ひしひしと死の危険を感じている。
スニオン岬の岩牢で。
まだだ、まだ止まらんよ。(白目)