君は小宇宙を感じたことがあるか?俺はない。   作:高任斎

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イメージはシャカ。(笑)


4:これが、セブンセンシズ……。(違います)

 今日も、ギリシャの空と海が綺麗です。

 

 涙がこぼれるのは、眩しかったから。

 そう、光がまぶしいの。

 黄金聖闘士から放たれる、光の拳が眩しくってさ。

 

 

 まあ、最初は光しか感じなかったのが、今は光の拳がわかるようになった。

 

 うん、俺は成長している。

 成長しているんだけどさあ。

 わけのわからないまま吹っ飛ばされるのと、俺に向かって飛んでくる無数の光の筋を認識しながら、避けることもできずに吹っ飛ばされるのって、どっちが幸せだと思う?

 見えてても避けられないって、結構心にくるよ。

 

 

 全身を貫く痛みに耐えながら、海から這い上がる……と。

 

 

「ふふ……ついに、私の拳が見えるようになりましたか」

「イオニスよ、手加減しておいて何を言うか」

「それでもですよ、シュルツ」

 

 ナイスミドルの外見のシュルツと同年代らしいのだが、なぜか見た目は二十歳ぐらいにしか見えない乙女座の黄金聖闘士、イオニスが微笑みを浮かべて言った。

 

「若者が成長する姿はいいものですね……明るい未来を思い描けます」

 

 

 明るい未来を思い描きながら、7歳の子供を光の速さでぶっ飛ばすんですね、わかります。(白目)

 

「……そのためにも、小宇宙に目覚めてもらわねば。クリス・ピュア!!」

 

 眩しい光が、まんべんなく俺の全身に叩き込まれる。

 

 わぁ、綺麗な空。

 

 そして俺は、母なる海へと還っていく……深く、深く。

 

 

 ……死にそうになって、這い上がってくるけどね。

 

 俺のチートがすごいのか。

 それとも、人間の生存本能がすごいのか。

 あまり、検証したくはない。

 

 なので、話しかけよう。

 

「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「どうした?」

「なんでしょう?」

 

 時間稼ぎとも言うが、この人たち、真面目な質問には、真面目に答えてくれるんだ。

 基本的には、いい人なんだと思う。

 

「黄金聖闘士が、聖闘士の最高峰なのは身体で理解してますが……なんというか、師匠たちに比べると、別格すぎる気がします。ただ単純に小宇宙に目覚めて……ではなく、その先があるのではないですか?」

 

 師匠の話では、鍛えた聖闘士候補が、聖衣に選ばれるという話だった。

 それはつまり、その時点で黄金聖衣に選ばれた聖闘士候補は……。

 

「ふむ、いいところに気がついたな」

 

 シュルツが笑い、イオニスを見た。

 

「私はもともと、黄金聖闘士ではなかったのですよ……邪悪と戦い、鍛錬を積み重ねていたある日、セブンセンシズに目覚めました」

 

 ああ……あったなあ、そんなの。

 口には出さず、頷くだけに留める。

 

「身にまとっていた聖衣が、私から離れて……ショックでしたよ。聖衣から見放されたのかと思いました」

「聖衣が、離れる……ですか?」

「ええ……そして、私を導くように……この、乙女座の黄金聖衣の前へと連れてきてくれました」

 

 なるほどなあ、そういうのもあるのか。

 

「生命の危機に直面すると、人の意識は自分自身へと集中するものです……死にたくない、生きたい、そんな本能が、人の命そのものといえる小宇宙を感じ取らせ、死から生に向かって、燃やすことを覚える」

 

 イオニスは、言葉を続ける。

 

「しかし、それだけでは黄金聖闘士には届かない……聖闘士の強さは、小宇宙に左右されます。自分を見つめ続けることは、小さく閉じこもることに似ています。己を見つめ、なおかつ、己の外に意識を向けること……大きな、宇宙を認識し、それとつながる……セブンセンシズに目覚めるということは、私にとってはそうでした」

 

 ……うん。

 俺の『気』と、どこが違うんだろう。

 セブンセンシズか。

 通常の五感と、その先にある気づきと呼ばれる第六感。

 そして、その先……ん?

 なんか、そういうの……あったよな?

 7、7だよ……7つ目の、なんだっけ?

 

「まあ、とりあえず今は……己を見つめることです。では、いきますよ」

 

 

 空を飛びながら、俺は思い出していた。

 

 そう、チャクラだ。

 6つのチャクラ。

 そして、7つ目のチャクラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テリオス師匠、相談があるのですが」

「……黄金聖闘士2人に稽古をつけてもらえるなんて、アルは幸せ者だなあ」

「師匠、俺の目を見て言ってください。俺の目を見ながらもう一度言ってみてくださいよ!」

 

 師匠の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶる。

 弟子が師匠にやることじゃないと思うが、もっと大事なもののために敢えて目をつぶろうと思う。

 

「いや、しかしなあ……小宇宙にも目覚めていない、しかもまだ子供のお前がだ、あれだけの強さを見せたら……黄金聖闘士の2人も、後継者育成に目の色を変えるのも無理はないだろう」

 

 このままだと、俺の目の色が物理的に変わりそうなんですが……。

 

「というか、昨日あれだけボロボロにされたのに、今朝はもうピンピンしてるじゃねえか……結局、死の間際まで追い込めてないってことじゃないのか?」

「怖いこと言わないでくださいよ!今は回復してますけど、毎回毎回、本当に死ぬんじゃないかって思ってるんですからね!」

 

 あの2人がすごいのは……内臓を破壊するとか、骨を折るとかをせずに、ダメージだけを積み重ねられるところだろう。

 一撃で破壊できる力を持ちながら、全身をまんべんなく痛めつけることで……俺の身体と心を極限状態へと追い詰めてくるのだ。

 

 気を練り、全身へと巡らせて回復をはかる。

 これを一晩中、寝ている間も行うのは地味に大変なんだが、それをやらないと次の日にダメージを残すことになる。

 内臓損傷とか、骨が折れたりすれば、回復まで多少時間がかかるのに。

 

 まあ、黄金聖闘士のかわいがり(物理)を受け始めてから、俺の『気』はずいぶん強化された気がする。

 怪我の功名と言えなくもないのだろうが……小宇宙に目覚める気配は欠片もない。

 

 

 ……じゃなくて。

 チャクラだ。

 そのための修行の許可をもらいに来たんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 日本人は型から入る。

 なので、俺はインドに向かった。

 決して、黄金聖闘士が追いかけてこない場所へ、とか思ったわけじゃない。

 

 それと。

 俺の修行のために、シュルツとイオニスにぶっ飛ばされた、テリオス師匠には深く、深く感謝を。

 

 

 

 

 

 うん。

 インドだけど、当然インドなんて国はなかった。

 北部と南部が統一されてないのは予想してたけど、どうも、動乱期ってやつなのかな?

 なんか、20年か30年ぐらい前に、国がひとつ滅んだらしい。

 

 それ、聖戦と関係ないだろうな?

 俺、インドの神様だけは相手にしたくないんだけど。(震え声)

 

 しかし、バーラとか、ブラティーハーラとか言われても……いつの時代だろ。

 インドって言ったら、ムガルぐらいしか知らないよ、俺。

 ゴールって国もインドだったか?いや、インドに侵入した、か?

 ホラズムは、インドじゃなかったっけ?

 

 まあ、世界三大宗教の名前をそれぞれ聞くってことは……8~12世紀ぐらいの時代なんだろうな。

 それがわかったからといって、何がどうなるってわけでもないけど。

 

 

 さて、インドに来たからには。

 インドの山奥で修行だよな。

 

 まあ、それは冗談だが……チャクラと言っても、あんまり詳しくはない。

 正直、その言葉を知ったのは、漫画とエロゲがきっかけだったしな。(目逸らし)

 早い話、エネルギー炉だ。

 正中線というか、脊髄に沿って、存在する6つのチャクラ。

 日本で言う、丹田に力を込めて……ってのも、この流れ。

 7つ目のチャクラについては後回しだ。

 

 言葉ってのは、認識を共有することで意志を伝えるツールに過ぎない。

 認識を共有できない言葉は、ただの雑音になる。

 

 聖闘士たちが小宇宙についてうまく説明できないのも、そこに理由があるんだろう。

 でも、役に立たないってわけじゃない。

 雑音が混じっても、そこにはちゃんとヒントが隠されているはずだ。

 

 チャクラ。

 サンスクリッド語で、円とか、回転するものを示す。

 

 自分の中の『何か』を伝えようとして、『チャクラ』という言葉が選ばれた。

 少なくとも、そこには注目すべきだろう。

 

 詳しく調べれば色々とあるんだろうが、まずは自分が一番イメージしやすい理論で進めていこう。

 

 正中線。

 背骨。

 脊椎……神経、か。

 

 チャクラから……確か、プラーナだったか、それが流れていく。

 

 ああ、俺の『気』は血管の流れを意識したけど、そう考えると区別しやすいな。

 

 神経。

 つながるもの。

 そして、丸い……いや、回転するもの、か。

 

 回転の力。

 回転が生み出す力。

 風車。

 水車。

 巡り、戻ってくるもの。

 

 

 

 

 1週間。

 

 回転するもの。

 その場から動かず、身体を動かす力を送るもの。

 

 

 1ヶ月。

 

 気を練り、全身を巡らせる。

 命を感じ取る。

 そこにあるはずの何か。

 回転するもの。

 

 あぁ、もしかすると。

 うん。

 今は眠っている。

 

 

 3ヶ月。

 

 宇宙の中に、小宇宙を持つ個がある。

 それは。

 小宇宙の中にも、小さな宇宙がある。

 6つの、宇宙。

 

 目を覚ます。

 静かに、動き出す。

 回転する力を、感じる。

 

 閉じていた何かが、開かれていく。

 

 気とは違う。

 熱い。

 動き出そうとする力。

 

 これが、プラーナか。

 

 

 1年。

 

 自分の中の6つの宇宙。

 荒々しい力。

 それを、『気』の力と重ねていく。

 

 両輪をイメージする。

 偏らず、支えあうもの。

 

 命を感じる。

 命が燃える。

 

 混ざり合うもの。

 同質ではなく、しかし異質ではないもの。

 

 世界とつながる。

 7つ目の宇宙は。

 チャクラは。

 己を、世界へとつなげる門なのか。

 

 大きな世界と、小さな世界の境界。

 それを。

 無制限にではなく、限定してつなぐ。

 

 個を意識しつつ、全体となる。

 

 ならば、7つ目のチャクラは。

 自分の中にはない。

 頭頂部。

 世界との接触部分。

 

 今。

 門が開いた。

 

 

 

 

 

 俺は、山を降りた。

 

 すべての景色が違って見えた。

 美しいもの。

 命の暖かさ。

 

 今まで、目をそらしていたもの。

 世界は、綺麗なものだけではない。

 

 万能ではない。

 強さは弱さだ。

 

 出来ることをやる。

 出来ることしかできない。

 

 道に倒れた者。

 まだ、望みのあるものを抱き起こし、手を当てる。

 助かる命。

 助からない命。

 

 溢れる想い。

 与える想い。

 慈悲の心。

 

 遠く離れた聖域の、アテナを感じた気がした。

 

 

 

 帰ろう。

 ギリシャへ。

 

 

 ……あの、すがりつかれても、その、困るっていうか。

 ショウニン……って何?

 いや、違いますからね。

 俺、上人とか聖人とかじゃないですから、拝まないでください、お願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目をそらしていたものに、正面から向かい合う。

 綺麗なものだけではない世界。

 

 光が消え。

 拳が現れた。

 

 受け止めていく。

 必要な力で。

 

 自分の中の円を、外側へ広げる。

 

 拳を受け止めずに流し、支え、円の力を伝えた。

 

「ぬうっ!?」

 

 半ば自分の力で飛ばされたシュルツの背中を、掌で押す。

 

 地面に叩きつけたが、ダメージはないはずだ。

 それを証明するように、シュルツがはね起きた。

 

「ただ今、戻りました」

 

 一礼。

 

『気』を知った時とは違う。

 やり遂げたという感傷はない。

 もともとあったものを、知った。

 

 ただ、それを報告するだけのこと。

 

 

 シュルツが、イオニスが、そしてテリオス師匠が、俺を見る。

 

「「「なに、それ?」」」

 

 

 ……おや?

 

 穏やかな水面に小波がたった。

 

 

  

 

 

 

 美しいギリシャの海で捕まえたタコ。

 その命に感謝しながら、岩に何度も叩きつける。

 

 え、八つ当たりじゃないですよ。

 これは、タコのぬめりを取り、身を柔らかくする調理方法の一つです。

 この時代、塩は貴重ですからね。

 塩で揉んでぬめりを取るなんて、とてもとても。

 

 いや、ホントですよ。

 ギリシャの漁師が、岸壁にタコを叩きつけてた映像を、前世で見たことありますから。

 ははは。

 子供ですけど、心は大人ですからね。

 八つ当たりなんて、そんな。

 

 

 

「ほう、なかなかうまいな」

 

 俺のタコ料理に、テリオス師匠が舌鼓を打つ。

 

 まずタコを茹でてから、適当な大きさに切ったのを油で炒める。

 軽く焦げ目がついたぐらいで、玉ねぎを。

 海藻を小さく刻んだものを入れたら蓋をして、水を足しつつ弱火でコトコトと。

 

 結構手間がかかるけど……まあ、心を落ち着かせる時間が必要だったんだ。

 

 ちなみに、シュルツはタコを見て逃げ出し、イオニスは眉をひそめた。

 そういやタコって、デビルフィッシュとか呼ばれてるんだっけ?

 

「このあたりじゃ、普通に食うけどな」

 

 そういうテリオス師匠は、ギリシャの生まれらしい。

 

 さて、俺も食べるか。

 ……ちょいと火加減をミスったか。

 しかしなあ。

 

「師匠……小宇宙ってなんですかね?」

「う、む……」

 

 師匠が困ったように後頭部を撫でる。

 体格といい、その仕草がどこかのプロデューサーを連想させた。

 

「お前のそれが小宇宙ではないのは確かだが……小宇宙とは別の、お前の言う『何か』があるんだろうな。でも、生きとし生けるものすべてに小宇宙はあるんだから、お前の中にもあるはずだ」

「生きとし生けるものすべて、ですか……」

 

 

『化物は村から出て行け』

 

 やはり。

 よそ者ということなのかな、俺は。

 

 痛みはない。

 それは、痛みの記憶だ。

 

 大人が、子供の頃のアルバムを見て、思い出す何か。

 思い出すことはできても、感じることのできなくなった何か。

 そういうもの。

 

 

 

 

 

 黄金聖闘士は強い。

 だが、こちらもむざむざとはぶっ飛ばされるつもりはない。

 と、いうか。

 

 

 こちらが、ぶっ飛ばしてしまっても構わんのだろう?

 

 気を練る。

 チャクラを全開放する。

 慣れるまではと安全運転を心がけていたが、そろそろスペックテストも必要だ。

 

「むうっ……」

 

 シュルツの表情が歪む。

 

「小宇宙の挙動が見えぬというのは、これほどに……」

 

 そのつぶやきに、なるほどと思う。

 相手の小宇宙を感じ取り、挙動を予測する弊害が現れたわけか。

 でもそれは。

 小宇宙を感じ取れない、俺も同じこと。

 

 シュルツをぶっ飛ばし。

 俺がぶっ飛ばされる。

 

 あの黄金聖闘士と、拳を重ねて、戦っている。

 心が高揚する。

 

 男は、少年の心を持ち続けている生き物か。

 

 お互いの拳が、地を裂き、海を割り。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 教皇にめっちゃ怒られました。(白目)

 

 この教皇様、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士のひとりで、引退した前教皇に代わってその地位についたらしい。

 つまり、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士は、シュルツにイオニス、そして教皇様の3人だったってことね。

 

「でも教皇様、聖闘士同士の私闘は禁止って……俺は、聖闘士じゃないですよ」

「そう、そうだアル。つまりこれは、私闘ではなく、稽古ですよ、教皇」

 

 

 

 

 キジも鳴かずは撃たれまい。

 知ってたはずなのになあ。

 

 

「……アル、生きてるか?」

 

 水の、中に、いる。

 

「おい、アル!?しっかりしろ、アル!?あと3日の辛抱だ、頑張れ!」

 

 自分も、大変なのに、いい人、だなあ、シュルツは。(息継ぎ)

 

 しかし、黄金聖闘士でも抜け出せないって、そういうことか。

 

 この岩牢、特殊な結界だ。

 

 聖闘士は小宇宙を封じられるか、大きく制限されるんだろう。

 そして俺は、気を上手く練ることができないし、チャクラが開かない。

 

 はは、チートだけが友達だ。 

 

 

 

 

 

 君は小宇宙を感じたことがあるか?

 俺はない。

 

 というか、今ひしひしと死の危険を感じている。

 スニオン岬の岩牢で。

 




まだだ、まだ止まらんよ。(白目)
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